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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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神へと至る





「え? ……お兄、何言ってんの? 神様なんて、なれるわけないじゃん」


 セリアの当然と言えば当然の言葉が、俺には新鮮なツッコミに感じてしまった。

 そうだよなぁ。普通はそうなるよなぁ。


「残念ながら、って言っていいのか分からないけど、俺は神になる事が出来る。その条件を全てクリアーしてるんだ。いや、違うか、一つだけ、残ってて、それをクリアーすれば、今すぐに神に成れる」

「…………え? っと、……本当なの?」

「本当だよ」


 セリアの表情がなんと表現すればいいのか分からないぐらい戸惑っていた。

 笑いたいのか、泣きたいのか、驚きたいのか、喜べば良いのか、彼女自身、その事が良いことなのか、悪いことなのか分からないから決めかねているのだろう。


「色々半端過ぎて、躊躇ったけど、でも、決めた。出来れば、せめてもうちょっと色々終わらせてからが良かったけど、明日には繁殖期が来ちゃうみたいでさ……。だから今日、今から神になる事にしたんだ。神になったら俺は、……この世界から一度出ないと行けない。もう一度戻ってこられるかは分からない。それに神になったら性格が変わる可能性があるんだってさ。だから……、もしかしたらもう、戻ってくる気すら無くなってるかもしれない。俺の引き継ぎはルベさんにお願いした。店の事や奴隷の事、相談にのってくれると思う」

「砂漠の環境を整える事には手を出せんが、それ以外なら、問題ない」

「報酬は、あれでいい?」

「……十分過ぎる程だ。本当に貰ってもいいのか?」

「うん、貰って。で、みんなの相談役になってよ」

「分かった」


 じゃあ、と俺は用意していた報酬をルベルトの前に転移させる。

 小袋の中身は『情報操作』・『真実の瞳』・『スキル図鑑』がそれぞれ百個ずつに、きっと作れなかったであろう『蘇生薬』が百個ほど入っている。

 

 ルベルトならきっと上手く使ってくれるだろう。


「本当に、中途半端なところで、何もかも押しつける形で消える事を許して欲しい」

「エド様!」


 ネーアが俺の言葉を遮る形で、俺を呼んだ。彼女は立ち上がり、泣きそうな顔でこちらを見ている。


「私、エド様の子供産みます! 喜んで生みます! だから、居なくならないでください! 私、ずっとエド様の事をお慕いしてて、エド様の妻の一人になりたいと思ってました。ゴドー様の許可も取りました」


 え!? そうなの!?

