お祝いをしましょう③
いつもお読み頂きありがとうございます!
十五分もすると、俺が一人で飯食っているのに気づいた面々が話しかけてくる。
奥さんどうした? 一人か? とか聞かれると、連れてかれたとしか言えず、何か企んでるようだったけど、なんか聞いてる? と俺が逆に質問してみる。
そんなやりとりから話が盛り上がる。
「俺、今まで冬の国と実家とで行商やってたんだけど、今度店持とうかと思ってるんだ」
「コイツんとこで、『ハサミ』売ろうやってなってよ」
「あ、そういや、ウチも今度、店持つ事になるんすよ」
なーんて、男ばっかり集まると仕事の話になり、酒の力も借りてか、話は割とスムーズに進み、じゃあ、今度一緒に儲け話考えましょうよ~。なんて笑いながら盛り上がった。
そして、何故か照明が落とされた。
代わりに仄かなロウソクのような光がダイニングを照らす。
あれ? これ、シムがやってる?
予定に無かった事だが、俺達は特に慌てる事なく、ざっと周りを警戒し、どうやら女性陣が何かしらやってるようだと分かると肩の力を抜く。そんな俺達にクパン村からの客も、何かの余興だろうと、事の成り行きを見守っている。
BGMがハイテンポな明るい曲に切り替わる。扉から白い煙が漏れ出して、それには皆が一瞬警戒した所で、扉が開いた。
そこには、……流石にここまできたら、俺には予想出来たが、ゴドーが立っていた。
真っ白なウエディングドレスを着て、スポットライトで照らされてる感じでゴドーの周りだけが明るい。
ニアが花ビラを撒きながらゴドーを先導するように歩き、ゴドーはおずおずと歩き出す。
さて、ニアの目的地はここのようだけど、俺はなんと声をかければいいんだろうなぁ。
いや、だってね、嬉しそうだったり、ちょっと照れくさそうだったりしたら、それこそ、『綺麗だよ』の一言で済むが、ゴドーは困惑している。
もうむしろ、うちの妹がすみません。と、謝りたいくらいだ。
ゴドーがここにたどり着くまでに、気の利いた言葉が浮かぶだろうか。
お互いに目があって困ったように笑った。
ゴドーが俺の前に立つ。
「……あー……その、だな」
皆から注目され、言葉が見つからない様子のゴドー。そもそも、なんでこんな格好をさせられたのかも分かってないと思う。
「随分と遊ばれたなあ」
「う、まぁ、そうだな」
ドレスだけでなく、髪型も化粧もばっちりだ。
良い仕事をしていると褒めてやりたいが、他のヤローどももいるんだがなぁ。我が妹よ。せめて首周りがばっちり開いてるのは止めろ。鎖骨とか色気ムンムンじゃねぇかこんちくしょう。
「でも、よく似合ってるよ」
「ありがとう」
困ったようにゴドーは言った。
「そこは『キレイ』だよ。お兄」
「そうだなぁ。キレイだなぁ。おかげでライバルふえねぇーか、すっげー心配なんだけどなぁ?」
俺の横に立ったセリアに本音を吐露するとセリアは笑った。
「ここのメンバーでゴドーに手を出す人いないって。お兄にケンカ売るとか、無い無い」
パタパタと手を振って笑ってるけどなぁ。お前なぁ。俺の独占欲舐めんなよ?
それに、クパン村の連中は俺の実力なんてこれっぽっちも知らないからな。
とりあえず、ゴドーの手を握り、傍に引き寄せる。
「ついでだから、例の言葉を言ってみ?」
「例の言葉?」
「病める時も」
「ああ、えーっと、汝エドは、ゴドーを妻とし、病める時も……健やかなる時も共にいる事を誓いますか?」
適当にいってるな? いや、空で言えるとは思って無いけど。
言えたらむしろ、びっくりだけど。
「誓います」
「汝ゴドーは、エドを夫とし、病める時も健やかなる時も、共に居ることを……、……エドが暴走しないように止める事も、神に誓いますか」
おい、余計なのが入ってたぞ。
「誓います」
訳が分からないが、内容的に神に誓っても問題ないと思ったのか、ゴドーはあっさりとそう言った。
「では誓いのキスを」
「え?」
セリアの言葉に戸惑うゴドーの唇をさくっと奪う。
ヒュゥ~。と口笛が鳴った。
あ、この世界でもそんなリアクションあるんだ。
「ここに二人の結婚がみんなに認められました~」
セリアはパチパチと手を叩いて、釣られてみんなも拍手する。
さらにセリアはニアが持っていた花に気づいて花ビラを俺達二人に振り撒いている。
ニアも一緒になって撒いているから俺達の周り凄い事になってるんだけど……。
まあ、そこら辺をグチグチ言うのは祝ってくれるのに、心が狭いとなりそうだから止めるけど、だ。
俺は本来はヴェールとなるものを二、三枚取り出して、ゴドーの肩にかける。
それを『結び』でドレスとくっつけてマント風にする。
「お兄、折角のドレスを……」
「あのなぁ、お前は俺の忍耐がどれくらい持つか調べたいのか?」
首回りどころか、ゴドーのドレス、背中パックリあいてるじゃないか!
