再会
本日二つ目。ブクマで飛んで来た方は気をつけてください。
「あぁ……やっと着いた……」
俺はそこに立つとまずそんな言葉を口にした。
いやぁ……長かった、ここまで……。
「ここ?」
「ここなの?」
娘達が俺と門とを交互に見ている。
「そうだよ」
言いつつ門に手を当て、ロック機能のデータを書き換える。
「これでよし」
そう言って門を開ける。
二人は「わーい」と言いながら駆け出す。
シエノラも通して俺は門を閉めると、カチっとまるでオートロックのような音がした。
シエノラと手を繋いで歩く。双子も手を繋いで走っている。
ある程度行ったら戻ってきて、俺達の周りを「凄い凄い」と言いながらまた城に向かって走って行った。
「楽しそうだなぁ……」
「はしゃぎすぎてそのうち熱を出さないか心配だな……」
「あー……ありえそう」
シエノラの心配ももっともだ、と二度目にこちらに戻ってきた双子を捕獲し、一人ずつ抱き上げて歩く。
二人は初めはばたばたしてたが、諦めたらしく大人しく俺達に抱かれて、城へと入る。
この時間帯は朝飯かな?
そう思って、ダイニングに行く。ノックをして扉を開けると見知った顔と見知らぬ顔があった。
ああ……バロン達の元部下か、ルベルトは無事に連れてきてくれたようだ。
見知った顔の一部は足りない。バロンとタンガとネーアだ。それ以外(ルベルトを含む)は全員が居て、こちらを見てポカンとしてた。
っていうかルベルトはあれからずっとここにいるのか?
「お兄!?」
「「「エド!?」」」
「おにーちゃん!?」
みんなの驚く声に俺は嬉しくなる。
顔は魔法でエドに戻しているとはいえ、今、俺の髪や瞳の色は昔と違っている。それなのに、すぐにそうやって分かってくれるのが嬉しい。
空いている方の手を振る。
「遅くなってわりぃなぁ」
そう謝ったのに。
駆け寄ってきたセリアは遅い! と怒鳴って俺の肩をポコポコと叩きだした。
ガチで泣きながら。
「お兄! 遅いよ! 一ヶ月過ぎたよ!! 捨てられたかと思ったじゃん!!」
「捨てられたって……」
俺はお前の彼氏じゃねぇーぞ、おい。
「だって……だって……、アタシにとって、家族ってお兄だけだし……」
「え? お前、こっちの家族は」
「……あんまり、上手くいかなくて、よそよそしいの」
「あー……転生の弊害か」
とりあえず袖でセリアの目を拭いてやる。
セリアも落ち着いたようで、ごめんと謝って一歩下がり、視線を娘達に向けた。
「電撃結婚の時もそうだったけど、時間軸おかしいよね?」
「仕方ねぇだろ? このぐらいの大きさになってからじゃないと、転移するのも危険かなって思ったんだし」
サクラを降ろす。シエノラもローズを降ろす。二人は緊張した面持ちで手を繋ぎ、一度大きく息を吸った。
「サクラだよ! おとーさんとおかーさんの娘なんだよ! よろしくね!」
元気よくハキハキとそう挨拶したサクラ。
「ローズなの。サクラとは双子なの。えっと…………よろしくなの」
ローズはちょっと照れたように言って、もじもじとサクラに体を寄せている。
うん。俺の娘達は嫁に似て超可愛い。
「サクラちゃんにローズちゃんか。アタシはセリアだよ~。セリアお姉ちゃんって呼んでね」
「「セリアお姉ちゃん!」」
よし! セリアおばちゃんと呼ばなかった偉いぞ娘達!
