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第14話 角砂糖には口がない

 名刺に書かれた仰々しい名前――汎魔術理論応用研究所第二分室は、珠子の職場からバスで数十分の場所にあった。

 ヴィトリオルムの前を素通りする人々と同じで、興味本位にちらりと視線を向ける者は一人もいない。


(もしかして、ここにも認識阻害魔法をかけていたりして)


 アンリの膨大な魔力量であれば十分にありえる。

 手渡された名刺は、もしかしたら貴重品なのではないだろうか。風に飛ばされたら怖いので取り出すことはしないが、財布の隙間に無造作に突っ込んだことを珠子は少しだけ後悔した。


 コンクリートの壁とガラス窓が無機質なトランプのデッキのように整然と並んでいる。一昔前のデザイナーズマンションのような外観をした建造物で、まさかこのビルの一室に厄介な魔法使いが勤めているとは誰も思うまい。

 どれほどの規模の研究所かは知らないが、アンリによれば第二分室以外にも研究施設がいくつか存在していて、理由は単純にリスク分散だそうだ。大規模な実験は都心部で行わず、その拠点は限られた者だけが知っているらしい。

 この第二分室の研究内容も機密情報というやつだ。珠子が足を突っ込んでいい話ではない。


 この国で「魔法使い」を名乗れるのは、ニーデラーナ学園を卒業した者だけだ。

 犯罪歴がある者は入学許可を受けられず、魔力封じの術が施される決まりとなっている。しかし、魔力量に応じては、特殊刑務所内でのみ魔力の使用が認められる。決められた刑務作業以外で魔力を使用した場合は罰則があるそうだが、詳しいことは分からない。


 珠子は卒業証書をアンリに預けて日本へ戻った。正確には「必要ないから処分してくれ」と託したのだ。日本で生きるには必要ないものだったから。

 しかし、ニーデラーナに戻ってきたからには話が変わってくる。本来、魔法使いたちは職業に関わらず魔法使いであることの証明を携帯しなければならない。それは警察官が警察手帳を持つのと同じで、日常で魔法を使うための許可証のようなものだ。


 ――魔法使いは狡猾であるべきだ。


 珠子はアンリやヴェスルからそう言い聞かされてきた。

 魔法使いの仕事はインフラと同じで、ニーデラーナや周辺諸国にとってなくてはならない存在だ。とはいえ、魔法使いが必ずしも公僕である必要はない。当然、万人を救うヒーローである義務もない。魔力を持っているからといって万能ではないのだから。


 遠い昔。まだ「魔法使い」という呼び名がなかった時代のこと。

 魔力持ちたちは国家間の紛争や貴族の派閥争いに駆り出され、搾取され、家畜のように扱われていた。これは、ニーデラーナの歴史上、もっとも黒い過去だとされている。

 魔力というエネルギーが正当に評価されず、支配階級は魔力持ちを単なる便利な道具として見ていたのだ。

 今のように職業選択の自由があるのは、その忌まわしい過去があったからこそ。


 ニーデラーナ学園の役割は、魔力持ちを保護し、知恵を授け、魔力を鍛え、正しい道へと送り出すこと。選択肢を増やし、愚者の言いなりにならぬよう導くことが教育方針だ。


 同時に、「求められれば応えよ」とも教わった。つまり、「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」の声は無視するなということだ。医師が急患を診るように、魔法使いでなければ解決できない事態には割を食ってでも首を突っ込め、と。


