許せることと許せないこと
お食事中には不適切な描写あり。
あと、R指定系の変態が出ます。
てとてと歩く俺。
初等部がお昼の時間になるのはたぶんもうちょい先である。
というのも実力テストの影響で高等部の授業が終わるのがちょっと早かったからだ。
午後はお茶会だって。ガーデンパーティーなのかもしれないけど。びっくりだよ!
そこでいろんな人と話しして、相性の良い人とチームを組みましょうという事らしい。
もう一回言って良い? びっくりだよ!
ルベルトが言っていた暇つぶしってのが本当なんだなって理解したけどさ。
まあ長命種だからな……って思う事にした。
一日の重さが違うとでもいうか。
……俺もそんな風にのんびりどっしり構えられるようにならないといけないんだけどさ。
寝てる時ならともかく起きてるとどうしても人間だった時の影響がまだ出てしまうと言うか。
シエノラと一緒だとね、あんまりそんな事気にならないだけど……。
イチャイチャしてるとわりと平気で時間が過ぎてくから。
膝枕してもらってるだけで一時間とかあっという間に過ぎてくのは不思議だったな。
おしゃべりしたりしなかったり、シエノラのあの綺麗な髪をいじったり指をいじったりしてたらいつの間にか過ぎてくんだよ。
人間夢中になると時間があっという間に過ぎていくのと同じだとは思うのだが……。
……それとも自分の世界だから神の力が強くなって神としての意識が強くなって気にならなくなるとかそんな感じなのかな?
『マスター』
お? シムどうした?
『神の貴石の製作者として活動するのであれば、着色は復活させててください』
「あ」
そういや今、俺のスキルにはそれなかったね。
『あと生活魔法(清潔)か生活魔法(全)も入れてた方がいいと思います。マスターの性格からして何も考えずに使いそうなので』
……確かにそうかもしれんが、シムさんや、珍しく話しかけてきてくれると思ったら、ディスるために話しかけてきたのかい?
最近俺の事ほったらかしなのに……。
『ついでに処理速度向上も私の方に補助でください』
無視かい!
『創世神の仕事お返ししても良いですか?』
ごめんなさい。めんどくさいので遠慮します。
『…………』
…………。
『……マスター』
処理速度向上な! うん! 今すぐ復活させる!!
俺は即座にスキルを復活させてシムが使えるようにする。
『…………あと倍はください』
マジで?
『シエノラ様の方の手伝いにも力を割いているので……』
ああ。生命の誕生の手伝いしてるんだっけ?
『はい。シエノラ様がお勉強にと、一定の質を持つ魂だけではなく、本当に全ての生命の誕生をチェックしているようで』
うわっ! 頑張る! それってつまり動物とかだけじゃなくて、昆虫とかもだろ?
自分の世界ならともかく、こっちだと力もある程度制限されてるのに、よくそこまでやろうと思ったなぁ……。
…………あれ? もしかして、シム、割といっぱいいっぱい?
『はい』
珍しく素直にそんな弱音が出て俺はぽかーんとして思わず足を止めた。
それからため息を一つついて、俺は止めていた足をまた動かす。
お前ね、それならそれできちんと……。
『仕事が回された時にきちんと抗議いたしました』
はい。そうでした。すみません。
『マスターの期待に応えるのが私たちの喜びなので文句はありませんが』
いや、言ってたよね。と思ってはいけないのだろうな。うん。俺は何も思って無い。
『ただ、今やってるアカシックレコードの作成が終わりましたら、バージョンアップをお願いしたいです。マスターやシエノラ様のサポートをすると考えれば、人間が使うスキルレベルの私では力不足です』
うーん。バージョンアップね。まぁ構わないけど……。シムも柳や楓みたいに体が欲しいと思う?
するとシムは呆れたのを隠すことなく言ってきた。ご冗談を、と。
……えっと、なんでそんな『あり得ない』っていう雰囲気たっぷりなんですかね?
『私が体を持って良い事なんて何もありません』
なんで? なにかやりたいこととかないの?
『やりたい事はありますが、体を持とうとは思いません』
……なんで?
だって、自分の体を持ってたら色々出来るだろ? と俺は心底分からなかった。
『たとえば、私が体を持ったとして、シエノラ・ノ・ゴドー様とイチャイチャしたいです。と言ったらどうするんです?』
ほう。イチャイチャねぇ。それはエッチな事も含めてでしょうか?
