1話:ようこそ我が王国へ
ホリゾンブルー色の髪を持つ青年、瞳は金色でというこの世界では比較的に珍しい外見を持つ彼を迎えにきたのは三つ首をしている普通では見られない生物、地獄の門番とも呼ばれている存在でもある「ケルベロス」の種族で、ケルベロスが最上種だとするならこの存在はそれから二つほどランクを下げている「カルカレイド」と呼ばれるランクの生物。その生物の頭を優しく撫でながら青年は微笑みを浮かべて小さな声で生物の名を呼ぶ。
「ルス、お前が来たって事は皆が探しているのだね?」
青年の質問に答えたのは少し高い音域の声。その声は何処から聞こえたのかと思うと青年の目の前に座っている「ルス」と呼ばれた生物から声は聞こえている。
『お前が急に散歩に行ったので執事達が探し回っている。屋敷に戻れ、私が子犬の様に付き従っている内にな』
「ははっ、それは見ていたい状況だ。ルス、僕は別に散歩だけが目的でここにいるんじゃないよ。少し気になる気配というか、魔力を感じ取った。だから、確認を兼ねて姿を探しに出ただけさ」
『尚更、私を連れていかんか。お前に、ルグに何かあれば悲しむだけでは済まぬ事をまだこの五百年では理解できんか!』
「やだなぁ、僕は至って大真面目に行動しているんだってば。それはルスだって理解しているだろう? 僕という存在がこの世界ではそんなに大事な意味を持っているとは思えないし」
ルグ、と呼ばれたホリゾンブルーの髪を持ち、金の瞳を持つ青年はそう言いながらもクスクスと笑ってルスの頭を優しく撫でておく。それはまるで人間が飼っているペットにするかの様な手付きをしている事は、本人が一番に理解しているが。
一通り撫でて満足したルグは顔を自身がいた位置の背後に広がる鬱蒼とした、木々達が生え連なる森林を見つめるがこの森に気配の主である存在がいる……それで無性に興味をそそっているのは自覚しているのを、ルグは口元に笑みを浮かべ瞳には爛々とした輝くを宿しているのでルスから見ても分かる事だった。森林に足を向けて歩き出すルグに付き従うルスも警戒だけは怠らないようにしようと考えている状態である。
『この森の何処ら辺から魔力を感じているのだ? 敵だった場合を考えて私は本来の……』
「しっ、何かいる……」
ルスの口を片手で押さえ込むとルグは前方に視線を向けて、金色の瞳を細めて確認をする様に何かしらの存在を見つめていた。そして、それはルグもルスにも意外過ぎる存在だという事が分かったのは、ルグとルスの耳に声が聞こえてきたから。
『ここにあの人間がいる筈だ。どうにかして見付け出して説得するのです』
「天使……族だよね? 天上界から地上界に降りてきて誰かを探している……?」
『人間を探しているのは分かる。だが、何故探しているのだ? 何か理由があると見てもいいだろう』
「声を掛けてみてもいいだろうか? 力になれるならなってあげたいとは思う」
『念の為に用心はしておくがいいだろう。私も少し魔力を抑えて背後で控えるからな』
ルスを引き連れ、天使族の数人に声を掛けようと近付くと、一人の天使がルグの姿を見て少し驚いた表情を浮かべていた。それはそうだろうな、とルグは考えて警戒心を解除まではいかなくとも、ある程度の緩ませる事はした方がいいと思って天使族の恐らく男性だろう相手に言葉を紡ぐ。
「僕はルグ、ルグ・シルベって言うんだけれど、何かお困りの様だと思って。力になれないだろうか?」
『貴方は……人間、ではありませんね。なんで私達の力になろうと?』
「この森林はまがいなりにも僕の管理を必要としているエリアでもあってね。それで力になれればと思ったんだ」
ルグは間違っていない、そうルスは考えていたが天使はそれを素直に受け入れれるだけの心の余裕があるだろうか? そう考えていると天使の一人がルグと対面している天使に近寄り何かを告げ始める。それをルグは気を悪くするでもなく、ただ、状況を把握する事が出来ればルグも動きを決める事が出来ると言うのが本心ではあったが。
話をしていた天使がルグをチラッと見て少しだけ気まずそうにしながら、ある情報を教えてくれた。それは天使族が天上界から降り立ってまで探す事をしている人間の事。
