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続・俺が知らんところで初代国王は働いているよ。



 俺の愛しの奥様が落ち着いたこともあって、最早さっさと解散してデートにでも出かけたい俺ではあるが、一応集まって貰った手前、さっさと解散と言えるわけもなく、何かあるかと周りを見渡した。


「エド様、仕事の話をしてもよろしいですか?」

「いいけど、仕事って店の方? それとも夏の国の方?」

「店の方です。例の試作機が出来上がったので」

「おぉ、見る見る」


 見本にと一つずつ渡して、後は頑張れと投げてたやつ。完成させたか。

 さすがアルフ族。と、いっても本人達からしたら、流石も何も知らなかった事だろうから複雑かもしれんが。

 ニコニコと褒めて貰えると喜ぶ子供のようなバロンだったが、はっとなにかに気づいて真っ青になった。


「バロン?」

「す……すみません……。その、全て異次元収納に入れてまして……」

「あ……」


 さっき消したな。スキル。


「す、すみません!! エド様から頂いた大切な物もあの中に」

「あーあー、待て待て頭を下げるな謝るな、落ち込むな」


 さて。スキルを復活させるのは簡単なのだが、かといってあっさりと復活させるのも、弱体化するぞ。と言った手前なんとも……。


『小袋を用意し、それにバロンの異次元収納をリンクさせますか?』

 ん。それで。


 シムの案をあっさりと採用し、適当な小袋、両端のヒモを引っ張れば口が閉まるタイプのやつを渡す。


「たぶんこれでお前が持ってた異次元収納の中身を取り出せる」

「本当ですか!? ありがとうございます!!」


 バロンは感涙しそうな勢いで礼を述べていた。

 いや、有る意味俺のせいだからお前が涙を浮かべながら感謝するのはおかしい。

 バロンが早速取り出したのは綿飴機とポップコーン機械。


「試運転はしたのか?」

「はい、一時間ほど」

「一時間か……。最低でも三時間連続でやってくれ」

「三時間ですか? 分かりました」

「それと修理できる人間は?」


 等と、話していると、羨ましかったのかリームはシエノラの前に立つ。


「神よ。私めにもどうぞ仕事を」


 縋るような目でお願いしてくるが。


「いや、だから、無いと言っただろ?」


 シエノラはちょっと弱ったように首を横に振った。

 絶望というような顔をリームはするが、シエノラは困った顔をするしか出来なかった。


「では何名ぐらい信者を集めてきましょうか!?」

「「止めろ」」


 シエノラだけではなく俺も制止の声をかける。

 これ以上この世界の神に迷惑かけるのは止めたいんだから、マジで止めて貰おうか。


「では……」

「リーム。仕事が欲しいというのなら、私の神官を止めるべきだ」


 次に何かを言う前にシエノラが拒絶とも言える言葉を口にした。


「神官としての仕事は私は君にはふれない。私達はこの世界の神では無いからだ。これ以上この世界の神に迷惑をかけたくない。エドとバロンのやりとりは、もともと人間だった頃のやり残しをやっているだけで神が神官に与えている仕事ではない」

「……分かりました、もうしわけございません」


 しょんぼりと謝り、羨ましそうにバロンを見ている。

 ここで、バロンの手伝いをしろとでも言うといいのだろうけど、シエノラはそんなこと、言わないだろう。

 そういう所、うちの奥さん抜けててかわいいよねー。と言いたいが、きっとシエノラからすると、神官として仕事が欲しい人間に、神官だとか神だとかそういう立場が一切関係のない仕事を割り振るのはいけない。って思ってるに違いない。

 元神官だったせいでその辺はしっかりしてるというか変なこだわりがあるというか。

 ま、これで仕事を与えられてリームが調子に乗るより項垂れている方が俺の心が満たされる。

 はっはっはっは! 器の小さい男と笑うといい!