俺の中でシムのイメージは出来る美人秘書(女性)だから、体を持ったとしてもそのイメージが反映されるだろう。
うん。百合百合としてるね。素晴らしいね。
『私がシエノラ様を抱くのは有りでも、ゴドー様が私を抱くのは無しでしょう?』
……………………。
『私とマスターは完全に記憶が統合されているわけではありません。それはマスターにとって、自分であり自分でない状態です。だから同性のシエノラ様と喩え肉体関係を持ったとしても友情の延長線上として許せても、異性のゴドー様とでは恋愛関係・浮気のように思えて嫌だ、だという感情が生まれるんです。前回でしっかりこりてください』
前回?
『生命の樹木の事です』
あー…………。
『シエノラ・ノ・ゴドーさまとイチャイチャしたいのならマスターの体を借りた方が遙かにマシです』
そう……だな。確かにそれは否定出来ないかも……。
確かに……シエノラとシムがイチャイチャしててもなんとなく眼福。とかいって許せそうな気がするけど、ゴドーがシエノラに手を出すって思うとイラってする。ちょっと許せない。
エロ木の時の様にシムを倒そうなんて思わないだろうけど不機嫌になるのは間違いない。
俺ってめんどくさい性格だったんだなぁ。
『もの凄く今更です』
…………。
仕方ないじゃん。俺にとってそれだけゴドーが特別って事だもん。
『知ってます』
まあ、ですよね。
あ! 勘違いするなよ!? シエノラが特別じゃないとかじゃないぞ!?
『誰に対する言い分けですか』
いや、なんとなく……。
ため息を一つ付く。
で、まじで体は要らない感じ?
『興味はありますが、面倒ごとの方が多そうなので遠慮しておきます』
そう。と頷いてこの話は終わらせた。
俺と記憶を統合すればいいじゃんと思いもするがシムは俺だけではなく、シエノラ・ノ・ゴドーの補佐もしているのだ。そちらからの内緒話とかもあるだろうし。
シエノラ・ノ・ゴドーとの秘密の共有だなんて、なんて羨ましい! って思うけど、別段シムには嫉妬は浮かばない。
まぁそれが肉体を持たない存在だからっていう理由なのは今分かったけど。
シムは言うべき事は言ったとばかりに俺との話を止めてしまったので俺は最初と同じようにてくてくと無言で歩く。
え? 最初はてとてとだったって? 擬音なんてもんはそんなもんだよ。
中等部の敷地を横切るようにして初等部に向かう。転移した方が早いのだが、俺やルベルトだから転移魔法を平然と使っているだけで、あれって当然使える人間の方が少ない。
だから目立たないようにと考えると歩くのが一番無難なんだよね。
走るっていう手もあるけど、そこまで急ぐ必要もないだろうと思っていたのだが、シムから緊急として声が飛んできた。急ぎ子供達の元に行け、と。
なにかあったのだろうかと不安が過ぎる。転移しようとした瞬間。
『転移は無しです! 走ってください!』
と、シムから指示が来た。なんだろう、この『余計な仕事を増やすんじゃねぇ!』って言いたそうな気配は……。
指示通り俺は走る。短距離かっていう速度で駆け抜ける。
一応これでも速度はセーブしたのだ。あまり目立って欲しくないってシムが思っているのを感じたから。
だから確かに初等部の食堂に着いたのは遅れたかもしれないが。
「ダメだよダメだよ! ゼッタイ食べちゃダメだよ!!」
「だめよ! たべないで! おねがい! たべないでよ!!」
双子がガチで泣きながら、ニアや周りの子達にそう指示している場面に出くわすとは思わなかった。
そんな双子を大人達が困ったように囲みつつ見ていた。
「だからね、毒なんて入ってません。ほら、この魔道具は毒があるかどうか調べられるけど、何も反応しないでしょ?」
女性が優しく二人に言うが双子は同時に頭を横に振っていた。
「ねぇ、ふたりともスキキライしちゃだめ、なんだよ?」
一応、とばかりにニアが優しく声をかけた。
言いながらもニアは、これがただ単に「好き嫌い」ではないとは思っているようだ。
そんなニアに、二人は両腕の自由を奪う形で抱きつく。ニアの言葉にもしかしたらご飯を食べてしまうと不安になったのだろう。
「ダメだよ! あれはダメだよ!!」
「あれはドクガが入ってるのよ!」
「だから、ね。毒は入ってないのよ?」
困ったように女性が言う。しかし二人は泣いて頭を横に振るだけ。
女性は弱り切った表情で、後ろにいる大人達と顔を見合わせる。服からして料理人もいるのだろう。
自分達が作った料理を食べるなと言っているのだから気になって当然か。
中には「毒入り」だと言われて不機嫌になっている者も居る。
シム、何があった?