「ニアおいで」
セリアはニアを呼んで二人の前に立たせる。
「この子はニアよ。同じ年頃だし仲良くしてあげてね」
「「よろしくね! ニアちゃん」」
「よろしくね、サクラちゃん、ローズちゃん」
三人は実年齢は近いし、仲良くなれるといいんだけど。
「ニア、二人はニアと同じ学校に通うから」
「そうなの?」
「「お友達。ニアちゃんお友達」」
二人は空いた手でニアの手をそれぞれ捕まえて輪の形になる。そしてくるくる回り出した。
……うちの子達テンションがおかしいな。よっぽど楽しみだったんだな。
戸惑いながらも付き合ってくれるニア、ありがとう。
「じゃあ、こっちのフード被ってるのが」
「そ、シエノラ」
セリアの視線を受けて同意する。
シエノラは深く被っていたフードを外す。
桃色の髪の毛が露わになった。
本当はもっと綺麗な髪の色をしているのだが、人に化けるためにこんな感じで落ち着いている。
瞳の色もオレンジと、結構派手な配色だ。
俺は黒髪と茶眼かな。
ちなみに娘達は茶髪で赤と青のオッドアイである。
親の遺伝子どこにあるって気分になるが、茶髪はエドの影響だろうし、赤と青はゴドーの影響だろう。太陽と月だ。お人形さんみたい。と女子が褒める容姿である。
さて、そんな双子達はともかくとして、だ。シエノラの場合、人に化けるっていっても神の気配を抑えたのと、瞳と髪を一色にしただけで、顔の形は俺とは違い変えてないんだよ。だからシエノラの顔を見た全員が息を呑んだ。
シエノラを一言で喩えるのなら『花』だ。
可憐な花。可愛らしく、愛らしく、見惚れてしまう花。
太陽と月が創世の力で強化されてしまった結果なのか、『美の女神』って付けてもおかしくない程美人になりました! でもこれで司るものに『美』は入ってないんだぜ!?
ヒノワとツキヨが呆れてた! 気持ちは分かる!
「これは……また……」
セリアは無遠慮にシエノラの顔を覗き込む。
そんなセリアに苦笑するシエノラ。
セリアの視線がふいに下に行き、硬直したように何かを見ている。そして俺を見た。
「F?」
「や、たぶんG」
何がとは聞くな。ちなみに俺とセリアにだけに通じる会話なので他の男共に聞かれても問題は無い。
育ったなぁ……。なんてセリアが呟いている。俺もそう思う。
まぁ、こちらが育ったのは、さっきとは逆で母神だからだろう。母乳とか授乳とかね。あるじゃん。その系統の影響だと思う。
「まあそんなわけで、無事こっちで過ごして良いって許可貰ったから」
見知った一同にそう伝える。
「よく、許可が下りましたね」
「…………ミカ、前と同じ扱いで良い。なんかキモイ」
「……失礼な。まぁ、本神がそういうのならそうさせてもらうけど……」
「許可については、エドにしろ私にしろ、この世界に縁のある神だからな。神になる前からそれなりに親しかったから、割とすんなりだったよ」
シエノラの言葉がちょっと納得いかなくて口を挟む。
「……わりと? すんなり? 一ヶ月ほど、歓迎の宴とか言って拘束されましたが?」
「それですんだんだから、わりとすんなりだろ?」
「…………」
奥さんの言葉に、俺はたぶん、酸っぱい顔になってると思う。
だってさ。神様って、睡眠やらトイレやらとかもないから……。それこそ朝から晩までどころか、朝から翌朝まで宴会出来ちゃんだよね…………。つまり、一ヶ月、ぶっ通し。
あれはもうほぼ軟禁状態だよね!!
子供達は一応眠る時間にはシエノラが外に連れ出してくれたんだけど……。俺も一緒に抜け出したかったよ。抜け出せなかったけど……。
……お兄ちゃんはもうちょっと早く帰ってくるつもりでしたよ……。
「じゃあ、お兄はこれからお店の経営頑張る感じ?」
「いや、学校に行くぞ」
「え!? 結局行くの!?」
「行くぞ~。折角だし。っていうか、店の名義、お前になってるだろ?」
「あ! そうだよ! 酷いよ勝手に!」
「俺、帰ってこられるか怪しかったからなぁ」
ルベルトにその辺はセリアに変更してもらったんだよな。
「で、なんの店にしたんだ」
「まだ何するって決まってないよ」
「決まってないの!?」
一月経ったのに!?