 ……実際、同性も異性も恋愛対象のヒューモ族だから、俺にとってはリームは恋敵に近くて嫌なんだよなぁ。そんな事言ったらバロンの事も言われそうな気がするけど。

 バロンはほら、まだ、アルフ族だから。

 ……シエノラ・ノ・ゴドーの立場からしたら関係ないかな? 男も女も恋愛対象だったヒューモ族からの神になっているわけだし。


 でも実際、今のシエノラ・ノ・ゴドーからしたらどうなんだろう。

 前にネーアにはしっかり釘を刺してたけど。あの時と今は違うかな? 一緒であって欲しいな。俺的には嫉妬されないよりも嫉妬されたい。


 そんな事を考えていると一人の騎士が俺の前に立った。いや、おもむろに膝をついて頭を下げた。


「……神よ、お願いがあります」

「……普通にしてくれる方が話を聞く気になる」

「はい」


 彼は立ち上がり、改めて俺を見た。


「で、お願いって?」

「神の口から、夏の国の時期王はアロン様かバロン様だと仰って貰えませんか?」

「んな事、無理に決まってるだろ」

「何故ですか!?」


 俺はちらりとアロンとバロンを見る。

 アロンは期待を表情に浮かべていたが、バロンは思いっきり不快そうに騎士を見ていた。


「俺はこの世界の神じゃないって言っただろ」

「何故ですか!? 神は神ですよね!?」


 必死な騎士。まぁ、こいつらからしたら、第二王子が王になったら神殿の二の舞になるって思ってるのだろうけど。

 しかし、それはお前達が解決する問題であってだなぁ。なんて思っていたら、バロンが俺に頭を下げて一言謝ると顔を上げて、思いっきり騎士を殴った。

 ……バロンのスキルは消したけど、ステータスはそのままだったから、騎士は吹っ飛びテーブルやイスが酷い有様になった。


「…………」


 すまん、誰か、こんな展開になった理由を教えて、プリーズ。

『ただ下げるよりも、殴る事で罰を与えたと分かりやすくマスターに示したのでは?』

 あ……。ああ、なる……ほど?


「これ以上、夏の国の事でエド様を煩わせるな」


 バロンは、こんな顔も出来たのか、と感心するぐらい冷え冷えとした顔で騎士を見下ろし、退出させるよう他の騎士に指示をする。


「……しかし、バロン、現状、お前が王になれないというのならカネルが王になるぞ。それでいいのか?」

「兄上。それを憂うというのであれば、夏の国の者達で行うべきです。エド様はもう人ではありません。神です。神には神のルールがあるそうです。兄上は、それを無視してまで夏の国を助けろとでも言うつもりですか?」


 やだこの子! どうしたの!? ちょっと前とは別人じゃ無いの!

『マスター、気持ち悪いです』

 いや、なんか、近所のおばさんとか親戚のおばさんとか、子供の成長を喜ぶ大人の図をやってみたかっただけなんだけど。

『マスター、気持ち悪いです』

 繰り返すな。俺が悪かったから。で、実際、どういう心境の変化だと思う?

 俺の神官になったからってわけではないだろ?

『そんな影響があるとは思えません』

 だよなぁ。


 シエノラを見る。俺の視線に気づいて軽く頭を傾げている。

 ちらりとバロンを見る事でアイコンタクトを! と、したのだが、きょとーんとしていた。ですよね。分かんないですよね! とか思ってたのだがシムがアイコンタクトを通訳? したのだろう、シエノラもバロンを見て、首を小さく横に振っていた。


 実際、神から影響を受けるというのはある。いきなり人が変わったようになったりもする。

 でも、それは、どちらかというと、そういう風にこっち側から働きかけたり、それ相応の精神的なショックでもないありえないと思う。

 今回俺は神官にはしたけど、しただけで、何かをしたわけではないし、精神的なショックなんて、今更だ。だって、バロンは俺が神だって事知ってたし。

 むしろ人間だった頃に一気にカンストさせた時の方があいつにとってはでかかったんじゃないか? って気がするし。


 なんて俺はちょっと悩んでたのだけど、後で理由が判明した。

 ルベルトに密かに相手に有無を言わせぬ態度、なるものを教わっていたらしい。

 王になれ王になれって周りがしつこいからそうならないようにするためにはどうしたらいいかって、さ。

 密かに表情とか声色とか練習してたって。


「いかがでしたか!?」


 って、後で相変わらずのワンコな表情で評価を聞きに来ることがなかったら満点だったかもな。


 しかし、そんなにカネルが王位について欲しくないのなら、王位に相応しくない理由をきちんと集めれば良いんじゃないかっていう気がするんだがな。


「証拠が揃っているのならとっくにしてるだろう」


 ルベルトの言葉が、正解って事だろうか。

 状況的に言えばバロンをはめたのは第二王子だろうけど、あくまで状況証拠なだけだしな。他にも怪しいやつはいるだろうし。第二王子の母親って事もありえるわけで。


「王になりたければ自力でがんばんな」


 とアロンに言う事しか出来ん。それ以上は求めるな。いやまじで。

 そもそも、本当に第二王子が王に向いていないかどうかは分からないわけだしなぁ。


「アロン、吾からも警告しておこう」

「警告?」


 聞き返すアロン。俺もちょっと眉を寄せた。だって、忠告ではなく、警告ってのはおかしくないか?


