復活させました。
貴族の令嬢やら子息やらが三人の周りに集まってケンカをしている。
「三人とも人気者だなぁ」
「見目が美しいからな。同性であれ、異性であれ、恋愛対象だ」
「…………さっきまで、なんか微笑ましい気分で見てたのに、一気にそんな気分じゃなくなったよ」
ため息を零す。
まぁ、 男 を嫁にした俺が言うなっていう感じだけど。
「ねぇニアさん、サクラさん、ローズさん。あの人達よりも、私たちと遊びますよね?」
女の子が頬を染めて確認を取るが三人は首を横に振った。
「えぇ!? そんな!?」
「それじゃあボク達と遊ぶんだな!?」
それもまた三人は首を横に振る。
「お迎えが来てるんだよ!」
「帰るのよ」
「また明日ね」
俺達に気づいていた三人はそう言って人垣から抜け出て俺達の元に駆けてくると、双子は俺の手をそれぞれ取る。
俺が双子の父親と知らないからか、男子の睨みがスゲェ。
ニアがほんの少し寂しそうな顔を見せたのに気づいて、俺はルベルトを見る。ルベルトも気づいたのだろう、小さく頷いてニアの手を取る。
その瞬間、妬みが殺気になった気がする。
「やれやれ……まさか、こんな視線を向けられる事になるとはなぁ……」
ルベルトはほんのちょっぴり……いや、相手は有る意味第一欲求の未来有る子供達……。もしかしたら俺が思ってる以上にショックを受けているのかもしれないが、それでもニアの手を離す事無く五人で纏まって歩く。
お友達が出来たとか担任の先生達が面白かったとか、そんな話をしながら馬車通りにやってくる。
貴族の学校って事で送り向かいは基本馬車なんだよね。
俺達は別に徒歩でも構わないって思ってはいるんだけど、アロンはそういうわけにはいかないから、どの道馬車を出すっていう事で「じゃあみんなで乗っていくか」っとなって、結局馬車での移動だ。
黒天馬のくーとろーはやはり目立つのか、通りながらみんなが見ていく。
御者には夏の国の騎士が二人座っているので、誰が利用している馬車かすぐに分かる。
良い宣伝じゃね?
って思ったけど、むしろ、ちょっぴり宣伝料を貰った方がいいんじゃないかってくらい、夏の国の株が上がってる気がする。
俺達が中に入るとすでにアロンは居た。
「……子供達を迎えに行ってたのか」
ぽつりと彼は呟いた。
どうやら俺達が先に出てたのを知ってたらしい。
遅い! と言わない辺りが出来た貴族だと思えばいいのだろうか。
全員が乗り込むと馬車はゆっくりと動きだした。
双子は楽しそうに窓の外を眺めている。
そんな姿を見ているとアロンに声をかけられた。
「二人とも、チームメートはどうするんだ?」
「チームメイト?」
「実戦はだいたい五人か六人のチームだと聞いた。残り三名はどうするのだ?」
「残り三名?」
「私に、ルベ、そしてエド。これは決定だろ?」
「……あれ? 俺と同じチームでいいの?」
「当然だ。私はお前を見極める義務がある」
「てっきり別チームにすると思ってたよ」
「お前と敵対していてはお前の良さも駄目な所も分からない。バロンがお前を主とした所も、だ」
不機嫌そうにしながらでも、それでも安易に敵対するというわけじゃないのが、こいつの良いところなのかね。
「仲良くやってけるのなら俺は誰でも良いけど?」
「……お前、スキル構成は魔術系か? それとも武術系か? 私は武術系メインのサブで魔術だ」
しばし考えてアロンはそう言ってきた。
「俺もまぁ似たようなものだなぁ」
その気になったら全てのスキルが使えるけど、実戦があると聞いて「折角なので縛りプレイをしよう!」と思い至ったので、一応スキルを再現して、双子に重複無しで神殿で売っているスキルをくじ引きにして、十個ずつ選んで貰った。
で、内容はこうなった。
初級生活魔法(熱)
初級言語
初級魔法操作補助
初級初級鞭術
初級耐性(弱)
初級健脚
下級循環
下級針子
下級咆哮
下級結界
下級下級投術
中級浄化
中級中級魔法(水)
中級中級魔法(治癒)
中級複写
中級中級剣術
中級中級弓術
上級片付け
上級遠視
上級上級斧術
と、プラス『調べる』の計21個。
耐性もあるし、攻撃も結界も回復もあるからけして悪くはない。ただ、書く系のスキルがないから複写は死倉入りしそうな気もするけど。
