作戦開始です
♢
「いやぁーー。あの男の人。明らかに怪しかったですよねぇーー」
四人で電車に乗ってすぐに、真唯が言った。
舞花がすぐに「うん、うん」と頷く。
「確かに、アレは怪しかった」
環季が言った。
「でも、環ちゃん。本当に騙されないでね」
悠希が念を押す。
「さすがに、アレには騙されないっしょ」
環季が自信満々に答える。
「いやぁーー。アレは、凄くアブなそうだった。環ちゃん、ちょっと身を乗り出してたし」
悠希が、そのときの環季の様子を振り返る。
「いやぁーー。バレてましたか」
そう、環季が白状する。
「そうですねぇーー。バレてましたね」
真唯が言った。
舞花も、また「うん、うん」と頷く。
「酷いなぁーー。わたしって、そんなに騙されやすいオンナに見えます?」
環季は、そう冗談で聞いた。
「環ちゃん……。自分の胸に手を当てて聞いてみればわかるよ」
悠希が、そう冗談で返すと、環季は自分の胸に右手を当てる。
「本当だ……。私の胸も、わたしが騙されやすいって言ってる」
環季がまた冗談で返して、四人みんなで笑った。
それで、真唯が考えた作戦というのは、実に単純なものだ。
まず、真唯の母親役には、真唯の叔母である絢子さんにしてもらう。
そしてマネージャー役には、松下さんになってもらう。
今度飯田と会うときは、こちらから契約書を持参する。その契約書は、真唯が作成する。
たった、それだけだ。
飯田とは、早速次の日曜日に、チェーン店のカフェで待ち合わせした。
約束の時間に、少し遅れて飯田がやってくる。もう契約は決まったとばかりに、余裕の様子だ。
注文カウンターで、しっかりとコーヒーを注文している。
飯田の名刺に書いてある事務所をネット検索で調べたら、確かに事務所は存在した。
但し、そこに所属しているタレントなどのことについては、その記載が一切なかった。
「どーも、スミマセーン。ちょっと、遅れまして」
テーブル席に座っていた真唯を見つけた飯田は、熱いコーヒー入った紙コップを持って、その真唯の隣に座る。
向かいには、絢子さんと松下さんが座っている。二人とも、キッチリとしたスーツ姿だ。
「あの……。それで、お二人は?」
飯田が聞いた。
「あっ。紹介しますね。右に座っているのが、母親で。左にいるのが代理人の方です」
そう、真唯が説明する。
「あの……。スミマセン。お母さんの方はわかるのですが……。代理人の方というのは?」
そう、飯田が聞いてくる。
「初めまして。わたくし、アメリカのトライアルエージェントの代理人を努めております、八神と申します」
松下さんは、そう言った。この八神というのは、もちろん偽名だ。
これはすべて、イタズラ好きの真唯が考えた作戦だ。




