↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導美術マギュラート  作者: 虹星海宇宙すぴあ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/6

Magurart3: 火星に咲く 機械の花

魔導美術マギュラート

Magurart3「火星に咲く、機械の花」


真っ赤!

 どこまでも赤い大地が、地平線の向こうまで続いている。

 空は地球より薄く、太陽は小さく見えた。

 ここは火星。

 カオスエントロピーのモンスターと戦う美や芸術を攻撃魔力に変換するチート能力を持つミララロロアは、赤い砂の上に立っていた。

「……本当に来ちゃったわい!」

 前世の記憶はほとんどないが、虹彩の髪を、火星の乾いた風で揺らし何か思い出そうとする。

 何も思い出せないが、その隣には、白い建築物を思わせる衣装をまとった少女。

 サグラダファミリアの擬人化――サグラダ。

 そしてもう一人。

 鉄骨を思わせる黒銀のドレスをまとい、長い槍のような杖を持つ少女。

 エッフェル塔の擬人化――エッフェラ。

よその世界から召喚し、味方につけた2人の美たち。

「ねえ、ミララロロア」

 サグラダが赤い大地を見回した。

「ここには……敵と戦える パワーになるような 世界的美術や世界遺産があるの?」

「わからないの…」

 ミララロロアは答えた。

「火星は、地球じゃないから」

 エッフェラが腕を組む。

「だったら、何を召喚するつもり?」

「それも……わからない」

「え?」

「でも」

 ミララロロアは空を見上げた。

「私は、ここに来る前から知っていた気がするの」

 記憶にはない。

 地球にいた頃のことは、ほとんど思い出せない。

 それでも、なぜか胸の奥に残っている。

 宇宙。

 星。

 遠くへ行くために、人間が作ったもの。

「美術って、絵や彫刻だけじゃないと思う」

 彼女がそう言った瞬間だった。

 地面が震えた。

 赤い砂が黒く染まっていく。

 砂の下から、灰色の腕が何本も突き出した。

 ギギ……。

 ガシャシャー…。

 ギィィィィイイ……。

 現れたのは、無数の灰色の怪物だった。

 身体は崩れた建築物のように歪み、無数の線と部品が絡み合っている。

 形はある。

 だが、美しくない。

 何を作ろうとしたのかさえ分からない。

 ただ、物質が無秩序に積み重なっている。

「エントロピー……!」

 エッフェラが叫ぶ。

「美しい形を壊し、すべてを同じ灰色に戻すあのいまわしきモ怪物!」

 灰色のモンスターの群れが砂漠の大波のように押し寄せてきた。

「だったら!」

 ミララロロアは手を広げた。

「私も、作品を作る!」

 彼女の手に現れたのは、今までとは違う武器だった。

 細長い金属製の道具。

 先端には、筆のような繊維と、レーザーのような光。

 それは――

「スペクトル・ブラシ!」

 宇宙服の工具と、画家の筆を組み合わせたような奇妙な武器。

 ミララロロアが空中を一振りすると、虹色の線が走った。

 その線が、火星の大地に巨大な円を描く。

「描くことが、攻撃になるの?」

 サグラダが目を丸くする。

「うん!」

 ミララロロアは笑った。

「だって私は、魔導美術使いだから!」

 虹色の円から、巨大な機械が浮かび上がった。

 四本の脚。

 カメラ。

 アンテナ。

 太陽電池パネル。

 そして、六つの車輪。

「これは……火星探査車?」

 エッフェラが驚く。

「そう!」

 ミララロロアが指を鳴らす。

「人間が地球から火星へ送った、宇宙の作品!」

 召喚された探査機が赤い大地を走り出す。

 車輪が砂を蹴り上げ、レーザーのような光線を放つと、エントロピーの灰色の怪物の身体に、幾何学模様の穴が開く。

「すごい……!」

 サグラダが叫ぶ。

グア グワー!

灰色のエントロピー モンスターたちは火星の赤い 砂と混ざり合い 消えていった。

新たなる作品の完成よ!