で、内容的にはアロンに言ったように武術系がメインだろう。
短命種だと思われてるし、MPが少ないから武術系になるのは当然って周りは思うだろうし、それでいいかなって思ってる。
あと、奥様にはレベルを決めてもらうために、1~30のくじ引きをして貰いました。
で、彼女が引いたのはレベル29で、それに合わせて俺のステータスの偽情報を書き換えたんだけど。
レベル29になっても、ステータスの伸び幅って小さいなぁって思っちゃったよ。
ステータスの数値的には合計で172ポイントしか増えなかった。
HPなんてレベル1の時、740だったけどレベル29になっても870にしかならなかった。
MPなんて400しか増えなかった。
なるほど、短命種が救えないってなるわけだよ。
レベル上げでMP10000目指せってのはちょっとむずい。いやちょっとどころかかなり難しい。
俺と出会えたニアはかなり運が良いと思う。
あっ、あと、シムもこのタイミングで復活させた。
させたんだけどね……。
あいつ、俺をほっぽって、奥様の手伝いばっかりしてるんだよね。
いや、いいけどね。どうせ俺はおしゃべりくらいしかしないし。
奥様は、太陽神と月神の手伝いしてるから、シムの手伝いが有った方が良いって事は分かるし。
ルベルトと俺だと風魔法を使って周りに音を漏らさない形でおしゃべりできるから、確かにおしゃべり相手としてシムは必要ないけど……。ないけど、ちょっと寂しいなっていう気はする。
まぁ、気持ちは分かるけど。俺だってどうせならシエノラとおしゃべりしたい。
本当は、学校にも誘いたかったんだけど、男の時ならともかく……。女の時のシエノラ・ノ・ゴドーを学校に誘うなんて肉食獣の前に餌をちらつかせるような気がして、結局誘ってない。
シエノラがもうちょっとゴドーの事、好きになれたらいいんだけど……。
あー……。そうだ。シムが復活したのなら、俺の世界のコントロールもシムにしてもらうか。
権限の一部をシムにもいじれるようにして~。
本人の意志を確認する事無く、俺は気軽に膨大な仕事を割り振る。
途端にシムの猛抗議が来たが俺は無視。
こちらの会話を進める。
「ルベっちは?」
「……どちらかと言えば魔術か? 接近戦が出来ないわけではない」
俺達が一応武術よりという事で魔術寄りで戦う事にしたようだ。
もちろん俺と同様、どうとでもなる人だけど。
「ではもう二人くらいは魔術型が居た方がいいか?」
「そこまで考える必要はないと思うぞ。ヒューモ族の多くは攻撃、回復は両方持つだろうし。学校側も実力のバランスを取るという事をするのではなく、本人達の相性を重視するだろう」
経験者のルベルトはそうアドバイスをする。
「……MPが豊富なお前達が羨ましい事だ……」
ため息交じりに呟く彼に俺は苦笑した。
「MPが少ないからっていって使ってないから余計MPが減るんだよ」
「……そんな話は今まで聞いた事ないな。それは本当なのか?」
「たぶん。使わなくなると世代へと受け継いでいくのが減ってくもんじゃね? 不要なんだって体が勝手に勘違いしちゃって」
「確かに夏の国の住人は昔の方がMPは豊富だな」
俺とルベルトの言葉にアロンは腕を組んだ。
「……バロンを鍛えたのはエド、お前と聞く。それを私に施す事は可能か?」
「無理だね。出来るか出来ないかで言えば出来る。でも俺はそれをする気が無い」
「何故だ?」
「バロンは力を手に入れるために、残りの人生を俺に捧げる覚悟をした。もちろん俺は本当の意味で捧げて欲しいなんて思ってないけど、それでも、バロンには権力から離れて、夏の国の住人のためにその力を自由に振るって欲しいと思っている」
「……それがバロンが王にはならないと言っている理由か」
「さて? どうだろうね。ただバロンはあんたを王にしたいみたいだけど?」
「……私ががバースト族である限り無理だろ」
アロンはため息交じりにそう言い、窓に視線を向けた。
「バロンが王になるというのなら支えた。バロンが妹なら、それこそ結婚して共に政治を行った」
はは、と俺は乾いた笑みを浮かべる。
それが出来るって知ってる分、どうしてもそんな笑みになってしまう。
バロンが望んでるのならともかく、そうじゃないからなぁ……。知らないふりをするしかないよなぁ……。