ニケツ大★作★戦!
同じような内容の一日をもうワンセットこなして、四月初週の週末は終了!
これが、もやし農家の悲しいところ。
つーか、一次産業に従事している人間あるあるである。
常在戦場の働き方をしてるというか、せざるを得ないから、休みらしい休みがないんだよな。子供である俺と小豆も含めて。
ただ、忙しく働いて過ごせるだけ、舞い戻ったこの2001年はやはりイイ。
このままいくと、今から25年後……2026年には、最後の頼みの綱となっていたスーパーのバイヤーから取引停止を電話一本で宣告され、倒産するしかなくなってしまうのだから。
さておき、そんな週末を終えて、目覚めたのは2001年4月9日午前1時。
そこからやはり一連の朝作業を終えて、二度寝して身支度整えて、親父を除く四人で朝食。
一人あたり一本の焼き魚肉ウィンナーと納豆一パック、おかわり自由なもやしの味噌汁と白飯をガツガツ食った俺たちは、いざ登校……する前に、ある打ち合わせをしていた。
「と、いうわけで、だ。
門屋家と金梨の家は親戚同士で、金梨のお母さんが仕事で遠くに転勤してしまう都合上、地元の高校に進学が決まっていた金梨を預かることになった……。
この設定でいくぞ」
このS県は、明治初期辺りに茶の名産地として大規模開拓をされたお茶所。
ゆえに、食後に飲むのも当然ながらお茶であるわけで、湯呑みの緑茶をすすった俺は、同じく湯呑みのお茶をすする金梨に、きりりとした眼差しを向ける。
「うん! まあまあ自然で、ボロの出にくい設定だと思う!
門屋君、やっぱり小説家が向いてるね!」
「いや、こういうのは漫画とかライトノベルとかでお約束――」
と、そこまで言おうとして、ふと口ごもった。
この時代の漫画やライトノベルにおいては、これって定番展開だっただろうか? という疑問が、俺の脳内を駆け抜けたからだ。
そもそも、ライトノベルという呼び名自体が一般的ではないか、あるいはまだ存在しなかったんじゃないかと思う。
ちなみに、どうして俺がそういったものに詳しいのかといえば、ブックオフで中古を漁れば比較的金をかけずに済む趣味だからであった。
「ふうん……そういうもんかな?
まあ、ドラえもんだってコナン君だって、戸籍のない状態で転がり込んでるしね!
それに比べれば、親戚関係を捏造するくらいは楽勝か!」
だが、俺の葛藤をよそに、何やら納得した風になる金梨だ。
ありがとう……ドラえもん!
ありがとう……コナン君!
ただ、後者はともかくとして、前者に現代人の常識を適用するのは無理があると思うぞ。共通項は出版社くらいだ。
そして、この時代は、まさかコナン映画があれだけの興行収入を叩き出すようになるとは、夢にも思わなかったなあ。
「けど、地元の高校なんだから、お兄ちゃんと同じ中学校だった人も、金梨……さんと同じ中学校だった人も、両方いるでしょ?
その人たちに聞かれたら、どうするの?」
俺の隣で茶をすすりながら、ジットリとした目を向けてくる小豆。
だが、それに対する俺の答えは、ただ一つ。
「今まで疎遠だった……これで押し通す!
思春期の男女なわけだし、そうそう不思議なこともないだろう? 似たようなやつは結構いるし」
「うんうん!
けど、お金がないから居候せざるを得なくなった!
つまり、私と門屋君は、お金の関係なんだよ!」
俺の言葉を受けて、グッと拳を握る金梨である。言い方ぁ!
「あらあら、お外でそんなことを口にしてはいけませんよ。
それと、お金といえばですけど……」
と、母がタンスから何やら封筒を取り出す。
そして、それを金梨へと差し出したのだ。
「金梨ちゃん。
少ないけど、時給を計算して入れてあります。
女の子なんだし、色々と入り用なものもあるでしょう?
