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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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神山に来ました。②





『現状、二柱がゴドー様を今まで通り依り代と使っても問題はありません』


 考え込んでしまったツキヨちゃんの代わりにシムが俺の質問に答えてきた。


 ……断言出来るの?

『出来ます。ゴドー様が身ごもったという事はマスターと二柱の力が安定したという事です』

……シム。体の権限渡すから、二人に説明して。

『かしこまりました』


「初めまして、太陽神ヒノワ様、月神ツキヨ様。私はマスターのスキルの一つ、システムの主人格、シムと申します」

「「…………初めまして」」

「……シム、そんな事も出来たのか」

「マスターの許可があれば出来ます。マスターの代わりに出てきたのは、ゴドー様の事を説明するためです。ゴドー様が気落ちするぐらいであれば、お二方は今まで通りゴドー様を依り代として使ってください。私も主のために存在する存在(スキル)です。不要と言われる道具ほど悲しいものはありません。おいシム。俺はゴドーの事を道具なんて思って無いぞ。お二方だってそうだと思いますよ。ですが、これは、神という存在に作られたモノ同士故の共感です。マスターは黙っててください」


 ぐぅ……。


「まずお二方が心配していた、子への影響ですが、それについてはゴドー様が母体となる以上、太陽と月の両方の力を持つことはもはや確定です。それに創世神の力が加わるので、今更です。神降ろしをしても問題はないでしょう」

「あのね、シム、それにより子供が死ぬかも知れないのよ?」

「いいえ、それはありません。ゴドー様が妊娠したという事は、子のバランスが取れたという事なのです。私達はマスターのために存在するものです。生命の樹木もそうです。本来であればすぐにでも子を成す程、マスターのステータスは高かった。でもそれが成されなかったのは、マスターの力を含めた三柱分の力が安定しなかったからでしょう。お二方が試行錯誤を繰り返し、ゴドー様を作ったように、ゴドー様の体内でも似たような事が起こっていたのです。私達は、ゴドー様やマスターが泣く未来は見たく有りませんから。そしてゴドー様が宿した神の力は、マスターの世界で実際に『生命を生み出した』生命の樹木」

「「え!?」」

「彼らが常にゴドー様を守り、そして子を守ります。そもそも、ゴドー様の身に少しでも危険であれば、私達は子を宿させるような事はさせませんし、マスターの力をその身に宿させるという事もしません。ゴドー様を農園に残し、さっさと神になってきてくださいとマスターに言うだけです」

「……エド、彼女……でいいのかしら? この子はいつもこんな感じなの?」

「こんな感じですよ。意外ですか? 私のようなモノが、主に対し、このような口を利くのは」

「……ええ、そうね」

「マスターが最初に望んだのは話相手でしたから。なのでボケればツッコミもします」


 ……今までのアレ、ツッコミだったのか?

 ……ツッコミと言えば、ツッコミか。


「それにただ従うだけの存在を『相棒』とは言えませんから」


 うん。俺は、シムの様な性格をありがたいと思うよ。

 シムはゴドーの手を取る。


「それに、私達、システムもゴドー様のサポートをします。私達は、マスターのための存在です。だからこそ、ゴドー様を守ります。どうぞ、御心のままに。それがマスターの望みです。ゴドー様に取って、神の依り代というのは、根幹とも言える部分。マスターが神に至るまでどれくらい掛かるか分かりませんが、その間、お役目を果たせないとなると、ゴドー様の心に影を落とします。そのような事、マスターは望みません。喩え、独占出来なくて内心暴れても、ゴドー様の心が安らかである事の方が重要ですから。そうでしょう? マスター」


 その言葉と共にシムが引っ込むのが分かる。

 俺はシムが取ったゴドーの手を握る。


「そうだねぇ、ゴドーがこれで笑わなくなるって言われたら、嫌だなぁ」


 そして二柱を見る。


「ゴドーの望みを叶えてあげてくれませんか? もしそれで子供の力が強すぎてこの世界に影響が出るっていうのなら、俺は即座に神になって、子供とゴドーを連れて自分の世界に引っ込みますから」

「……しっかりゴドーの名前は挙げるのね」

「当然でしょう?」


 ツキヨちゃんの呆れに、俺はにやりと返す。


「いいわねぇ……ゴドー。羨ましい……」

「……というよりも……エドちゃん、もしかして、ヒューモ族と日本人というのが妙な形で混じっちゃった系?」

「だと思います、前世はここまでじゃなかったと思うので。ぶっちゃけて、良くゴドーは平気で俺の愛を受け入れられてるなって思いますよ?」

「え? 何故だ?」

「病んでるっていいたいほど、重いから」

「……病んでる? エドの愛が重いと何か問題なのか? そういう病気なのか? 病気が治ると、私は不要か?」

「不要じゃありません! ゴドーへの愛が無くなるくらいなら、不治の病でいいです!!」


 一瞬不安げな表情を見せたゴドーに対し俺は即座にそんな事を宣う。

 うん、俺、ホント突き抜けたな。


「……と、まぁ、ゴドーへの愛を口にするのが苦にならないくらいには、重いですね」

「……そうねぇ」

「あと、独占欲も強くなりました。ぶっちゃけて、お二人がちょっと憎いです」

「「なんで!?」」

「だって、俺の物にならない部分のゴドーは、お二人の部分なんすもん。今だって、ゴドーにとって依り代っていうのが、どれだけ重要な事か見せつけられましたし~」

「……エド……。本当に重いわね」

「自覚はあります」

「……ヒューモ族にとって、第一の欲求というのは、確かに重要なものだけど……、これは……、日本人としての部分が強化されちゃったのかしら……」

「ですかね。俺とゴドーとだと随分と差があるのでそうかも知れません。正直、ゴドーに嫌われるのが嫌だ! って言う恐怖心がなかったら、俺、けっこうヤバかったと思います」