「ゴドーおねーちゃん、お姫様みたい~」
「……ありがとう」
ニアが目をキラキラとさせてゴドーを見上げていて、ゴドーはちょっと複雑そうにしてたけど、それでも、最後には笑ってニアの頭を撫でていた。
「たく、お前は、ゴドーに迷惑かけてねぇだろうな?」
「かけてないよ。ちょっと戸惑ってたけど」
「それはそうだろうな」
「それにお兄が悪いんじゃない」
「何が」
「だって結婚パーティーなんでしょ? 女の子ならウエディングドレスに憧れるってのに」
「お前、ゴドーの基本性別忘れてねぇか?」
「…………でも、綺麗なゴドーを見られて良かったでしょ?」
「……それは、な」
「本当はさぁ、立食パーティーだし、膝丈くらいのドレスにしようとしたんだけど、お兄、足出しちゃ駄目ってゴドーに言ってたんでしょ?」
「言ったな」
「言いたくなる理由は分かるけど」
「分かるだろ!?」
「うん、あれは芸術品だった。だからこそ出したかったんだけど、ダメだって言うから、仕方なく、スレンダーラインにしたんだよぉ~」
「いや、ウエディングドレスの細かいタイプとかは分からないけど、なんであんな背中も鎖骨周りも開いたヤツにしたんだよ」
「だってキレイだったから」
「…………セリアさん、独占欲っていう言葉をご存じでしょうか?」
「えぇー? こんな時くらいいいじゃない、尻の穴が小さいって言われるよ?」
「器とか、心とか、他にも色々あんのに、なんで喩えをそれにした!?」
「その方がより嫌がるかと思って」
「全く持ってその通りだよ……」
「そんな事より、ゴドーの源氏名ってどうするの?」
「は? ゴドーはゴドーでいいじゃん」
「えー? ゴドーって、もろ男性の名前じゃん! あの見た目だよ!? もっとかわいい名前付けて上げようよー」
「えー? ゴドーはゴドーじゃん。うかばねぇよ」
「なんでよ。ショコラちゃんとかどう?」
「お前、それ、ガトーを連想して言ってるな?」
「ココアちゃんでもいいけど」
「……お前のイメージって、そうなのか?」
「うん。なんか甘~いイメージない? ゴドーの性格に、あの見た目だと。かと言ってシュガーとかは違うんだよね。ほんのり大人っぽさが欲しいというか」
「ショコラとココアのどこに大人っぽさが!?」
「茶色いとこ」
「…………」
我が妹ながら、それは、どうなんだよ、お前……。
「名前? 私のか?」
俺が言葉を失ってる間にセリアがゴドーへと、源氏名の提案をしている。
「この姿への名前か」
「そうそう!」
「セリア、お前ゴドーを困らせるなって」
「困らせてないよ! ね! ゴドー考えてみてよ」
「そうだな、分かった」
……まぁ、本人が考えるのならいいか。
それからさらに一時間経ち、一度締めることにした。子供もいるしね。
「えー、本日は私達の結婚パーティーにお集まり頂きまことにありがとうございます。これからも、夫婦二人力を合わせて頑張っていきたいので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。つきましては、本日のお礼に、ささやかながら、私達の気持ちをささやかながら……」
あれ? 今二回言ったか?
くそー、シムやっぱ、こういうのは、先に下書き用意するものだって!!
『ご自分の今の気持ちを伝えるのであれば、無い方がより赤裸々に語れると思います』
赤裸々に語りたいわけではない!
