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【完結】おいしい世界をふたりじめ!  作者: さき
第7章【「ただいま」を二人で】

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07:ガードナー家の恋人達

 

「ステラ、お茶をしましょう。旅の話を聞かせてちょうだい」


 楽しそうに笑いながら夫人が手を引いてくる。まるで子供が遊びに行く時のようだ。

 だがそこに待ったが掛かった。それと同時にステラの片手がグイと引っ張られる。

 右手を取るのは夫人だ。対して、まるで連れて行かれまいと左手を掴むのはエリー。その背後には仲の良いメイド達まで控えている。


「奥様、確かにステラとオーランド様はお付き合いをしていますが、まだ正式な婚約もしておりません。つまり今のステラはメイド、私達とお話をするんです!」

「あら、メイドの反逆だわ。私、ステラが帰ってくるのをずっと待っていたのよ」

「私達だって待っておりました」


 両腕をそれぞれに引かれ、ステラが困惑の表情を浮かべた。

 夫人が受け入れてくれた事を嬉しく思う。旅での出会いは今すぐにでも彼女に話をしたい。特にカルテアの事を話せば、夫人はさぞや興味深く聞いてくれるだろう。

 だがそれと同じくらい、エリーやメイド仲間達とも旅の感動を分かち合いたいとも思う。オアシスでは水着のまま焼いた肉を手掴みで食べたと話せば、彼女達はさぞや驚くに違いない。

 どちらを優先するかなど選べるわけがない。……選べそうにもないのだが。


 そんなステラの心の中の救援要請を受け取ったか、オーランドが「落ち着いてくれ」と割って入ってきた。

 ステラの肩をグイと掴んで引き寄せてくる。誰よりも強引でいて誰よりも優しい招きかたに、ステラはほんのりと頬を染めて彼に寄り添った。


「せっかく二人で戻って来たんだ。荷物の整理もあるし、少し二人きりで余韻に浸らせてくれ」

「ぼっちゃま……いえ、オーランド様」


 ステラがオーランドの名を呼びつつ彼を見上げる。

 黒い瞳のなんと凛々しい事か。

 夫人に旅の思い出話を聞いてほしいし、メイド仲間達にも話をしたい。だがそれよりもオーランドと一緒に居たい。トランクの荷を解きながら二人で旅の記憶を辿るのだ。

 それはなんて優しく甘い時間だろうか。ステラはうっとりと酔いしれながら、「はい」と答えようとし……。


「何言ってるの、駄目に決まってるじゃない、オーランド。あなた今の今までステラを独り占めしてたんだから、帰ってきたなら母に譲りなさい」

「申し訳ございません、オーランド様。たとえオーランド様とはいえステラの独占はいけません。ステラは我々メイドに譲っていただきます」


 ピシャリと断る夫人とエリーに再び引き寄せられてしまった。

「あら?」とステラが間の抜けた声をあげた次の瞬間には、再び左右の腕で取り合いが始まってしまう。それどころか敵をオーランドに定めたのか、夫人もエリーも顔を見合わせてオーランドを『ステラの事になると我が儘』と言い始める始末。

 これにはステラも目を丸くさせ、オーランドはといえば肩を竦めて溜息を吐くだけだ。


「奥様もエリーも落ち着いて、それなら皆でお茶をしましょう」


 ねぇ、とステラが譲歩案を出せば、夫人とエリーが名案だと頷いてくれた。ひとまず争いは防げただろう。

 だが争いこそ防げたが、夫人は右腕を、エリーは左腕を掴んだまま歩き出してしまう。その後には同僚達や夫君まで続き、この状況でステラが抵抗出来るわけがない。

 半ば連行のような形で屋敷へと戻れば、苦笑を浮かべつつ二人分のトランクを持って着いてくるオーランドの姿が横目で見えた。


「ぼっちゃま、いえ、オーランド様……トランクは私が……!」

「その状況じゃ荷物はもてないだろ」

「ですが、最後までオーランド様に持たせるわけには……奥様、エリー、せめて行く方向は揃えて、左右に分かれないで……! 柱が! 柱にぶつかる!」


 片腕ずつ掴んでステラを引っ張っているというのに、夫人とエリーは柱を左右に分かれて進もうとする。

 となればどうなるか。考えるまでもない、中央にいるステラは右にも左にも逃げられず柱にぶつかってしまう。

 眼前に迫る柱に思わずステラが悲鳴をあげれば、慌ててオーランドが救出に入ってくれた。先程同様にグイとステラの肩を掴んで引き寄せてくる。


「二人とも、ステラが困ってるだろ。お茶をするなら、先に行って準備をしててくれ」

「嫌だわ私ってば、つい楽しみではしゃいじゃった。それなら、部屋から絵葉書を取ってきましょう」

「申し訳ありません、つい興奮してしまいました。では私どもは中庭にお茶の準備をしておきます」


 夫人はコロコロと笑いながら、エリーは恭しい態度で、二人がほぼ同時にパッとステラの手を放す。ようやくステラが解放されたと安堵の息を吐いた。あと三歩程度歩いていれば柱にぶつかっていただろう。

 そうして夫人が「行きましょう」と歩き出せば、エリーを初めとするメイド達が後を追う。他の遣い達も後を追ったり各々の仕事に戻っていく。

 夫君が去り際に横目でオーランドに目配せをしてくるのは、きっと息子の機転と恋人を守ろうとする気概を誉めているのだろう。


 集まっていた者達が徐々に散っていき、気付けばステラとオーランドだけが取り残されていた。

 先程までの騒々しさが嘘のように静まっている。だが耳が痛くなるほどの沈黙というわけではなく、厳かでいて重苦しくなく、格調高くありつつも穏やか、そんな静けさだ。

 それでいて何かあれば先程の賑やかさが戻ってくる。これぞ懐かしきガードナー家だ。


 帰ってきたのだとステラが深く呼吸をすれば、それを溜息と取ったのかオーランドが申し訳なさそうにステラを呼んだ。


「帰ってきて早々に母さんが騒いですまない。だが少し付き合ってくれないか?」

「オーランド様が謝る必要はありません。私、奥様に受け入れてもらえて嬉しいです。それに聞いていただきたい話はたくさんあります」

「そうだな。せっかくだから俺も同席しよう。それじゃ、行こうか」

「中庭ですよね。あらぼっちゃま、トランクは私が」


 最後くらいは、とステラがオーランドの手にある自分のトランクに手を伸ばす。

 だがその手はトランクに触れることなく、またしても宙を掻いた。今回もオーランドが先に歩き出してしまったのだ。

 これにはステラも柔らかく微笑み……、


「私が持ちます!」


 と宣言すると共に再び手を伸ばし、彼の左手にある自分のトランクの持ち手を強引に掴んだ。


「ステラ!?」

「私の荷物は自分で持ちます! ……ですから」


 自分のトランクを半ば無理に奪い返し、己の左手に持ち直す。

 そうして、空いた彼の左手に自分の右手を添えた。

 二人並んで、片側にトランクを持ち、隣接する手はぎゅっと握り合う。オーランドが二人分のトランクを持っていてはこれは出来ない。


「ですから、これからは二人で手を繋いで歩きましょう」


 そうステラが気恥ずかしさで頬を染めつつ隣に立つオーランドを見上げれば、彼もまた嬉しそうに瞳を細めて頷いてくれた。



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