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お帰り

今回はちょっと長い?




 扉を開けた先に居たのは、この城に住まう面々と、もちろん、ゴドー。

 ……うん、まごう事なき、ゴドーが座って待っていた。今回ばっかりは逃げられないというか、絶対に出てきて貰わないといけないんだけど、俺に会うのに渋るのに……とか思っちゃダメだよな。ダメだって分かってるんだけど、思っちゃうな、こんちくしょう。


 心の狭い俺を置いて、ゴドーは立ち上がり、そして、リームを正面から見つめた。


「君が、リーム君かな?」


 声をかける。リームはふらふらと数歩歩き出し、俺、ルベルト、バラッドに緊張が走った。


「あ……、あ……」


 小さく言葉にならない声を出して、リームは崩れ落ちるように両膝をつき、手を合わせゴドーを見上げた。

 両目は瞬きすら忘れ、涙は頬を伝い、床へと落ちていく。


「ああ……。我が神よ、お目にかかりたかった」


 俺はゴドーを見て、ゴドーは苦笑を一つ。


「我が神か……。聞くと君は私に会ってからずっとそう思っていたみたいだけど」

「はい」

「私は、ただの神官だったよ。確かに、神から特別な使命を受けてはいたけどね」


 ゴドーはそこまで言って、振り返り、新旧の住人達を見て、そしてまたリームへと顔を向けて告げる。


「改めて自己紹介をしよう。私はゴドー。シエノラ・ノ・ゴドー」


 ゴドーの姿が人から、神へと変わる。

 姿だけではなく、その気配すら変わっていく。

 

「異世界にて破壊を司るものだ」


 そう口にした時には神気に当てられ、人は皆、床に膝をつき頭を垂れていた。

 

「顔を上げなさい」


 その声に逆らう事は出来ず顔を上げる。ゴドーを見つめ、そして、扉の横に立っている俺に気づいた何人かが青ざめる。

 何をしている。何故立っている。と言いたげな顔だが、俺は気づかない事にし、ゴドーもそれに気づかないふりをし、そして、シエノラへと切り替わる。


「そして、慈愛と生命を司る神、シエノラでもある。どちらも等しく私であり、そして、創世神エドの妻である」


 俺に手を差しのばしてくるので、俺はその手を受け取るためにシエノラのもとへと歩む。

 人への擬態を止め、エドへの変身も止め、本来の神としての姿を見せて、シエノラの手を取り、リームを見る。


「理解したか?」

「はい、我が神よ」


 リームが頷く。

 俺とゴドーは顔を見合わせ、頷きあい、俺の口からはため息が零れた。


「本当にシムの言うとおりだったな」

「そうだな」


 シエノラが嬉しそうに頷きながら、人へと変わると、見慣れた神官姿のゴドーに。俺もそれに合わせて人へと擬態する。


 あれほど安定しなかったゴドーの気配が、リームがきちんと理解した瞬間から静かに落ち着いていく。

そんな俺達を、多くの人間が狐につままれた顔で床に座り込んで見ていた。


「ああ……。子供達が帰ってきたら思いっきり抱きしめたいな」

「俺は?」


 ちょっと拗ねたようにいうとゴドーは首を横に振った。


「今だけはあの子達を優先させてくれ。本当に辛かったんだ」


 そういうゴドーの顔を見て、俺は自然と唇と頬が上がる。

 辛かったのは、自分の子供に対してまで嫉妬を向けてしまう事。

 憎しみすら抱いてしまいそうだったこと。

 確かに立場が逆なら俺もそう思うかもな。


「おかえりゴドーっていうのも、おかしいかな?」

「良いんじゃ無いか? なんだか私もそんな気分だ」


 そう言って微笑む姿が、本当に昔通りで、俺の目には涙が浮かぶ。

 