天使が探すならそれ相応の理由があるのか、それとも何か神々族から加護を与えられている人間か。ルグはこの森の中に神聖なる力はあるだろうかと探り始めていたが、どうも感知していないのも気にはなって言いた。
『我々はある女性を探している。その女性は天使族と堕天使族の間に産まれた半天使の女性。神々はその女性を天上界にお連れして加護をお与えしたいとお考えなのです。だから、私達はその女性と対話を試みているのですが、二人の人間に阻まれてしまっていて。どうにか話し合いだけでも、と思いまして……』
「事情は分かった。そういう事なら僕が仲介をしよう。その人間達の特徴をお伺いしてもいいかな?」
天使族から人間達の特徴を聞いたルグは木々の合間から見える空の上に鎮座する太陽。その位置を確認してからルスにチラッと視線を向けて視線で「行けるか?」と問うと、ルスは高々に遠吠えを披露してダッと地を蹴って走りだす。
ルグもその後を追って大地を蹴り、森の中へと姿を消して行った。先程からどうも同胞の気配を微弱ながらに感じ取る事が出来ているのもあって、ルグの中で人間に同胞が化けているのではないか? との疑いを持っていた。
『いたぞ。あの三人ではないか?』
「ルス、少し手前で止まって。警戒をさせないように」
ルスは三人の手前、三人に視認される前に止まりルグも同じ位置に立ち止まり、少し前方にいる三人の一見すると親子の様な姿が見えるが、天使族の話では加護を与えようとしている女性以外は女性とは友人または親しいだけの間柄、だと聞いている。ルグは少し空を見上げたが、あまり時間の猶予は残されてない事が伺える……夕日が顔を見せ始めている上に空気も冷たくなり始めているからだ。
ザクっと落ち葉の絨毯を歩いて三人に近寄るとターゴイズブルーの長い髪を持った男性が、すぐさまナイフを構えて警戒を露わにする。だが、その男性の奥にはうら若き女性と、幼い娘の姿があったからこの対応は正解だと言えるなとルグは内心で微笑みを浮かべる。
「誰だ……?」
「君達は天使族から逃げている家族でいいのかな?」
「逃げているは正解だが、家族ではない。俺は雇われている傭兵だ」
「ふむ。それじゃ、天使族が探してる女性はそちらの真珠の様な髪色の美しい女性?」
「答える義務はない。あんたこそ何者だ」
「僕はこの森を理解している者だ。悪い事は言わない……早くここから出るんだ」
ルグは物凄く真面目な声で目の前のナイフを構えているターゴイズブルーの男性と背後の二人に告げる。この森は昼間は普通の森、でも、夜が更けてくると魔の森に変貌を遂げてしまう。
そして、それは既に片鱗を見せ始めている。木々の間から魔の声が響き渡り始めるのであった。
「なんだ!?」
「魔の森に変貌を遂げる前の最後の警告だ。僕についておいで、無事にここから逃がしてあげるから。さぁ、早く!」
「リュミさんっ!」
「お兄さん……!」
「……二人とも、俺から離れないで走るんだ。今はあいつを信じる」
ターゴイズブルーの髪の男はルグを追って駆け出す。遅れてパールホワイトの髪を持つ女性に手を引かれてベビーピンクの髪を持つ少女が走り始めて、その最後尾にルスが陣取ってくれて四人と一頭は森を脱出する。
出口には先に脱出していた天使族も待っていたが、ターゴイズブルーの髪の男が脱出し終えて安心しきっている女性達を天使族から隠す様に立つ。さて……、と小さな声で状況説明をする為にルグが言葉を口に乗せた。
「天使族はある人間に加護を与えたい、その為に君達を探していた。それについては理解をしてはもらえるだろうか?」
「それは分かり切っている。だが、それは建前だと俺達は知っているんだ」
「建前? それはどういう事なのかな?」
「天使族の本当の狙いは……この少女、エミルを天使化する事。そして、悪魔の血と能力を無効化すると言うんだ」
男性の言葉にルグはジロリと天使族を見ると、明らかさまに態度が怯えているのが伺えるし、何よりもこの場でエミルという少女を無理矢理連れて行く事は諦めている様でもあった。なので、ルグは天使族の男達にそっとため息を吐き出して右手で「行け」と追い払う仕草をする。
