第12話「夢に向かって」
「キュートビッククロス」
私が叫ぶと1枚の大きな布が空中に現れ、バラバラになった怪物に覆いかぶさった。
「マグマシェイクパンチ」
刹那にマグマレッドが地面に向かってパンチする。地面が揺れ、怪物が布の下で宙に浮いたのが見えた。私は急いで布の角を掴む。
「いくぞ」
「はいっ」
左の角を掴んだマグマレッドと同時に走る。
「マグマレッド、うしろっ」
「マグマセンキュー。あっ、そっち、出ていきそうだぞ」
「フリルパンチ! 助かった、ありがとう」
お互い声を掛け合いながら、怪物の攻撃をさけたり、逃げ出しそうになった怪物に攻撃していく。何故かマグマレッドとは長年一緒にいる家族のように息があった。
「よし、次だ」
「ハートラッピング」
マグマレッドの合図で、呪文を唱えると大きなリボンが布の口を閉じ、怪物を閉じ込めた。
「学校はどっちなんだ?」
私が魔力を感じる方向を指さすとマグマレッドが頷いた。
マグマレッドの案は閉じ込めた怪物を1箇所にまとめ、怪物が衝撃を受けて弾けた時の力で学校まで行くというものだった。
受けた衝撃の力で倒していくのでマグマパンチでも倒せそうだという。
布は大きく波打っていた。時間はない。
「マグマレッド、お願いします」
「おぅ」
マグマレッドが、袋の輪になっている方へ向かう。そこから叩くことで、袋の入口側にいる私は飛んでいくはずだ。
「頑張れよ」
「えっ、なんて」
「イラプションパンチ」
パンチをする前のマグマレッドが何か言った気がするが、遠くてよく聞こえなかった。マグマレッドが叩いた場所から衝撃が私がいる方に近づいてくる。
「フリルバリア」
衝撃に備えバリアをはる。上手くいくかは正直分からなかった。飛んでいけても、学校まであとどのくらいの距離があるか分からないのだ。間に合うだろうか。
しかし、もう止まれない。私はなるって決めたのだ。火山の名前を捨て、魔法少女に。前に崖の下で見た、百合の花のように可愛く強い存在に。
怪物をラッピングしたリボンが解け、衝撃が私を襲う。凄い力だ。これなら普通に飛んでいくよりは十分早いだろう。マグマレッドを見ると、マスク越しになぜか少し寂しそうに見えた。
*************
「師匠、甘いっすね」
「あかね、いたのか」
姫ちゃんが飛ばされ見えなくなってから、私は師匠、マグマレッドに近づいた。マスク越しでもマグマレッドオタクな私には違いが分かる。あんなに優しく寂しげな父親の表情をするマグマレッドは初めて見た。さっき撮った写真は部屋に飾ろう。
「結局、師匠がパンチして倒しちゃったじゃないですか。姫ちゃんの力にならないですよ」
「怪物があいつの力で小さくなったからこそ出来たことだ」
師匠は何だか嬉しそうだ。
「でも良かったんですか? ベルト継いでもらわなくて」
「夢は親が決めるもんじゃないからな」
師匠が息子にどれだけベルトを継がせたがっていたか、私は知っている。
ヒーローも魔法少女も、正体を明かしてはいけないと言われている。それはもちろん、家族にもだ。私がヒーロー学校に通って最初にマグマレッドから教わったのがその事だった。
姫ちゃんも魔法少女学校でその事を学ぶだろう。だから、私たちは姫ちゃんが夢を叶えられるか分からない。
「姫ちゃん、魔法少女になれるかな」
「なれるに決まってるだろう」
マグマレッドは断言した。
「あいつは俺の自慢の息子だからな。さて」
マグマレッドが時計型端末を操作し電話をかける。
「もうすぐ着くから後は……って、お前もう呑んでるのか」
相手は分からないが、かなり親しい間柄の人のようだ。砕けた口調で話すマグマレッドもまたかっこいい。
「師匠、姫ちゃんがマグマレッドを継がないってことは、私がマグマレッドになるってことですよね?」
電話が終わったのを確認して、私はマグマレッドに尋ねた。マグマレッドを継承するのはこの私。確認は大切だ。
もちろん怒られるのは分かっていた。私はまだまだマグマレッドになるには程遠い。案の定、馬鹿野郎と怒鳴られた。
「当たり前のことを聞くんじゃない。お前以外に誰がいるんだ」
「ですよね。……ってえっ。今なんて言いました?」
「あいつの練習に付き合ってくれたこと、感謝しているぞ」
なかなか褒めないことで有名な師匠が感謝、だなんて!
「やったー」
私は、火山が噴火するかのように大きく両手をあげた。憧れのヒーローに認められたんだ。
「私、師匠より絶対マグマかっこいいヒーローになります!」
嬉しい気持ちを抑えきれなくて飛び跳ねる。
「やっぱ勘違いだったかもしれん」
マグマレッドが苦笑している気がするが、マグマレッドが嘘をつかないことを私は知っている。
「私がマグマレッドだーー」
天を仰ぐと桜のつぼみが夕日に照らされ赤く染まっているのが見えた。
春はすぐそばまできている。
*************
怪物が弾ける勢いで、私は飛ばされていた。
雲を超え、しばらくすると、目の前に大きな扉のようなものが現れた。
大きな魔力を感じる。あそこが魔法少女学校の入口に違いない。豆粒のように人が小さく見える。
そして気がつく。どうやって止まればいいんだろう。
扉の近くに立っていた人が慌てていた。私も翼を広げ何とか止まろうと身体を捻る。しかし、勢いは弱まらない。扉はどんどん目の前に近づいてきて私はどしんとぶつかった。




