チームメイト?
「リームはこうなると長いからほうっておけよ」
リームの向かいに座る少年がそう教えてくれる。
えーっと……確か。
「バラッドだよ」
「俺はエド」
名前を思いだそうとしたのがバレたのだろう、彼はそう名乗ってくれた。
「こっちはラーヴ、あっちはシュナーン。駄目だぞ。きちんと名前を覚えないと。それといくら学生は平等といえども、口調はそれなりに改めた方がいい。じゃないとお前が苦労するぞ?」
あまり思念というか気配は、友好的ではなかったが、それでもそう苦言をいうくらいの世話を焼いてくれるらしい。
俺はそれを聞いてポリポリと首の後ろをかいてルベルトを見た。
「やべぇ、ルベっちどうしよっか?」
「なにが?」
「彼の言う事はよく分かるんだ」
「まあそうだな」
頷いた後、ルベルトは眉を寄せて思いっきり顔をしかめた。
「おい、まさか」
「うん、どうしよっか。俺は別にタメ口をきかれても問題ないんだけど、俺が口調を改めるとちょっと不味いかも」
「お前よくそれで学校に行きたいなんて言ったな!」
ルベルトが怒鳴る。立場が逆だったら俺も怒鳴ってると思う。
「いやぁ、学校はみんな平等だっていうからさ~。大丈夫かなぁって」
「思うな!」
「いや、実際は、その事に思い至らなかったんだけど……。神から敬語を使わなくていいっていう免罪符を貰うというのはどうだろう」
それなら有る意味、俺からでも発行できるし。
「君は神とやりとりできるのか?」
振り向くと、先ほどまでうっとりとしてたリームが俺を見ていた。
イスに座ったままこちらへとにじり寄ってくる。
「……神官を通してお願いする形かな?」
「そうなのか」
「いや、問題はそこじゃない。口調ぐらいきちんと改めろ」
「彼は、相手が国王であろうと頭を垂れるわけにはいかないんですよ」
バラッドの言葉にルベルトが首を横に振りながら言ってくれる。悪目立ちしないためにか、あちらは敬語を使っていた。
「そんな不敬な」
「神がかかわってるので」
俺がそう答えるとバラッドは混乱した表情をみせたが、それでも苦言する。
「それならそれで、きちんと私達の目に分かる形にすべきだ。でなければ互いに不幸になる」
「うん。何かしら形になるものを貰ってこようかな」
こいつ良い出来の貴族だな。なんて思っているとリームがまた俺の手を取ろうとするがその手はなにかに阻まれる。
なにかっていうよりも、俺が張った結界だけどね。
「いつの間に……」
「自衛ぐらいはするよ……」
リーム少年はその結界をぺたぺたとさわり、何故か、そう、本当に何故か、恍惚とした表情になり、頬を寄せて、またうへうへと笑い出した。
俺はどん引きである。
「おい、ちょっと、こいつ大丈夫なのか!?」
「……神が関わらなければ、こんな事になる事はないんだけど……。これ、なにか、特別な方法、それこそ神から貰った魔道具とかなにかそんなので作ってたりする壁なのか?」
バラッドが戸惑いながら尋ねてきて、俺は答えられなくなった。
呆然とバラッドを見つめて、それからリームを盗み見る。
まさか、本当に、神の力を嗅ぎ取ってる?
「……ルベルト、席交換して」
「……まあ、いいだろう」
ルベルトもリームの顔を見て、戸惑いというか少し苦笑しながらも頷いてくれて俺達は席を交換する。
俺はバラッドの隣に座り直し、ちらりとリームを見て尋ねる。
「彼ってどういう人間なんだ?」
「……え? ああ。普段はまともというかなんというか。……神が関わるとああなる」
「神が?」
「ああ。幼い頃王都で迷子になった所を、神官に助けられたとかで、それから、神様が大好きになって、ああなった」
「あの方は、ただの神官ではない」
うっとりとしたままリームは言う。
ルベルトはよく、その表情を間近で見てて平気だなって席を交換して貰った俺が言うのもなんだけど、尊敬する。
「優しくて、穏やかでとても美しかった。それはまさに神と呼ぶには相応しく」
「いや、呼ぶなよ、それは不味いだろうから」
バラッドが頭が痛いという表情で否定し、盛大な、聞こえがましいため息をついた。
「まぁ、よっぽど美人な神官だったらしくてな。あれは神がお忍びで人間界に来ていたんだってリームは言って聞かないんだよ」
「別にあの方が本当に神官でもいい。あの方が神に仕えているのなら、それだけ神は素晴らしいという事だ。それにしても、この結界は素晴らしい。どうやったらこれほどまでに美しい結界を張れるのか」
結界に頬ずりすんな。と俺は思うが口にはしない。つっこんだら負けだ。
「……そ、それはそうと、エドだったな……。ほ、他に、神の貴石はないか? 小さいのでいい。そ、その、ぼ、ボクでも買えるサイズがあれば欲しいのだが……」
リームの隣にいるラーヴが尋ねてくる。
「そもそも予算は?」
これが分からなくてはどうしようもない。
彼は指を三つ立てた。
「三万ゼニィだ」
「ヤヨイとヘイアンだったらどっちがいいとかってあるのか?」
「神の貴石以外には興味は無い」
「いや、だから、そのどっちも神の貴石なんだけど」
「というか、待て。エド。お前、売る気か? なんのために個数制限かけてるんだ?」
「不味い?」
「不味いだろうな。買えない面々だって居るのにここで売ると絶対に面倒な事になる」
「だってさ、悪いね、ラーヴ」
俺は軽ーく謝った。本当に悪いと思ってるかどうか怪しい感じで。
ラーヴは口を開けて、まさに『絶望』っていう顔を見せた。そしてテーブルの上に置かれた手をグググと握りしめた。そして、こちらを睨み付ける。
