俺が知らんところで初代国王は働いているよ。
本日二つ目
エド視点
奥さんも落ち着いて戻ってきたら何故か教室が騒がしい。
そしてルベルトが我関せずな事にも驚いた。
でも、倒れている生徒を見て、納得した。
魂がない。殲滅魔法が使われたのだろう。つまりルベルトがやったのだ。
なら我関せずというか助けようとしないのは当然だろう。でもなんでだ?
『マスターを監禁しようとした男の息子だからでしょう』
え!? 連座!?
『というよりも、マスターの事を父親に言ったのは彼なのでしょう。前日にマスターに対しての態度も気に入らなかったのだと思います』
前日?
『マスターの事を平民と言って馬鹿にしていた男です』
ああ……。俺は気にしてなかったんだけど……。
『ルベルトは、神の怒りに触れた種族がどうなるか知っています。それ故に、不穏な芽は摘める時に摘みたいのでしょう』
……はぁ。その子の魂探して、返してあげて。
『よろしいので』
構わないよ。クラスメートだしな。
『かしこまりました』
人の山から離れルベルトにやり過ぎじゃね? って言ったらそんな事はないと否定された。
絶対やり過ぎだと思う。告げ口したら死刑って。
『口封じに使われる常套手段では?』
物騒!!
俺だけなのか!? やり過ぎると思うのは俺だけなのか!?
……ルベルトの立場なら仕方が無いのかも知れないが、俺としてはもうちょっと穏便に終わって欲しかったよ。
『穏便に済ませた方だとは思います。彼は本当に関わった者しか手にかけてません』
蘇ったと喜ぶクラスメート達を見ながら俺はシムと会話をしていたが、今度はリームに声をかける。
簡単に言えば、家に遊びに来ないか? である。
ゴドーに会わせてやるといったら大喜びだった。まぁ大喜びにもなるかもな。
ゴドーに会えるのなら俺だって大喜びだっての。
廊下を走る足音が聞こえて、一人の先生が入って来た。
「ここでも人が突然倒れたと聞いたが!?」
「あ、先生!」
「もう大丈夫です!」
「いや、きちんと先生に見て貰った方がいいんじゃないか?」
そんなやりとりがクラスメート達から出てくる。
倒れていた本人の方がよく分からないと言った様子で医者と周りを見比べていた。
周りから倒れていたと聞いていたも実感がわかないのだろう。
たぶん、どこかが苦しいとか痛いとか思う事無く、意識が一瞬途切れたな。くらいで死んだと思うし。
「君は、無事なのか!?」
「あ、はい……」
戸惑いながら答える。それを見て先生は周りの生徒に何をやったのか真剣に聞き、それを終えると小さく頷いた。
「君たち、一緒に来てくれ。もう一人、原因が分からず倒れたままの先生がいるんだ」
そう言って回復に関わった生徒達を急ぎ教室を出て行く。
『あちらはどうします?』
……ルベルトにあの時好きにして良いって言って出てったし、いいよ。彼らは十分に大人だっただろうし。
『かしこまりました』
「とりあえず……保護者も連れて行くか」
「城にか?」
「そう」
頷いたら何故かルベルトが意外そうな顔をしていた。
「意外だな。君は会わせたくないものだと思っていた。特に彼には」
ちらりと視線でリームを示す。
「確かにそういう思いもあるけど、そういうわけにもいかないし。今回リームは必須なんだよ。あいつが必須なら、保護者は居た方が安全だろ」
「安全、ね。この場合、危険なのはなんだ?」
「俺とお前」
「……なるほど」
リームが暴走した結果、俺が切れる。その前に止めようとルベルトが動く。なんて事普通にあり得るしな。なら暴走する前に全てを終わらせなきゃならんってなると、ストッパーは重要だろう。
「やれやれ……。君が生まれてまだ数年だというのに、随分と忙しくなったものだ」
「そうだねぇ。今、裏で色々動いてるんだろ? 大変ね」
こいつの事だから、今度の事を再度きっちり釘を刺しているだろう。こういう時って分身使いは非常に便利だと思う。
それから数十分は経っただろうか。意気消沈して生徒達が帰ってきた。
助けられなかったからだろう。そして今日は授業が取りやめとなった。それもきっと仕方が無い。
「エド、君に少し確認したい事があるんだが」
帰りの準備をしている時、担任がそう声をかけてきた。
首を傾げて、そちらへと行こうとした時、俺の腕をルベルトが取った。
「先生。それは、学園長の許可をとってのご相談ですか?」
「……いや」
「では、お話は後日でお願いします。私達は人を待たせているので」
そう言って俺を連れてルベルトは教室を出る。
なんなんだ? と思っていたら。
「死んだ教師と最後に会っていたと思われる人物は?」
………………おお、俺か。
「でもそれって下手に逃げるのも不味いんじゃね?」
「冗談はよしてくれ。喩え今度の事が君の仕業であっても、吾らは国としてもみ消す」
「まぁ、神に対して害意があった。なんてなったらなぁ」
「それもあるがそれじゃない。分からないか?」
問われて俺は首を傾げる。シム、分かる?
