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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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お土産




 ガタゴトと馬車は----揺れなかった。王都の道を静かに走る。

 折角だからどんな所に行きたいかという質問に返ってきたのは「洋服が見たい」であった。

 それならば、と向かった先は最近流行の店だった。


「ここは最近、とても美しい布で作った洋服がウリですよ」


 ルベルトがそう一言告げて、店の中へと女性陣を促す。

 セリア達を含む女性陣は、目をキラキラとさせて店内に入っていった。

 そこに並んでいるのは、色とりどりの布地。

 一色の物もあれば、美しい模様があるものもあった。


「……へー……チリメンもあるんだ」


 そのうちの一つを見てセリアが呟く。


「ここは、エドが商品を納品してる店の一つだ」


 神の貴石以外にも彼は色んなところで色んな「高品質」で「珍しい物」を売っている。

 セルキーでは神の貴石だが、ここ王都では、布だった。

 ルベルトの一言を聞いてセリアは納得した。

 言われて見たら、洋服用の布もあるが、明らかに和風、反物もある。

 確かにエドが関わってそうな雰囲気だ。


「なら、今回の貸しにして直接貰った方がお得だわ」

「それは言えているな」


 セリアの言葉にルベルトも頷く。

 実は昨日、ルベルトは貰ったカタログギフトを自分の魔力を供給源にして使い続けられないだろうかと試したが、そんなに甘くなかった。

 今、彼は高い酒を一本買うべきか安い酒をいっぱい買うべきかと悩んでいる所だったのでセリアの言葉は実に良い提案だと思えた。


「でも、洋服作るとなると、こういう所、数日かかるわよね」

「そうねぇ。でも布は素敵だから、布だけ買って、自分で作る?」


 そんな会話を奥様方がしている。実際彼女達は洋服の一つや二つは作れる。村は自給自足が当たり前だ。

 みんなで布を買って分け合いましょうよ。なんて話しているのをほのぼのと見ていたシエノラだったが、ふいに顔を店の外に向けた。


「……セリア、少し、馬車の方に戻っておく」

「え? どうかした? 気分悪い?」

「いや、そういうワケじゃないから、すまないがよろしく頼む」

「えー……?」


 何か言おうと思ったが、シエノラはすでに扉に手をかけていて、この似たもの夫婦。とこの分も兄に請求しようとだけ心に誓った。


 馬車にはタンガが御者台で座って待っていた。


「一人ですか?」

「中に用事があって」

「中に? ああ、トイレですか。女性用トイレに入るのも勇気必要ですものね」


 そう言われてシエノラは曖昧に笑う。

 言われて初めて、その問題もあるのだな、とシエノラは気づいた。

 ひとまずその事は後で考えることにしようと、馬車の中に入り、座席に腰を下ろす。

一息ついた所でシエノラの前にエドが転移してきた。


「お帰り」


 それが分かっていたシエノラはそうエドに声をかけた。


「……ただいま、ゴドー」


 今にも泣き出してしまいそうな顔で、エドはそう口にしてシエノラに抱きつく。

 ふわりと香る、エドの匂い。

 シエノラは満たされる気持ちを感じながらエドの背中と頭を撫でる。


 大丈夫か? とは聞かなかった。聞けなかった。どう見ても大丈夫じゃないのだから。

 それでもエドは止めないのだろう。

 だから、自分に出来る事は慰めてあげる事だけ、と、シエノラがエドにキスをしようとした時、それをエドの手が阻んだ。


「……ごめん、今すると、何もかも、プツっと切れて反動で抱きかねない」


 ごめん。ともう一度謝り、エドは少し離れる。

 シエノラもそれに合わせるように離れる。


「ごめん」

「そんなに謝らなくても」

「いや、気持ちはすごく嬉しいから」

「そうか? なら少しは良かったと思う事にしよう」

「~~~!! ああ、もう、そんな風に微笑まないで、笑わないで、俺、余裕無いからマジで!」

「そう言われてもな~……」


 自然とそうなるのだから仕方が無いとシエノラは言いたそうだ。


「うー……色々言いたい事はあるけど、先に口開けて」


 口? と開けたら、エドは一つの小さな錠剤と思われる物をシエノラの口に入れて、コップに入れた水も渡す。


「噛まずに飲み込んで」


 言われてシエノラは素直に薬を飲んでいく。

 それを確認した後、エドは瓶に入った錠剤をシエノラに差し出す。


「飲むタイミングと飲む数はシムが教えてくれるから」

「ああ、分かった」

「…………あと、ごめん。時間全然なかった。繁殖期、明日の朝みたい……」

「…………そうか、分かった」


 ごめんな、とエドは謝るのでシエノラは無言で首を横に振る。

 二人の間に沈黙が降りた。

 甘えたくて。甘やかしたくて。お互いに無言になった。


 それに気づいたエドは笑い、シエノラに渡すもう一つを転移させる。


「あと、これ、お土産」


 そう言って彼女の膝に置かれたのは黄色い物体。


「ぴぃ?」


 黄色い物体は黒くてつぶらな瞳でシエノラを見上げて首を傾げた。