「うわーん、もう大好き愛してるー!!」

「え!? うわ!? エド!? 人前!!」


 慌てるゴドーを無視してゴドーを抱きしめるっていうか、抱きつくっていうか、とにもかくにもゴドーの背中に腕を回して力一杯抱きしめる。


「エド!!」


 ちょっと焦ったような声が聞こえるが無視だ。これぐらいはきっと許される。しかし、そうは問屋が卸さない。


「ねぇ、お兄、そっちだけで盛り上がってないで、理由説明してよ。じゃないとシエノラにミニスカートはかせるよ?」

「なんて恐ろしいことを言うんだ、お前は」


 悪魔のようなことを言う妹を驚愕の顔で見つめる。


「なんだったらゴドーに軍服着せて大通りを歩いて貰うとかでもいいよ?」

「なんて事を言うんだ!!」

「それが嫌なら説明」


 まぁ、説明するだけなら抱きついた(このまま)でも出来るからいいけど。


「えっと……つまり、目の暴力だからそういう恰好は止めろという事か?」

「んなわけないじゃん。肉食系の餌食、視姦させるぞって脅してるんだよ」

「そう……なのか?」

「そうだよ。ほんと、お前、俺の嫌な事ついてくるな」

「お兄自分から独占欲が強いっていってたしねぇ」

「だからってシエノラ・ノ・ゴドーを使うって、お前俺の逆鱗に触れるとか考えなかったのか?」

「え? うん」


 信頼と共に頷かれて、俺は一瞬あっけにとられてから小さく笑う。

 ミカは俺をからかってもシエノラにはしなかった。たぶん今はもっとそんな事しないだろう。ルベルトだって、しないはずだ。

 よくよく考えれば、こういう事をするのは目の前にいるこいつくらいな気がする。


「お前がいかにお兄ちゃん(・・・・・)の事を信頼してたかよく分かるよ」

「そりゃね。エドはなんだかんだ言ってもアタシを助けてくれたし」

 

ああ、お前の信頼のモトは俺なのか。

 そう思うと嬉しくて仕方が無いのは、やっぱりエドとしてお前と築いた家族愛なんだろうな。

 仕方が無いと俺はゴドーから離れた。ゴドーもちょっとほっとしてる。後で二人っきりになったら思いっきり抱きしめてやる。


「じゃあ、みんな座ってくれよ。こんな事やった説明するからさ」


 そう声をかけて立ち上がれたのは、昔からいるメンバーだけで多くの者達、俺達の正体を知らなかった者達は床に座ったままだ。

 どうしたのだろうと目を向けていると一人がぼそりと告げた。


「腰が……抜けました……」


 ……ああ、うん。そんな事もあるかもね……。

 みんなが回復するまでとお茶の準備をさせる事にした。

 この時バロンに頼んだ。

 今までだったらバロン様を小間使いにするな。とか言われてたり睨まれたりしたのだが、今回は何も言われなかった。

 リームに至っては俺のために働くバロンを羨ましそうに見ていた。




「じゃあ、説明を始めようか」

「お兄、はしょらないでよ」


 全員が座り、お茶を飲んで一息ついたところで声をかけたら、そんな指摘を受ける。


「じゃあ、本当に最初の最初から。俺とゴドーは元は人間で、特定の条件を達成して神に至った。その条件の詳しい内容は言えないが、本来それを達成した俺だけが神に至るはずだったが、俺はゴドーに、傍に居て貰いたくて、俺の妻として神に至らせた」

「誤解がないように言っておくが、私は自分の意志でそれを決めたし、エドは対等の神として私を神に至らせた。ただその方法は抜け道みたいな方法だった。そのせいで私達は勘違いをしてしまった」


 そう、それが、今回の茶番劇の理由。


「元々ゴドーは、この世界の神が、己の手足として使うために作り上げた人だった。だから、ある程度の感情を制限されていた。嫉妬とか憎悪とか、そういうの。それが全然無いというわけじゃない、ただ人よりかなり制限されていた。ゴドーはそうしなければならないぐらい、神の力が多く与えられていた」


 ミカやシェーンを見れば分かるだろうが、彼らはそこまで制限されていない。

 まぁ、ヒノワ達も、制限するつもりが最初から有ったかは謎だが。

 太陽と月という性質から考えると、結果的にそうなった可能性の方が大きいけど。


「シエノラ・ノ・ゴドーはその性別によって司るものが違う。俺が神に至る時にそういう風にわけた。創世神である俺を殺せるのをゴドーに限定させた。本来シエノラ・ノ・ゴドーは生命を司る神になるはずで、そこに破壊神ってのを追加させた。だから俺達は、シエノラ・ノ・ゴドーが中々神の力が制御出来ない理由をそのせいだと思っていた。でも違った」