『神の貴石。それが関係していると思われます。あれは神の謝罪。それが理由に二度目の騒動が起こった。国としてはかなりの痛手だと思います』
一度目は俺の爵位がどうのって話か。確かにあの時も、こんな事ならって、ちょっと思ったっけ。
シムの答えを聞いて、分かったという表情が顔に出たのかルベルトが話を続ける。
「もし、三度目、同じ事になった場合、牙を剥くのはルベルト・ホーマンだそうだぞ」
だそうだぞ、っておい、そこの本人?
「こんな事を起こすのなら貴族制度などない方がいいだろ?」
にっこり笑って言ってるけど、よっぽど腹に据えかねてたんだな……。
学園長にも脅し済みなんだろうな。
「何をしている。早く来い」
「ちょ、まて、ひぐ、くる……」
教室を出た俺達を保護者の首を絞めつつ引きずるように追ってくるリーム。
リームの顔はキラキラと輝いている。
ずっと憧れていた人と会えると嬉しそうだ。
……ちょっとムカつくけど……、まぁ、憧れまでだったら、うん。許そうと思う。
恋慕になったら、その時は死を覚悟せえよという所だけど。
「じゃあ、帰るか」
ガラゴロガラゴと馬車は音をたてて玄関についた。
授業どころじゃ無いとなるのは目に見えていたので、シム経由でシエノラが騎士達に迎えに行くようにと声をかけてくれたようで、俺達はすんなりと帰ることが出来た。
「おぉー!!」
「…………これが神が与えもうた城……」
興奮で鼻息の荒いリーム。呆然とエントランスを見上げるバラッド。
……でも、君が今、感心して見ているの、俺が作った物なんだけど。
感心したように二、三度頷いた後、バラッドはリームを見て首を傾げた。
リームは視線を向けられて、というかじっと見つめられて同じように首を傾げる。
「どうした?」
「何がだ?」
「いつもなら、それこそ床に這いつくばって頬ずりするだろう」
「失礼な!」
リームはバラッドの言葉を強く否定した。
マジで怒っているのはその表情を見れば分かる。
「確かに私は神狂いと言われた。私はそれを甘んじる。否定はせん。しかしだ! 床に這いつくばって頬ずりだと!? そんな事がないだろう!!」
怒れる炎を目に宿しリームはバラッドを睨み付けた。
「我が神がお待ちしてるかも知れないんだぞ!! やるわけがないだろう! やるのは拝謁した後だ!!」
「「「やるのか」」」
俺、ルベルト、アロンが思わず突っ込んだが、バラッドだけは、「ああ、いつものコイツだ」ってほっとした顔をしていた。
……業が深いな……。
「……バラッド先に忠告して置くが」
ルベルトが、ルベではなく、ルベルトとしてバラッドに話しかける。バラッドは突然変わった雰囲気に戸惑いルベルトを見つめている。たぶん、今のルベルトは逆らうと切られるくらいには怖いんじゃないかな?
「従兄弟の命が大事だというのなら、これより先、何があっても、暴走させるなよ? 神の怒りを買い死ぬことも十二分にあり得るからな」
「うん、無いとは言えない」
ルベルトの言葉に俺は頷く。真剣な俺達に戸惑うバラッド。そして、バラッド達と同じくまだ何も知らないアロンが顔をしかめていた。
「お前達、そうやって気易く神の名を出すべきではないぞ」
窘める言葉に俺は苦笑を返した。
「こっちにも色々事情があってね、この場合、ルベルトの言う事は正しいんだよ」
「……待ってくれ、『ルベルト』?」
バラッドが戸惑いながらも聞き捨てのならない言葉を拾い上げる。
「今更何を言っている? エドは前にもそう呼んでいた」
「いつ!?」
リームの言葉にバラッドは悲鳴に近い声を出す。
「その名前がどうした?」
「初代国王と同じだから驚いたんだろ」
「ああ、なるほど。同じ名など腐るほどいるだろ」
俺の答えにアロンはあっさりとそう告げた。それに戸惑ったのはバラッドだ。
いや、むしろ、泣きそうにも見える。そして、口をぱくぱくとして、ごくりとつばを飲み込んだ。
「拝命……いたしました」
絞り出すような声でそう受諾するとリームを非常に険しい目を向けた。
これで、暴走するような事があったら、あいつが必死に止めるだろう。それこそ、命がけで。
俺は扉の前に立ち、リームに声をかける。
「じゃあ、感動のご対面って事で」
かなり投げやりな声で、そんな白々しい言葉を口にし、俺は扉を開けた。
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