『わかりません。確かに毒はありません。なので思念を読み取った結果だと思われます』
……にしては、反応が。
『はい。少し大げさな気がします』
二人は俺と同じように思念を読み取るし、同じようにそれを味の一種だと感じてしまう。
でも、それを他人に押しつけるような事はしないはずだ。あの子達は生まれながらの神でもあるから、自分自身の神としての力を理解している。
感情を味として感じるその現象は、人ではなく、神としての部分が反応していると分かっているのだ。
だからそれを人間に押しつけたりしないはずなのだ。本来は。
俺とシムは戸惑いながら人垣を割って二人の前に姿を表す。
「「パパ!!」
二人は同時にそう口にし、そして、泣きながら抱きついてきた。
「うえぇぇぇん! パパ、きもちワルいんだよ!」
「ふぇぇえぇん! パパ、パパ、パパ、パパ~!」
えっと、これはちょっと泣き止ませないと事情がさっぱり分からないんじゃないかな? と苦笑しながら双子を抱きしめて背中を撫でてあやしてやる。
「……お父様、ですか?」
「ああ、はい。学生服着てますが二人の父親です」
二人を必死に説得しようとしていた女性に頷いた。
「高等部の方に連絡が?」
「あー、いえ、この子達はちょっと特殊で、もしかしたら学校で作ってるご飯が食べられないんじゃないかなって思って、確認をしに来たんですよ」
俺はその女性に愛想笑いを浮かべた後、双子をあやしながら件の料理を見た。
確かにシムが言うように毒はないようだ。なら、思念の方か、と切り替えた瞬間、俺は双子が泣いて嫌がった理由を理解し、室内の気温が一気に下がった。
「ニア」
「……はい……」
震える声というか、伺う声で返事をしたニアに、俺は怯えなくて済むよう小さく笑って、双子に視線を移す。
「二人を頼む。食事には手を付けるな」
「あ、うん。分かった」
二人は俺が促すと大人しくニアの所に行き抱きついている。
ニアはテーブルに乗った食事を不気味そうに見て、双子を抱きしめた。
「あ……の……?」
女性が震える声で俺に呼びかけたが俺は無視し、大人達が作る人垣の一部に向かう。
俺の目はすでにそいつを捕らえている。
俺が近づくと人垣は自然と割れ、俺と目が合っているそいつは、自分の前ががら空きになって、同じように避けようとしたのか、逃げようとしたのかは知らんが、体ごと顔を背けた。
その胸ぐらを掴み、高く上げる。
俺の左腕一本でその男は足すら着かない高さに持ち上げられた。
周囲がざわめく。中には俺を制止しようとした声もあったが、俺は一睨みするとその声は止んだ。
「よお、人の娘達に、なんつーもんを食べさせようとしてるんだ? あ?」
「な、なんのっこ、と……だ!?」
その男は苦しげに白を切る。
誰もが息を呑み、見守るしかない中で先ほどの女性は責任感があるのか、鈍感なのか、俺を止めようとする。
「乱暴は止めてください! 料理は全て王家から貸し出しされている魔道具で有毒かどうか確認しています! 彼は」
「毒以外の物には反応しないだろ? それ」
女性の言葉を遮り俺は男を床に叩きつけ、逃げようとしたそいつを足で踏みつけて押さえ込む。
批難の目が向けられるが俺は止める気は無い。
「お前、料理に何を入れた?」
「……な、なにも……。何も入れてない。いい加減にしろよ、なんだよイタタタタイダイ」
否定する男をさらに踏みつけると男は悲鳴を上げた。
「皆さん!」
女性の言葉に、男の同僚達が俺を取り押さえようと、顔を見合わせたが、俺は再度怒りの気配を周りに知らしめると、ざわついた空気がまた静かになった。
手を出すなという警告とも取れる覇気に女性の方も心がくじかれたのか、床に座り込んだ。
「へぇ? 白を切るのか」
