加護
き、金曜日分。
「そういえばエド、君、ご両親にはいつ顔出しをするんだ?」
シエノラが思い出したように聞いてくる。母さんが、子供が生まれたら遊びに来なさいと言っていた事に対してのものだろう。
「うーん、実はそれもちょっと困ってるんだよね。普通に考えて、三ヶ月で子供って生まれないよな?」
「「無理だな」」
ルベルトとシエノラが同時に頷いてくれる。
「成長に関して言えば、短命種という事でごり押し……出来ない事もないかもしれないが、子供は短命種だろうと何だろうとお腹にいる期間はほぼ一緒だ」
だよねぇ。って、なるとだ。
悩んでいる俺にシエノラが提案してくる。
「なら、数年後にいくか?」
「うー……親父と兄貴達だけならそうしてた」
そう、親父と兄貴達だけなら俺は悩まなかった。
「でも……母さんはずっと俺の……、エドの味方だったから……。出来れば本当の事を伝えたいなって思ってる。だってさ……誰も知らないのならともかく、ここにいるメンバーの半分くらいは知ってるのにって思うとさ。もやもやっとするんだよな」
「なら会いに行こうか」
シエノラはすぐにそう言ってくれて、俺も小さく頷く。
「うん。受け入れられなかったらその時はその時だよな?」
「……そうだな。でも、きっと大丈夫だ」
「……だな」
お互いに頷き会い双子達を見る。双子はニアと一緒にボードゲームをしている。
友達が出来て二人は本当に嬉しそうだ。そんな二人を見ていると俺もシエノラも表情が緩む。
俺もシエノラも友達少ないから、二人にまでそんな思いはさせたくないんだよな。
俺達がこの世界に戻ってきたのは、やり残したことも多いけど、娘達のためってのも大きい。
ぼんやりとそんな事を思っていたら、こちらの話は一段落ついたと思ったのだろう。セリアが話しかけてくる。いや、話を戻したのかもしれない。
「でもさー。根本的に、夏の国が輸出する物がないってのも、問題なんじゃないの?」
一口サイズに切ったスポンジをフォークにさしたままセリアは言う。
「まぁな」
「あんだけ大量に砂があるんだし、砂を輸出すればいいんじゃない?」
「わざわざ輸入しなくても土魔法で出せる」
「あー……そっか。……砂時計とか……」
「それを作るならガラス製品そのまま売った方が良くないか?」
「えー……もー……。そもそも、MPに差を付けすぎなんだと思うんだけど」
「それについては、夏の国のやつらがMPを大事にし過ぎてて退化してるんだと思う」
「退化かぁ……。かといってMP回復を毎回使うのも最大値が少ない分勿体ないよねー」
「その結果が今だからな。勿体ないと言わずに使ってればこんな事にはならなかったんじゃないか? ま、製薬出来そうなアルフ族を輸出品にしてるあたり、遅かれ早かれな気もするけどな」
「そうだねぇ。……そういや、ステータスアップのアイテムとかないの? ゲームなら消費アイテムでよくあるじゃん?」
「あー……」
シム、ある?
『今現在この世界には無いようですね』
「この世界には無いみたいだな」
「お兄は作れないの?」
「んー? 自分の世界なら確実に作れっけど……」
『確認しました。この世界の材料を代替としての作成は可能です。ただ、厳しいですね』
シムが提示してきた材料の多くは、それこそ、フロアボスとかラスボスとか言いたくなるようなものがちらほらとあった。
「この世界の材料を使っての作成は可能みたいだな。ただ材料が厳しい。ドラゴンの血とか普通に必要だな」
「お兄なら楽勝じゃん」
「まぁ、楽勝だけど。俺にさせんのかよ」
「お店もしてないんだからいいじゃん。どっちみち貴族の人達と実戦に行くんでしょ?」
「実戦練習でドラゴンとかありえん。死んでこいと言っているようなものだぞ」
流石に黙ってられてなかったのかルベルトが口を挟む。
「でも外注すると高いよね? お兄が倒せばタダでしょ?」
「タダだけどな?」
「ついでに、夏の国の住人とそっちの新しい友達も連れてレベル上げしてきたらいいじゃん」
「さらっと言うな。俺は学校では普通の一般生徒として過ごすんだから」
「「「え!?」」」
俺の言葉に三人が同時に驚きの声を上げたのはどういう事だろうな。
「お兄、それは無理じゃない?」
「吾もそう思う」
シエノラーは沈黙を貫いたが、さっき思いっきり驚いていて、今何のフォローもしないって事は二人と同意見って事だよな?
