7話:駆逐するハンターと心配する女性達
7話:駆逐するハンターと心配する女性達
ゴルゾネの巣穴を一つ、一つ、フェルドを始めとするハンターの実力も備わっているのもあって、確実に潰していくことができていたのだが、時折ゴルゾネのオスが出す糸状の触手が身体に巻き付き、痺れ液を付与しているのに行動を邪魔されることもあって、予定よりも数時間は掃討する時間が掛かってしまうのは仕方ない、とルグはあまり気にする素振りは見せないでいた。
その理由に上がるのがハンターのリーダーを務めている中年で大剣の使い手であるフェリド。彼がルグに途中経過をしにきた時に、隠す事をするでもなく今のゴルゾネの状況と巣穴の数を報告してくれた時の話。
「巣穴の中に卵は結構な量が産め付けられているのが確認出来ている。ゴルゾネが恐らく今の時期が繁殖に入っている時期だと見ていい」
「それじゃ成体の個体を掃討するだけでは終わらない、ってことか」
「だが、この卵にはある利用方法があるのをご存知かな?」
「利用方法が?」
フェルドの言葉にルグがキョトンとして見つめると、意味有り気に口元に笑みを浮かべて親指を口の横に立てる。そして、遅れて登場したクオンがその様子を見て「プッ」と口を右手で押さえて笑いを堪えているのが見て取れる。
リュミがまだ戻らないのを確認して、ルグは他のハンターの為にも用意をしようとルスに屋敷に休憩用の飲み物を頼むと伝えて、屋敷に走らせた。フェルドの方に身体を向けたルグにフェルドは利用法について語り始めた。
「ゴルゾネの卵には畑を作る時に非常に栄養のある体液が含まれていてな。これだけの巣穴と卵だから、この土地全体を卵の体液を使えばより豊かな土壌に生まれ変わる。そのための技術は俺が取得しているんだが……やってもいいかい?」
「フェリドの畑への愛情は愛する人への愛情に向けるぐらいと同じよね。卵には毒もないから幼体になる前の卵じゃなくても幼体がいてもいいらしいよ」
「つまり、ゴルゾネの持ち合わせている体液が土の栄養を食べているから、その体液が栄養剤になるのであれば自然のサイクルって事だね」
フェルドとクオンの説明に、ルグも納得する部分は大いにあった。駆逐しても、その死体を集めているのは何故だろうと考えていた謎が解けた瞬間である。
休憩をそろそろ挟むべきまで時間が経過してい高台に、アベリアとエミルが執事とメイドに付き添われて大量の|アルカースト《レモンとハーブの炭酸ジュース》を持ってきてくれた。ルグは近くのハンターに休憩をと告げると、すぐに全ハンターに休憩が知れ渡るとフェルドやクオンがリュミと共に高台に上がってきた。
一人、一人に|アルカースト《レモンとハーブの炭酸ジュース》を渡して休んでもらうが、エミルがゴルゾネの死体を見て明らか様に眉を寄せる。虫自体を嫌うのだろう、とリュミとアベリアが飲みながらクオンと話をしている横で、フェルドがエミルの隣に立って何かを話していたので、ルグもエミルの隣に並んでゴルゾネの死体が集められている場所を眺める。
「どーしてあの死体を焼かないの?」
「あの死体だってこの土地を潤す為の栄養になる。嬢ちゃんはそれが嫌だって思うかい?」
「うーん、あまり私個人の感情で言うべきじゃないのは分かるんだけれど、あの虫さん達が出す体液で作ったお野菜を食べたいなぁとは思わないんだ」
「それはどうしてだ?」
フェルドは決して急がせる素振りは見せなかったが、それはどうしてなのか? それをちゃんと聞こうとする姿勢はルグには見習うべきポイントであるのを感じていると、エミルは自分の中にあるゴルゾネの印象を話し始めた。