と、言ってももう遅いので、昔聞いた、もしくは言ったであろう口上をなんとか思い出し形にする。
「用意したので、喜んで貰えると幸いです」
みんなの前に魔道書が現れる。
カタログギフトとして用意してみた。
設定MPは50万。
店舗価格が5万分まで自由自在に買えるので、結構良いカタログギフトのつもりだ。
基本はこの世界の物限定だが、あまりこの世界に影響のないもの限定で異世界物も出る。女性陣はゴドーの化粧に食いつきが凄かったので、化粧品などプラスチック製の容器などに入っている物はこちらの世界の物に自動に詰め替えて出すとシムが言っていた。
気のせいか、シムの出来ることが増えている気がする。
困るものではないからいいが、もしかしたら、『創世神』としての影響なのかもしれない。
初めて見る方も居るので、簡単にカタログギフトの使い方を説明した。
これで、ゴドーが使った化粧品も出ると知った奥様方の目が、ゴドーにロックオンしたが、ゴドーは手を振り否定し、セリアを示した。
彼女が全部知ってます。私知りません。とその顔が切々と語っている。
ルベルトも酒コーナーを真剣な眼差しで見ていた。どうやら地球産のお酒を気に入ったらしい。
農家の息子さんの方は凄く興味津々で魔道書を見てた。
商人だから特に気になるのかも知れない。
さて、締めの挨拶をすれば子供達は眠る時間である。
兄貴ズはもっと騒ぎたいようだったが、母さんが寝かしにと客室へと案内のバロンと共に連れて行く。ニアももっと起きていたそうだったが、ネーアに促されてしぶしぶと部屋に戻っていった。
俺とゴドーも最後にもう一回り挨拶してからダイニングから出る。
農園なら、転移してもいいのだが、この世界では俺の神の力は弱い。
余計な事をして、ゴドーと赤ん坊に負担をかけたくないので、のんびりと歩くとしよう。
廊下に出て、エントランスまで来たら、ヴェールをはずして仕舞い、ゴドーを横抱きする。
ゴドーは首に腕を回して密着してくれる。
その方が俺への負担が少ないからだ。でも、理由なんてどうでも良くなるよねー。こういう場合。
一人分の、のんびりとした足音が響く。
「楽しかった?」
「そうだな。少し照れくさかったが、楽しかったな」
「そか。ドレスはごめんな、妹が悪のりしちゃって」
「私はエドが嫌じゃないのなら構わない」
ゴドーの基準はいつでも俺だなぁ。
小さく笑い、頬にキスをする。
「もしかしたら嫌かもしれませんが、とても、お似合いで、綺麗ですよ、俺の奥さん」
「旦那様に喜んで貰えるのなら、したかいがあったというものだ」
俺の言葉に合わせるようにゴドーが言うものだから、俺の胸はキュンキュンして、歩くスピードが上がる。
ほんと、この、愛情=性欲はどうにかならないだろうか。と思うが、もはや止められる気もしないので、さくっと、部屋に戻ると、ゴドーをベッドに下ろす。
そして、後ろに回り、抱きしめつつ、悩ましい、うなじに口付ける。
ゴドーからくすぐったそうな声が聞こえる。
「なぁ、ゴドー、ウエディングドレスって、俺達の世界じゃ白なんだよ」
もちろんゴドーが着ているドレスも白色だ。
ゴドーを抱きしめつつ力を使う。
「貴男色に染めてくださいって事でさ」
純白のドレスが、真っ赤に染まる。
「ゴドーから見た俺のイメージは何色?」
今度は赤から青に。
「……そんな風に考えた事はないなぁ……、何色だろう……」
ちょっと悩ましげである。
「そうだよなー。ゴドーにとって、俺はひな鳥だもんな~」
ドレスを緑にし、裾から胸元まで、黄色のふとっちょヒヨコが踊りながら上がってくるようなのを描く。
俺の声は確かに拗ねてたのだが。
「エド! これかわいい!」
ゴドーさんにはヒットしてしまったよ。
あんなに声が弾んでいたらもはや変えられない。
これで決まりか~。
ちょっと複雑だなー。
「なるほど、こういう事か」
何か納得しているゴドー。
「エド、この姿への新しい名前はエドが決めてくれないか?」
振り返り、俺を見て、ゴドーはそんな事を言う。
えー、それで言ったら、俺はゴドーでいいじゃんとしか言わないよー?
その告げたかった言葉は、結局告げられなかった。
「私の全てが欲しいと言う君に私があげられるものは少ない。この心だけ。だから、この姿に君の物だという証をつけるように、名前を付けて欲しい」
「……何、それ、俺の持ち物にエドって名前を書くように、ゴドーのその姿に名前を付けろってことか?」
「ああ!」
「…………」
そんな事を言われたらゴドーで良いとは言えなくなってしまう。
全てを俺のものにしたい。
それは俺の本音なのだから。
「本当にいいのか?」
確認をするとゴドーは満面の笑顔で頷いてくれた。
ああ、敵わない。
こんな時そう思う。
「ゴドーはいつも、俺が一番欲しいのをくれるよね」
「そうか? なら良かった」
ゴドーの手が俺の頬に触れてくる。
「一生のものだし、少し考えたい」
「ああ、宜しく頼む」
お互いに囁き、唇を寄せる。
室内の照明が落とされ、結界が張られる。
ここから先は、まぁ、言わなくても分かるだろう。