「ネーア達戻ってこないし」
「戻ってこない?」
詳しく聞いてみると、紫霧の浄化にと夏の国に戻ったのはバロンとタンガだけではなく、ネーアもだったようだ。ネーアも普通のアルフ族に比べたら所有MP多いからな。
で、俺が倒したモンスター達が復活するまでの一週間。国を挙げて浄化したらしい。
ただ、俺はバロンにもネーアにも『浄化』の魔法を持たせてなかったから、神殿でレベル5を買ったとしても、環境魔法の様に広範囲で一気にというわけにはいかない。だから一週間丸々使って、出来る範囲を浄化したらしい。
それでもある程度の紫霧は残っているはずだ。むしろ紫霧は全て浄化すると今度はレベル上げをしにくくなるからある程度は残すのがコツだとルベルトはアドバイスしたそうだ。
で、今は、バロンに王位を継げという話と第一王子かバロンがネーアを側室にしろという話が盛り上がっているようで、帰るに帰れないらしい。
一応ルベルトも週一で様子を見に行ってるらしいが、立場上下手に連れて帰ると国際問題になりかねないと、今は二人の愚痴を聞いているだけらしい。
俺がみんなの相談役になってくれって言ったからだろうか、ルベルトはヒューモ族ではない他のメンバーの面倒もきちんと見てくれているようだ。
で、本気で帰りたいというのなら、連れて帰るが、今の二人はどっかの誰かさんのせいで、傷心だから、がむしゃらに働きたいようだし、とチクりと言われた。
この辺もルベルトは流石だと思う……。俺が前に口にした相談役っていう約束を果たしてくれているのだろう。
きちんと責任を果たせと言いたいのだろう。二人の思いを受け取った上で、きちんと振るとでもいうか。前回、俺は逃げるように去ったから、二人はきっと消化しきれていないのだろう。
「迎えに行ってやったらどうだ?」
「そうだねぇ……」
ルベルトに言われて俺は思わずシエノラを見る。
彼女は頷いて、行っておいでという顔をしている。
「じゃあ、ちょっと迎えに行ってくるよ」
俺は夏の国に転移する。
夏の王宮の上空に出て、眼下を見下ろす。
「お、タンガ発見」
周りには丁度誰も居ないな。どこかに移動中らしいその進路に再度転移する。
現れた俺にタンガは反射的に身構えて、険しい顔で俺を睨み付けるが、「俺」を認識して、ぽかんとした間抜け面に変わる。
「よ。お久しぶり」
「……本物……?」
「本物だよ。今帰ってきた」
「…………」
タンガは俺を見たまま無言で立ち尽くしている。
俺は思わず「おーい」と声をかけつつ手を目の前で振った。
「あ、っと、すみません……。えっと、……神になった……んですよね?」
「うん。神になった。ゴドーと一緒に。子供も無事生まれたよ。なんと奥さんに似た可愛い双子の女の子だ」
「それはおめでとうございます。でも、将来の事を考えると大変ですね」
「まあねぇ。でもって、話し方普通でいいよ? 神だけど、神として活動する気は今の所特にないし」
「はぁ……。性格が変わる可能性があると言っていた気がするんですけど」
「性格が変わらないようにそれなりに頑張った!!」
「なるほど」
頷いて、タンガは弱々しく笑った。
「もう……戻ってこないと思ってました」
「流石に、中途半端すぎて、あのまま放り出すにしてはなぁ……」
ある程度目処が立ってるっていうのなら、そのまま消えても良かったのかも知れないが、なんせまだスタートラインにも立ってなかったし。
「……バロン様に会ってくださいますよね?」
「一応、三人を迎えに来た感じだよ?」
「そうですか。きっと二人はとても喜びます。どうぞこちらです」
タンガの案内で俺は城を歩く。
春の国の王城と違い、夏の国の城はどこか……質素というか、簡素というか。
金が無いのかなって思わせるなぁ……。無いんだろうけど。
タンガは一つの扉の前に立つ。
扉の前には二人の兵士が立っていて、俺を見た。
「バロン様の客だ」
タンガは一言そう告げて扉をノックする。
「バロン様、タンガです。エド様がご帰還との事で今こちらにいらっしゃってます。入室してもよろしいでしょうか?」
返事はなかった。代わりに勢いよく扉が開いた。あまりの勢いに周りびっくりしてるくらいだ。
バロンは元々大きな目をさらに大きく開けて俺を凝視していた。
「よ。ただいま。元気?」
なんと声をかけようかと思ったが、気の利いたことは言えそうにないのでそうとだけ尋ねた。
「う、エドさま~~~~!!」
そう叫びながらバロンは大粒の涙を零しながら抱きついてきた。がっしりホールドしている。
「エドさま~。エドさま~!!」
「悪かった! 俺が悪かったから! だーもー! 泣くな!!」
「むりでふー!!」
離してたまるかとバロンのやつ、さらに強くしがみついてくる。
ステータス的に痛くはねぇけど、お前、これ俺以外にやったら絶対骨折るぞ!?