「あの虫さん達だって生きていた。だから、当然食事しないと命に関わるのは分かる。でも、本当にあの身体に流れている体液がこの土地の為に潤う体液か? それは実際体液を土地に染み込ませないと分からない事だもの。気持ち悪い、とは思わないよ? あの虫さん達、攻撃してこなければ本当に芋虫だって分かるから。でも、命を奪った後にまで私達の好きに身体を切り裂かれて、内臓とかを取り出されて、身体に流れていた液体を使われる……それは本当に“正しい”事なのかなって……」
意外、と言うべきだろうかとフェルドとルグは言葉を紡げなかった。死んだ後のモンスターの身体を気遣う者がいるとは驚きで。
それだけじゃない。モンスターの尊厳までこの少女は考えて、そして、向き合うだけの優しさを持ち合わせている事を示して見せた。
「エミル君は……ゴルゾネ達が死んだ後に利用されるのは嫌だ、って言いたいんだね?」
「うーん……結果的にはそう言っているのかも知れない。私達も死んだ後は静かに埋葬される。それが身体を解剖されて誰かの臓器になる為に臓器を提供する、までは理解出来る。でも、死体を解剖して私達が生きる為の道具や利用をするのを私は……私は物凄く悲しい、と思ったの。ルグ様、私間違っているの?」
「いいや。それはエミル君が医者を志す為の心構えとして、考えとして正しいのではないかな。ただ、ただね? このゴルゾネ達の死を僕達は決して無駄にしてはいけないと思うんだ。彼らの命を次に生きる生命の糧に、土台にすることで彼らの生きた時間を無駄にしないことに繋げることだと思うんだよ」
エミルのベビーピンクの髪を優しく触れて、撫でるルグはエミルがこんなに心が綺麗だからこそ、天使族と神神族がエミルの天使の血を覚醒させて、悪魔の血をなかった事にしようとしたのだろうなと考えてる。フェルドは顎に左手を添えて、エミルの考えを深く考え込む姿を見せている。
クオンがフェルドに近寄り何かを聞いているが、フェルドはクオンやリュミを呼んで何かの指示を出してから高台から降りて行った。リュミとクオンも休憩を終わらせてフェルドの後に続き高台から降りていく、それを高台から見送ってたアベリアが「あら?」と声を上げてエミルとルグもアベリアの隣へと移動した。
「ハンターさん達が全員で何かをし始めて……穴を、掘っているようですね」
「穴? 罠でも仕掛けるのかな?」
「……」
ルグの視線で見えたのは穴は相当な深さを掘るのだろう。全体の二割に当たる二十人大勢で掘り始めている。
それを心配そうに見つめているアベリアは両手を胸の前で組みつつ、風にパールホワイトの髪を揺らしているのをエミルが少し、本当に少しだけではあるが複雑そうに見ていた。ルグが執事とメイド達にリュミから事前に頼まれていた大人数が体の汚れを落とせるように、との事で数日を掛けて木材を使って組み立てた浴槽に、このルルーガリアは地脈が結構な感覚で地熱の上を通っていることもあり、湯が湧き出る土地柄でもある。
その地脈を魔法で探し出して、掘り出すと木製の浴槽を屋敷の庭に設置しているのでそこに流し込んで、簡易版ではあるが露天風呂を作成している。陽が沈み始める頃にはハンター達も屋敷に戻って、その露天風呂を味わって休めるだろうとルグとリュミの狙いであった。
「ルグ様」
「どうしたんだいエミル君」
「私、お医者様に向いているのかな」
エミルがアベリアがハンター達に声を掛けている背中を見つめたまま、静かに、本当に静かにルグに問い掛けていた。迷いがあるのではない、確認でもない、ただ、呟くだけ。
エミルにとって医者は亡き両親を救えなかったことから、命の大事さを知ってからなりたいと思っている職業。でも、その職業に就く為の考え方や知識を今のエミルは持ち合わせてない。
だから、口を出たのは呟き。どれだけエミルが今回の事で何かを考えているとしても、ルグにとってエミルの迷いを知ることは容易ではなかったのは事実だ。
「エミル君……」
