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紫雲の國の玉水の恵み  作者: テディ
二の巻
42/153

晴天

 変わらずに、毎日稽古に明け暮れている私……。

でも、変わらないって大切な時間。

その時間に感謝して、過ごしていくのも幸せな時間だと思うの。


そんなある日突然、伊吹様のお宅に、お呼ばれすることになったの。

伊吹様、お休みが取れたんだって。私を呼ばなきゃいけなくなってから、

ほぼ半年、休暇がなかったんですって。それは、マズイ気がする。

いけません、ブラック就業……。

仁様は笑って、教えてくれたのよ。

「あいつは、どこにいようと仕事が舞い込んでくる奴だから、

自宅でも変わりないさ」


おお……、そうですね……。

常に見えないものと話をしていそうなんだもの。


そうして、いつものメンバー、実道様と仁様と千隼様と小春と私。

菊次郎様は、今日は薬草取りに出かけなければならないので、

ご一緒できないんだって。

船でのんびり出かけようとなっていて、小春は途中の船着場で

乗り込むことになったの。


この世界に来て気がついたの。船って便利。

やっぱり歩くよりも断然速いし、街の裏側を見たりできるから

私にとっては、本当に面白い。


小さな船着場にも、色々な顔があるんだもの。

荷物を付けられる様に、(くら)の様な建物が立ち並んでいたり、

小道を見ると、小さな子供が集まって、遊んでいたりする。

表通りだけ歩いていても、そこに暮らす人の様子は見えないものね。

だから私は、今度 橙矢様から屋敷の地図を書き写させてもらうことになってるの。

すごく楽しみ!!


そして、船着場から少し歩くと、そこは職人さん達が集まる地域だった。

……??……伊吹様、職業は職人になるの?

なんだか腑に落ちない中、みんなの後にくっついていくと、

こじんまりしたお屋敷についた。こじんまりと言っても、

かなり立派だよ?清志郎様のお屋敷よりは小さいけど、

門構えも立派だし、お庭も広い。


仁様が取り次ぎを頼むと、伊吹様と、何やら元気な女性が……。

「ああ、皆さん、よくいらっしゃいました。ああ、あなたが雫様ね?!

お会いするのを楽しみにしていたんですよ。

私は、胡蝶(こちょう)。伊吹の妻です」


んん??? 今、妻って……?!?!?!

伊吹様、お嫁さん居たの?!

驚きを表現する間も無く、どうぞどうぞと客間に通していただき、

さて、待っててくださいね、と胡蝶様はパタパタと走って行った。

小春が、手伝ってくるわと言ったので、私も……と言いかけると、

小春は笑って、今日は伊吹様から

お話を聞いた方が良いんじゃない?言われてしまったの。


お茶を飲みながら、目を丸くしていると、仁様がクスクスと笑い出した。

……仁様……。絶対面白がって隠していたでしょう……。

ジトっと仁様を見ると、まだ笑っている。


「雫様、胡蝶とも仲良くなっていただけると、

私も大変嬉しいです。胡蝶は元気でハキハキした女性です。

彼女は(かんざし)を作る職人なのですよ。

私の妻は、本当に手先が器用で……。あとで、雫様にも

お贈りしたいものがあると申しておりました。

良かったらもらってやってくださると、喜ぶと思います」

伊吹様は、相変わらず美しい所作でお茶を飲みながらニコニコしていた。


つられてニコニコしたものの、聞いて良いのかしら……?

伊吹様は、いつでもお屋敷で仕事をしている印象もあって、

そして神様?に使えていらっしゃるから、

結婚はしない職業なのかな?とか……。

……勝手に思い込んでて、すみません……。

でも、この伊吹様の様子を見る限り……、

この表情と似た人を1人知っている気が……。


その私の考えを読んだかの様に、実道様が教えてくれた。

最近の実道様は、もはや超能力者の様に、私の疑問を読み答えてくれる。

「雫、もしかしてではなく、伊吹様も清志郎様同様、奥方様を

溺愛しております。清志郎様の時と同じ様に、

あてられない様にしなさい」


……はい、そうします……。


そんな私たちのやり取りに、伊吹様は首を傾げていた。

「雫様、雫様の世界の祈りの民は、妻を娶らないのですか?」

「いえ、いいえ。昔は、そういう時代もありましたが

今は皆さん家族を持っていらっしゃいますよ」

「そうなのですね。ではそこはこちらの世界と同じなのですね」

静かに答えてくれた伊吹様の脇で、仁様はまだ笑っている。

仁様は、伊吹様達の大恋愛について話してくれたの。


「雫、伊吹はな、女子(おなご)には、まるで興味がなかったんだ。

ある日、たまたま俺と職人街を歩いていてな、胡蝶を見つけたんだ。

俺たちは同じ歳だ。小さな頃の学問所は一緒だったが、

そのあとアイツは師匠の元に弟子入りしたから、接点がなかった」

「伊吹様、大人になった胡蝶様、よくわかりましたね」

目を丸くしたまま尋ねると、仁様が笑って答えた。

「伊吹はな、突然、簪に飾りを取り付けている胡蝶の隣に座って

求婚したんだ。やっと見つけました、私の伴侶様。

この後はお時間はありますか?ってな」


それは、危ない人では……?


「胡蝶は、ジッと伊吹の顔を見て、寝言は夜になって言いなって

一蹴していたんだぞ。胡蝶が折れるまで、伊吹は

仕事場に通い詰めたんだ」


おお、そこからどうやってご結婚まで?

かなり厳しい道のりの気がします……。


「こいつはな、小さな頃の胡蝶の話を楽しそうに

聞かせ続けたんだ。覚えていられる方も、驚くよな。

何が胡蝶の心に響いたんだか、あっという間に祝言を上げて

この通り、奥方を溺愛する夫の出来上がりってとこだ」


口を開けたが、何を話していいか分からない。

実道様が、言葉が出てこないでしょうから

口は閉じておきなさいと、先回りしてくれたのだった。

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