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ダンジョン探索者だけど猫耳美少女になった件について  作者: 蒼井茜


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ダンジョンの変化

 ダンジョンに入るといつもと空気が違った。

 こう、今までは生ぬるい感じだったのがピリッとしたというか……農耕背油豚骨に鷹の爪とにんにくを入れたようなパンチが聞いた雰囲気になった。


「雑賀さん」


「えぇ、今までとは空気が違います」


「ですね、慎重に行きます」


 俺の言葉に頷いて、手袋をはめた雑賀さん。


 あれが武器になるのかもしれない。

 少し進むといつも通りブルーラット、文字通り青い鼠がちょろちょろと走り回っている。

 モンスターの中でも最弱と言われ、ドロップアイテムも無ければレベリングにも美味しくない。

 ただ単純にギルドカードを手に入れるための相手程度でしかなく、大きさも知能も戦闘力もドブネズミ以下という雑魚だ。

 ついでにダンジョン内には状態異常、つまり毒とか与えてくる奴らいるけど、まともな菌やウィルスは繁殖できない環境なのでこいつらが病気を運ぶことは無い。

 下手をすれば本物の鼠の方が厄介なくらいだが……逆に言えばカビとかがある場所は体外ヤバい所というのが探索者の常識でもある。

 それがどうだ、壁を見てみればキノコが生えている。

 ……今までこんなのは無かったはずだ。


「採取します。離れて」


 口元をハンカチでおさえ、【インベントリ】にある籠手を手袋代わりにしてキノコを摘まみ取る。

 そのままガラス瓶に突っ込んで採取完了。


「これも後程鑑定を。荷物になるので……あ、できた。インベントリというスキルで預かっておきます」


「お願いします」


「というかポーションも後で渡せばよかったですね」


「いえ、万が一の際に使えますから」


 なるほど、俺か雑賀さんが怪我をした場合にか。

 それは考えてなかった。

 雑賀さんはその技術で、俺は突出した防御力で大抵の事は何とかできそうだから。

 しかしキノコか……菌糸類が繁殖しているという事はブルーラットも安全なモンスターとは言えなくなってきたか?

 2階層もブルーラットの住処だが、たまにレアエネミーとして白猫が出てくる。

 初心者はあったらスルーしろと言われる相手で、強いには強いのだがドロップアイテムもなく、経験値はそこそこ、そして実際の猫より強いし魔法も使ってくるので厄介な相手だ。

