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神の怒りは避けたい、と。

お待たせしました。

でも短いです。ごめんなさい。



「っていうか、ルベルト、これは地味な嫌がらせか?」

「何故そうなる」


 呆れを交えて反論した後、俺がそう問いかけた理由に気づいたようで、首を横に振る。


「確かに時期的にそう思っても仕方がないかも知れないが、そうではない。そもそもここしばらく、王城では夏の国の奴隷については会議が行われていた。音頭をとっていたのは現国王で吾ではない。今日も午前中に、その会議が行われていた」


 ルベルトはそれから書類の束を見る。


「順次王都へ移動中と言ったが、先ほど全て決まったので、まだ移動どころか準備も出来ていない者もいるだろう。それでも、先ほど言った事は決定事項となった。だから伝えた」

「……なるほど」


 ……頷ける部分はあるが、本当かねぇ。やっぱり地味な嫌がらせだったんじゃね? タイミングがあまりにもあまりじゃないか? それならすでに動いてるとか言ってくれてもいいんじゃね? どう思う、シム。

『確認が取れました。どうやら、ルベルトの堪忍袋の緒が切れた結果のようです』

 へ? どういう事?

『先ほど今後十年、夏の国の住人の奴隷を仕入れるのは禁止するとありましたが、正確には、バースト族は今後十年、アルフ族は今後六百年は奴隷の仕入れが禁止されています』

 は!?

『これを無視し、非合法に仕入れた場合、連座にて処罰されます。もちろん、反発は大きく、賛成する者も少なく、本日の会議でも可決はされませんでした』

 え? でも、さっき……。

『はい、その結果を受け、ルベルトは反対派を全て処分しました』

 ……処分……。

『神が関わり、しかも一度は、その怒りに触れているのにも関わらず、己の欲だけに目を向けて反対する者は、種族全てを滅ぼす毒にしかならないという判断でしょう』

 だからといって、思い切ったな。

『いえ、ルベルトの判断は正しいと推測します。今回ルベルトがこんな方法を取ったのは、マスターを監禁しようとした者が居たからと思われます』

 ああ……、あれね。でも、夏の国とは関係ないし。

『神が関わっていることには違い有りません』

 いや、俺正体隠してるし。

『違います。神の貴石は、この世界の神の謝罪の形です。そのせいで、マスターを煩わせた場合、神の謝罪がただの嫌がらせになります。春の国は一度それで警告を受けてます』

 あー。ゴドーが話をつけてきてくれたあれか?

『はい。にも関わらず、あの様な馬鹿げた事をした貴族が居た、というのが大問題なのです』

 うーん、まぁ、言いたいことは分かるか?

『マスター。ルベルトはもっと重くその状況を捉えています。殲滅魔法で春と秋の国を襲った犯人は一人です。ですが、それは種族全体の責任とされ、彼らは、研究成果は奪われ、今現在も、禁止されています』

 マジか。

『もっともこちらは無意識でスキルを研究する気にはならない。と言うものですが。当時を知るものならば警戒するのも当然かと』

 ……かねぇ。

『それに、なによりも、あれは確かに大量の人間が死にましたが、神は直接関わっていません。神官が一人亡くなりましたが、それも神を呼び出すための贄です。にも関わらず、そこまでの処分が下りました。なら、直接神が関わっている神の貴石は、それ以上の処分になる可能性が高いです』

 ……そっか。

『神の貴石、王族と神の依り代の奴隷化など、ヒューモ族は短期間で色々とやらかしてしいます。ここで引き締めるのも手ではあります』

 シム的にはそう思うんだな?

『はい。マスターだって、マスターではなく、シエノラ・ノ・ゴドー様があのような目にあったら、一度でも許せないでしょう?』

 …………まぁ、うん。そうね。

『神にとって何が大事か、は、神によって変わります。人間にとって小さな事でも神にとっては小さくない事も多々あります。マスターにとって神の貴石が対した事のないものでも、神々の沽券に関わる可能性もあります。ルベルトが警戒するのも当然かと』

 そっか。分かった。


 そんなやりとりをした俺は、嫌がらせではない事を信じると伝えるために、ルベルトに向けて小さく頷く。 

 ルベルトはほっと少しだけ表情を緩めたがすぐに無表情になった。


「あとエドが人だった時のやり残しとしては、砂漠の緑地化か? それは、砂漠の緑化については、こちらで調べたうえで、後で紙にまとめて夏の国に渡そう。それとは別に、アロン、お前の要請に応え、三カ所、大規模な範囲で、砂漠を魔法で緑地に変える。これらにより、エドが行うはずだった事の代行を完了する。次に、これから一年以内に、夏の国の全ての村に回り、初級水魔法と初級土魔法を全員に与える。同時に一年分のMP回復薬を村々に配布する。この二件は先の春の国の者が盗賊化し、夏の国の王子を奴隷とした事の賠償とする」


 俺が抱えていた案件全て片付けたな。これは、とっとと出て行けという意思表示か?

