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いつになっても初期防具

ハイルに報告した後に言われて気になっていた防具の製作状況を確認しようとしたが依頼した人がいなかった。仕方ないのでいつもの森で猿をトレインして狩りまくった。


昨日もインしてすぐに行ったが居なかった。仕方ないのでいつもの森でニ時間ほど熊をトレインして狩りまくった後にもう一回行ってみたが居なかったのでもう一度トレインして狩った。そのうち乱獲マスターの二つ名が付きそうだ。


そして今日も今日とて探しているのだが居ない。ああ、また森での狩りかなーなんて思いながら駄目元で俺が依頼した人に会った場所に行ってみるが露天は開いていなかった。



「………」



そう、その場所を半径一メートルには露天は開いてなかった。代わりとでも言う様にいつぞやのイケメソ野朗がでそこで何かを待つように立っていた。


なるほど、どこまでもはた迷惑な奴だ。どう考えてもめんどくさい予感しかしないので俺はそいつを見なかった振りをしながらそこを通り過ぎた。



「…おい待てそこの黒髪」



が…‥駄目っ‥…!


この世界の奴らはほとんどが茶髪や金髪で、プレイヤーの皆さんは見えた限りは黒髪の人は居なかった。つまり俺が話しかけられた対象というわけなんですよちくしょう。



「あんまいい防具ねえな…」



まあ無視しますけどねー。



「話しかけられて無視しようとすんなよ!」


「なんだよ。道なら俺の前以外にも空いてるだろ?」


「黙れ! いつかのときにGMコールしたのお前だろ!」



ぼやきながらスルーしようとしたが俺の真ん前に立たれちゃ対応せざるおえない。顔を顰めながら言うと胸元を掴み上げて噛み付くように叫ばれる。


おーうるせ。これが現実だったら唾とかやばかっただろうな。リアルが売りとはいえそこまで再現してなくて俺は安心です。



「それっていつのコトデスカー。何時何分何曜日地球が何回回った時デスカー」


「てめえ…!」



思いっきり棒読みで今時の小学生もやらないような屁理屈をこねてみるとぴくぴくと相手のこめかみが動くのが分かる。


なぜこんなことをするかというとこっちから喧嘩を売ることはないが、その気なら思う存分挑発して喧嘩しても俺に非難が来ないような状況を作っておき勝っても負けても俺が有利になるためだ。



「てめえ俺とここで決闘(デュエル)しろ! 今すぐにだ!」



そんな俺の思惑通り苛立ちが最高潮に達したのか俺を突き飛ばしてこちらを指差しながらそんなことを言う。

ちなみにわざとよろめきながら倒れているから周りから見たら『初期装備の相手に激怒して決闘を挑む奴』に『さらには突き飛ばす乱暴者』との追加評価を受けるだろう、たぶん。


ゆっくり立ち上がりながら服に付いた砂を叩き落とし、相手が叩き付けるようにメニュー画面を操作して出した『ベルダさんから決闘の申し込みが来ました』と書かれた画面を見る。



「俺がこれを受けるメリットがねえぞ」


「うるせえさっさと承認しろ!」


「…ちったあ考えて行動すればいいものを。別に拒否なんぞしねえから違う場所でしようぜ?」


「いいから早くしろ!」



なぜここまで怒るか知らないが聞く耳持たないと判断して肩を竦めながらイエスのボタンを押すと俺と奴のちょうど中心から半径10メートルほどにうっすらと円状に白い線が刻まれる。


これでいいか、というように奴を見るとそのがんばって作ったであろうイケメソ顔が残念になるほど歪んだ笑みをしていた。



「へへっ、いいのかよ自信満々に承認しちゃって。そんな防具じゃ勝てねえぜ」


「無理やりやらせたくせに何言ってんのお前。頭がおかしいのか?」


「強がってられるのも今の内だ! てめえは俺に負けて所持品全部失くすんだよ!」



決闘にはいくつか種類があり、今回選ばれたのは通称強盗決闘。人気はβの頃から不動のワースト一位だ。

ルールを簡単に言えば勝ったら負けた奴のインベントリ内のアイテムと所持金を初期装備以外全て奪うことができるという本当に強盗するためだけにあると言っても過言ではないもので。


しかも決闘の共通ルールで時間切れもなく、今のように線引きされたフィールドからは出れないので強制的にどちらかが降参するか倒すまで終わらないある意味では本当に決闘といえるものでもある。


それを申し込む辺り意地が悪い。小説やゲームの主人公はこんなイベントをどうにかして勝ったりするのを見るのは好きだが、俺自身が体験するのはできれば遠慮したかった。


周りを見ても誰かがGMコールしてる雰囲気はないし、残念ながら自分でどうにかするしかないようだし。



「ほら、そっちから仕掛けてこいよ」


「じゃあお言葉に甘えて」



左手に丸盾をつけ、片手剣を抜き放った奴がニヤニヤと笑いながら先手を譲ってくる。初期防具だからってこっちを舐めきってやがんなこの野朗。


剣を抜き、上体が地面に付きそうなほど前屈させて脚に力を貯める。全てを攻撃につぎ込むようなその構えで奴を見据えた後



「誰が馬鹿正直にやってやるかアホ」



空いていた左手で足元にある影に手を突っ込みいつかのパーティーが俺から隠したのと同じ暗緑色の珠を掴む。


そしてあっけに取られる奴を尻目に俺は決闘フィールドから消えた。

剣Lv31 回避Lv26 隠密Lv23 料理Lv21 投擲Lv16 影魔法Lv22 魔法熟練Lv24 隠蔽Lv18 罠Lv11 盗賊の技術Lv22

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