36話:火力
気配を消し、死角に移動しながら『爆破流星』の結果を確認する。
「っち……」
思わず、舌打ちが漏れる。
鰐の頭からぶつかった『爆破流星』は霧散した。多少焦げ目はついたが、硬い。
「っ!!?」
咄嗟の判断で、身を前に投げ出す。
俺のいた場所を、鰐の尾がなぎ払う。
魔力探知ができるのか、もしくは本能か。
俺は止まる事なく、投げ出した身を反転、気配だけを頼りに避ける。
紙一重で鰐の顎が通り過ぎる。
顎にだけは捕まってはいけない。最も、警戒していた。間違いなく鰐の特別。絶対的で凶悪な凶器。
通り過ぎ様、鰐と目が合う。
目に向けて、銃口を上げる。
「弾丸!!」
全力を込めた、針のような瞬撃が鰐の目に突き刺さる。
「ぐおおっ!」
鰐が苦痛にもがく。
距離を取り、様子をうかがう。
「…………っち……」
鰐の目がぶくぶくと血が泡立ち、再生していく様を確認する。
硬いだけではなく、再生能力も早い。
ぎょろりと俺を鰐のもう片方の目が射抜く。
獰猛に、嗤ってみせる。
鰐の怒りに染まる顔を見て、嗤う。
凄まじい、重圧。
その中で、俺は竦むことなく嗤う。
これでは、火力が足りない。だが、微々たるものでも、効いた。
鰐にモードⅡからモードⅣまで無意味だと本能で察する。
睨み合いながら魔力を搔き集める。
「転装!」
集中する。
モードⅤ。
搔き集めた魔力を、凝縮する。
イメージするのはロケットランチャー。
火力。
何も、壁を抜けるには越えるだけが方法ではない。
突破すればいい。
突破する為の火力が欲しい。
魔力を固め、凝縮し、ロケット弾として込める。
『爆破流星』を使うよりも感じる倦怠感。
集中。
集中。
この込める感覚に新しい可能性を感じながら、集中する。
準備を整えた。
対峙しながら様子を伺う。まだ、撃てない。
確実に当てなければいけない。
この形態はまだ、数があまり撃てない。後先を考えずに撃てて3発。
3発撃った後は、気を失う。
このモードⅤを検証した結果だ。
それに、いま仕掛けるのはまずい。
鰐も何かを仕掛けるつもりだろう。魔力が高まっている。
平常心。
気持ちを落ち着ける。嘲るような微笑を浮かべながら、対峙する。
睨み合いながら、一つだけ罠を張っておく。
焦れたのは、鰐。
鰐が仕掛けてくる。口から撃ちだされる水弾。
水弾を避ける。避けながらも見続けるのは、鰐。視界に収め続ける。
当たれば致命を予感させる一撃。
だが、大味だ。造作なく避ける。それに、これは所詮、牽制。
鰐の魔力が手足に集まっているのを確認する。
――――――来る。
鰐が、視界から消える。
弾丸のような速度で、水弾を縫って俺に迫ってくる気配。
早い。強大な魔力を操り、巨体を弾丸に変える見事な速度。視認してからでは喰われるだろう。
撃ちこむ場所は、開けた大口が理想だが、難しい。顎は鰐の最大の武器。そこに攻め入る余裕はない。ならば、狙う場所は一つ。
「弾丸!!」
視界から消える一瞬より早く、右足に溜めた魔力を解放し、地面に穴を穿つ。魔法少女で放つ『弾丸』は、明心鳩子で放つそれとは大きく異なる。
穴に、潜り込むように、体を潜ませる。
銃口を頭上に掲げる。
そして。
撃鉄を起こす作業。
「俺は、お前を越えていく!」
決め台詞。
そして。
「『閃光華火』!!」
頭上を飛び越えていく、鰐の腹に向けて撃つ。
ドゴン! っという音と共に、鰐を打ち上げて昇っていく。
上がれ。
上がれ。
上がれ!!
指を鳴らし、叫ぶ。
「爆ぜろ!!」
上空で、大爆発が起きる。
爆風が頬をなぜる。
「……すごい……」
大暮先生の呟きが聞こえる。
空から、大きな物体が落ちてくる。受け身を取る事なく鰐は地面に叩きつけられた。
次回『36.5話:観測者の呟き』
短い間話入れます。




