↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
零からの魔法回路 〜世界システムをハックする反逆のSE〜  作者: ラレイラ
第三章:交錯する影と盤上の手札

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/102

第83話 世間は狭いとドワーフは笑う

「ガハハ! 来たぞカイトの坊主! こいつがわしが裏ルートで手配した、どんな秘境の絶界からも生きて戻る最凶の解体・秘境案内人じゃ!」


ドワーフの工房の奥、熱気が渦巻く作業場で、ボリスが太い胸をドンと叩いて大見栄を切った。

ボリスの背後から、気配を完全に殺した一人の人物が滑るように足を踏み出す。漆黒の忍び装束に身を包み、鋭い目元だけを露出させた小柄でしなやかなシルエット――長年を生き抜いてきた久遠律の民特有の、底知れぬ静謐さの琥珀色の瞳を持つ女性だった。


ボリスはニヤニヤと意気揚々だ。


「どうじゃ! 表社会には絶対に出回らん本物のプロじゃぞ! さあ名乗って――」


「なんだ、セクション・ゼロ席次4位の楓さんか」


カイトは作業用の魔導コンソールからあっさりと目を離し、極めて平然とした声でそう言った。


「…………は?」


ボリスの豪快な笑みがピタッとフリーズする。


忍び装束の女性――第0特務室(セクション・ゼロ)の誇る隠密・偵察のスペシャリスト、楓(カエデ)は、カイトの姿を認めると即座に目元を和らげ、深く膝をついて頭を垂れた。


「……お久しぶりでございます、カイト様。裏社会の仲買人経由で『ドワーフの技術者が伝説級の素材ハントの案内人を探している』と聞き、出向いてみれば……まさかご依頼主が、連邦の『特別システムアーキテクト(SSA)』であられるカイト様であったとは」


「……ぬ、ぬおおおっ!? なんじゃとおおっ!?」


工房にボリスの絶叫が響き渡った。髭をガタガタと震わせ、ボリスはカイトと楓を交互に指差す。


「おぬしら、知り合いじゃったんか!? ワシがわざわざ裏のツケと酒を回して手配した最精鋭が、なんでカイトの身内なんじゃい!」


「世間は狭いな、ボリス。まあ、第0特務室の偵察係で長年秘境を歩いている楓さんなら、案内人としてこれ以上ない根拠(エビデンス)だ。無駄な中間マージンも省けた」


「……あ、そういえばカイトは、ヴァルハイト連邦のなんちゃらスペシャルなんちゃらとかいう、長ったらしい横文字の役職についておったな! すっかり忘れておったわ! ワシの苦労と大見栄はどこへ行ったんじゃーっ! ……って、待てよ!? ということは、ワシが請求するはずだった仲介手数料と報酬はどうなるんじゃい!」


「仲介料も何も、案内費用も含めてボリスにはもう前払いで渡してある。だから文句を言わずに、俺たちが帰ってくるまでに新しいホムンクルスのベース作成をしっかり進めておいてくれ」


「むぐっ……身も蓋もないことを言いおってからに……!」


頭を抱えてぐぬぬと唸るドワーフの親方を横目に、カイトはコンソール上の座標データをファイナライズした。


「楓さん、最初のターゲットは連邦北端の永久凍土領域にある【フラスコ・コア】だ。現地までの経路案内と解体時の環境データのセンシングを頼めるか?」


「御意に。あの絶対零度の『氷獄の霊脈』ですね。長年生きる我が身の記憶と偵察術、すべてカイト様のお役に立ててみせます」


「よし。じゃあボリス、俺たちはさっそく素材(コード)を狩りに行ってくる。プラントの受け入れ準備、よろしく頼むぞ」


「おう、任せとけ……って、待て! 連邦北端まで馬車や飛空艇でも数日はかかるぞ!? 準備も――」


(――エアギャップコード実行。環境技能ライブラリ・《熱力学境界バリア(サーマル・プロテクト)》)

(――直列コード接続《チェイン》。空間技能ライブラリ・《範囲座標再定義転移《トランス・エリア・ロケーション》》』)


カイトが無詠唱で即座に術式を起動させると、二人を覆うように不可視の熱遮断バリアが展開する。

直後、通常の無痕跡な単独転移とは異なり、同伴する楓へ転移有効領域を認識させるための範囲転移用ガイドライン――幾何学的な青白い空間転移陣が二人の足元に広がった。


「え、あ、ちょっと待っ――」


ボリスが手を伸ばすより早く、カイトと楓の姿は光の粒子となって工房から消失した。

あとに残されたのは、ぽつんと一人取り残されたボリスと、虚しく立ち昇る炉の熱気だけであった。


◇


キィィィン……と、耳を刺すような猛吹雪の音が世界を支配していた。


視界を遮る純白の雪煙、そして息を吸い込むだけで肺が凍りつきそうな絶対零度の冷気。連邦北端、前人未到の極寒地帯『氷獄の霊脈』。


あらかじめカイトが展開していた《熱力学境界バリア(サーマル・プロテクト)》の内部は、外の極寒が嘘のように適温が保たれている。カイトは透過バリア越しに、眼前に広がる白銀の世界を冷たい眼差しで見据えていた。


「……ここが、フラスコ・コアの眠る層か」


隣に立つ楓が、吹雪の奥――巨大な青氷の亀裂が走る大穴を指差す。


「はい、カイト様。事前のアダプテーション術式、お見事です。……それにしても、これほど発動速度が早く、空間酔いや視界の揺れすら一切生じない転移術式は聞いたことがありません。流石でございます。この最深部に熱を拒絶する空間結晶が存在しますが……ここからは世界の理を外れた極寒の魔獣どもが蠢く領域。お覚悟を」


「問題ない。ボトルネックを解消するための最初のパーツだ……さあ、ハックを始めよう」


十歳の魔導SEとSec.0の忍びによる、過酷なる極限素材ハントの幕が上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。