 魔法使いはファンタジーの役職ではないのだと、改めて実感させられた。




「すみませーん!」


 珠子の大声が廊下に響いた。

 エントランスには人影も気配もなく、呼び鈴や受付カウンターも存在していない。訪問者向けの内線電話も置かれていないし、近代的なロボットの出迎えもなかった。

 監視カメラは設置されているものの、施錠されているわけではないのでセキュリティはガバガバだ。でも、それは普通の会社であればの話。


 アンリの下で働く魔法使いたちが普通であるわけがない。侵入者すら歓迎している可能性がある。館内を泳がせて偽情報をわざと与えるくらいの芸当はやってのけるだろう。

 そして、監視カメラで撮影した映像をドキュメンタリー映画のように仕立て上げ、捕まえた犯人と共に上映会を開催するのだ。

 世の魔法使いたちが全員ひねくれているわけではないけれど、凝り性が多いので茶番のわりに出来がいい。上映後はスタンディングオベーションの拍手喝采だ。

 そして、「次はもっと賢くやれよ」と謎の激励を送って警察へ突き出す。当然、次があるはずもないのだが。


 なぜ、こんなにも具体的な話が浮かぶのかというと、学生寮の侵入者の末路を思い出しただけだ。

 珠子を含め、魔法使いたちは非日常が好きだから。


「おわっ⁉」


 壁だと思っていた場所が突然スライドする。身構えると、そこにいたのは絵に描いたような学者だった。

 履き潰したサンダル、よれよれの白衣、無造作に束ねた髪。そして、特徴的な瞳。

 珠子を出迎えたその人物は、まったく想定外だった。


「え、ラスロくん?」

「ようこそ。タマコ・シモノソノ」


 真っ白な髪の下から、赤い瞳がまっすぐにこちらを見据えている。


「ラスロくんって、アンリ先生と一緒に働いてたんだ!」

「まあ、そう思ってくれていい」


 ラスロ・ムシェはいつも語ることに無駄な熱を込めない。彼は再会の喜びを感じさせない淡々とした口調で言った。


「アンリ先生は?」

「出かけている」

「ええ? 約束したのに」


 簡潔すぎる返答に、珠子は思わず肩を落とした。

 アンリは神出鬼没の気分屋で、約束を取り付けたとしてもすんなり会える確率は七割程度だと言われている。十年前からなにも変わっていないらしい。


「アンリ・グスメロリが戻るまで、ボクが相手をしてやろう」


 ラスロは部屋の中へ珠子を導きながら言った。そして、唐突に切り出す。


「タマコ・シモノソノは、リズワン・ホーガンロチェスターに会ったのか?」

「会ったけど……それ、リズワン先輩から聞いたの?」

「まさか。彼は口が堅い男だからな」


 ラスロの身なりとは対照的に、部屋は整然と片付けられている。ごちゃごちゃと絡まるコードまみれだとばかり思い込んでいたが、怪しげな実験器具はなにもない。そもそも、室内には必要最低限の家具と書物以外に物が見当たらなかった。