 俺の視線がリームに向かう。それに促されるように皆の目が集まる。


「俺達の力はいろいろな要因で増したり減ったりする。その中の一つが信者を得る事」

「それが私ですか?」

「そう。半端な、な」

「半端? 私は、神のためなら命を投げ出す覚悟はあります。それでも、半端なのですか? どうすれば認めて貰えますか?」


 真剣な顔でそう言ってきたリームに俺は勘違いさせたことに気づいて首を横に振った。


「違う。そうじゃない。俺が言った半端っていうのはお前の信仰心じゃない。そっちはむしろ信用している。なんせお前は俺を嗅ぎ取ったからな……」


 最後に疲れたようにいうと、ああ、とルベルトとバラッドが食堂でのやりとりを思い出したのか納得したように呟いていた。


「君は神官になれる素養があったのだろう。でもそうなる前に私と出会い、そして私を神だと思い込んでしまった。本来であれば、その時点で君は神官としては資格無しになるのだが、私は、太陽の女神と月の神の依り代だった事が事態ややこしくした。その時の私の中にあったのはこの世界の神々の力だ。神官としての資格は与えられず、ただその素養だけは高められた。そして私達は神になり、君は私の神官という資格を得た」

「……私が、貴方様の神官」


 呟き返して、そして理解したのかリームの顔がこれ以上無いほどの喜びに溢れる。


「でもそれは半端だった。リーム、お前はゴドーの神官だったかもしれないが、シエノラ・ノ・ゴドーの神官ではなかった。だからバランスが崩れた。お前がいるこの世界では特に」


 シエノラ・ノ・ゴドーがわざとそうしているのなら話は別だった。ゴドーという神とシエノラという女神を別々の存在として演じるのなら、こういう風に不安定になる等の影響は出なかっただろう。

 今回は神の意志と離れた所から始まったせいでややこしいことになった。


「君は、幼い頃にあった私を、周りに神だと言ってたのだろう? それも不味かった。君は名前すら付けてなかったけど、私を神とした宗教の布教を行っていたんだ」

「それを信じようと信じなかろうと構わないが、それがお前の神官としての格を上げていた。お前は神狂いと言われるくらい、『神』に対して執着し、そして周りはそれを認めていた。……正直、お前らが昔話をしてくれなかったら、俺達は理由がいつまでたっても分からなかっただろう。助かった」

「……いえ、礼には及びません、つまり、私のせいって事ですよね」


 喜んでいた顔が今度は逆に真っ青になっていた。


「君に責任を求める気は無い」


 ゴドーは否定をしなかった。こんな茶番を起こしている時点で否定は出来ないからだろう。


「君は今、正しく私を理解した。妄信するのではなく、正しく私を、私達を理解し信じた。それで十分だ」


 ふわりと笑う姿は昔ながらの笑顔で、ここ数日、というかここ数年のどこか影のある笑いではなかった。

 ああ。本当に落ち着いたんだって嬉しかった。


「ですが……」

「なぁ、リーム、お前は神の言葉を否定するのか?」


 なおも言い募ろうとするリームに俺はそれを制する言葉をかける。

 彼は驚き、一瞬躊躇ったが首を横に振った。


「リーム。君は今、私の神官としての役目を得てしまった。しかし君は私とこの世界の神々を混合し、信じていた。それは不味い。だから決めてくれ。神官として私に仕えるか、神官としてこの世界の神々に仕えるか、それとも神官を辞めるか。どちらが良い?」

「我が神は、シエノラ・ノ・ゴドー様です」

「……良いのか? 君は貴族なのだろう? その血筋も役目も何もかも捨てる事になるよ?」

「構いません。私の望みはただ一つです」

「もしそれでこの世界のスキルが使えなくなったらどうする?」

「それでも私の意志は変わりません」


 言い切ったリームに、その奥に座っていたバラッドが何かを言いたそうにし、でも言えなくて言葉を飲み込んで。そうしているのを見て、苦笑する。

 ゴドーが神なのは間違いがなく、だからこそ、間にも入れないし、反対も出来ない。バラッドを連れてきたことを失敗したとは思わないが、可哀想だなとは思った。

 そして、その反対側に座っているバロンが非常に何かを言いたそうに見ている事にも苦笑をせざるえない。


「そうか。分かった。君を私の神官として認めよう」


 神が認めた事により、リームの中に今まであった力が消え、そして別の力が生まれる。

 リームは己の胸に手を当て驚いた表情をみせた。


「驚いている所悪いが、それはただのパス、神託のための物だ。私は君に何かを与えられる程の技量はないんだ」


 そう言ってゴドーは俺を見てくるのだが。その前にだ。


「バロン、お前はどうする?」

「ぜひともエド様の信徒に!!」

「ああ……。そういえば私の事もあったから保留にしてたんだったな」

「そうそう」


 保留っていうか、断ってたんだけどな。

 俺の力が増して、対になる奥さんの力がさらに不安定になるのも困るからとお断りしてたんだが、こうなってくると、なぁ?


