封筒
(……今日も、やるか。)
デスクトップのパソコンの電源ボタンを押す。
低い駆動音と共に、
デスクの上にある二枚のモニターが起動した。
薄暗い部屋を、モニターの光が照らす。
(……僕、何やってるんだろう…)
画面の中には、赤髪の男がいた。
制服を着崩し、首元には銀のネックレス。
尊大な目つきをした、
騎士学校に通う公爵家の長男…
そういう設定。
配信名 《シェパード・ラインハルト》
マイクアームの角度を調節し、配信を開始する。
「お前達、待たせたな!
このシェパード様が、
今日もbpexをやっていくぞ!」
メインモニターに表示される、
FPSのマッチングを開始した。
サブモニターには、
”2人が視聴中”の文字。
コメント欄に目を向ける。
「待ってました!」
「悠人、今日は静かにね。」
1人は確実に母親だろうが、
もう1人は誰だろう?
「お!マッチングが開始したぞ、
皆のもの。俺様の殺戮ショー、
しかと目に焼き付けるがいい!」
サブモニターに目を向ける。
「きゃー!かっこいいー!!!」
「殺戮ショー?そんな乱暴な言葉、いけません。」
—
「敵発見!さぁ、悶え苦しめー!」
一つ先の建物にいる敵に向け、
フルオートの武器を連射する。
バラララ…
しっかりとエイムを合わせたはずが、
数発程度しか当たらなかった。
タッタッタッ—
その敵が、こちらの建物に向かってきた。
「ふむ…少し、厄介なことになった。
だが、よかろう。
返り討ちにしてくれるわ!」
ジリ…ジリ…
足音がする、ドアの方向に銃を向ける。
ジャリン!
そのドアが蹴り放たれるのと同時に、
左クリックを長押しする。
バラララ!
ドンッ!
僕が撃った弾は、
敵の見事なキャラコンによって回避され、
ショットガン一発で敗北した。
“チーム敗北”
画面中央に浮かんだ、
無情にも思えるその文字に言葉が出ない。
—
「……はぁ。」
(やってしまった。
どんなことがあっても、
ため息は…。)
サブモニターに目を向けると、
ついに視聴者は1人になっていた。
「い、今のは…違う。
その…はぁい北が悔しいという…。」
(僕の理想のキャラクターは、
そんなこと、言わない。)
「きょ、今日は体調が悪くてな…
すまないが、ここで配信終了だ。
また、見に来てくれ…。」
配信終了をクリックしようとした時、
コメント欄に一つの文字が書き込まれた。
「もう終わっちゃうの?
そういえば、
あなた宛に封筒が届いていたわよ。」
(封筒?)
パソコンの電源を落とし、母親の元に向かった。
—
「母さん。封筒って何?
保険とか、そういうのは処分してって…。」
「それがね、あなた宛…というか、
あなたのキャラクターというか…。」
「キャラクター?何を…。」
母親から受け取った封筒には…
《シェパード・ラインハルト様》
そこには、
僕のキャラクターの名前がはっきりと書かれていた。
「あなた!配信中に住所とか、
晒してないわよね?気を付けなさいよ!」
—
自分の部屋に戻り、その封筒を眺める。
いたずら…そう思っていても、気になってしまう。
(僕のVTuberとしての、
キャラクターに宛てた手紙…な訳ないか。)
—
「とりあえず、開けてみるか。」
ピカッ—
その封筒を開くと、
チカチカと細かな星が、
幾重にも重なったかのような眩い光が、
部屋全体を包んだ。