「じゃあ、なんで?」

「調べれば分かることだ」


 一言で済ませる姿勢も昔のままだ。


「それ、リズワン先輩には言わない方がいいよ」


 珠子は小さく笑った。情報を取引して稼ぐリズワンが聞いたら泣くに違いない。彼は今、まさに「調べても分からないこと」の存在にぶち当たっている最中だから。


「アンリ・グスメロリは君を大事にしているからな」


 なんの脈絡もなく、ラスロはほろりと言葉をこぼした。


「え?」

「タマコ・シモノソノをやつらから隠したいらしい」

「なに。なんの話? やつらって誰?」


 ラスロはいつの間にか用意したティーバッグの紅茶を珠子の前に置いた。


「ありがとう」

「ボクはリズワン・ホーガンロチェスターほど味にこだわりはない。このメーカーは国民であれば誰もが聞いたことのある老舗で、万人受けする味のはずだ」

「え?」

「一杯にかかるコストがゼロひとつ違う、ということだけは言っておこう」


 ラスロとの会話は連想ゲームだ。突飛で的を射ないようで、実はすべて繋がっている。それを拾い上げるこちらの身にもなってほしいところではあるが。


「君は紅茶が好きか?」

「え? まあ、そうだね。好きかも」


 ラスロは角砂糖をカップに落としていく。ひとつ、ふたつ。みっつめを落とす直前、顔を上げて珠子の目を見ながら言った。


「君が選んでいた茶葉は、あの店の中でも一年に数回出るかどうかの高級品だ」

「え」

「一杯でこのティーバッグがいくつ買えるかな」

「ラスロくん、実はどこかで見てた?」

「さあ、どうだろうな」


 底知れぬ笑みだ。否定もしなければ肯定もしない。

 よっつめの角砂糖がカップの底に沈み切ったとき、ラスロはようやくティースプーンを手に取った。


「リズワン・ホーガンロチェスターはあれくらいで破産しない。安心したらいい」

「……さすがに経費じゃ無理だったかな」


 ラスロは珠子の呟きを拾わず、湯気の出るカップに口をつけている。

 不思議なことに、機械音や物音が一切聞こえてこない。ラスロ以外にも研究者はいるはずなのに、視線も気配も感じなかった。部屋には二人きりだということは分かっていても、こんなにも建物全体が静まり返っているものなのだろうか。

 そんなことを考えながら、珠子は角砂糖をひとつだけ混ぜた。


「アンリ・グスメロリは、君が安心して元の世界で暮らせるようにと心から願っていた」


 カップを握ったままのラスロが、ふいに口を開く。

 青白く、不健康そうな肌。赤い目、真っ白な髪。ヴァンパイア種特有の長命性を備えた姿は十年前となにひとつ変わっていない。

 そういえば、以前「うさぎみたいだね」と言ったら怒られたことがあった。


「……戻ってきちゃったけどね」


 ぽつりと珠子が言うと、ラスロは頷くような素振りをした。


「ニホンでの暮らしが平穏ではなくなったのではないか?」

「え?」

「元の世界で、生活を揺るがすような嫌な出来事があった。違うか」


 言葉の意味は正しく理解したのに、頭がうまく回らない。

 ニーデラーナに戻った日のことは思い出せるのに、日本に帰ってから過ごした一年間の記憶があまりにも曖昧だ。まるで、夢から覚めた直後にすべてを忘れてしまったかのように。

 でも、自分にとっての日本はそんなものだったのかもしれない。郷愁をごまかすための言い訳にしてはセンスがないけれど。


「ニーデラーナに戻ってきたのは、わたしが願ったからってこと?」

「仮説にすぎない」


 ラスロはカップの底を見つめたまま、「ただ」と言葉を継いだ。


「アンリ・グスメロリは稀代の魔法使いだ。彼の魔法は正確で、適切で、無駄がない。君にも周りにも、過不足なく魔力を行使した」

「アンリ先生の魔法に間違いはなかったってこと?」

「そうだ。君は黙って日本へ帰った。そして、周囲の男たちは君を探した」

「……探した?」

「心当たりがあるのでは?」


 直後、まるで魔法にかけられたかのように嫌味な声が脳内に響いた。


 ――所在不明のまま長らく話題に上るなど、指名手配犯も顔負けの人気ぶりですね。

 ――ご自分が懸賞首のような扱いをされていることをご存知ないんですか?


 再会したデリクは嫌味のオンパレードで、なにをそんなにカリカリしているのだと呆れたものだ。

 デリクの取引相手が偶然にも珠子の客で、十年も失踪していた女の新規情報に食いつき、ミイラ取りがミイラになった。

 デリクに対する認識はその程度だった。あの日は彼の言葉がすべて皮肉にしか聞こえなくて、本当に珠子を探している人がいるなんて思いもしなかったのだ。


「男という生き物はだな、君が思う以上に愚かで、粘着質で、独占欲が強い。君を探そうとする男は存外に多かった。女の魔力持ちは珍しいからな」

「わたしを実験台にしたかったから?」

「それもある」


 一度目の召喚のとき、魔法よりも先に国の歴史や言語といった「世界の常識」を学んだ。言葉が通じても常識を知らなければ生活に支障が出るし、文字が読めなければ騙されていても気づけない。