「王族としての地位は捨てて貰うぞ?」

「もとより、私の全てはエド様の物です」

「バロン!!」


 アロンが声を荒げるがバロンは兄貴の方へ一瞥もくれない。周りの騎士達も俺とバロンを交互に見るだけでどうにも出来なかった。


「いいだろう」


 俺が認めた事により、バロンの中にあったこの世界のスキルは全て消え、そして同じように神託などのためのスキルが宿る。


 シム、神託を通り道に二人の力を復活させろ。ただし二人が眠ってからで良いし、スキルのレベルを下げてろ。

『分かりました』

『何故だ?』


 疑問を投げかけてきたのはゴドー。


『スキルがすぐに復活するってなったら、こっちに鞍替えするかもしれないだろ? 流石にそれは、こっちの神に悪い』


「はい! じゃあアタシが二人を奉った神殿の神官するから恋愛運上げて!!」


 セリアが片手を振ってアピールする。それを見て、ゴドーは酷く納得してた。

 ありがとうよ。お前のおかげでゴドーがすんなり納得してくれたよ。


「いいけど、こっちの神官とは恋愛禁止になる可能性でかくなるぞ?」


 前にシェーンの事が気になると言っていたから、日本語でそう伝えると、しばく悩んでいたが、決めたらしい。


「……分かった諦める」

「おう。それがいいと思うぞ」


 みんな、何を言ったんだ? という感じだったがそれをしゃべるつもりが無かったから日本語で告げたわけで。


「バロン、特に神官としての仕事はねぇから。今まで通りで良い」

「はい、かしこまりました」

「私の方も特にない。何かあったら連絡する。それまでは、誰かに仕えないのであれば好きにしてくれ」

「かしこまりました、我が神よ」

「あー……確かに私は君の神だが、もう少し普通に出来ないかな?」


 ゴドーがちょっと弱ったようにリームに告げるが、リームは首を傾げるだけ。だぶんあいつにとっては神に対する普通はこれでは? というのがあるのだろう。


「神扱いするなって事だよ。この世界では神として動くわけじゃないから、人間扱いしろって事だ」


 俺がそう口にするとゴドーも同意するように頷く。


「……分かりました。では、これからはシエノラ・ノ・ゴドーさまの従僕として行動します」

「却下」


 キリッとした顔でそう宣言したリームに俺は笑顔でそう告げた。


「……え? 何故ですか?」

「シエノラ・ノ・ゴドーは男であり、女だぞ? そんな愛しい妻に、何十年と有る意味ずーっと片思いしてきたとも言える男を? 傍に置くと思うか?」


 にっこにっこと、いくら売りつけても〇円だぞとでも言うかのような笑みを浮かべてリームを見る。


「傍にといっても部下ですが」

「だから却下だって言ってるだろ」

「ですが」

「却下」

「……あの」

「却下」

「私にそんな」

「却下」


 言い分を全く聞こうとしない俺に、リームは助けを求めるようにゴドーを見る。ゴドーは首を横に振った。


「私はエドが嫌がるようなことはしたくない」

「……彼は、いいのにですか?」


 恨みがましいとばかりにバロンを見る。


「エド様からの信頼が違いますから!」


 胸を張ってバロンは言うが……。


「……というよりも、住んでるところも違うし、日中一緒っていうわけじゃないからな」

「そうだな」


 俺の言葉にゴドーは頷く。

 なんせこちらは密かに、距離を取ってたからな。ゴドーの心の平穏のために。


「とにかく、ゴドーから仕事を受けてあれこれ頑張るのはいいけど、ゴドーの世話を焼くのは基本ダメだ」

「何故ですか?」

「俺の楽しみだから」


 一言告げて、頬杖をつき、リームを見る。


「それともその楽しみを俺から奪ってみるか?」


 先ほどとは違う笑みを、それこそ、肉食動物が獲物をいたぶるような笑みを浮かべながらリームに尋ねる。

 彼は答えない。はいともいいえとも。今までならわりとみんなすぐに俺の意志を尊重したが、そうじゃないらしい。なるほど、流石、周りから何を言われてもぶれずにゴドーの事を神と信仰していただけある。


