一片
着いた〜〜!!清志郎様の屋敷に到着しました。
そして、とても広い敷地であることが分かりました。
さすが師匠……。
もちろん、勇隼様の屋敷よりは小さい敷地なんだけど、
建物の棟は2つもあるし、庭も池もある。
……立派なお屋敷だよね。
屋敷につくと門番が中に入れてくれて、清志郎様の奥様、香代様が
お出迎えに来てくれていました。この奥様、清志郎様の幼なじみで,
小さな頃からの許嫁だったんだって。
師匠、仕事が早いです……。香代様は、茶道の師範でいらっしゃって、
普段はお稽古場で、たくさんの生徒さんをみていらっしゃる。
想像通り、所作の美しい方で、微笑ましく見つめる清志郎様に、
こっちが照れちゃうよ。
実道様と千隼様から、惚気タップリにあてられるので、
流すことを覚えるように、事前に指導を受けた。
……その通り、流すことも、みて見ないフリすることも大切!!
こっちが真っ赤になっちゃうよ……。
香代様は穏やかな方で、後で私たちのために
茶室でお茶を立ててくださるって約束してくださったの!!
マズイ……茶道はやったことはあるけど、本格的に極めてない。
作法は一緒かどうか、後で確かめなきゃ。
「今日は、蒼はどうしたんだ?」
庭を眺められる部屋で、清志郎様はお茶を飲みながら
ゆっくりと私を見た。
「はい、一緒にと誘って見たのですが、今日はお友達と居るようです」
私が答えると、清志郎様はにっこりとした。
「そうか、では蒼の見立てでは、今日は雫に危険がないのであろう。
ゆっくりしていくと良い」
……そうか、そう考えることもできるんだ……!!
「なんだ、雫は、そうは考えなかったのか?」
「……、はい。1度目は道場で、蒼はいませんでしたから……」
「そうか。毎回、蒼が気を張っているかと言われれば、心許ないが……。
あれから雫のそばに居たがる時と、そうでない時の差がハッキリしてきている。
蒼が道場でそばにいる時は、お前をジッと見ている。
蒼は蒼なりに、何かを見極めようとしているやもしれん。
雫も、少し心に止めておきなさい」
その通りです……。
「はい。気をつけるようにいたします」
「時に雫。お前、元の世界に恋仲の人は居たのか?」
とても師匠の口から発せられたとは思えない質問に、
私はお茶を吹き出しそうになった。
「はっ!?!? ……グッ……、ゴホッ…ゴホッ……」
動揺しまくりで、むせている私に、千隼様が気の毒そうに背をさすってくれた。
「清志郎様、……さすがに単刀直入すぎるかと……」
「ん?? 千早様、そうですか?こういった話は、湾曲するほどこじれます。
素直に聞くのが1番だと思いますが」
いや、師匠……、それもごもっともだとは思いますが……。
「グッ……、……ゴホッ、ゴホッ……。
あ、あの……、すみません。
まさか清志郎様から聞かれるとは思わなかったので……」
「そうか?別に、皆に婚姻を進めているわけではない。
ただ、お前を支える人物が現れると良いと思ってな」
「ああ、そういう訳だったんですね。元の世界で恋人が居たこともありました。
あ、恋人っていうのは恋仲の人っていう意味です。
でも……」
言いよどんだ私に、清志郎様は静かに視線を寄越した。
「でも……?」
「なんて言ったら良いですかね?良い人だったんです。
でも私は学者への夢を捨てられませんでした」
「その御仁は、雫に夢を諦めろと?」
「いいえ、ハッキリそう言った訳じゃないんですけど……。
彼と婚姻したとして、彼も研究者なったので家のことは
必然的に私がすることになるのが、目に見えていました。
家のことをしたくないわけではなかったんです。
でも、たぶん両立はできない。私の元いた世界、国は
そういう風習のある場所だったんです」
もう何年も前の話だ。結局、私は自分の夢が1番だった。
ただそれだけのことだ。彼には幸せになって欲しかった。
よくある話、よくあるパターンだ。あ、高校生の時も彼氏いたよ!!
恋に恋して、浮かれてた。
そんなに暗くなる話ではない。縁がなかった。それだけの事だ。
実道様が、にっこりと微笑んだ。
「そうですね、雫。身なりで思わず動揺しますが、
貴方は大人の女性なのです。自分でしっかりと考えて選んだ道だったのでしょう」
うん、実道様。その憂いのない笑顔。悪気はないって分かってます。
身なり……、そんなに子供っぽいかしら……。
「そうか、雫。落ち着いたら、周りもよく見なさい。
余裕ができれば心境も変化する。その時に、雫に幸せがもたらせられるよう
皆で祈っておこう。それが私からできる感謝の印だ」
「清志郎様、もう充分によくしていただいています。
感謝するなら私の方です。少しでも恩返しできるように精進します」
そう言って頭を下げた私に、清志郎様は頬を緩めた。
奥様を見る時の表情とは雲泥の差だけど、お父さんにかけてもらえる愛情のような
そんな暖かさがあった。うん、私、やっぱり結構恵まれている気がする。
異世界に飛ばされて、そう思えるのが私の良いところ。
そう思っておこう。
そんな話をしていると、準備ができたからと
香代様が、声をかけてくれた。
その時、ふと気がついたのだ。香代様のおヘソのあたりが光ってる?
ん???最初に出迎えてもらった時は、光っていなかった。
目の前に見えるものが、果たして理由があるものなのか。
半信半疑で、香代様の茶室に招かれることになったのだった。