「ネーアを連れてきます」
タンガはそう俺に声をかけて俺とバロンを置いて行ってしまった。
俺は力を抜いてバロンの好きにさせて落ち着くのを待つ事にした。
俺が悪いってのは分かってるからな。
「……すみません、取り乱しました」
「いや、いいよ。それだけ俺が酷かったってことだし」
この件に関しては俺が全部悪いし。
でも、バロンが落ち着いた所で、ネーアがやってきて……。
「エド様~!!」
と、また泣きながら抱きつかれてしまいました。
こちらも落ち着くまで数分必要としました。
いや、ほんと、ゴメンネ。
一応、反省はしてます。もうちょっと上手いことやればな。って。
後悔はこれっぽっちもしてないけど。
「それでは、エド様も帰ってきた事ですし。私達も春の国に帰りましょう!」
「「え!?」」
バロンの言葉に驚いたのは始終空気として徹してくれた兵士二人。もしかしたら騎士なのかもしれないが、もの凄く慌てたようだった。
そりゃそうだよね。ルベルト曰く、今一番王様に近いのバロンだし。
「いいのか?」
「いいんです。ここに居たら王様になれって煩くって」
「まぁ、今王位継承権があるのって、お前の上とお前だもんな」
「でも、私は王には向いてません」
「……そうだな」
皆に好かれる国王にはなるかもしれないが、政治ってなると……王妃の力が必要な気がする……。
「どうにかなりませんかね……」
「法律変えるしかないんじゃないか?」
「そうですよねぇ……」
「……とりあえず、バロン。待っててやるから、家族の誰かに春の国に行くって事言ってきな」
じゃないとなんか俺が誘拐犯っぽくていやだ。
「はい! 分かりました!!」
バロンは良い笑顔で頷くと走り出した。超特急でどこかに向かってった。
「ネーアはいいのか?」
「あ、はい。私はここで働いているわけではないので」
「あれ? そうなの?」
「くっくっく。ネーアはここに憂さ晴らしに来てるんですよ」
「タンガ様!?」
「憂さ晴らし?」
「家族の説得が上手くいってないようで、溜まった鬱憤を水を補充するという形でぶっ放してるのですよ」
「あ~。なるほど」
「ひ、ひどいです。ばらさないでください」
恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にしながらネーアはタンガに詰め寄る。
タンガはそんなネーアに笑って、俺も笑う。
「説得ってのは、ニアの事か?」
「…………はい。みんなにとってヒューモ族はやはり悪の象徴らしくて……」
「まぁ、アルフ族からしたらそうじゃないかなぁ。でもたぶん、それもなくなるかもよ?」
「え?」
「バロンとタンガが俺の所にいた理由、きちんとした正確なやつ、ルベルトにこっちから去る前に教えたからね」
流石に、イクサとの戦闘のことは言えなかったが。
「彼は、今後こんな事になっては困ると、動いていると思うよ」
「……そうなのですね」
「うん。そもそもヒューモ族の性格から考えて、売り手側からも客が選べれば喜んで働くと思うんだよね……」
「……なんとなく分かる気がします」
と、言ったのはネーアではなく、タンガの方だ。
うん、ごめん、もしかしてお前の心の傷えぐった?
一瞬いたたまれなくなったとこにバロンの明るい声が聞こえてきた。
「エド様~。言ってきました~」
廊下の先から凄い勢いで走ってくるバロン。
おお、早いねぇ。流石カンスト。
「じゃあ帰るか」
二人に声をかけて、バロンが急ブレーキをかけて止まったタイミングで俺は転移をする。
きっとこの後夏の国の王宮は凄い大騒ぎなんだろうなってのは、バロンの後ろを必死に追いかけてくる一団を見て思ったけど、そこら辺は今は無視である。
バロンは実際に王様に向いてないし、こういう所を見て、任せられないってなったらいいなぁ~と。
夏の国の環境を整えたら、水の魔道具のために王がアルフ族である必要はないしなぁ。
かといって二番目はたぶん、弟の暗殺に関わってそうだし。一番上がどんなやつかは知らんが、そいつが一番まともそうな気がするんだよなぁ。
そんな事を思いながら転移した俺は、城に戻ると何故か。
「ねぇねぇ、奥さん、ヒューモ族なんだよね。だったら、俺とも遊んでくれるのかな?」
「そうそう。旦那と飽きた時にさ、ちょっと俺達と遊んでよ。ね、いいでしょ?」
最愛の妻が、ナンパされている所に出くわした。
殺してやろうか、こいつら。