 代わりに防御力が低いが、猫特有の動きで翻弄してくるので割に合わない相手として見られている。

 幸いそいつらに出くわすことなく、しかし痕跡だけは……具体的に言えば壁で爪とぎした跡を見たので、大きな異常はないと判断して先に進んだ。


 3階層ではチワワサイズの犬が出てくる。

 それはもう種類豊富で、さまざまな犬種がチワワサイズなのだ。

 そして人懐こいが、決して人についていかない、連れて行こうとすれば集団で襲い掛かるという習性から別名犬カフェなどと言われている階層。

 こいつらノンアクティブ……つまりこちらが何かしなければ攻撃してこないから、安全地帯としても有用なのだ。

 問題があるとすれば、飯の臭いに釣られた犬に囲まれることがあるくらいで、基本的に無害。

 頭もいい連中なので通るよと一声かければ道を開けてくれるし、餌をやって道を教えてと言えば案内してくれる。


 なお名前は送り狼、つまり妖怪の類なのだが伝承のように転んだところに襲い掛かるという事は……まぁ、基本的にはない。

 というのもこいつら寝転んでる人間見ると飛びついてじゃれてくるという特性があるが、噛んだりすることがないのでひたすらモフるだけなのである。

 そして一通り終わればまた道案内か、観察が続く。

 モフ天国から抜け出す方法としてポケットに餌を入れておいて遠くに投げる事なので、こいつらを倒そうとする奴は今のところ出てきていない。

 ……いや、可愛いんだよチワワサイズのゴールデンレトリバーとか。


 そして4階層、ボアと呼ばれる猪のモンスターが出てくる階層。

 この辺りからこちらを認識したら攻撃するというモンスターが増えてくる。

 同時に初心者狩りをするような連中も増えてくるのだが、まだこの辺りでは活発に活動していない。

 労力とリスクに対して実入りが少ないから、純粋に弱い者いじめをして楽しんでるカスくらいしかいないのだ。

 ビッグボアはこの階層の徘徊ボスみたいな立ち位置だが、結構な頻度で遭遇する。

 普通のボアがうりぼうサイズであるのに対して、ビッグボアは隊長3mくらいあるのだが……。


「多いですね」


 雑賀さんが言う通り、ボアの数が増えていた。

 階層を降りてすぐに30体ほどのボアがいるが、こいつらはノンアクティブだ。

 ただボア系列のモンスターを攻撃すれば全てが連鎖して襲ってくる。

 ここに来てようやく詰めの先程の魔石を落とすようになり、ビッグボアからは上質な豚肉がとれる。

 問題はこの数なんだよな……普段の5倍、下手したら10倍はいるぞ。


「ここで戦うのは得策じゃないとはいえ……うっかり足でも踏んだらって考えると怖いですね」


「そうですね。私が殲滅しましょうか」


「……いえ、肩慣らしと思って少しやってみます」


 拳を構えて一番近いボアを殴り潰す。

 その瞬間、その場にいた全てのボアが俺に視線を向けて、地面を爪で引っかき突進の構えを取った。

 こういう前触れがある語らい書できるが、ビッグボアになるとその前触れが極端に短くなるので動きに注意が必要だ。

 ……というか攻撃力とレベルの暴力こわっ。

 うりぼうサイズの猪がぷちって感じで潰れたぞ。


「はい、シュート!」


 突進してきたボアを蹴り飛ばす。

 元々レベル17の頃でもこのくらいはできたし、こいつら突進の威力はせいぜいがサッカーボールが飛んでくる程度なので威力は低い。

 むしろその反動で自滅する事もある。

 というわけで壁際でひょいっと。

 こうすると壁に激突して自滅するのだ。

 それを何度か繰り返し、たまに蹴ったり殴ったりしていたらボアは全滅した。

 ドロップアイテムは……あぁ、はずれだ。

 今回は3つしか魔石が落ちてない。

 このサイズだと乾電池と同じ程度のエネルギーしかなく、値段も1個当たり数百円から千円ってところだ。

 品質が良ければいいんだが……見たところ1個500円ってところか。


「これで1500円か……」


 割に合わない、というのが本音だし、今までの感想ではある。

 30体倒して1500円、それもその時々の運。

 宝くじよりはマシだが、掛け金が自分の命ともなればなぁ。

 と言ってもこの階層じゃ命の危険なんてめったにない。

 それこそビッグボアの不意打ちでも受けなければ死にはしないし、仮に横っ腹をどつかれたとしても骨折程度で済む。

 レベル10を超えるとそうなってくるのだが、その前は何度か死にかけた。

 幸いビッグボアのドロップアイテムであるポーションのおかげでどうにか生き延びる事が出来たが、それも運の良し悪しなんだよなぁ……。


「お、お目当ての獲物」


 ビッグボアだ。

 ボアを3体連れている。

 やはりデカい猪という感じだが、今の俺がどこまで通用するか。

 以前は100発くらい殴れば倒せたが……さて。


「【崩拳】」


 モンクのスキルの中でも最大級の威力を誇るそれは防御無視の効果を持っている。

 素手で敵と戦う事に重きを置いたジョブだからこそ、相手の防御を無視した業も豊富にあるが、その中でも素の攻撃力が高い一撃だ。

 一方でリキャストタイム、つまり次に使えるようになるまでの時間が長いという制限もあるが、モンクの技はかなりの数になる。

 攻撃系に絞っても50個はあり、これらをうまく組み合わせて使う事で高い汎用性を維持している。

 逆に言えばそれらの組み合わせが悪いと全くダメージ出せなくなったりするんだが……崩拳をくらったビッグボアはモンスターには不要な排泄腔。

 つまり肛門から内臓をぶちまけて地面に倒れた。


「……えぇ?」


 その威力に驚くついでにボア3体も蹴り飛ばして壁に叩きつける。

 お、ボアから質のいい魔石が出た。

 ビッグボアは……あぁ、ハズレだ。

 肉と魔石、一番高く売れるポーションは落とさなかったか。

 あれは3000円くらいで売れるんだがなぁ。

 なお購入するには1万円くらいかかるので、結構な暴利だとは思う。

 肉は500円で売れて、3000円で買えるのだが今まで売りに出したことは無い。

 魔石はビッグボアが落とすものなら最低でも1000円、最大で5000円、今回はちょっと低品質くらいで2000円分くらいだろうか。


「空気は違うものの、まだこの辺りじゃなにもありませんね」


「もう少し潜りますか」


「……いえ、やめておきましょう。俺は先のエリアに行った事こそあれど土地勘がない。万が一の場合逃げられる方がありがたいです。とりあえず予定していた時間内はここでビッグボアを相手にしてみましょう」


「わかりました。賢明な判断だと思います」


「ありがとうございます」


 ふぅむ、なんか雑賀さんはやたら俺を持ち上げてくるな。

 思惑があってなのか、それともそういう性分なのかはわからんが……いやそれよりもだ。

 確かに殺すつもりで挑めばビッグボアは脅威どころかただの獲物になり下がった。

 けど弱すぎる。

 俺が、だ。

 これだけのレベルがあれば肛門から内臓を噴出させるなんてことなく、一撃で消滅させることだってできただろう。

 それに失敗したのは、やはり砕け散った足元。

 攻撃に無駄が多すぎる。

 まだ、改善の余地があるな……。


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