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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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決めた事



 昼食時になると、有名なレストランに一行は居た。そこに疲労困憊の俺が合流する。

 店員さんにイスを持ってきて貰って、ゴドーの隣に席を作る。


「お兄なんか疲れてない」

「まあちょっとな。ルベさん、これ」


 ゴドーを挟んで反対隣にいるルベルトにとある手紙を渡す。

 彼はそれを受け取り、今読んでも? と確認取ってくるので、俺は頷く。

 とりあえず本日のおすすめを追加で注文し俺はイスに深く座る。


「ねぇ、お兄」


 セリアが裾を引っ張ってくるので顔を向けると言いづらそうに小声で聞いてくる。


「シエノラが飲んでる薬みたいなの、あれってあんなにこまめに飲んで大丈夫なの? 軽く十個以上飲んでる気がするんだけど……」

「薬じゃないから大丈夫だよ」


 俺はそれだけ答えた。

 丁度話をしたタイミングで、ゴドーは錠剤を手に取り、口に含んでいく。

 そしてその奥にいたルベルトの眉間に皺が寄るのが見えた。


「エド、これは」

「お願いだよ、ルベさん。他に頼れる人居ないんだって。もちろんお礼はするから」


 両手を拝むようにこすり合わせる。

 ルベルトはしばし俺を見ていたが、ため息を一つ付いた。


「報酬はいらん。むしろ、二つ目の事に関してはもっと早めに相談してくれ」

「あ、あはは、いやぁ、一応自分でどうにかする予定だったからさぁ」


 ため息交じりに言われて俺は苦笑する。

 いや、だって知られないようにしてたからね、俺。特に貴方には。

 でも、こうなってくると頼れるのはルベルトだけだったりするしなぁ。


「えーちゃん、もう用事終わったの?」

「うん。あとは夜かな」

「大忙しなのね」

「んー……。そんなつもりはなかったんだけど、予定が急遽変更になっちゃったから、前倒しで色々しなくちゃいけなくなって。まぁ、自業自得なんだけど……」

「じゃあ、夕方までは一緒にいられるのかしら?」

「うん。大丈夫だよ」

「ホント? 良かったわ」


 嬉しそうに笑う母さんにつられて俺も笑う。でもそれがすぐにちょっと苦い物になった。


「あと、今日の夕方、夕食が終わったら皆を村に送るから」

「あら、そうなのね、分かったわ」

「みんなもすみませんが」

「いいのよ、そんなに恐縮しなくたって、すでにもう十分楽しんでるから」

「そうそう」


 おばちゃん達はそう言って笑ってくれる。男性陣は……おばちゃん達に逆らう気なしだな。

 なら大丈夫だかな? と思うと同時にこちらの都合で振り回してすまなく思う。

 何かお礼を考えとかなきゃ。


「で、お昼食べた後は、これからどこに行くの?」

「城の見学だ」

「へ?」

「せっかくだから見学できるよう取り付けた」

「すげぇ、流石」

「もちろん、一般公開出来る場所だけだがな」

「それでも十分凄いって」

「え? お城にいけるの?」


 俺達の会話を聞いてみんなが不思議そうに聞き返してくる。


「城の庭園と薬草園くらいなら問題なく見られますよ」

「あらぁぁ、凄いわぁ」


 キャッキャとはしゃぐみんな。


「若い頃は王都にいたけど、流石に城には入った事ないわぁ~」


 ……見た目二十代の人に『若い頃』って言われてもピンとこねぇなぁ……。


「あー、ついでだから言って置こうかな。俺ね、母さん。短命種だって思われてたけど、全然そんな事なかった」

「え!? そうなの!?」

「うん。俺、小さい頃から魔法を使いたがったでしょ? 小さい頃っていっても二年くらい前の話だけど」

「ええ、そうね。スキルが成人するまで買えないって知っててすごくショックを受けてたわ」

「うん。魔法を使いたいっていう思いが強すぎたらしくて、その影響で俺、成長したみたいなんだ。成人した頃、普通にMP10万あったから」

「10万!? 俺より多い!」


 おっちゃん達も驚いてくれる。

 父親も驚いていた。兄達は自分のMPも分からないからよく分からないのかもしれないが、村の大人よりも多いという事に戸惑っているようだった。


「だから、一応、短命種じゃないんだよね」

「そう……そう! 良かったわ!!」

「良かったわねぇ」


 喜ぶ母さんにおばちゃん達も一緒に喜んでくれる。

 俺もへらりと笑う。これで母さんの悩みも無くなるといいなと思った。


 昼食は普通に料理人スキル持ちが作っている料理なので、不味いと言う事も無く、ある種いつも食べている味ではあった。

 でもなぁ。食べた事の無い料理にいって前のプニプニだったら嫌だしなぁ。って思ったら冒険は出来なかったよ。

 




 ご飯を食べた後は城に行って見学をする。

 首に許可証を提げて俺達は城の中を歩く。

 ゴドーは俺に腕を絡めて隣を歩いていて、反対側の肩にはピヨ吉が座っている。


 ところで、名前が、エメルドって、どういう事かな?