「……そうね」

「何がヤバいんだ?」


 分かってくれるツキヨちゃんに、よく分からない様子のゴドー。

 俺はにっこり笑ってゴドーを見た。


「ゴドーはこのままで居てくれよ?」

「……何か馬鹿にされたのだろうか……」

「違うわよ。変な知識を入れられて、今の関係が変わるのが嫌なだけの、願いよ」


 ツキヨちゃんの言葉に俺は頷く。


「そうか、分かった」


 こくりと頷くゴドー。

 ああ、可愛い。


「デレデレね」

「デレッデレね」

「デレッッデレッです!」


 ヒノワ様とツキヨちゃんに、そう勢いよく返す。


「でも、ふふ。こうなったら、神格化した時が楽しみだわ」


 ツキヨちゃんは、にんまりと笑う。


「何でです?」

「ヒューモ族と日本人とが混じったのが今のエドでしょう? でも神格化した時の性格が今のままとだとは限らないわ」

「……変わっちゃうって事ですか?」

「ええ。アナタにとって、ゴドーへの愛が薄れていくのか、現状維持か、それとも強まるのか、楽しみだわ」

「…………薄まるなんて事があるんですか?」

「ええ。エドちゃんが今、日本人とヒューモ族とが混じって人格が変わってしまったように、神へと昇華した時に変わる可能性は十分にあるわ」

「……」

「アタクシとしては、現状維持のまま、その愛を複数にばらまける方が良いわね」


 そう言って投げキッスをしてくるツキヨちゃんに、俺は思わずその投げキッスを片手で払う。


「あら酷い。そうなった場合は、アタクシとも愛し合いましょう?」

「嫌っす!」

「もぉー、ツキヨ。止めなさい。貴男はいつもそうなんだから。もう少しまともに忠告してあげればいいのに。どうしてそうやって茶化すの?」

「それがアタクシだからよ、姉様」


 ウフフ。と笑う月の神。

 ……忠告、か。って、事は俺の人格が変わる可能性が高いってことなのか……。

『ゼロとは言えません』

 そっか……。

『ただ、ゴドー様への愛がなくなるという事はないと思います』

 根拠は?

『魂に起きていた焼き付けを克服するぐらいですから』


 ちらりとゴドーを見る。ゴドーの表情にあるのは、「仕方が無いかな」というような諦めに似た表情。


 そういう顔するぐらいなら、不安の方が良かったなぁ……。


 なんて思いながら、ゴドーの頬にキスをする。

 ゴドーは目をパチッとさせて俺を見た。

 俺はニヤリと笑って、それからツキヨちゃんとヒノワ様を見た。


「忠告は感謝します。薄れるなんて事がないよう、これからもゴドーへの愛を深めますよ」

「あらあら。フフフ。いいわね。羨ましいものだわ。ねぇ? 姉様」

「そうねぇ……。羨ましいわ」


 二柱は笑いながらそんな事を言う。

 ……病んでるって思うほどの愛情って欲しいのか? 神様からしたら、これって普通なの?

 って、疑問も浮かんだ。


「じゃあ、ゴドーは、俺が神になるまでは今まで通り、お二方の依り代って事で」

「……ええ、二人がそれでいいのなら、それでいいわ」

「アタクシとしては助かるから、安全が確保されてるのならいいわよ~」

「で、俺がいつ独占欲を発揮して神になるか分からないんで、なるべく早く、次の太陽と月の依り代作ってくださいね」

「……イイ笑顔で言い切ったわね」

「いいわぁ。エドちゃん。その狂った愛、アタクシ大好物よ」


 やめて、そんな事言わないで。マジでターゲットロックされた気がして嫌だから。


「じゃあ、そろそろお暇しようか」


 ゴドーに声をかけるとゴドーは頷いて、立ち上がり、二人に再度頭を下げた。

 深々と下げられた頭に、謝罪と感謝の両方がうかがえた。

 俺もゴドーの隣で頭を下げる。


 二柱は笑って、頭を上げなさいと口にする。


 頭を上げて、四人で笑い会い、じゃあ、また。と声をかけて俺とゴドーはその部屋を出る。

 そこからの道案内はゴドーがしてくれた。


 しかし誰も、こちらを見て、不審そうにする人間は居ない。

 こんなんで大丈夫なのか? って思ったけど、ここはすでに神の許し無きものは立ち入る事は出来ないらしい。ここを歩いているのは神の依り代か、神の許可を得た神官か客くらいだろう、と。