ミララロロアが叫んだ。

「でも、これは本当にアートなの?」

 その問いに、ミララロロアは一瞬だけ黙った。

「……知らない」

 そして、笑った。

「だから、私がアートにする!」

 虹色の髪が大きく広がる。

 瞳の奥に、無数の星が輝いた。

 次の瞬間。

 火星の空に、巨大な人工衛星が出現する。

 さらに探査機。

 着陸船。

 通信アンテナ。

 そして、地球から送り込まれた数々の衛星や宇宙機。

 それらが一つずつ、ミララロロアの背後に並んでいく。

「全部……召喚できるの?」

 エッフェラが呆然とする。

「たぶん!」

「たぶんって……!」

 ミララロロアは自分でも分かっていなかった。

 自分が何者なのか。

 なぜこんな能力を持っているのか。

 地球で何をしていたのか。

 何も思い出せない。

 なのに――

 美しいものだけは、分かる。

「私は忘れてる」

 彼女は灰色の怪物たちを見つめた。

「でも、美しいものを見たときの気持ちは忘れてない」

 その言葉に、サグラダとエッフェラが前に出る。

「なら、私たちも一緒に戦う!」

 サグラダの身体から、白い建築の光が伸びる。

 尖塔が空へ向かって伸び、巨大な聖堂のような光の構造体を作り出す。

 エッフェラは槍を振り上げた。

 無数の鉄骨が空中に組み上がり、巨大なエッフェル塔のシルエットになる。

「建築も!」

「芸術も!」

「宇宙機械も!」

 三人の声が重なった。

「全部、美になれる!」

 灰色の怪物が一斉に襲いかかる。

 世界を壊し、形を崩し、すべてを灰色の塊へ戻そうとする。

 それはエントロピーそのものだった。

 整った形を壊す。

 意味を消す。

 違いをなくす。

 美しいものも醜いものも、偉大な建築も小さな石ころも、全部同じにしてしまう。

 だが――

「だから私は、違いを作る!」

 ミララロロアがスペクトル・ブラシを振り抜いた。

 虹色の軌跡が火星の空を横切る。

「魔導美術――!」

 召喚された探査機たちが一斉に動き出した。

 車輪。

 アンテナ。

 カメラ。

 太陽電池。

 それぞれ違う形、違う役割。

 違うからこそ、美しい。

 探査機たちは巨大な星座のように火星上空を駆け巡った。

「マギュラート・オービタル!」

 虹色の光が炸裂する。

 灰色の世界に、赤、青、緑、紫、金色が広がった。

 そして最後に、火星の地平線から一本の巨大な光の塔が立ち上がった。

 それは地球の世界遺産ではなかった。

 火星にしか存在しない、新しい芸術、オリンパス山と共に成長したオリンパスタワーだった。

 ミララロロアはその光を見上げる。

「……ねえ」

 サグラダが微笑む。

「なに?」

「私、ちょっと分かったかもしれない」

「何が?」

「世界遺産って、過去に人間が作った美しいものだけじゃないんじゃないかな」

 ミララロロアは赤い大地を見渡した。

「誰かが未来へ向かって作ったものも、いつか誰かにとっての芸術になる…。」

 その瞬間。

 虹色の髪が、火星の空で星のように輝いた。

 だが、その奥で――

 誰にも見えない灰色の亀裂が、宇宙そのものに走っていた。

 エントロピーは、まだ終わっていない。

 むしろ地球を越え、火星を越え、その先にあるものを狙っている。

 ミララロロアは知らない。

 自分がなぜ地球から異世界ミラードへ転生したのか。

 なぜ失われた記憶の代わりに「美」を召喚する力を持っているのか。

 そして――

 なぜ彼女だけが、存在しないはずの芸術まで召喚できるのか。

 ただ一つ分かっていることがある。

 エントロピーが、すべてを灰色にするのなら。

 彼女は、宇宙を虹色にする。

「次は……どこを魔美術で染め上げる?」

 ミララロロアは笑った。

 火星の真っ青な夕暮れに、四人の少女と無数の宇宙機械の影が長く長く伸び、踊っていた…。




バイキング1号・2号(Viking 1 & 2)

1970年代のレトロフューチャーな外観。むき出しの配線、3本の金属脚、パラボラアンテナが絶妙な機能美の秀作。


マーズ・パスファインダー(Mars Pathfinder / ソジャーナ)

ピラミッド型の着陸船が、まるで花びらのようにパカッと開いて小さなローバー(ソジャーナ)を送り出す、ギミック満載の美しい展開デザイン。


キュリオシティ / パーサヴィアランス(Curiosity / Perseverance)

SUVサイズの巨大ローバー。「スカイクレーン」という超ワイヤーアクション(空中吊り下げ)で着陸するドラマチックな運用を含め、現代の機能主義アート。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。