おやすみ
短い……。前話と足して一話にすれば良かったのでは? ってくらい短いです。ごめんなさい。
『おはようございます。マスター』
呼びかけられて俺は目を開けて、クセで体を起こす。
んー……? 寝てた?
『はい。お二方とも疲労が溜まってたのだと思われます』
疲労……。神なのにか。
俺はぼんやりとそんな事を思いながら横を見ると、同じように眠っているシエノラが居た。
艶やかな髪を撫でようとして止めた。起こしてしまうかも知れないし。
『神でも疲労は溜まります。人よりもずっと溜まりにくいだけで』
まぁ、ね。でも今までこんな風にした後に眠る事ってなかったような……。
あれから、ゴドーにたっぷり食べられて。お返しに俺がゴドーを食べて。お代わりに味を変えてはいかがとばかりにゴドーが自らシエノラに切り替わったので、喜んで頂戴し、今に至るわけだが。
『マスター達の疲労の大元は、あの世界にいる事ですから』
そりゃ、よそ様の世界は自分の世界よりは居心地悪いけど、たった数ヶ月だぜ?
休眠を取らなきゃ成らないほどじゃないだろ?
『いえ、それは違います。マスターとシエノラ・ノ・ゴドーさまを調べた結果、変動する神の力を抑えるために、マスター達は余分な力が入り』
ちょい待て。
『はい』
……もしかして、バージョンアップして、シエノラ・ノ・ゴドーの方の無意識まで読めるようになったわけじゃ無いよな?
『可能ですが、シエノラ・ノ・ゴドー様に嫌われたいわけではないのでやってません』
……お前の性格が変わって無くて良かったよ……。
一瞬なんて答えようかと思ったが、シムらしいというか、俺を基準とした考え方からすると正しいっていう気がして、そうとしか答えられなかった。
『先ほどの話に戻りますが、あの世界ではシエノラ・ノ・ゴドーさまの力が安定していません。特にゴドーさまの力が安定せず、それがマスターの方にも影響が出て、神の力を抑えるのに余分な力が入っているため、お二方とも、疲労が溜まっていたようです』
そっか。……なぁ、シム、もし、シエノラ・ノ・ゴドーが二つの人格に別れたらどうする?
『どう、とは?』
……別れさせたままでいいのか、無理矢理一つに戻すか、それとも、別の体を作った方がいいのか……。
『三つ目は止めた方がいいと思います』
……そうだよな。
『それをした場合、マスターもその身を二つにわけますよね? シエノラ・ノ・ゴドーさまはそれを望みません』
……う……ん、まぁ、そうだよな……。
……愛してるんだけどな……。
『それは疑ってないと思いますよ。自分の中で好きな部分と嫌いな部分がある。それは当たり前の事です。性別が切り替わる事で、それが目につくのでしょう』
まぁ……元々の性格に近いのはシエノラで、ゴドーは依り代として抑制されてた部分だから、そうなるのかも知れないけど……。
『それよりもマスター、ゴドーさまに、一緒に学校に行かないか、と誘ってください』
へ!?
『実は誘われなかった事を少し拗ねてます』
なんだって! それはまた随分と可愛らしい!
そっかー。そっかー。へーそっかぁ。
『顔がだらしないです』
仕方ないだろ。一緒に居たいのにって拗ねられたんだぞ。可愛くてニヤニヤしたって仕方がないじゃないか!
『マスターはバカが付くくらいの愛妻家ですものね』
そうそう。
……でも、さ。ゴドーにしかそれを言う気はないのに、言っても良いのかな?
シエノラを男共の目にさらすのは絶対に嫌だし。
茶会でのニアと男共のやりとりを思い出すと、それなりにアプローチしてくるのが目に見えていて、想像だけでも腹が立つ。
『それと、向こうの世界に戻ったら少し確かめたい事があります』
……シエノラ・ノ・ゴドーに無理はさせるなよ?
『興奮のあまり『固定』してしまった人に言われたくありません』
ぐはっ!
眠ってたくせに! 見てなかったくせに! 起きると同時に俺の記憶全部復習ったな!?
『今更何を言ってるんですか?』
……まぁ、散々今までの会話で俺の記憶をすでに読んでることは理解してるけど、即座に弱いところを付くのは止めようぜ……。
ため息を一つついて、シエノラを見る。
穏やかな笑顔に、俺の口からほっと息が零れる。
ベッドの上に花のように広がる髪を少しだけ持ち上げた。
滑らかな手触りが気持ちいい。
「喩え何があっても、俺は君を愛しているよ」
もし、人格が別れたとしても。俺は君たちを愛すよ。
寝顔に唇を一つ落とし、俺は力を解放する。
こことは別の世界を一つ作り、世界を整えていく。
あの世界がシエノラ・ノ・ゴドーに悪影響を与えるというのなら、いかなくてもいい。
あの世界に行くのは俺のやり残しと、子供達のためだ。
『人を誕生させるのですか?』
ああ。もう一度戻って、シエノラ・ノ・ゴドーに悪影響が出ていると判断すればそうする。情操教育なんてそれこそ俺が作った世界でさせればいい。
いつでも生命が誕生させられる環境を整えた所で世界を凍結させ、仕舞う。
『お見事』
はは、サンキュ。
答えて俺はシエノラの寝顔を眺めて、二度寝する事にした。
シエノラを守るように腕を回す。
普段なら何があっても守りたいという意志もあるが、今はそんなつもりはない。
この世界に住む者は皆、俺のスキルが元の生物たちばかりで、この世界は俺のスキルが元だから、有る意味俺の分身みたいなもんだ。だから、この世界ではシエノラ・ノ・ゴドーを傷つける者はいない。
だから、この抱擁は俺のただの愛情表現である。
だから、ゆっくり休んでくれ。
君の傷が癒えるまで。