 なんか略して、心の中で「エド」って呼んでないか心配になるんですけど?

 そりゃ、確かにひな鳥だし、俺が居ない間の代わりにと渡したけど、渡したけど。実際にエドって呼んでたら複雑なんですけど……。


「ねえねえ、お兄、あのヒヨコ、かわいいよね」

「アレはダメ」

「まだ何も言ってない」

「欲しいって言われても、ダメ」

「どうしても?」


 と言ってきたのはニアだ。セリアと一緒におねだりな顔で見上げてくるが。


「あれは、ダメ」


 もう一度しっかりというと、二人は諦めたようで、ちぇ~。と拗ねながら俺達から離れていく。


 城の中はどこもかしこも豪華絢爛。

 悪趣味になってもおかしくないのに、上品に上手くまとめられていた。

 そこら辺は伝統というなの歴史があってのものなんだろうなぁ。って思う。

 俺がやったら絶対悪趣味になりそうだ。

 

庭園には色とりどりの花が咲いていて、女性陣は夢中で花を見ている。

 男性陣はそんな女性に一歩引いた形で傍に居るといった感じだ。

 外見は女だが中身は男のシエノラさんは、すでにバテて、木陰で休んでいます。

 …………俺のせいで寝不足だからね。

 

「……城の庭園も綺麗だが、私は農園で見た花畑の方がキレイだなと思う」

「まあ、忍達が手入れしてるからね、基本」


 栄養とかなんとかもあの子らは拘ってるだろうし。


「ああ、だからなのか」


 言いながら錠剤を一つ出し、口に入れる。

 もう水も使わず飲んでいるようだ。

 瓶の中身も残り三分の一。


 ゴドーの隣に空気イスをもう一つ作り、俺も座る。


「…………」


 なんと声をかければいいのだろう。と思った。

 しつこく謝るのも駄目な気がする。それは結局、俺が楽になりたいっていう意味だ。きっと。


「ありがとう、エド。私の方は大丈夫だから」

「え?」

「せっかくだから親孝行しておいで。私は大丈夫だから」

「……」

「優先すべき人を間違ってるよ」

「……うん」


 俺は頷いて、ゴドーの頬に、キスを落とし、ピヨ吉によろしくなと、頭を指で撫でてから母さんの所に行った。


「あら、えーちゃん。お嫁さんはもういいの?」

「少し休めば大丈夫だと思う。何かあったら知らせてくれるし」


 本人が何も言わなくても絶対シムが言ってくるから、そこは安心出来る。


「午前中はどんな所回ってたの?」

「洋服屋さんとかかな? えーちゃんが居なくなったから洋服なかなか変えられなくて」

「ああ、そういやそうか」


 今までは布が高いし、と言って同じ洋服を着回してたが、俺が着色でデザインを変えたりしてたから、同じ物より違うのが着たいっていう意識が出来たみたいなんだよね。

 ちょくちょくお色直しの仕事は入ったっけ。


「今度はお母さんがえーちゃんの代わりにお色直し屋さんしようかしら」

「あはは、いいんじゃない?」

 

 そんな話をしながらちらりとお嫁さんの方を見ると、ピヨ吉を膝において撫でていた。


 いいなぁ。超羨ましい。


 とか思ってしまう俺は駄目だろうか……。


「それはそうと、ルス君、マーサ君。えーちゃんに言うべき事あるよね~?」


 母さんはにぃーっこりと笑って、兄二人を呼んだ。


「言うべきことって?」

「な、なに?」


 怒られると内心ビクビクの兄貴ズ。


「えーちゃんのお嫁さんが美人だったら、言うべき事があるんでしょ~? おかーさん、あんな美人さん初めて見たわ~。言うべき事はきちんといいましょうねぇ~」


 うふふふ。ウフフフフ。と笑っている母は、怖い。


「……だって、エドは」

「短命種じゃんか」

「短命種がどうのは関係ないでしょ? 自分たちで言ったんでしょ? お兄ちゃんなのに、弟との約束も守れないの?」

「「……」」


 二人は無言だったが、俺を見上げて、そして、ぽつりと口にした。


「「今までイジメてごめんなさい……」」


 母さんはにっこりと笑って、二人の頭を撫でた、


「たとえ、短命種でも本当はいじめちゃダメなのよ。ねぇ、アナタ?」


 あ、今度は父さんに飛び火した。


「……恥ずかしい存在なのは確かだ」

「あら、お城にまで入れてくれるような人脈があるような子になってるのよ? 誇れるような事はあっても恥ずべきだなんて、酷いじゃない」

「や、母さん、俺はそれであまり誇りたくないな」


 それって虎の威を借る狐だからね?