『純粋に、春の国に滞在するのに、妙なストレスの溜め方は止めて欲しいだけではないでしょうか? 実際に学校の話はちらりとも出ませんでしたし』

 ああ、そういえば……。


 俺とシムのやりとりを知らないであろうルベルトだったが、怒っているのは俺に対するものではない、というかのように、アロン達を冷え冷えと、むしろ見下した目で見る。


「お前の名前で三回、春の国の初代国王が動く。王候補としての実績としては十分だろう。後は自分で根回しするのだな」


 アロンはしばらくルベルトを見つめていたが、静かに頷いた。


「ならば、今後、ここにいる二柱に、神として何かを求めるような者が出たら、自分たちで処分しろ」

「分かった」


 ルベルトの言う処分が、どの程度なのか理解しているかは分からんが、アロンは今度は無言では無く、口にして頷いた。

 なるほど、ルベルトの堪忍袋の緒が切れた、か。正しいのかも。

 ルベルトがアロンの要請に応えてってのは、その手順を踏まないと侵略行為になる可能性もあるからか。


「兄上」


 アロンの態度に不満を持ったバロンが口を挟む。


「兄上達は、スキルの本当の凄さを知らなさすぎます。エド様は、人の身の時から、夏の国の住人を全て殺せるぐらいの力は所持してました」

「夏の国どころか世界に生きる者全てを殺せたはずだ」


 バロンの言葉をルベルトが修正し、答え合わせをするように俺を見るが、俺は曖昧に笑うだけ。

 それをするとゴドーと戦う事になるかもしれないから、やんなかったとは思うけどね。

 やれない事はなかったからね。うん。


「そして、神は、それ以上の力を持ってます。私は、神が戦う様を間近に見ているので、知っています。神に敵対するような事は絶対にしないでください」


 ああ、影の世界からみてたもんな。でも、あれ、シェーンの体使ってたから、本人的にはまだまだなんだと思うぞ。


「あまり、脅しすぎは良くないと思うが」


 シエノラが張り詰めつつあった空気を和らげるように声をかける。


「私達は、ここに居る間は人として過ごしたい。ただそれだけだ。そして、私達は、この世界にいる間は、そう大きな力も使えない。神にもルールはあるんだ。何かを願うのであれば、この世界の神に申し出るべきだろう。神はそれが対価と見合うと思えば叶える。君たちが思っているほど、神は君たちを拒絶していないと思うぞ」


 対価という言葉にアロン達は顔を見合わせた。


「何を対価とすればよろしいのでしょうか?」

「さぁ? それは私達に聞かれても困る。君たちがどの神に何を願うかにもよって変わってくるだろうし。……まずは神に会ってみてはどうだ?」

「……簡単に言わないでくれ……」


 顔を俯けて、ぽつりとアロンは零す。

 シエノラは苦笑を返していた。

 それしか言えないからだろう。俺達ではどうにも出来ない。

 前にトキミに聞いた時、俺はその答えを聞いている。彼女達は対価としてはその想いによるといっていた。値段ではないと。その想いが本物であれば子供でも用意出来る物で願いを叶えると言っていた。

 結局は、トキミが前に言っていた『察して』は無しという事だろう。


「他に、吾が知らない人間だった頃の影響で義務化しているものは?」

「あー……たぶん、もうない」

「そうか。では、後は普通に春の国での滞在を楽しんでくれ」

「はぁ…………。……えっと、ルベルトの今後のフォローはどこまであるんだ?」

「それは何か吾にして貰いたい事があるのか?」

「いや、そうじゃなく。むしろ、逆?」

「逆? ……ああ、前の苦楽の話か?」

「そう、それ!」

「忘れてないから安心しろ。今回は、こっちの都合もあったからな」

「……そう……」


 都合……。なるほど、確かにシムから聞くに向こうの都合も大きかったんだろうな。


「学園の事には基本口を出すつもりはない」

「了解。っと、そうだ。シエノラ、ゴドーで一緒に学校に行く?」


 学園という言葉で思い出したのでそう伺うと、しばし考えてシエノラは首を傾げた。


「……ゴドー限定なのか?」

「ゴドー限定です。シエノラを他のヤロー共の目には触れさせたくないので」

「少し考える」


 苦笑と共にそう回答を頂いた。

 一緒に行けるといいな~。

 と、俺の心はもう、ゴドーと一緒に学園生活を夢見ている。

 そんな俺にセリアが呆れつつ声をかけてきた。


「スクールライフを満喫する気満々だね」

「それはな!」

「シエノラの方がいいんじゃない?」

「ヒューモ族にとっては男も女も関係ないから大丈夫」


 昔と違って、男同士でも手繋いだりしてやる!


「シエノラにセーラー服っていう手もあるよ?」

「却下だ!!」


 ふざけんな。御御足を他のやつらに見せてやるものか。

 興味はあるけど!!


「相変わらずだねぇ」

「それはな」

「でもいいの?」

「あ?」

「彼、同じ学校の子、なんでしょ?」


 セリアの視線を追うと、リームがキラキラと希望に満ちた目でシエノラを見ていた。


「…………今、ちょっとだけ、やっぱナシって言いたくなったな……」


 俺、早まったか? って、思ったけど、大丈夫だ。


「シエノラ、もし、学校に行ってナンパしてくるやつがいたら、教えてくれな」


 にっこりと人の良い笑顔で言ったら、何故か、首を横に振られた。


「自分で対応するから大丈夫だ」

「エド、お前が対応するぐらいなら、吾が対応する」


 シエノラとルベルトがそんな事を言ってくる。


「お兄……、思いっきり、殺気出てたよ」


 あれー、おかしいなぁ。と白々しく首を捻ってみるのであった。





ブクマ、感想、評価色々ありがとうございました。

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