「では、三万ゼニィ払う。作り方を教えてくれ」
俺はそれに笑う。嘲笑うのではないぞ? ただ微笑ましいなって思ったんだ。
怒鳴り散らすでもない彼に好感をいだいた。
「そこまでして欲しいんだ?」
「欲しい。それを持って……………………」
ぼそりと呟いた言葉に俺は面くらい、そして笑った。
「いいねぇ。そういう青春、嫌いじゃないよぉ~」
「え!? 聞こえたのか?」
「なんて言ったんです?」
驚いたのはバラッドだ。シュナーンという少年は俺とラーヴを交互に見比べている。
俺は逆にルベルトを見た。
「教えるならいいだろ?」
「そういうのも面倒だっていって、蹴ったんじゃなかったのか?」
「まあね。でも、告白に使いた」
「うわぁぁぁぁぁあ!!」
俺の言葉を遮る様にラーヴが大声を上げる。
「おい! そこ! いい加減煩いぞ!!」
別の貴族から叱責が飛び、ラーヴは振り返って相手を見ると、恭しく詫びて着席する。
「頼むから大きな声で言わないでくれ!」
小声ながらラーヴは俺に怒ってくるのに対し、俺は笑う。
「いやだってねぇ?」
ニヤニヤと笑う俺。もちろん途中で遮られたとはいえ、聞き取れた二人の友達は生暖かい目でラーヴを見ていた。
「ま、俺としては、作れるのなら作って貰いたいかな? なんせ、俺以外に作れる人間一人っぽいし……」
「いいのか?」
バラッドに頷く。
「どうせ、神の貴石といってもてはやされるのは数年だと思うんだよな。作れる人間が増えたらそれこそ、綺麗石のように値崩れするんじゃないかって俺思ってるし」
「えっと、それだと教えるの不味いんじゃないか?」
フォークを取りつつ答えたら何故かラーヴがどこか青ざめたように言ってくる。
「え? なんで?」
「神が認めになった物がそんな扱いされるのは困るという事だ」
ルベルトが代わりに答える。
「それに、お前、作るのには時間がかかるとか言ってなかったか?」
「安く売らないための方便。俺やセリアなら、あっという間だな」
それこそたぶんヘイアンよりも、より値段の高いヤヨイの方が大量に生産出来るだろう。
「弟子を取るのなら私も弟子にしてもらおうか」
先ほどまで恍惚としててこちらの会話など関係ないといった様子だったリームが会話に入ってくる。その手に先ほど渡した石を乗せて。
「素晴らしいよ。本当に神に認められたって書かれてる。ああ。素晴らしい」
石を握りしめ、その拳を胸元に持ってきてクネクネと身もだえる。
キモイ。
絶対にお前だけは弟子にしたくない。
「……凄いな」
ルベルトは本当に感心しながらリームを見た。そして俺を見る。
「心酔といっても色々あるんだな」
「……そうだな……」
俺は疲れ切ったように頷いた。
「なら、折角だ。このこの四人プラス彼も交えてチーム申請でもしておくか?」
「俺は構わないけど。多くね? 大丈夫?」
「このぐらいの人数だったら問題ないだろう」
「勝手に決めるのは止め---」
「もちろん構わない。むしろ私からお願いしたい。そして、いつかあの城に招待してくれ」
目を輝かせてリームは言う。
俺もルベルトもそれにはすぐに答えられない。
「リームお前な。リーダーは私だろ?」
「反対するというのなら私は抜ける。それだけだ」
だらしない表情を止め、そうきっぱりと答えた。そうすると普通の、好感の持てる少年に思える。
こいつ、色々損してるな……。
「あのな、お前が勝手をしないようにと叔父上から言われているんだぞ? こっちは」
「学生時代に多くの経験をする。それが陛下の望みだ。問題ない」
「問題ある!」
そんなやりとりを大変だなぁ。ってバラッドに同情しながらサラダを一口食べて、俺の動きが完全に止まった。
口の中に入っている葉野菜だけでも飲み込もうと思ったが、やっぱり無理で、口元を手で隠しながら吐き出した。
ティッシュを収納から取り出し、それを包み、口と舌を拭く。
「どうした? まさか……毒か?」
「違う」
ルベルトの言葉を否定し、トレーに乗っている食事をよく観察し、フォークを置いた。
「毒は入ってないよ。それは間違いない。俺の分も食べるなら食べてくれ」
「何があった?」
「料理を作る事になんのプライドもない、豚のような奴らが作った料理だなって思ってさ」
完全に食べる気を無くした俺はトレイを横に押しのけた。
「ああ……そういう事か。ここは貴族が集う場所だからな」
そう。これを作った料理人達はただ、ここにいる貴族の面々に顔を覚えて貰い、引き抜いて貰いたいと思ってる。料理はそのための手段で有り、彼らには料理人としてのプライドなんて何も無い。
美味しい物を食べて貰いたいとか、沢山食べて欲しいとか、食べたら笑顔になるといいな。とか、俺の料理は美味いんだとかそういうこだわりも何もかもがない。
いかに引き抜いて貰おうかって考えている。
周りを出し抜いてでもという感情が気持ち悪い。料理を不味く感じさせる。
「……娘達の所に行ってくる。初等部ももしこんな感じだったらあの子達はご飯食べられない」
「ああ。分かった。君たちも大変だな」
少しだけねぎらうような言葉に俺は苦笑し、立ち上がりテーブルを後にする。
背後で『娘!?』と驚くような声が聞こえて、また叱られたようで、俺はちょっぴり口元に笑みを浮かべた。
昨日更新できなかった。ごめんなさい。
あと来週は間違いなく予定が立て込んでて更新がさらに不定期になりそうです……。