 驚いてゴドーを見ると彼女は頷く。


「私はエドがハーレムを持ちたいというのなら反対はしないと答えた」

「……ああ、そう……」


 うん。知ってた。君がそう答える事は……。

 っていうか、そんな話になってたのね。聞いてねぇよ。


「私も女になれれば、喜んで生みます」


 バロンもか。っていうか、バロン、お前は不味いだろ。夏の国の第三王子。


「……二人の気持ちは、嬉しい。でも、駄目なんだ。ごめん。恨んでくれていいから。酷いヤツだと罵って良いから。俺は、これ以上……」


 大事な人を傷つけてまで、人でいたくない。


 それは心の中に押し込めて、みんなに見える形で未記入の白板と観察眼と自動索敵を組み合わせて、リアルタイムのモニターとして、出現させた。


 辺り一面に広がる見たことのない映像にみんなは驚いているようだ。


「これは、紫霧の魔物か?」


 ルベルトだけが、映し出しているものが何か分かったようで俺に確認を取ってくる。


「うん。そう」


 頷きながら俺はゴドーの手を取る。


「世界中のあちこちの紫霧の映像だ。ただ夏の国の方が多いけどな」

「まぁ、あそこは、ここと違って、浸食されて紫霧の森が増えてるくらいだからな……」


 ルベルトの言葉に俺は頷く。


「バロン。『浄化』という魔法を使えば、紫霧に汚染された大地も元に戻る。今から一週間。モンスターが復活するまでに、せめて浅い所ぐらいは国を挙げて浄化してみせろ」

「え? エド様?」


 戸惑うバロンを無視し、俺は一言告げる。


「潰せ」


 モニターに映る全てのモンスター達の動きが止まる。そして一斉に灰となって消えた。

 そこには、押しつぶされた形で壊れた魔石だけが残ったが、それも、地面に落ちた衝撃で粉々に壊れて風に飛ばされてしまう。


「……何を、した?」


 ルベルトがモニターから俺に視線を移して尋ねる。

 俺は肩を竦めた。


「流石に言えないよ」


 俺がキーワードにした言葉で頑張って考えてくれ。


 何十万というモンスターを倒した経験値が、俺と、ゴドーに入ってくる。

 俺からすれば、もはや海に水を一滴足したくらいでしかないが、ゴドーからすれば、急激に体が変わっていく感覚がするのだろう。

 脂汗をかき、立っているのも辛そうだ。

 俺は彼女を抱き寄せて、みんなを見た。


「これで、俺は神の条件を達成した。じゃあ、さよなら。ありがとう」


 その言葉と共に俺は世界から弾き飛ばされる。

 ゴドーと共に。


 俺は再度ゴドーをしっかりと抱きしめ、そして、農園へと転移する。


 俺に合わせて農園も偽物の世界から本物の世界へと変わっていくのが分かる。

 脱皮して大きな姿になるかのように。


 そんな中、俺は一つの大陸に降りる。

 肥沃な土でありながら、草木の一つも生えていない場所。


「ゴドー、ここ、使って」


 震えて、苦しそうなゴドーの額にキスをする。


「今まで楽しかったよ。さよなら。生まれ変わってまた逢おう。愛してるよ」


 そう告げて離れようとした。しかしゴドーの手が俺の服を掴む。


「わ……たし……もだ、私も、逢えて良かった。愛してる。また……あお……う」


 途切れ途切れに想いを伝えて、苦しげながらも笑顔を浮かべて、そして彼女は光に包まれた。

 その光は一本の木となる。真っ白な幹に薄桃色の花が咲いている。

 ほー……と、思わず見とれてしまったが、そんな場合じゃないことを木が大きくなるにつれて、やっと気づいて、宙へと後退する。


 その木はどんどん大きくなり、大陸中に根を張り巡らせる。大陸の中央から端まで根を伸ばし、それでも足りないというように、海の中にまで根が伸びる。

 それでも……、別の大陸へと根を伸ばさないからゴドーは優しいと思う。

 幹は山のように太くなり、天を突き抜け、それこそ、宇宙へと伸びる巨木。


 成長が止まり、俺は大地へと降りていく。

 幹を撫で声をかける。


「足りなかったら、他の大陸の養分吸っても良いよ?」


 そう声をかけたが、ゴドーからの答えはNOのようだ。

 その分、時間がかかるだろうに。


「優しいね、ゴドーはホント」


 幹にキスして、もう一度撫でた。

 そうして、ゴドーから少しずつ離れる。

 

 ああ、もう俺も限界か……。


 でも、まぁ、こうやってしっかりと根を張れるところまで見られたから、いいか。


「シム……今までありがとうな」

『こちらこそ、ありがとうございました。マスター。どうぞ、新しい神生をお楽しみください』

「みんなも……ありがとう」


 そうお礼を口にした所で俺の意識は完全に途切れた。


 




 