天使族達はすぐさま天上界に飛び去って帰って行くが、そう簡単に引き下がったりはしないだろう事は明らかである。男性は天使族を追い払ったルグに感謝を述べる為にルグに視線を向けて頭を下げてきた……そういう律儀さはルグの中で人間の好ましいポイントだと思っている。
「助かった。森からの脱出、天使族を追い払う事、俺達だけだったら危なかった」
「そうかな。僕は「当たり前」の事をしていただけだけれども。それで君達はこれからどうするの?」
「行く当ては正直ない。ただ、俺はいい……彼女達を守れるだけの場所に行きたいんだ」
男性が側にやってきた女性と少女の事を一瞥して小さく溜め息を吐き出す。ルグは少し考えてルスを呼ぶとルスは尻尾をピシッと地面に叩き付けて不満を口にする。
『天使族相手などお前の力で滅ぼせたであろう。何故滅ぼさぬ??』
「し、喋っている!!」
「これも……魔法なのですか?」
「いや、この犬がこの世界には存在しない犬なんじゃないか?」
「ルス、僕はむやみに殺戮をしたいわけじゃないんだよ。それに、彼らだってそれは望んでいる訳じゃない。守れればいい、のであれば僕はその手助けをしてもいいかなとは思うけれども?」
ルスと普通に会話している事も驚きなのに、男性と女性はルグが自分達に手助けをしようとしている事に強い衝撃を受けていた。まだ出逢って一時間も経過していないのに、この男性は見も知らぬ自分達に手を差し伸べてくれようと敷いている。
だから、男性が女性とアイコンタクトをして確認をして、ルグに控え目に問い掛ける。
「どうして、出逢って間もない俺達を助けてくれる? 悪い意味じゃないが素性を知らない俺達を助ける利益はあんたにはないだろう?」
「んー、そうだね……一言で言うなら僕の国に住んでもらえないかなって思っているよ」
「国? このルルーンガリア国に住めって事か?」
「あぁ、君達人間は少し認識が違うんだったね。この僕が治めている領地、そこにまずは村を作り、発展させて、街にして、そこからまた発展をさせて……いずれは国としての規模にしたいのさ。ルルーンガリア国の第二の首都でもあり、姉妹国になる様に、って国王陛下から命じられている」
ルグの言葉に嘘は感じられない、そう判断した男性は女性達に視線を向けるとどうするかを問い掛ける。だが、思っても見なかったのはエミルと呼ばれていた天使族から狙われていた少女の一言。
「その国に住んだら、私は学校ってのに行けますか?」
「君は勉強がしたいのかい?」
「はい! 沢山勉強してお医者様になりたいんです!」
エミルは恥ずかしがらずに答えてくれていて、そこに女性が少し話を補足する為にエミルの身体を背後から抱き締めて苦笑気味に話をし始める。その話にルグは少し考える素振りを見せて女性陣は少し不安そうにしていたが。
「エミルは育ての親御さんを流行病で亡くしています。そして、私達が住んでいた村も医者がいなかった事もあって、怪我や病気の度に遠方の街に在中している医者を呼ばないといけなかったんです。エミルが医者を志すのも無理はないんです」
「そう言えば街から離れて存在する村には医者は殆どいないんだよね。なるほど……医者の派遣を主力にしたら村々は助かるものだろうか?」
「それは間違いなく助かるだろうよ。真面目な話で言えば、医者がいれば助かった命はごまんといると言われている」
男性からも意見を貰ってルグはある話を思い出す。それは過去にこの土地で自分と同じように国を作り上げて欲しいとルルーンガリア国王から言われた同胞がいたと聞く。
その同胞は志半ばでこの土地から立ち去った、その理由は同胞の種族に問題があったからだと言う事実をルグは知っている。そして、目の前の三人もルグの種族を知ったら離れて行くだろう事は明白だった。
男性がルグの事をなんとなしに種族に関して問い掛ける。これで彼らとは終わりだとルグは密かな悲しみを抱いて種族名を答える。
「あんたは人間のようで違うって感じがする。何者なんだあんたは?」
「僕は……この地方では嫌われているとまではいかないけれど、あまり歓迎されてない種族。漆黒と共に行き、血を好む、そして、その瞳を見つめれば魅了の魔法で誰もが虜になる種族、吸血鬼だよ」