「あら? そう?」


 首を傾げる母さんに俺は何度も首を縦に振る。

 父さんは未だ憮然とした様子でそっぽを向いている。

 俺と話す気は特に無いらしい。


「アレの制作者だと伝えた方が早いのではないか?」


 ルベルトが横からぽそりと伝えてくるが、アレは、さ。逆に規模がでかいんだよ。世界規模っていうか、歴史に名を残してもおかしくないんだよ……。


「いいよ、母さん。俺が短命種じゃないって言うだけじゃ信用出来ないだろうし、それに俺としては母さんが、心配しなきゃそれでいいから」

「そう。分かったわ」


 母さんは頷いて、それから木陰で休んでいるゴドーの方を見て、俺を見た。


「子供が生まれたら今度はえーちゃん達が家に遊びに来なさい。お母さん、美味しい料理いーっぱい作ってもてなすから!」

「…………うん。ありがとう。その時は、お土産持って遊びに行くよ」


 ありがとう、母さん。

 そして、ごめん。






 布とお酒とみんなが気に入ってた料理の調味料の作り方からのレシピを渡して、母さん達を村に送り、俺はクパン村の家に転移し、大事な物の選別を済ませた後、家に掛かっていた全ての魔法を解く。

 

「いままでありがとうな」


 そう家に声をかけて俺は城へと転移する。

 ダイニングにはみんなが揃っていた。話があるからと集まってて貰っていたのだ。

 ゴドーは最後の一錠を丁度飲みきった所だったようだ。


 お疲れ様。


 そんな気持ちが浮かんでくる。

 大変だっただろうに、ありがとう。


 俺とゴドーは席に座る事なく、みんなが見える位置に立ち、そして一同を見渡した。

 ルベルト以外はみんな戸惑っている。

 ルベルトはたぶん、気づいてる。俺の考えを。きちんと口にはしてないけど、でも、渡した手紙で気づいたんだと思う。


「まずは集まってくれてありがとうな」


 そう声をかけた。

 セリアがなんだか「デジャブルなぁ~」なんてぼやいて、俺を見る。


「電撃結婚以上のネタを振らないでよ?」

「あー……約束できねぇかも」


 そう答えると、セリアがため息をついて肩を竦めた。

 俺はそれに曖昧に笑う。だって仕方ねぇじゃん、約束できねぇんだから。


「……何から話せばいいかな……」


 上手く話せる自信が無くて思わずそんな言葉が口から出た。


「全部話せば? 話せる所は、全部話せばいいよ。多少時間がかかってもいいからさ」


 ミカが食後のお茶を飲みながらそんな事を言う。

 どうでも良さそうに言ってるけど、それがお前なりの気遣いの仕方なんだろうな。

 隣に座っていたシェーンもこくりと頷いている。

 もう一度、全員を見渡す。


「もしかしたら話、長くなるかも知れないけど、いい?」


 一応、念のために尋ねたら、全員頷いてくれた。


「……ありがとう」

「お兄がはしょるとトコトンはしょるって昨日分かったばっかりだしね~」


 セリアの言葉にみんなが笑う。俺も困ったように笑う。

 だって、昨日は色々言えない事も多かったんだ。昨日の段階では。


「ヒューモ族ってさ、月の神が設計した種族なんだ。月の神は夜伽の神でもあるから、そういう設定がてんこ盛りなんだよね」


 うげぇって顔をしたセリアと、うんうんと頷くミカが対照的に見えた。

 どちらも勘弁してっていう思いは一緒なのにな。


「まず一つ。ヒューモ族には隠しアビリティ『魅惑の芳香』というのがある。それはステータスの何かが1000を越えたら発動する。これの効能は魅了や性的興奮など。これの威力はステータスに依存する。子供には影響なし。それを受信する器官が発達してないからだと思われる。今、俺は抑えてるけど、これは抑えれば抑えるほど、次に解放された時の量が凄い事になる。次に二つ目。ヒューモ族はステータスが高くなると、発情とは別の繁殖期と言える時期があるらしい。誰でも良いから俺の子供を産んで欲しいってなる。これはもはや俺の意志とは関係なく、子供を産める女性なら誰でも良いと言った感じだ。これも抑え込むと反動が酷い。それら全てを、ゴドーに受け持って貰うわけにはいかない。だから俺は」


 言葉を切って、一同にはっきりと聞こえるように顔を上げた。


「人間を辞めて、神になる事に決めた」






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