 新しく生まれた世界に、神の卵が光り輝きながらそこにあった。

 神が生まれるよりも先に世界があるという不可思議な現象ではあったが、その世界はまごうことなく、その神の世界なのであろう。

 神を包み、守り、目覚めを待ち望んでいた。


 そして、神は目覚める。


 神の卵が崩れるように消えていき、一人の男性が立つように宙に浮いていた。

 中性的な顔立ちで、少し顔を俯ければ、女性にも見える。

 漆黒の髪は光を弾き淡く緑に色づいているようにも見える。茶色と金が混じったような不思議な瞳。

 神は息を吐いた。


「またこの顔かよ」


 忌々しそうに呟いた。

 前世……いや、前世の前世の顔寄りな事に神は不満なようで、衣装をカジュアルな服装に変えて、転移する。

 巨木の元に。


 神は天よりも高いその木を見上げて、小さく笑うと幹にもたれるように座り目を閉じた。


 さわさわと遠くで葉擦れの音がする。


「んー? 良いよ、焦んなくて。俺と違って神化の準備みたいなもん全然されてないんだし」


 神はそう口にし、樹木に背中を預けて、顔を上げる。

 太陽の光など見当たらないが樹木自体が仄かに光っているため、薄暗さは一切感じない。


 神は目を閉じた。


「一年……長かったなぁ……」


 ぽつりと呟いた。

 神が神になる直前。

 彼は一人でここに居た。

 最愛の人を守るために一年という年月を、ここで過ごした。







「シエノラ、もう一つ、大事な話があるんだ」

「大事な話?」

「うん。結婚したばっかりでさ、悪いけど……、聞いてくれるか?」

「……分かった、聞く」

「……ヒューモ族には、繁殖期っていうのがあるらしい」

「繁殖期?」

「そう。自分の血を引く子供が欲しくなるらしい。好きとか嫌いとか関係なく、さ」

「そういうのもあるのか」

「これも……ステータスが高いと出る症状らしい」

「……なるほど……」


 苦笑するシエノラにエドもまた苦笑する。


「これも設定で抑えようと思ったら抑えられる。でも、たぶん反動が酷い事になると思う」

「反動……か」

「うん。……だから、もういいかなって思ったんだ」

「もういいというのは?」

「もう、人間で居るのは辞めようかと思ってる」

「……神になるのか?」

「そう。でも、それも今はちょっと問題があって……」


 エドは視線を少し下げる。

 シエノラはエドを見つめて言葉を待った。


「……俺の神の力が思った以上にこの世界では弱くて、ゴドーが神化する時、守り切れなくて、子供を吸収しちゃう可能性の方が高いらしい……」

「!?」

「何がきっかけで俺が神化するか分からないってシムは言ってたけど、神化するきっかけの一番大きな物は、ゴドー……シエノラが赤ん坊を産んだ時らしい。実際、俺は神になるつもりはなかったし、俺がつとめて神になろうって動かなければ、神化する危険性は本当にその時くらいだったみたいなんだ……」


 息を零して、エドはシエノラの指を絡めるように手を握る。

 こんな結果になったのは、間違いなく自分の責任だとエドは思っていた。

 シムはエドの想いを反映して動く。

 敵に対しては徹底的に調べても、エド(自分自身)については調べ方が甘いのは、エドがそれを望んでいるからだ。

 ルベルトに言った『課題』。エドにとって、ヒューモ族の体はまさにそれだった。

 最終的にはスキルでごり押ししたとしても、その都度、「もー、やだぁぁ!」と口にして、よりよい道を探す。それがエドが心の底で望んでいた事だった。

 最終的には自分が幸せになると絶対の自信があると自惚れていた……のではなく、そうでもしないとエドはもはやなんのために人として生きているのか分からなくなっていたからだ。

 やろうと思えばなんでも出来てしまう。

 それこそ、全人類を、一秒もあれば殺し尽くしてしまえる。

 殲滅魔法など使う必要も無い。

 どの魔法であれ、エドの力はこの世界を全て覆い尽くしても余りあった。

 一瞬にして焦土と化すのも、氷付けにするのも、大地で押しつぶすのも、重力でぺしゃんこにするのも簡単だった。

 エドは力を持ったからこそ、力を振るうのを止めた。端から見れば十分に振るっているように見えるが、エドからしたら、それは振るっているに入らなかった。


 システムを止めて、力を限定して生活してみた。

 そうするとスキルを初めて得た頃の感覚を思い出した。

 限定した中で四苦八苦してやるのが楽しかった。

 しかしそれは守る者が居る時には不向きであると旅をしてすぐに思い当たった。

 だからシムを一度起こした後はそのまま起動し続けた。


 セリアとニアに出会い、ネーアの事を知り、夏の国の事情を知った。

 余りある力だ。だから、他人のために使うのも良いだろうと、奴隷を助ける事にした。夏の国の環境を変えることにした。

 全部、自分とはあまり関係の無い事だった。

 だからゴドーとの関係が崩れ、心と体のバランスが大きく崩れた後の方がエドにとっては生きているという間違った充足感があった。


 苦しい思いをした。だからこそ、両想いになった時、とても嬉しかった。


 幸せだと感じた。色々ゴロゴロ出てくるヒューモ族のハーレム作れ。な、体は困った物だったが、それでも、まだ楽しんでられた。


 魅惑の芳香までは。


 奥さんは大変かもしれないが、それだけ、愛情を向けるって事だから許して。と、すら思ってた。


 だが、繁殖期は別だ。

 相手が誰であるかは関係なかった。

 ゴドーであっても、ゴドーでなくても、変わらない。

 最愛の妻に対しても、相手を気持ちよくさせる気すらなく、己の欲望のみを一方的にぶつける。

 そんなの冗談ではない。


 だが、性欲を抑えれば、最愛の人への熱を凍結され、感情そのものを失いかけない。


 だからもう良い。そう思った。


 ゴドーのために命をかけられる。


 その思いに偽りはない。

 だから、人であることを止める事にした。

 神となり、そこで思う存分イチャイチャしよう、と。


 かといって、子供を犠牲にするのもなしだ。

 来るであろう繁殖期までに出来る事をしなくてはならない。

 そのための優先順位を付けるために、繁殖期の正確な、日時が知りたかった。


 これを確実にするためには、神の協力が必要だった。


 シムには、いや、シムとエドには一柱、ほぼ無条件で協力してくれるであろう神に宛があった。しかし、連絡をとる方法がない。


 エドは今後の事をシエノラに説明したあと、神山へと向かった。




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