オタクの聖地
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その友だちの名前は、緒川環季。高校、大学のときからの仲良しだ。
気が合うというか、ちょっと好きなものに対するテンションが似ているような気がする。
環季は、バービー人形からリカちゃん人形。フランス人形に至るまでの、可愛い人形が好きだ。
それが相まって、「ゴスロリ」の衣装も、数着持っていたりする。
但し、それを着て、外を出歩くのは恥ずかしいらしい。
それなので、その環季の「ゴスロリ」の姿を見たことがあるのは、片手の指の数ほどしかいない。
もちろん、悠希もそのうちの一人だった。
ちなみに「ゴスロリ」とは、「ゴシックロリータ」の略で、実は日本発祥の文化である。
これは、西洋ゴシック(黒・十字架・退廃)と、ロリータファッション(少女的・可憐・クラシカル)の、この二つが融合した、日本独自のファッション文化で、黒を基調としたドレス、レース、フリル、ヘッドドレス、厚底シューズなどが特徴だ。
それなので、「可愛い」と「退廃的」が同居する独特の美学を持っている。
環季が面白いのが、元々、「文化少女的でクラシカルな美意識の、カワイイの日本発祥のストリートファッションであるロリータファッション」から、「ゴシックロリータ」に移行したことである。
その理由は、「子どもっぽく見られたくないから」ということらしいが、環季は小柄で身長も平均より低いので、どうしても子どもっぽく見えてしまう。
それ以前に、その姿をごく少数にしか見せたことがないので、微笑ましい限りだ。
そんな環季の普段の服装はというと、可愛らしいファッションの一言だ。
待ち合わせの秋葉原駅の前で待っていると、駅の中から、環季が元気よく走ってくる。
「おーーい! 待った?」
「環ちゃん。そんな走ってこなくても、大丈夫だよ。まだ、開店前で時間あるし」
環季は、「アニメ」も好きだったので、「好きなアニメに関連したグッズ」を見に来たのだ。
その「関連グッズが置いてある店には、悠希が大好きなプラモデルたちも、当たり前のように置いてある」のである。
「そうは言われても。もう、楽しみで、楽しみで。悠希ちゃんも、そうでしょ?」
環季は、悠希の「趣味」を知っている数少ない一人だった。
「まぁ、そりゃーねー」
そう環季に言われて、ほくそ笑む。
「ほら、凄く嬉しそうな顔だよ」
「もぉー。そこは突っ込まないでよ。本当のことを言われて、嬉しくない人はいないよー」
核心を突かれて、ちょっと恥ずかしくなる。
「いやぁー。楽しみだなぁー。久しぶりのオタクの聖地」
この秋葉原は、もちろん初めから「オタクの聖地」などと呼ばれていたわけではない。
戦後の秋葉原は、ラジオ部品、真空管、トランジスタ、電気パーツなどを扱う店が密集した、「日本最大の電気街」だった。
それなので最初は、「技術好き」、「機械好き」が集まる、「技術オタクの街」だったのである。
そこに1980~90年代。ゲームやPC文化の中心地になる。
家庭用ゲーム機やPC。同人ソフトが普及し始めると、秋葉原は自然に、「ゲーム・PCオタクの集まる街」になる。
秋葉原に、PCショップ、同人ソフトを取り扱う店。初期のアニメショップ。
ゲームセンターなど、こうした店が増えていき、「電気街から、デジタル文化の街」へと変化した。
さらに、1990年代後半〜2000年代には、アニメや漫画。同人文化が爆発に広がり、この時期に、秋葉原は一気に「オタク文化の中心」となる。
ここで、アニメショップやフィギュアショップ。同人誌専門店。さらにコスプレ文化やメイド喫茶が誕生して、これらが一気に集まり、「オタクが行けば何でも揃う街」 になった。
特に コミックマーケットへの影響は大きく、コミケ帰りに、秋葉原へ寄る文化が定着したことで、「オタクの巡礼地」としての地位が固まる。
そして、秋葉原が「聖地」と呼ばれる決定的な理由は、「オタク文化のすべてが揃っている」ということだ。
それは、アニメ、ゲーム、PC、フィギュア、同人誌、コスプレ、メイド喫茶、ガチャ、レトロゲーム。そして「聖地」の元祖でもある、電気パーツまで揃う、これほど多様なオタク文化が一つの街に集まる場所は、世界でも秋葉原だけとなったのだ。
そして、海外からの観光客も、秋葉原を「アニメの街」として認識したことも大きい。
外国人観光客にとっての秋葉原は、「日本のアニメ文化の象徴」であり、
その結果、世界的にも「オタクの聖地」として認知されるようになった。
この秋葉原が特別なのは、「文化が自然発生した街」ということだ。
秋葉原は、行政が作った「テーマパーク型の街」ではなく、技術者、ゲーマー、同人作家、アニメファン、コスプレイヤーなどが 自発的に集まって文化を作った街。
だからこそ、「聖地」と呼ばれるのに、相応しいのである。