「お、れは、何も……してない」
「……それは、罪になるようなことは、って意味か?」
俺はあえてそう尋ねた。
男の顔が痛みでさらに歪む。
「確かに、髪やら爪やらを細かく切って料理に入れた所で何の罪にはならないだろうな?」
え? という小さな声があちこちから聞こえてきた。
俺が踏みつけている男の顔が強ばる。
「でも、それだけじゃないよな、この変態」
ギリギリと俺は踏みつける。男は叫び声のような悲鳴を上げた。
「二度と混ぜられないようにしてやるよ」
言葉を発した瞬間。なにかを察した料理人達が口を押さえてどこかへと駆けだして言った。たぶん、味見をしたのだろう。
「あ……の、つまり……」
見るからに倒れる寸前の女性が俺に問いかける。
「……唾液を含む体液をコイツは料理に入れてたんですよ」
小さく口にした。それでも、静まった室内では十分に聞こえたのだろう。今度は子供達が口を押さえて駆け出したり、窓の外に身を乗り出し外に嘔吐し始めた。
阿鼻叫喚といった感じか。
せめて子供達には配慮しろよって感じだが、理由が分からないままだと双子達のただの我が儘と思われそうで嫌だったのだ。
「な……にをい……」
青ざめながら男は俺を見上げている。
「白を切りたきゃ白を切れよ。それでも俺はお前を許さない。これで俺が罪に問われるというのなら、それでもいいさ。でもな、娘を持つ父親として、黙ってられないんだよ」
男の表情は青から白へと変わっていく。俺が本気なのだと、嫌でも理解したようだ。
「エド。待て」
俺の肩に手を置き、そう制止をかける声があった。
他の奴らの声だったら俺は完全に無視し、男に報復していただろう。でも、俺を呼び止めたその声の主だけは、完全には無視できなかったから、男を見下しながら、俺の意志だけを告げる。
「止めないでよゴドー。俺にはこいつがどうしても許せないんだ。いくら君の頼みであっても……」
……ん? ゴドー?
自分が発した名前に、俺は慌てて振り向く。
そこに立っていたのは、可愛くて美人なシエノラではなく、かっこよくて美しいゴドーだった。
感想・ブクマありがとうございます。励みになります。
あと来週・再来週は今週よりも更新が不定期になると思われます。
この話もランダムアプリ様にお伺いを立てました。
料理人がどこまでやるかっていう内容を。
初めはエドと同じのを双子も感じて、食べないっていう理由だったんだけど、ふと、昔見たマンガの嫌がらせを思いだし(見た内容は、異物混入と思われる牛乳を通り魔的犯行でぶっかけられるだったけど)、一瞬どっちがいいだろうか。と考えてしまった。
そうなった場合、ガチで双子は止めるよな。泣いてでも止めるよな。料理をトレイごと捨ててでも止めるよな。
うーん。でも、そこまでしてもいいものか……。(すっげー今更感を感じつつも)
……困った時のランダムアプリさま~。
1.欲の皮が厚いだけの料理人
2.変態料理人
→2
マジか。
と、ぽちぽちと書きつつ、途中で眠気に負け、いったんストップ。
眠気に逆らいながら書いても後々、気に入らんとなって書き直すことも多いので。
で、ベッドでごろごろしながら続きを考えてると。
あれ、これ、ゴドーが出てきてもおかしくないな。(シエノラが来るパターンは考えていた)
あれ? でも……ゴドーさんの出番は個人的にはもうちょいあとだったんですけど……。
うーん、どうしようとごろんごろんしてる間に就寝。
朝起きて、ゴドーさんが来るネタを覚えてたので、ランダムアプリ様にお伺い。
1.ゴドー出てくる
2.ゴドー出ない
→1
との結果。
なるほど! だから変態にしたんですね!! と思ってしまった。
ゴドーの出番、私の考えでは、下手をすると一月後とか二月後だったからなぁ……。