本当に装備更新
今回はマジです
「せめて最後まで言わせて欲しかったぜ畜生」
死に戻りで街の門に戻ってうなだれながら最初に言ったのがこれだ。あれじゃあ何回か通わなきゃ触るの無理かもしれないな。
盛大にため息を吐きながら”装備してなかった”インベントリ内の武器の耐久値が減ってないのを確認して市場に戻り、いまだにイケメソ…たしかベルダだっけか。奴が決闘のフィールドにとらわれているのを確認して意地悪く口角を歪めた。
「さーて、GM報告GM報告」
目の前に出てって煽るのも面白いが今回はやめておこう。出てったら周りの人にどうやって外出たか質問攻めされそうだしな。
理由はシステムエラーみたいな感じで報告しておこうかな。もしかしたらこっちに火種飛んできそうだけどそのときはそのときだ。
「ちょっとそこの初期防具、こっち向いて」
メニュー画面のGMコールを押す寸前に声を掛けられて、のけぞるようにして後ろを向けば上下反対の視界には緑髪の少女がこっちを見ている。
そのまま数秒考えてやっと防具頼んだ店主だと気づいて口を開いた。
「今発注してるんで初期防具なの仕方ないでしょう。というか初対面の人にそこまで言われる筋合いありませんが」
「覚えてるくせにそうやって言うのはどうかと思うわ」
「うん、確かに覚えてるぜ。で、随分と遅かったがやっとできたのか」
「そっちがウィスパーしても反応しないからわざわざ探してあげたのにその態度とるわけ?」
「ん? ウィスパーなんて飛んできてないが…」
言われて見てもログはハイルのものしかない。
と、ひとつ思い出して設定を開いてみるとフレンド登録していない奴からは一切受け付けないようにしてたのに気づく。こりゃ俺のミスだわ。
「あー、すまん。設定いじくったの忘れてた」
「誠意が感じられないけどまあいいわ。とりあえずできた商品の値段は16万5000Gよ」
「…高くね?」
「素材の持ち込み無しにあれだけの設計図まで持ち込んで色々オプションつけさせたくせに文句言わない」
素直に謝った後に商品、つまり俺が頼んでいた装備の値段を言われるが妙に高い。まあ言われればそうとしか返せないので持っている金から言われた分の金と迷惑料として+5000を支払う。
「多い分は迷惑料な。じゃあさっさと防具くれよ」
「…なんていうか本当にずけずけ物言う奴ね。ハイルに言われなかったら怒ってたかも」
「あれ、あいつ知ってんのかよ。いっつも鍛冶場に篭ってるから知り合いできそうにない気がするが」
「素材持ち込んで防具の裏地用の革にするためによく来てるのよ。はい、これが頼まれてたやつ」
そう言って渡されるのは綺麗に畳まれた革でできたフードのついた黒いコートと同じく黒いズボンだ。
サーベルレオンコート
Def+15
サーベルレオンの革で作られたコート。染色され黒くなっている。
また、袖や裾などに小さなものを収納することが可能。
サーベルレオンパンツ
Def+1
サーベルレオンの革で作られたパンツ。染色され黒くなっている。
「それは現在取れる中ではかなりいいサーベルレオンの革を使ったのよ」
「ふーん、確かに値段が納得できるもんだな」
能力値を確認すると革製の、しかも服に近い形のものだと結構高いDefがある。さすが、自慢するだけあるしハイルが利用する店だ。
さっそく装備し、腕を回して不具合がないか確認してナイフを仕込みながら、コートを渡したあともその作業をあきれたように見ていた少女に言った。
「何だよ、言いたいことあるのか?」
「裾のはまだ解るとしても袖のは無駄だと思うわ。アニメとかに影響されてやってるんだろうけど抜くのもたついてやられるのが目に見えてる」
「まあ一理あるな。でもそれでいいんだよ、ほら」
そう言われて反論しようと思ったがそれよりも見てもらった方が早いだろうと裾に仕込みながら空いている右手を肩の辺りまで上げる。
その動作の間に飛び出てきたナイフを反転させて順手に握り左右にゆらゆらと揺らしてみせた。
「とまあこんな風にな。つまるところ無問題」
「それ…今のどういうこと?」
「普通にナイフをこうやって手の中で反転させてだな「そういうのじゃなくてどうしてできるのかって意味!」あ、そういう」
ゆっくりと実演しようとしたところでそう言われて渋々ナイフをしまう。これだけでも結構役立つから聞いといて損はないと思うだけどなあ。
「まあ単にリアルでこういうのやる機会があっただけっていう面白みのかけらもない答えだけどな」
その機会というのが親父がどこからか買ってきて三時間で飽きて放りだした「これでキミも一人前! VR訓練~ナイフ編~」というのを貰ってやっていただけなんだけどね。
ちなみにシリーズ物らしく他にもパルクールとか護身に使える格闘術とか色々とあって全部放り出していた。思えばこのせいで俺は暗殺プレイなんてしてるのかもしれないが。
「もしかして本職の人かしら…」
「ん? 何か言ったか?」
「い、いえ。何でもないわ」
「そうか。何か聞こえた気もしたんだがねえ」
絶対に何か言った気がしたがきちんと聞こえなかった。まあ陰口じゃないだろうし平気だろう。
「それじゃあ用事あるし私いくわよ。あと長持ちさせるためにたまに持ってきてよね。居場所はハイルに聴けば分かると思うから」
「へいへい。じゃあまたな」
渡すだけ渡してすぐにどこかに行くのを手を振って見送る。俺の無茶な注文もやってくれるほど腕がいいのだから他の注文があるのだろう。
さて俺も防具も手に入ったしさっさと狩りに行こうか。いや、その前にかなり溜まってきたとか言ってたからハイルから武器預かってフリードに渡さないとか。
「あれ、そういや何か忘れてるような」
ハイルが居るであろう鍛冶屋に行く途中、それなりに重要なことを忘れているような気がして首をかしげてしばらく考え
「ああ、名前聞くの忘れてた」
忘れていたことを思い出してすっきりとしながら道を歩いていった。
「くそ野朗どもてめえら見てないで助けやがれ!」
結局、忘れ去られたベルダが自由になったのは一時間後だったそうな。
小説内の数値は適当なのでおかしいかも知れませんが、なにぶんMMO経験がないので…




