ボスとの邂逅
「どうにか成功かね」
手の中の感触がなくなり一瞬で街の中から周りを木に囲まれた広間のような空間の乾いた地面を踏む。
逃げるのに使ったアイテムは森のモンスターを狩ると極低確率でドロップするアイテム、暗緑の獣珠だ。
ただしドロップすると即オブジェクト化して地面に落ちるため確認された当初はわざわざインベントリに入れさせる手間掛けるなと思いながらそれに触れたのだろう。それが罠だった。
触った瞬間に今の俺のように強制転移。慌ててるうちにそこにいるモンスターにあっけなく殺されたそうな。
触らなければ良いんじゃないかと地面に置いた状態で影収したら成功して、プレイヤーの意思を問わない強制移動だから逃げれるんじゃないかと今回の決闘で使ってみたが案外できるものだ。
まあ下手すると修正される可能性があるな、と考えながら森の奥の影に目を向ける。
「おっかしいな。情報が確かならすぐに敵が襲い掛かってくるらしいんだが…」
この空間半分から奥は線を引いたように地面がぬかるんでおり、木も枯れ果て空も曇り空だ。
こちらとは違い陰気なそこには二メートル以上はあるであろう巨大な狼が重ねた前足の上に頭を乗せて目を閉じていた。
相手に気づかれないように音を立てず慎重に近づき、ぬかるんだ地面との境界線で遠目に巨狼を観察する。
(寝てるのかこいつは)
ゆったりとした呼吸以外はまったく動かないのでそう考え、さっきよりも大胆に近づいて狼の目の前で座りじっくりと見てみる。
爪や少しだけ覗く牙はそこまででもないが、泥のせいで薄汚れている毛はちゃんと手入れすれば綺麗な輝きを見せるだろうしちょっと痩せてねこいつ。何か所々がもったいないな。
「…ふむ」
そのとき頭の片隅にこいつに料理を振舞って毛皮の掃除をしてやろうという他の人が聞いたら変な奴と評価を食らうようなアイデアが唐突に浮かぶ。
我ながら思考回路が狂ってると思うが、ここには誰もいないのだからさっそくやってやろうと乾いた地面の場所まで戻り、インベントリから料理セットと昨日ちょっかい出してきやがった草原の角ウサギの肉を取り出してそれを料理し始める。
まあ適当に味薄めの水煮でいいかな、なんて考えて適当に切り分けた肉を鍋に入れて火に掛けたところで視線を感じた。
「………」
起きてる。体勢はさっきのままだがジーっとこっちを見てるのと目が合った。
襲ってくるわけでもなく目を離さずにこちらを見られると凄く気まずい。かといって視線を外したり何かしらのアクションを起こすとこの状態が終わりそうで何もできない。
暫し睨み合った後、もうどうにでもなれと料理の方を見て火を消して中身を取り出した。
角ウサギの水煮
角ウサギの肉を煮た物。素材の味が良く分かる一品。
「よし、できた」
結局何もしてこなかった巨狼がじっと見つめる中、地面の境界線のところに皿に持った料理を置いて離れて体育座りをして待つ。
「………」
「………」
「「………」」
しばしの無言。無理かなーと諦めたところで不意に巨狼が立ち上がり、ゆっくりと料理に近づいて数度匂いを嗅いだ。
一応警戒のためか端っこの方を噛み千切り飲み込んだ後、残りを一口で頬張った。
「うん、この後どうしよ」
豪快なお食事に少々驚いたがこの後は毛皮をきれいにしなければならない。そしてその前に近づいて触らしてもらえるかが最大の問題だ。
まあどうにかなるだろうと泥を拭うための布をインベントリから取り出そうとして固まった。
「そういや布アイテム持ってねえじゃん俺! あ、すいません敵意はないですマジですいません」
叫んだとたんに巨狼が体勢を低くして唸り始めたので言葉が通じるか知らないが謝り倒す。
それにしてもほんとどうしようか。布と言ってもここは円形の閉鎖フィールドでそんなものドロップする場所がなさそうだし現地調達も無理。
影渡をしようとしたが無効化されるので帰ろうにも現在できそうな帰り方が死に戻りくらいしか見つからない。
「…しゃーない死ぬか」
インベントリに武器類を全部しまいこんで両手を挙げながら巨狼に近づいていく。
もちろん唸り声が段々大きくなるがそんなことお構いなしに進んで一メートルほど手前でしゃがみこんだ。
「よしこいや、遠慮せずにがんがん殺ってくr」
全部言い終わる前に爪の一撃で死にました。
今回はスキル成長はありません