 シエノラは自分の膝の上にいるそれを食い入るように見つめる。


 それは昨日、エドがドレスに描いたひな鳥に見えた。

 それは本物のひな鳥というよりもどこかぬいぐるみっぽくて、でもしっかりと動いて踊っている。

 おしりをふりふりしている。


「か、かわいい」


 ついにはシエノラの口からそんな言葉が出てきた。指で恐る恐る触れようとすると、そのひな鳥自らシエノラの指にすり寄ってくる。

 もはやシエノラの興奮は止まらないといった様子でエドは苦笑した。


「そいつの名前、決めてあげて」

「ああ、分かった」

「じゃあ、俺、もういくから」

「え? ……そうか、分かった。頑張ってな」


 止められる事でも無い。言いかけた言葉を飲み込んでシエノラは応援の言葉をかける。


「……うん。行ってくる。もうちょっとだけ、待ってて」


 そう言ってシエノラの手を取り、指にキスをする。そして、エドは転移したのだろう、シエノラの前から消えた。

 シエノラは誰も居なくなった場所を見つめ、エドのお土産、黄色いヒヨコのようなものを撫でる。

 柔らかな毛が気持ちよく、撫でながら小さく笑う。


「気配がなくなると寂しいものだな……」


 仕方が無いとはいえ、そう口にし、黄色のグレープフルーツ並に大きい、ちょっと横に広いヒヨコを抱えて胸に抱きしめる。


「……エメルド。君の名前はエメルドにしよう」

「ピィ」


 小さな羽を上げてシエノラに合図する。

 まるで気に入ったと言ってくれたようで、シエノラは微笑んでエメルドと名付けたヒヨコを撫でる。

 しばらくそうしていたら、馬車の扉をノックする音がし、扉が開けられる。

 ネーアはシエノラを見て、大丈夫ですか? と声をかけてきた。


「中々戻ってこないから」

「ああ、すまない。ちょっとぼんやりしてたようだ」

「それは?」


 シエノラの膝で、撫でられて気持ちよさそうにしているヒヨコを見てネーアは声をかける。


「エメルドと名付けた。エドが持ってきてくれたお土産だ」

「お土産? え? エド様は?」

「一度も戻ってきたけどすぐに行ってしまった。この子と、後はこれを渡しに来たのだろう」


 言いつつシエノラは薬瓶を取り出し、蓋を開け、シムの指示通り一錠口に入れて飲み込む。


「飲んで大丈夫なんですか?」

「むしろ飲まないと子に影響が出てしまうんだ」


 ネーアは馬車の中に入りつつ尋ね、返ってきた答えに、どういう事だろうかと考えた。きっと男性から女性になった事が影響しているのだろう、と思いつつ向かいの席に座る。


「気分は、大丈夫なんですよね?」

「ああ、心配かけたか? 大丈夫だ」

「……あの、じゃあ、少し話してもいいですか?」

「どうぞ」


 エメルドを撫でるのを止め、シエノラはまっすぐにネーアを見た。


「……ゴドー様、とあえていいますが」

「うん? どうぞ」

「……ゴドー様は、エド様がハーレムを持つのは、賛成ですか? 反対ですか?」


 ああ。なるほど、二人っきりになれるタイミングを探してたのか。

 ネーアの言葉にまずシエノラはそう思い、それからはっきりと答えた。


「私は、エドやセリアとは違い、生まれも育ちもヒューモ族だ。エド本人が持ちたいというのなら賛成だ」


 その言葉にネーアの表情が驚きと喜色に染まる。


「じゃ、じゃあ、もし」

「もし、君がハーレムの一員になりたいと言うのなら、私は反対しない。でも、さっきも言ったが、エド本人の気持ちを私は重視する。エドにハーレムを作れとも言わないし、作るなとも言わない」


 ピィィ……。エメルドが悲しげに鳴いて、シエノラを見上げていた。

 それに気づいたシエノラはエメルドを両手で包むように抱いてやる。


「でも、これはあくまで私の答えだ」

「分かっています! 反対しないでいてもらえるだけでありがたいです!」


 ネーアは頬を染め、嬉しそうに言った。

 シエノラはそれに困ったような表情を見せて、そしてエメルドに視線を落とした。

 見上げてくるつぶらな瞳に、小さな、悲しげな笑みを浮かべて撫でた。

 唇が綴る。

 私は酷いヤツだな、と。

 エメルドはその頭をシエノラの手にこすりつけて甘えている。

 慰めているようにも見えた。


「この子を連れて中に入るわけにはいかないから」

「あ、はい。……タンガさんに任せては駄目なんですか?」

「ピィ!」


 ネーアの言葉にイヤイヤと言いたげに袖に体を入れようとする。

 しかし本物のヒヨコならともかく、グレープフルーツサイズもあるエメルドは顔の半分が入った程度。


「可哀想だから。このままで」

「分かりました」


 答えて、ネーアは馬車から降りていく。

 それを見送った後、シムからまた合図が来て、シエノラは錠剤を飲む。

 今度は二錠。

 お腹を撫でてからエメルドを抱きかかえ頬を寄せる。


「……エド……」


 切なげに名を呼ぶ。彼の傍に行きたいと心が寂しがるのが分かる。


「……君たちが居てくれて良かったよ」


 シムと、そして、お土産のエメルドにシエノラは心の底からそう思った。




お土産は鳥だけでなく、皆が買ってる布も含めてかな。

家族全員で来てるから誰かへのっていうよりも、自分たちへ、だけど。

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