 俺が入れたのはゴドーのおかげかな、って思ったけど、どうやら『神の加護:寵愛』が理由っぽい。あったねぇ、そういえばそんな恐ろしい物も。

 

「ここから先は一般の神官もいるからもしかしたら、ちょっとじろじろ見られるかもしれないなぁ」


 宮殿から出て、小さな庭園を歩きながらゴドーは言う。

 俺は空を見上げて、結界が張ってないか確認する。


「ゴドー」


 声をかけてゴドーを抱き上げ、空へと地面を蹴る。

 ゴドーは慌てて俺の首に腕を回す。


「どうせ、教会に降りても転移門は使えないし、このまま飛んで帰ろう」


 結界を張り、結界内を適温に保つ。

 あまりスピードを出すつもりはないが、それでも空を飛べば夜明け頃には王都に着くだろう。

 その分ゴドーとイチャイチャ出来るし~。


「あ。そうだ。ゴドー、俺以外の人の前で露出の高い服着ちゃ駄目だからな! 生足絶対駄目。あと、シルエットがはっきり分かる物も駄目!」

「……今度から着替える時にはシムに許可をとってからにする……」

「うん。そうして」


 ちょっと呆れたような表情で言われたが、俺は気にしない。


「ゴドーは俺と部屋一緒で良い?」

「ああ」

「二階と三階どっちがいい?」

「二階のエドがすでに使ってる部屋でいい」


 言って、ゴドーは肩に頬をこすりつけて甘えてくる。

 その仕草がかわいくて、唇を寄せる。

 ゴドーはすぐに気づいてくれて、唇にキスをしてくれた。

 軽く触れるだけのキスでも俺の幸せ度数は上がるぞ~。


「そういえば、エドは高い所平気なのか?」

「へ?」

「前に、騎士団に連れて行かれた時、高くて怖かったって話をしてたよな?」

「自分で飛べるのと、馬に乗ってるだけってのは違うでしょ。今は平気だよって、あ、ゴドーはもしかして今怖い?」


 やべ、そこ、失念してた。


「いや、そこは信用してる」


 恐怖心の欠片もなくそう言われた。

 あっ、キュンって来た。


「ん~」


 俺は唸るような声を出して、ゴドーの唇をガッツリ塞ぐ。

 まぁ日本みたいに飛行機が飛んでるなんて事もないだろうし、前を見なくても平気だろ。

 鳥とぶつかるくらいだろうけど、そんなスピード出してるわけでもないし、結界張ってあるし。

 最終的にはシムがどうにかしてくれるだろうし。


「と、そうだ」


 俺はそのままその場で止まり足下に着色した空気イスを広い範囲で設置する。そこに降り立ち、ゴドーにも一声かけて、空気イスの上に降ろす。


「こっちの結婚は割とあっさりしてるね」


 言いつつ俺はゴドーの左手を取る。


「そうだな。後は国の方に結婚したという報告をエドが出せばいいんじゃないか? あれはあくまで神官の結婚の儀だったから、エドはエドで必要な手続きがあると思う」

「……手続き別なんだ」

「ああ。神官はそうだな……。神殿という国に住む住民みたいな者だ。許可を得て、エドの住む国に嫁ぐ……という感じかな? どう説明すればいいのかな?」

『その認識でいいと思います。二つの国に必要な書類の内の一つが、神の前での誓いという事でしょう。もっとも神によって認められているので、手続きをしなくても、ゴドー様はマスターの妻です。その事実は揺らぎません。春の国に関しての手続きは、マスターが配偶者の税金を納めるための書類提出と思った方が良いかもしれません』

 ああ、そういえば税金払ったねぇ。今度からはゴドーの分もか。

 いいねぇ、俺の嫁さんっぽい。

 いや、っぽいじゃなくて、俺の嫁です。はい!


 ってなわけで。

 ゴドーの指にもう一つの指輪をはめる。男でも女でも使えるシンプルなやつだ。


「結婚指輪」

「ああ、さっき言ってたヤツだな」


 ゴドーはそう言って左手を目の前にかざし、ふにゃーんといった擬音がつきそうな顔で微笑んだ。

 そして俺を見上げて、ちょっと言いづらそうに口を開く。


「私も……エドの様に、自分で作って渡したい……。その、今から練習するから、時間は掛かるかも知れないが……、それでもいいか?」

「うん。いくらでも待つよ」


 頷くとゴドーの表情が華やいで、勢いよく唇が塞がれた。

 神の前でしたような、すぐに離れるようなものではなく、熱の籠もったもの。

ゴドーを抱きしめて、目を閉じ、ゴドーからの愛を受け止める。

 唇が離れても、抱きしめる腕は緩むことはない。

 言葉もなく、しばし、そのままで過ごす。


「……行こうか」


 ゴドーが惜しむようにそう声をかけてきたのはどれくらい経った頃か。

 俺も小さく頷き、先ほどと同じように、ゴドーをお姫様抱っこし、空気イスを消して夜の空を飛ぶ。


 二人っきりの時間を惜しむように、夜空のデートを楽しむ。





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