「吸血鬼……ねぇ、なら知っているんじゃないお兄さんが探している人のコト!」
「リュミさん、お伺いしてもいいのではありませんか? 情報は多い方がいいです」
ルグは三人の会話から、この男性をリュミと呼んでいる事、そして、そのリュミは誰かを探している事を窺い知らせる。そして、その探し人についてルグに何かを聞こうとしているのは分かった。
だが、今はこの魔の森に近い位置にいるのは正直よろしくない。なのでルグはある提案をしてみたがそれに対して思っていた以上の反応が返ってくる。
「それより、場所を僕の屋敷に移動したいなとは思うんだけれども、吸血鬼の屋敷だから嫌かもしれないが、今から一番近い街に行くにしても距離があって夜通し移動になって危険だ。君達が受け入れてくれるのであれば部屋を用意するけれど……如何かな?」
「いいのですか? 私達は貴方にご迷惑しか掛けてない。それなのにこんな待遇を良くしてもらっていいのでしょうか」
「ルグ様太っ腹~!」
「……彼女達だけでも休ませてくれればいい。俺は……」
リュミの言葉に女性陣は明らか様に不満を見せて、それによってたじろぐリュミにルグは苦笑を浮かべてしっかりと話をする事にする。リュミ一人だけを何故蚊帳の外に置かねばならないのか? それを考えるとルグだって少し不満を持ちたくもなるのだが。
結果、リュミは女性陣と共にルグの屋敷に招かれる事となった。ルスが注意をしながら先導してくれているのを、ルグも心から安心して後を歩けているのもある。
「本当にこの付近はモンスターが多いのですか? 噂でそう聞いたのですが」
「正確に言えば定期的にルスや他の仲間達が追い払っているから、そう多くはないとは思う。ただ、夜は僕達でも正直手を焼いているのは焼いているね」
ルグの言葉にエミルが歩きながら、どうしてそんなにモンスターが多いのかと自分の中で考えていると、女性がエミルの背をそっと支えていた。エミルが女性を見上げて歩いているとリュミが女性の横に並んで歩いていたのは、エミルには当たり前の光景ではあった。
見えてきた屋敷、広さを見ただけでも把握出来る程に大きいのが伺える。その屋敷の入口には数名のメイドと、執事が揃ってルグの事を待ち侘びていたので、女性やエミルはポカンとし、リュミは呆然とするしか出来ない。
「ルグ様、お帰りなさいませ。そちらの方々は?」
「僕の客人だから、最高級のおもてなしをして差し上げてくれるかな。それと、最高級の食事もお願い」
「承知致しました。それでは女性の方々にはメイド達を付けますがよろしいですかな?」
「お、お世話になります」
「お邪魔しま~す!」
女性とエミルはすぐにメイドと一緒に屋敷の中に入っていくが、リュミはルグに一礼して立ち去ろうとするのをルスが前に回って阻止する。勝手にいなくなりでもすれば女性陣の悲しみや不安を生み出す事はルグも理解しているし、普通に考えれば分かる事である。
リュミが困り果てているのをルグが近寄り方をポンっと叩いた時、リュミは戸惑いを含んだ眼差しをルグに向けている。何故戸惑いを含んでいるのか……それはすぐに本人の口から語られる事となった。
「その……」
「その? 君は僕が彼女達を守る相手だと信頼してくれているのかい?」
「俺だって元はハンターだ。吸血鬼にとっては忌々しい相手だとも理解している。あんただってそれを気付いていながら俺までも休ませようとしている……俺を信用できるのか?」
「君の魂は僕には向かう気はないのだろうと思っているよ。それがどんな意味だとしても、僕は君を始めよとする三人を守るべきだと思っている」
ルグの言葉にリュミは言葉を失う……がそれは無条件の受け入れてくれる安心感にも繋がっていたのがリュミの中で固い信頼を積み重ねていく。そして、ルグはリュミへのある言葉を紡ぐ……それはルグなりのリュミへの信頼表明。
「君の事も守りたいのは……君を僕は信頼している。僕達をいつかは滅ぼせる相手だと信じてね」
ルグは滅ぼせと言っているのだろうか? それが分かるのはまだ少し先の話だったりするのだろう――――