学校の帰りに、それで買っていらっしゃい」
「おば様……!」
ちょっと瞳をうるませる金梨。
だが、その手は素早く封筒を受け取り、機械のような正確さで千円札と硬貨を数えていた。
文字通りというか、現金なやつである。
が、このお金は間違いなく彼女の労働の結晶なので、俺としてはなんの文句もない。
「荷物もあるでしょうし、豆助も帰りに買い物へ付き合っておあげ」
「ああ。
そもそも、自転車は一台しかない……し……」
そこまで言って、気付く。
そうなのである。
うちから通っている高校までは、歩きだと片道一時間くらいかかってしまう。
では、金梨は金曜日にどうやって見学しに来たのかというと、自転車で先行していた俺に遅れて、トコトコと歩いてやって来たのだ。
時計を見る。
現在の時刻は、7時40分。
自転車ならば、余裕。
徒歩だと、微妙な時間であった。
「やばい! 金梨の自転車がないこと忘れてた!」
「あ! そうだった!」
百円ショップで買ったのだろうマジックテープの財布に給料をしまった金梨が、お口を大きく開けて叫ぶ。
「もう……ドジだなあ」
一方、歩きでも余裕で小学校に間に合う小豆は、すまし顔でお茶を飲み干し、ランドセルを背負い始めていた……こいつめ!
「こうなったら、自転車に二人乗りしていくか!」
「うん!
……でも、表に止まってた門屋君の自転車、後ろの荷台がないタイプだったよね?
マウンテンバイクに買い物カゴを後付けしたやつ」
「あああ、そうだった……!
いや、アレだ!
後輪の軸に上手いこと足を乗っけて、俺の肩を掴んで立ち乗りすれば、なんとかバランスが取れるはずだ! それでいくしかない!」
金梨の指摘であきらめそうになり、でも、すぐに気を取り直す俺だ。そうそうそう! その手があったぜ!
「ダメだよ! お兄ちゃん!」
が、そこに待ったをかけてきたのが、小豆。
そして、我が妹は、(><)になりながらこう叫んだのだ。
「そんな乗り方したら、その……パンツ見えちゃう!」
「あ、なるほど。
そいつは確かに」
ポンと手を打つ俺。
ミニスカセーラー服の女子が立ち乗りなんぞしたら、後ろからスカートの中覗き放題でしたわ。
「だが、それだと……どうすれば」
「ふっふっふ……。
任せて! 門屋君!
私に秘策があるよ!」
うむむとうなずく俺に、不敵な笑みを浮かべてみせる金梨。
果たして、彼女の秘策とは……!
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「おい見たか今の子?」
「ああ、可愛い」
「アイドルみてー」
風を切る俺たちを見ながら、道行く通行人や、あるいは同じ高校へ向かっている生徒がそんな会話を交わす。
「あれって、第二中の金梨だよな」
「ああ、スタイルいいし憧れるよな」
「中学の時から、めっちゃ告られてたらしいぜ」
話し声を聞く俺の顔が、沸騰したかのように火照る。
理由は簡単、恥ずかしいから。
どうして恥ずかしいんだって?
その理由も、簡単。
「なあ? けどなんで……」
「ああ、どうして……」
「「「男を後ろに乗っけて自転車漕いでるんだろう?」」」
そうなのである。
金梨のスカートを守る最も簡単な方法。
それは、彼女が自転車を運転し、俺が後輪の軸に足を乗せて彼女の両肩へ手を乗せ、立ち乗りすることだったのだ。
「門屋君! これなら間に合うよ!」
「ああ……うん……」
ちらりとこちらを振り向いた金梨が元気一杯に叫んだので、曖昧な……なんとも言えぬ表情でうなずく。
恥ずかしい……。
女の子に自転車漕がせて後ろでニケツすんの、超恥ずかしい……。
そんな俺の心中をよそに、金梨は力強くペダルを踏み込み続け、見事、遅刻することなく登校を果たし……。
俺たち二人は、早速、噂の的となるのであった。