 魔力が発現するのは基本的には男だけと聞き、「つまり、みんな童貞ってことですか?」と尋ねてヴェスルにひっぱたかれたことを思い出す。


 身体検査で珠子に魔力があると判明した日、アンリは即座に緘口令を敷いた。魔力量測定に同席した教師と研究者には誓約書まで書かせている。理由は単純で、魔力持ちの女という未知の存在を欲しがる者が押し寄せることは目に見えていたから。

 魔力量測定に同席した研究者の中にはラスロもいた。彼は珠子と同級生ながら、すでに研究者として名前を連ねていたから。


「も、ってことは、ほかにも理由が?」

「それを言う必要性は感じない」

「ええ……」

「女をただの女として見られない目の腐った男が多いということだよ」

「ラスロくんも?」

「さあ、どうだろうね」


 ラスロの声色は興味なさげなのに、なぜか口角が微かに上がっている。

 感情が表情に滲むというのはラスロにしては珍しいことだ。十年という月日が、彼に新鮮な情緒を与えたのかもしれない。


「欲がない男はいないかもしれないが」

「が?」

「ボクの信念には一貫性があるからな」

「……つまり?」

「ボクの目は腐っていないということだよ」


 ラスロは相変わらず回りくどくて謎めいた言葉選びをする。

 彼は長命種だが、実際の年齢は知らない。一度だけ聞いたことがあるけれど、「ボクたちヴァンパイア種は自分の年齢を正しく把握していないものだよ」と返されて曖昧なままだ。

 珠子はニーデラーナ国にも出生届や戸籍のような概念があることを知っているが、それは黙っておいた。きっと、神秘性を大事にしている種族なのだろう。


 一般的に魔力が発現するのは十歳から二十歳の間だと言われているが、種族によってはこの限りではない。年齢によって入学年齢が定められている他科とは違い、魔法科の生徒の年齢はまちまちだ。

 また、魔力が発現した直後に入学となるため、魔法科に限っては入学も卒業も一斉ではない。理由は、魔力が発現した直後にこそ正しい魔力コントロールを学ぶべきとされているから。


「まあ、男も女も平等に欲はあるよね」

「タマコ・シモノソノの欲はなんだ?」

「欲? 難しい質問だね」

「ニホンへ戻りたいか?」

「……直球だね」

「当然の欲求だろう」


 ラスロの声色は相変わらず淡々としたもので、珠子への配慮は一切含まれていない。彼にとっては答え合わせと同じなのだろう。


「タマコ・シモノソノは賢い。返還術が一度きりだということをきちんと覚えていて、正しく理解している。だからアンリ・グスメロリにもボクにも詰め寄らない。違うか?」


 彼の言う「賢い」という言葉は犬が芸をできたときに褒めるのと同じ響きがする。苛立つことはないけれど、生きている時間の流れの違いを感じる瞬間でもあった。


「それ、褒めてくれてるんだよね?」

「言葉以上の意味は含まれていない」


 アンリとラスロは長命種ならではの寛容さと落ち着きを持ち合わせているが、表情の豊かさや語調には当然個性が出る。でも、掴みどころのない語り口は、いつもどこか似通っていた。