「リーム、私もエドにちやほやされるのが好きなんだ。諦めてくれ」

「かしこまりました」


 互いに引かない俺達に、ゴドーが呆れながら決着を付けた。

 

「選んでくれて嬉しいよ」


 そう軽く言うと、変な顔をされた。いや、むしろちょっと怒った?


「当たり前だろ? 何よりも、誰よりも、君の傍に居たいからと私は神に至る事を決めたんだぞ? 己の神すらも裏切って」


 ざわっと周りの空気が揺れた。俺は皆の反応に気づかない振りをし、否定する。


「あれは一応、許可を取ったようなもんだろ?」

「あの時点では禁忌に近かったのは事実だ」


 うぅーん……。藪を突いた感たっぷり。


「……そうだな。俺が悪かった、ごめん。でも、俺もそうだよ。俺も、ゴドーと一緒にいるためなら、神にだってケンカを売るよ? 実際全てのモンスターを倒したからね! あれ、あの時はなーんも思わなかったけど、神の立場からすると、『やらかしやがった!』だよねぇ」

「ああ……まぁ、そう……、だな」


 お互い生命と死を司るので、あの後、ヒノワとツキヨは大変だったんだろうなぁ。と遠い目はしちゃうくらいには今は事情が分かる。

 顔を見合わせてお互いに苦笑し合う。


「お兄、お姉、そこでイチャイチャしない。お客さんも居るんだから」

「「……おねえ?」」


 セリアの言葉に俺とゴドーが同時に聞き返す。


「エドのお嫁さんって事は、よく考えればアタシのお義姉ちゃんだなって今さっき気づいたから、いちゃつきムードを壊すために言ってみた。でも、ゴドーの時はちょっと言いつつ違和感あるから、お姉はシエノラの時にだけにする」

「では、私、男の時はどうするんだ?」

「え? そのままゴドーじゃダメ?」


 なんで? とばかりに聞き返したセリアに、ゴドーは少し寂しそうな顔をして、シエノラに切り替わり、にっこりと笑った。

 お姉ちゃんと呼んでとその笑顔は実に如実に語っている。


「……まさか、ここで、ラブラブっぷりを見せつけてくるっていうか、思いの丈を見せつけてくるとは思わなかったな……」


 セリアは脱力し、それから思案する。


「うん、じゃあ、ゴドーの時は、ゴドーもお兄って呼ぶよ。それじゃダメ?」

「ダメだな。お義兄さんって呼んだ方がより、それっぽい!」

「この似たもの夫婦が!」


 俺に対しては当たりが強くないか!? 嬉しいから良いけど!

 じゃあ、双子達にはおばちゃんと……呼ばなかったから偉いなって思った事があったな、俺……。


「それじゃあ、お兄の希望を叶えて、シエノラお姉さん、ゴドーお兄さんって呼ぶよ……」

「おう、よろしくな!」


 ぐっと親指立てる俺に、あれ? シエノラの時も変わるのか? と言った様子で俺とセリアを交互に見えるシエノラ。

 俺はそんなシエノラを見て、楽しくて笑う。

 きっと何がそんなに楽しいのか分からないのだろう。周りのみんなは当然そうだ。そして、シエノラもセリアもきっと、なんでそこまでと思ってるだろう。

 でも、俺は嬉しくて笑う。

 だって、このやりとりは、シエノラ・ノ・ゴドーが落ち着いたから出来るのだ。

 ゴドーで居続ける事も、簡単にシエノラに切り替わるのも、誰にも嫉妬を向けずにすむのも、いや、向けないようにと己の感情を押し殺そうとしないのも、か。

 ああ、ゴドーが帰ってきたなって嬉しくて仕方が無いのだ。

 だからさ、やっぱりもう一度言わせてくれ。


『お帰り、ゴドー』

『……うん、ただいま。エド』


 シエノラの時にそう呼んでしまったけど、気にした様子もなく、シエノラは嬉しそうに答えてくれた。



いつもありがとうございます。

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