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与えられた慈悲

遅くなりました。

そして、短い……です。ごめんなさい。





「ルベルト。そいつらは好きにして良い。今の俺はすこぶる機嫌がいいからな。俺達の今後の活動に影響が出なければ無罪放免でもいい」

「流石に、それは」

「だから、好きにしろ」


 そんな言葉と共に消えた二柱の神。

 ルベルトはしばし頭を下げたままだったが、完全に居なくなった、戻ってこないというのを確認すると立ち上がり、男を見下ろす。


「ち、ちがうの、です」


 もはや死人のような顔色をしながらも男はそう否定した。震える声で、自身の行く末を否定したくて。

 ルベルトの表情は少しも変わらなかった。


「安心しろ。神はとても心優しい」


 その言葉にほっとする哀れな兵士達。


「関わった者達のみの処分とする」


 その言葉を聞かせた後、ルベルトは関わった者達に一つの魔法を使う。

 この場で三人。糸が切れた人形のように倒れる。

 この場以外でさらに三人。


 分身で確実にそれぞれを殺したの確認し、口を開く。


「本来であれば、自ら殺してくれと願ってもおかしくない程の痛みをお前達と連なる者に与えねばならない。それを思えば痛みもなく死ねるのだ。異世界の神に感謝して輪廻に戻るといい」


 それだけを言ってルベルトはこの場から消えた。


 そして、彼は目を開ける。



「おい、どうしたんだよ、おい!?」


 少年少女が机に俯して瞬き一つしていない少年に向けて焦ったように声をかける。

 瞬きどころか、呼吸すらしていない。


「おい!?」

「医師を呼べ! 回復魔法の使える者は回復をかけろ!」


 冷静さを取り戻した生徒が、出入り口付近に居た者に声をかけ、彼が走り出す音を共に何名かの生徒が呪文を唱え始める。

 リームは彼らを見つめ、それから真っ先にこの人の山に、居そうな者がいない事に気づき、彼の席を見る。

 ルベルトは何をするわけでもなく、ただ見守っていた。

 誰も彼もが倒れているクラスメートを心配し見守っている中、彼の表情にその色はなく、その瞳には慈悲も無い。

 リームはしばし倒れたクラスメートを見つめていたが、そんな彼も人垣からそっとはずれルベルトの隣に立つ。


「手を貸す気はない。そう判断して良いのだな?」


 ルベルトはリームを見上げて、足を組み直し、頬杖をつく。


「特待生の私の出る幕はないですよ」

「……意外である。分け隔て無く手をさしのべる方だと思っていた」


 ルベルトはそれに笑う。唇だけ。


「もちろん、その必要があるのならば」

「……不要である、と?」

「貴方にとって、神が全てであるように、私にも大事な者があるのですよ」

「もう一人の特待生、エドの事か?」

「まさか。大事な者を守るために一緒にいる事は認めますけどね」


 騒がしい教室を眺めて、会話を繰り広げる彼らはあまりにも静かでここだけ切り取られた別空間のようだった。


「それに、どのみち、吾にも助けられんよ」


 偽ることを止め、ルベルトは組んでいた足を戻し、挑発するようにリームを見上げた。


「助けたいと思うのなら、君がしてみたらどうだ?」

「……私では無理だ」


 リームは視線を少し落とした。

 回復魔法は使える。力の限りその力を使えばここに居る誰よりも強力な回復魔法を使えるだろうと予想はしていたが、それでも同時に無理だと理解してしまった。己が予想したように、自分よりも遙かに高みに居る力の使い手である人物が犯人ならば、自分が助けられる方法で殺したとは思えなかった。

 クラスメート達に走る動揺を見ながらリームは目を閉じた。黙祷を捧げるように。

 そこに、エドが入って来て、眉を寄せた。


「何の騒ぎ?」


 呟いてルベルトを見る。ルベルトは苦笑を返すだけで答えない。それに違和感を持ったのはエドだ。


「生徒が一人倒れた」


 代わりに答えたのはリームだった。

 エドはそれを聞いて少し驚き、そしてまたルベルトを見た。それから人垣の所に行って、生徒を確認し戻ってくると自身の席に座った。


「やり過ぎじゃない?」

「そんな事はないと思うぞ」

「告げ口しただけじゃん」


 何の前触れもなく、そんな会話が始まると同時に今までの怯え混じりの声や呪文とは違う声が混じった。


「げほっ、ごほっ!」


 先ほどまで呼吸すら止まっていた、心臓すら止まっていた者の咳き込む声が聞こえた。

 わっと声が上がる。そして呪文を唱えていた者同士が喜び抱きしめ合う。

 そんな者達をリームは呆然と見た。


 助かるはずがない。


 彼の頭の中にそんな言葉が巡る。

 ヒューモ族最強と呼ばれた男が手を下し、そして助ける方法は無い、無理だと言ったのだ。

 助かるわけがない。

 徒人が助けられるわけがない。

 人であれば。


「リーム」

「は、はっ!」


 エドに声をかけられて、リームはまるで騎士が国王にするようにとっさに敬礼を取り、呼びかけた者を見た。

 エドはきょとんとそんなリームを見、リームもまた己がした事に戸惑い、上げていた手をゆっくりと下ろす。

 エドは小さく笑って、机にもたれ、頬杖をつき、リームを見上げる。


「今日の放課後。お前が行きたがっていた城に入れてやるよ」

「え?」

「んで、お前が子供の頃に会ったっていう例の神官に会わせられると思う」

「本当か!!?」


 問い返すリームの声は喜び合う者達の歓声すらかき消す勢いで放たれた。

 それを間近で聞く事になったエドは苦痛に顔を歪め、耳を押さえる。


「おー、だから、もうちょっと声を落とせ」

「お、おおおおお!!! 神よ!!! 今日という素晴らしき日に感謝を!!」


 両膝をついて天に向かって、しかし見方によってはエドに対して祈って見えるポーズでリームは歓喜に震えた。

 その様子は、クラスメートが死にかけたというのに、我関せずで別の事で盛り上がっていたように見える。三人以外の空気が一気に悪くなる。


「た、確かに、神に感謝したくなるな。無事に生き返ったし」


 空気の悪さに焦ったバラッドが必死に頭を働かせフォローする。

 リームの言葉には何に対する感謝が抜けていた。

 だから無理矢理、リームが言った言葉を、クラスメートが生き返ったことに対する感謝の言葉としてごり押しする。


「まぁ……たしかに、そうだけど……」


 何か腑に落ちないと言った様子の他のクラスメート。


「あいつも大変だな~……」

「吾もそう思う。しかし最近……彼の気持ちも分かるような気がしてきてならん」

「……俺、そこまで迷惑かけてる?」


 エドはショックと顔にでかでかと書きながらルベルトを見た。

 ルベルトは答えない。エドはへの字口になりながらもそれ以上言い募らなかった。

 彼らの前ではリームがまだまだ神へ感謝し続けていた。



 


 

 






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