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百年前の同居人  作者: 境陽月
はた迷惑な父と娘
9/39

物は試し、ということで

やがてドラマも終わり、私の背後でカタリと音がしました。

じいさんが椅子から立ちあがったようです。


「さて、邪魔をしたな。わしは寝るが、お前さんはまた徹夜か?」

「う―――ん?どうかなぁ。アイデアが全然出なくてさぁ」


今は次回作の構想を練っているところ、といいたいのですが。

実は前日の打ち合せで担当さんにボロボロにされてきたところでね。

いわく「ヒネリがない」

いわく「先の展開が読めちゃう」

いわく「キャラの魅力が感じられない」etc…………


「ほれ見ぃ、わしのいったとおりじゃろが」


時の彼方からの勝ち誇った声が私のハートにグサグサと突き刺さりました。

打ち合せに出かける前にちょっとじいさんに聞いてもらったのですが、これまたボロクソにけなされてました。

しかも百年前の人間に「目新しさが全然ないのぅ」なんていわれりゃプライドもボロボロです。


「そんなにいうなら、じいさん。なんか新鮮なネタくれよ」


百年前の人間に新しいネタねだる時点で、もう追い詰められちゃってるわけですが。

じいさん、やっぱり「イヒヒヒ」と意地悪く笑うだけでした。


「チッ、ネタくれないんならさっさと寝てくれ」

「お、今のお前さんの声、なかなかよかったぞ」


「そうかい?どのへんがよかった?」

「ふてくされたブス―ッとした顔がありありと脳裏に浮かんだぞ。どうじゃ、その顔でテレビ役者を目指しては?」


「…………俺も今、はっきり脳裏に浮かんだぞ。ひねくれたジジィが底意地の悪そうな顔で笑ってるのが」

「ほほう、わしも名優の仲間入りかい。舞台俳優でも目指してみるかの」


私はプッと吹き出し、じいさんはヒッヒッヒッと笑い声を立てました。

ひとしきり笑った後で私はポツリといいました。


「ほんと、あんたの顔を一度見てみたいよ」


実現するはずのない望みです。

そもそも声が通じてる原因さえわからないんですから。

この後何度か、学者に調査してもらおうかと考えたこともありました。

しかし静かな生活を壊されそうでためらっているうちに、あんなことになってしまって。

あ、いえ、それはもっと先の話ですね。


「……そんなにわしの顔、見てみたいか?ほんじゃあ、ちょっと試してみるか?」

「試す?何を試すんだい?」


「ちょっと待っとれ。すぐ戻る」


コツコツと急ぎ足の足音が部屋を出ていきました。

階段を降りてしばらく一階でゴソゴソしていましたが、再び上がってくる足音が聞こえました。


「?なんだ?じいさん、何やってんだ?」


じいさんの足音はパタパタと私の前を通りすぎ、壁の前で止まりました。


コン、コン。


壁を叩く音がしました。


「おい、若造」

「なんだよ、いきなり」


「そっちから見て壁のここら辺に板を打ちつけ直してないか」


いいながらまた、壁を叩いています。

何のつもりだか最初はわかりませんでした。


「どういう意味なんだ?」

「いいから!修理したような跡はないか、と聞いとるんじゃ。さっさと調べんか!」


「なんなんだ、まったく。……と、何もないぜ」

「よし、ではここは?」


コンコンコン。


「やっぱし何もないな」

「では、次!」


コンコンコン……


そんな意味不明の行動を繰り返すこと数回。

やがて私は壁に不自然なつなぎ目を見つけました。


「あったぜ、ここんとこに板を打ちつけて直してる」

「よっしゃぁ!わかった、ここじゃな!」


ガンッ!


今度は思いっきり叩いた音です。


メリメリッ。


壁板を剥がしてるとしか思えないすごい音。

一体何をやっている、いや、やっていたのでしょう?


「お、おい、じいさん?」

「もーちょっとだけ待っとれ。いや、そっちからすれば今すぐでもいいのか?とにかくじきに終わるわい」


そしてカンカンと釘を打つ音が聞こえてきました。

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