と言う視線をシエノラに向けると、彼女は目をさっと泳がす。
「三人とも、ひでぇだろ……」
「そうかなぁ? こんな反応になるのが普通じゃない? お兄非常識だし」
「神にも規格外だと言われているのだろ? 普通というのは無理ではないか?」
「……エド、ありのままの自分と友達になって貰う方がいいと私は思うぞ?」
「…………泣いてもいいっすか?」
なんだよみんなして。
あからさまにいじけてみせるとルベルトは肩を竦めた。
「まあやってみると言うのならやってみるのも一興だろう。まずは明日の実力テストで非常識な行動を見せなければ良いんじゃないか?」
「非常識って、たとえば?」
「無詠唱は止めた方がいいだろうな」
「………………呪文なんて俺の調べるのスキルに載ってなかったんだけど……」
「ただそれらしくぶつぶつと言っていれば勝手にみんなが勘違いしてくれる」
「まあ、……そうだな」
「エドの場合は全然タメがないから、それだけで目立つ」
「あとは使い方が特殊な使い方をするよな。零さないようにとコップの底からわき出すように水が現れた時は少し驚いたな」
「あー、言ってたねぇ」
「セリアも使い方がおかしい時があるから日本人特有なのかも知れんが……。周りの真似をして使った方がいいんじゃないか?」
「ふむ。なるほど」
無理だ無理だっていいながらも真剣に俺の願いを叶えてくれようとするみんなが嬉しいよ。
「じゃあお兄、ドラゴンよろしくね」
「だからお前俺の言葉を聞いてたか!?」
「聞いてたよ! でも、お兄が倒せばタダじゃん!」
「ルベルトが倒してもタダじゃん!」
「ルベ君が死んだらどうするのよ!?」
「俺は!?」
「呪文一つでモンスター殲滅させた元人間が何言ってんの?」
俺は反射的に顔を逸らす。
くそぉ、セリアの勝ち誇ってる顔が、ムカつく……。
「でも、エド、実際の所それを作るのは許可を取ってからの方がいいと思うぞ?」
「流石にそれは取るけど。ぶっちゃけめんどくさいなぁ……」
「私が許可を取りに行ってもいいが」
「ああ、それじゃなくて。レシピ。向こうで作って持ってきた方が楽だなぁって思っただけ」
「流石にそれは不味いだろ」
うん、それは分かってるんだけどね……。
「お兄の世界ならそんな簡単にできるの?」
「え? ご神木をそれ特化にして作り直せばあとば勝手にやってくれるし」
「そうなの?」
「おぉ。ここにいてもちょちょいと作り替えられるぞ?」
「じゃ」
「無理」
セリアの言葉を遮り俺は×印を手で作る。
「神関係の事なんでアウト」
「もぉー! お兄が神になったせいで『アウト』が増えた! こんな事なら人間に戻って!」
「無茶言うな!」
そんな馬鹿みたいなやりとりを繰り広げた後、ドラゴンはとりあえず保留となったが、でもあくまでとりあえず、なんだよなぁ。
あいつ絶対タイミングがあればまた言ってくるよな。
でも、実際……スキルでステータスを育てるわけにいかないってなると、レベル上げじゃ無理だし、特定のステータスを上げられる消費アイテムが有った方が楽なのは楽だよなぁ……。
四各国で同時に発売とかだったら、問題ないかなぁ……。
ぼんやりと考えてたがふいにため息が零れた。
「確かに神になってやれること増えたけど、枷が増えたな……。双子達の事がなけりゃ、それこそ、夏の国と冬の国をそれぞれ勝手に作り替えてとんずら出来たのに」
「待てエド。それは危険な考え方だ」
俺の呟きがしっかりと聞こえたらしいシエノラが慌てて俺の肩を掴んで頭を振る。
「大丈夫だよぉー。娘の笑顔のためなら、俺、面倒な仕事も頑張るよぉー?」
「エド、目が笑ってない」
シエノラの言葉に俺は肩を竦めた。
「や、なんかだんだん馬鹿らしくなってきてさ。なんで俺、他人の世界のあんまり縁もゆかりもない国のために頑張ってんだろうって」
「そんな愚痴を言ったら余計セリアが可哀想だろ」
「まあね。間違いなく割り食ってんのはあいつだしね」
肩に置かれた手を取り、握りしめる。
「ま、頑張りますよ。そのために戻ってきたわけだし」
「私も出来る事は手伝うよ」
「ん。サンキュ」
へらりとシエノラに笑顔を向ける。シエノラも微笑みを返してくれた。
「あー、お兄達がまたいちゃついてる。飽きないねぇ」
「ちっとも飽きないな」
「もげればいいのに」
「ちょ!? お前そこはせめてリア充爆発しろで抑えろよ。何恐ろしいこといってんの!?」
抗議の声を上げるがセリアは無視し、シフォンケーキをさらに切り分けて皿に乗せるとぱくぱくっと食べていった。
冗談だっていう態度で食べてるけど、お前、わりとマジで言っただろ、その呪詛のような言葉…………。
ため息を一つついて、俺はセリアに告げる。
「あのなぁ。俺とシエノラは夫婦神だから、下手に妬むと余計ご縁が遠のくぞ?」
「え!?」
「ああ……それは言えてるかも……。結婚出来ても冷え切るとか」
「えぇ!? だって、さっき、お兄、創世と殲滅と再生だって!?」
「俺一人ならな?」
「…………ふ、二人を拝めば素敵な結婚できますか?」
躊躇いがちにそんな事を聞いてきた。
あー、これ、マジな願いだ。神だとそういうの分かるんだよなぁ。
シエノラも苦笑を返して答える。
「確実な事は言えないけど、でも、セリアに良い出会いがあるように、力は少し与えておくよ」
セリアの周りに薄い白と桃色の光が現れてセリアに降り注ぐ。
「うわぁ! ありがとう!!」
セリアは破顔しシエノラに抱きついてお礼を言ってはしゃいでいる。
抱きつかれたままのシエノラと目が合って、シエノラは一瞬だけ唇に人差し指をたてて、「内緒」というポーズを見せた。
俺も小さく頷いた。
シエノラが今与えた力はどちらかというと、慈愛だ。まぁ、シエノラは生命と慈愛の神だから仕方がないかもしれないけど。
……でもまぁ、間違っちゃいないか。
俺だってヒステリックな女より、皆に分け隔て無く優しい女がいいし。
慈愛の加護を上手く使えるか駄目にするかは、セリア自身にかかってるってわけだ。
ま、頑張れ。妹よ。お兄ちゃんは、あんまり役に立たんし、一応、心の中だけでは応援しておくよ。
最近更新が減ってごめんなさい!