「念のために聞くけど、もう戻れないんだよね?」

「そうだ」

「わたしが泣いて暴れても? 魔法省を訴えても?」

「そうだ」

「じゃあ、しょうがないね」

「……聞き分けがいいな」


 子どもの癇癪を受け止めようとして失敗した顔でラスロが言った。


「わたしも、大人になったからね」

「たった一年で?」

「女は一年で成長する生き物なの! それに、欲深いのはうちの店の豚だけで十分」

「は? 豚?」


 ラスロが目を見開いたのを、珠子は初めて見た気がする。

 なんでも知っている彼のことだから、珠子の勤め先もとっくに突き止めていると思っていた。もしくは、アンリから聞いたとか。

 余計なことを言ってしまったという後悔と、知られるのは時間の問題というあきらめがせめぎ合う。でも、珠子は過去を振り返らない女だ。


「……ラスロくんも、興味があったら是非」


 名刺は渡さないし店の名前も言わないが、ラスロであればあっという間にドムス・ヴェネニにたどり着くことができるだろう。


「どんな店か、聞いても?」

「ラスロくんだったらすぐに調べられるでしょ」

「アンリ・グスメロリが、それを許すかな」

「まあ、大人の社交場だよ。広義で言えば」


 その直後、「ドゴン!」という音がしたのを皮切りに、研究所全体の空気がざわつき始めたのが肌で感じ取れた。

 ラスロは長いため息をつき、砂糖まみれの紅茶を一気に飲み干している。


「なんか、急に騒がしくなったね? 実験でもしてるのかな」

「起きたんだろう。ほかのやつが」

「え、職場に寝泊りしてるってこと? 大変だなぁ。研究者って、昼夜逆転してる人が多いの?」

「……まあ、そんなところだ」


 いまだアンリが戻る気配はない。ラスロは気にした様子もなく、二杯目の紅茶をカップに注ぎながら言った。


「タマコ・シモノソノ。紅茶のおかわりは?」

「いいの? じゃあ、お言葉に甘えて」

「安い茶葉だ。遠慮せず、いくらでも飲むがいい」


 ラスロは親切心で言ったのかもしれない。

 珠子は今日までに飲んできた紅茶の風味を思い出そうとして失敗し、もっと味わっておくべきだったと今さらながら後悔した。

 珠子の味覚や価値観は庶民のそれと同じだ。ゼロひとつどころか数個も違う世界に生きるリズワンとは、紅茶一杯にかける情熱に天と地ほどの差がある。


「あのさ、ルクス・エクリプスって知ってる?」

「知っている。君の口からその名が出るとはな」

「高いお酒らしいんだけど、そんなに価値があるの?」

「ああ。市場にはまず出回らない。手に入るのは大抵オークションか、よほどの伝手がある者だけだ」

「どのくらい高いの?」

「オークションでの落札額は――古い石造りの邸宅が一軒、一括で買えるかもしれないな」

「え、お城みたいな?」

「まあ、似たようなものだ」


 綺麗に積みあがった角砂糖が邸宅の壁に見えてくる。ラスロはその中から無作為にみっつを摘まみ上げ、ゆっくりとカップに落とした。


「別名、『飲む金塊』と呼ばれている。言い得て妙だな」

「は、はは」


 珠子は過去を振り返らない女だ。

 今になってようやく、ルクス・エクリプスを差し出したときのリズワンの表情と、想像以上の熱心な調査の理由を正しく理解した気がする。

 彼が言った「一杯で高級クラブの一夜を丸ごと買い取れる」という例えは適切だったか、もしくは甘く見積もった結果だったのかもしれない。

 珠子は高級茶葉の値段を知らないが、一杯や二杯程度でリズワンの懐が痛むはずがないと今なら言い切れる。


「ちなみにさ」

「なんだ」

「わたしが選んだ茶葉は、なんて名前なの?」

「ヴァルミュゼールだ」


 ラスロはよっつめの角砂糖を摘まみながら前髪をかき上げて言った。まるで、自分もその場にいたかのような堂々たる口調で。


「どうしてそう言い切れるの?」

「調べれば分かることだからだ」

「それさ、絶対にリズワン先輩には言わない方がいいよ」


 大ぶりの角砂糖がカップの中で溶けていくのを、珠子は見守った。


「値段は聞かないのか?」

「それこそ、調べれば分かるもんね」

「タマコ・シモノソノは賢いな」

「……本当に、褒めてくれてるんだよね?」

「言葉以上の意味は含まれていない」


 シュガートングで角砂糖を掴み、紅茶に沈める直前。珠子は「まさか、この砂糖も高額なのではあるまいな?」と疑い深く眺めた。






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