「これ以上、夏の国の問題に異世界の神を巻き込むな。煩わせるな。本人が望んでそうするのであればともかく、お前達が声を上げるべきでは無い。この世界の神の怒りを買うだけだ」

「……春の国の人間がそれを言うのか」

「まるで吾らが悪いと言いたげだが、お前達が抱えている問題の多くは、お前達が引き起こした自業自得であると告げておく。奴隷も水もお前達が安易に楽な方の道を選び進んできた結果だ。言って置くが、吾はアルフ族がただの性奴隷として売られる状況になった理由も、正しく知っている。お前と違って、見た目ほど若くないのでな」


 この中で一番の年長者だもんな。


「同様に、吾ら春の国も神を煩わせる気はない。今現在春の国に居るアルフ族、およびバースト族の奴隷全てを一度、国で買い取り、水のスキルを与えた上で夏の国に帰国させる」


 ルベルトの言葉にこの場にいる全員が「は?」と口にした。


「もちろん個人が抱えている者も対象だ。本人の強い希望がなければ夏の国に返す。そして今後十年、夏の国の住人を奴隷として仕入れる事は禁止する」

「……それは本決まり?」

「本決まりだ。故意では無いとは言え神官を奴隷にし、それにより神を怒らせた、など、冗談ではない」


 確認を取ったら、ルベルトは忌々しそうに口にした。もっと早く教えろと言いたいのかも知れない。

 そしてルベルトは紙の束を取り出すとテーブルの上にどさりと無造作に置いた。

 人名がいくつか並んでいる。所有者と、奴隷の名前かな?


「これが今現在春の国に居る奴隷達だ。順次所有者の元から王城へと移動している。言って置くぞ、アロン。本来国はそれぐらい神に気を遣う。神の機嫌を損ねないようにと一つ一つ気を遣う。機嫌を損ねさせる者がいたら、その者も、その一族全てを処刑しても構わないと思っている。春の国だけではなく、秋も冬もそうだ。なぜだか分かるか? 人と神とはそれぐらいの差があるのだ。お前達は愚かにも、神と盟約をかわした族長を弑逆した。それ故に多くの必要な言葉が伝わってこなかったのだろう。だがな、そんな事、神山に行き、教えを乞えばいくらでも教えて貰えただろう。それをしなかったのは、考えもしなかったお前達王家の怠惰だ」


 ルベルトの言葉にアロンは戸惑った表情を向けるだけ。何故、そんな事をルベルトが言うのか疑問に思っているのかも知れない。


「……お前は……一体何者なんだ?」

「吾はルベルト、ルベルト・ホーマン。春の国の初代国王だ」

「ありえない! 何百年前の人間だと思っている!?」

「事実ですよ、夏の国の王子」


 そう告げたのはここに連れてきて可哀想かなぁっと思っていたバラッド。

 やっと出番らしい出番があったな!


「この国ではルベルトという名は王族であっても使わない。初代国王が生きているからです」

「そんな……ばかな……」

「吾だけではなく、他にも生きている者は居る。主な政治は子らに任せ、自国を回り、上の目が届かぬ場所を見たり、手助けしたりしている。吾ら、始まりの世代の長はそんな者ばかりだ。自己の利益など考えぬ。考えるのは民の未来のみ。だからこそ、お前達の最初の王は、全滅するのを恐れて負けを宣言した。子供達の未来のために、大人が全て居なくなるわけにはいかなかったからだ。時間をかければ喩え砂漠の地でも、土地を豊かにする事も出来たからな」


 ルベルトの視線がバロンに向かう。バロンが持っていた環境魔法が一番手っ取り早いのだろう。でも、それだけじゃない。土魔法で土を生み出し、水魔法で水を生み出すなりすれば、確かに時間が掛かっても砂漠を塗り替えられたかも知れない。

 それがされていなかったのは、たぶん、王族にも間違った常識がはびこったのだろう。


「本来、アルフ族と協力し合えばとっくの昔に砂漠地など一割以下になっているはずだ」

「……そんな簡単にいくものか」

「行く。何のためのスキルだと思っている?」

「……では、冬の国は? あそこだって雪に閉ざされた土地だ」

「あいつらは己の利益のために土地を氷のままにしているだけだ。あの国独自の動植物を絶やさぬようにな。彼らの本当の生活圏は春や秋の国と対して変わらん。それに、大きな街は地上ではなく、地下に広がっている」


 え!? そうなの!? それ是非見てみたい!!

 地下都市! ロマン!!


 俺は口にはしないけど、一人興奮する。

 よくよく見ると俺と同じような顔をしている人間がいた。セリアだ。

 地下都市なんてファンタジー! って思ってる顔だ! 俺もきっと同じ顔をしているに違いない!

 でもとりあえず、真面目な場面っぽいので、顔を元に戻して。戻して。


『まだニヤニヤしてます』

 ……シムさん、お願いします。


 お願いすると表情筋が一気に固くなった気がする。

 これで真面目な話も大丈夫…………と、あれ? 待てよ。ちょっと待てよ?


「……奴隷、全員国が買い取ったのか?」

「ああ」

「アルフ族もバースト族も関係なく?」

「ああ」

「……夏の国の奴隷全員?」


 それはとても大事な事だったので、もう一度確認を取る。


「ああ」

「……で、水魔法もこっちでくっつけて夏の国に返す、と?」

「ああ」

「…………」


 淡々と頷くルベルトに無言になる俺。


「……あれ? お兄? あたし達、店開く必要ある?」


 セリアも気づいて俺に確認を取ってくる。


「うん、もうないかも……」







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