「命って循環する。食物連鎖を考えればゴルゾネ達の命も私達の命を繋ぐ為の力になる。でも、それでも……私は彼らの命をちゃんと知らないと、向き合わないといけないと思ったの。それが間違いなら私はどうしたら彼らと向き合えるんだろうって……」
命の価値や考えは色々とある。それを一概に否定も出来ないし肯定も出来ない。
でも、とルグは吸血鬼だから分かる事がある。エミルが抱えている命の価値観は決して誰が否定してもいいものではないって事を。
「エミル君は、命を「個」として見ている。それはとても素晴らしいと思うよ」
「ルグ様は違うの?」
「僕は、命を一つの「光」だって思っている。小さな命の輝きが一つに集まって大きな光として存在を知らしてくれる。そして、その光は大きくなったと同時に、このポーストレの世界に還るんだと思っているんだ」
エミルを背後からそっと両腕を使って包み込む様にして抱き締める。それと同時にエミルのベビーピンクの髪にそっと口付けてルグなりの愛情を示すと、エミルはスリスリとルグの胸元に顔を押し付けて、リュミやアベリアには出来ない子供らしい甘え方をしてくれた。
ルグに甘えられるなら安心出来るときっとリュミは言うだろうな……とルグは感じていたが、それよりも風が吹き始めて太陽も段々と傾き始めている。エミルの左手をそっと握って耳元で囁く。
「さぁ、帰ろう。リュミも泥塗れになっている事だろうし、今日は大人数で食事だよ」
「……お兄さんが聞いたら困るかな?」
「何をだい?」
「私が、リュミお兄さんよりルグ様に甘えたいって言ったら」
エミルと手を繋いで、ゆっくりと屋敷に向かっている間、エミルは歳相応の可愛らしくニコニコとした笑顔を浮かべていた。フェルドやクオンの率先でハンター達も屋敷に引き上げてくるとリュミがアベリアと一緒にタオルをハンター達に渡し回っていた。
エミルはルグと一緒に風呂上がりの飲み物を執事とメイドと一緒に用意をし、それが終わるとエミルは自発的に食事の準備を手伝いに行く。アベリアも合流して五十人以上の食事を作り始めているキッチンは大戦争。
だが、そこはルグを慕って側にいたコック達が腕を見せる。風呂は屋敷の風呂にクオンを始めとする女性ハンターが入り、外の露天風呂はリュミ・フェルドを始めとする男性ハンターが入って疲れを癒していく。
「ルグ様」
「皆、疲れているだろうからバスタイムが寛げているらしくて安心したよ」
「これであとは駆逐が済めば村の設営も着手出来ますね。楽しみです」
そこに、子供達が入ってきて一気にアベリアは囲まれてしまう。だが、アベリアは決して嫌がる素振りをせず、子供達の対応は真摯に行なってくれているお陰で子供達は全員素直に言う事を聞いてくれていた。
リュミとフェルドが風呂から上がり、作業の進行度合いとあの掘っていた穴の活用法をルグに説明をしにやってくる。リュミはエミルがいないのを確認して執務室に行こうと促す。
「エミル君には聞かせれない?」
「エミルを傷付けたい訳じゃないからな。フェルドさんの考えた活用法を聞いてくれ」
「あの穴にゴルゾネ達の死体を全て投げ込む。そして、上からゴルゾネの体液を発酵させて作り出した人工溶解液を流し込む。身体を溶解液で溶かして土に吸収させるんだ」
「解剖しない代わりに溶かす方法に決めた、ってことか。それなら命として土に還る、とは言えるね」
フェルドの考えと方法はある意味、エミルには酷な結果だとしてもこの土地を豊かにする事でゴルゾネ達の命も無駄にならないと考えれば受け入れる方がいい。ルグはフェルドとリュミを労うと二人は食事が出来るまでの間に、駆逐後の話題で話を賑やかにしていた。
命は循環する、そう告げていたエミルの声と姿をルグはどうしてか思い出すこととなる。命は尊きものであり、そして、儚いものである。




