コスプレショー
それからは大変だった……教室に戻る頃には噂は広まり、そして俺の髪を見た女子生徒が群がってきた。
クラスも学科も超えて。
そして今、俺は何故か人形扱いされているのである。
「やっぱりポニテは王道っしょ」
「いやいや、さっきのお団子もよかったよね」
「ワンポイントの三つ編みを垂らすのもいいと思います!」
「あ、じゃあ今度編み込みでクラウンやろうよ」
「いいね!」
衣装がないのが唯一の救いか、髪の毛をいじるだけで満足してくれている。
ついでに男子は巻き込まれまいと避難しているので大丈夫だ。
「けど田中の奴マジありえねー」
「最近強くなったって聞いてたけどムカつく」
「SNSに晒してやろうか」
あ、ヤバい方向に火がついた。
でもまぁ、動画とか無いからな。
うん、雑賀さんが持ってそうなのは秘密である。
「演劇部から衣装借りて来たよ!」
「でかした!」
「でかしてねえよ!? しでかしてるよ!」
つい突っ込みが飛ぶが、奇麗に編み込まれた髪の毛、そして差し出されるお姫様のドレス……これは結構不味い状況では?
「男子出てけ!」
「「「「「うす!」」」」」
「着替えた後の撮影は許す!」
「「「「「あざっす!」」」」」
こいつら本当に連携いいな!?
くそっ、俺の尊厳もここまでか……あ、いや、待てよ?
この服ならたしか……。
「ちょっと待った」
「おやぁ? 今更逃げようというのかい? ひん剝いてやるぜ三上くぅん?」
ギャルの手つきがやらしい。
こらやめなされ、乙女が親指を人差し指と中指の間に挟むジェスチャーはやめなされ。
「着替えの拒否をしようというわけじゃない。ただ俺にはこういう事が出来てな」
【インベントリ】と【装備変更】のスキルを併用して早着替え。
モンクのジョブのまま装備を変える。
おしゃれ装備、重ね着装備と言われるあらゆる性能が最低値だが、忍者などのジョブでも切る事ができる数少ないアイテムだ。
そして俺が所持している半分はリアルマネーが必要な課金アイテムだ。
「ふっ、見よ! 演劇部が使う衣装よりも公式によってつくられた衣類で着飾った俺の姿!」
着用したのは黒魔術師用にあつらえたと思われるゴシックドレス。
黒を基調としながら主張を抑えた青のラインが奇麗なのだ!
「え、うわっ、すごっ、そんな事できるの?」
「他の衣装も見せて!」
「これシルクより手触りいいんだけど……」
「男子&カメラ女子カモン!」
そこからは撮影会だった。
モンクでメインに使用しているチャイナ服はもちろんの事、白魔術師が着るシスター服や、和服にアオザイ、アイヌ民族の衣装にビキニアーマーを毛皮で作ったらこうなるだろうというようなものまで。
調子に乗ってみせてしまった。
見られてしまった……。
そして始まるのは……。
「やっぱシスター服いいよね」
「ナースもかわいかったなぁ」
「民族衣装はやっぱたまんねぇ」
「あのけもアーマーえっちじゃない?」
「でもドレスも色気すごいよねぇ」
男女混ざっての感想会。
やっぱりこいつら、普通に探索者になったらいいチームになれるくらい連携ばっちりだ。
そう思っていた時だった。
「三上てめぇ!」
教室のドアを文字通り蹴破って入ってきたのは……さっきのチンピラ馬鹿だった。
そいつに向けられた視線は冷たいものだったが、手にしているそれを見て全員が息を詰まらせる。
「お前のせいで俺が降格ってどういうことだ!」
「どうもこうも、素行不良で降格されるのはよくある事だろ。その証拠にナイフなんか持ってどうするつもりだ」
「てめぇの顔面に傷でも残してやれば多少のうっ憤ははれるさ! 鼻までおられたんだ! そのくらいしてもいいだろ!」
前に出ようとする雑賀さんを止める。
こういう手合いは一度実力差をわからせないとどうにもならない。
「傷ねぇ……無理だから諦めろ」
「うるせぇ!」
斬撃、と言っていいのかわからんが力任せに振り下ろされたナイフが俺の顔を撫でる。
だが髪の毛一本切る事は出来ていない。
「な? だから無理だって言ったんだ」
「な、なにしやがった!」
「何もしてない。純粋なレベルの暴力」
「ひ、卑怯だぞ! チートだ! チート!」
「俺もそう思う。けどこれ、運営側が押し付けてきたんだよ。ちんこ代償にして強さと可愛さゲットってな」
実際神々の恩恵という名の剥奪と押し付けである。
それを悪いとは言わないけど、歩くのもおっかなびっくりともなればこっちも考え物よな。
「あとこれ、ギルドで1000円で売ってるナイフだろ。こんな玩具で高レベル探索者やっていけるわけないだろ」
チンピラ馬鹿が手にしていたナイフの刃を掴み、そのまま引っ張り上げる。
抵抗を感じるが微々たるもの。
そのまま眼前でナイフの刃を握り潰してやればチンピラ馬鹿は腰を抜かしてへたり込んだ。
……まぁ、今ナース服なのでしまらないんだけどさ。
「そうだなぁ、俺を傷つけたいなら……これくらいは持ってこい」
ナイフを主流とするジョブはいくつかあるが、その中でも攻撃力だけは最強クラスと言われるアサシンにジョブを変える。
服装は雑にナイフや銃をつる下げたフード付きの衣装。
手にするのは真っ黒に輝くナイフ、名を「新月霊刀」。
アンデッドに対する攻撃力上昇を持つそれは、生きている相手に1%未満の確率で即死効果を与える。
ただしゲームでダンジョンの敵やボスの大半は即死耐性を持っていたので、ほとんどフレーバーだったけどな。
一応普通のフィールドでは即死が発動する事も多かったが、アサシンの攻撃力だといまいち実感できないので残念武器の代表とも言われていた。
いや、素でアサシンの武器には即死効果ついているからそこまで残念でもないし、攻撃力も現状では一番上なんだけど、だからこそというかなんというか……。
「さて、一発は一発というがどうしたもんか」
ナイフを手のひらで弄びながら、刃を握り潰した安物を手に取る。
俺もお世話になったけど、最終的に殴り倒した方がコスパいいという事になってから使わなくなった物の残骸。
実際レベルが上がってくるとこの程度の武器じゃ役に立たんのよね。
確か恩恵アナウンス前のこいつがレベル30くらいだったから、適正レベル的な考え方をするならふたつ……いやみっつくらい上の装備が欲しい所だ。
俺みたいに低階層でドロップ狙いなら拳で十分だけど。
「さてさて、種も仕掛けもございません」
レベルの暴力です。
残骸にナイフを当てれば音もなくスパッと切れた。
そりゃ武器のポテンシャルが違うからな。
「これ、即死耐性ない奴に使うと一定確率で即死させることがあるんだ。試してみたいか? それとも……」
「ひいぃいぃぃぃぃぃぃぃぃい!」
「ふぅ、雑賀さん。後は頼みます」
「はい、既に動いているかと」
あ、黒スーツに仕込まれてるカメラって録画機能じゃなくて生配信なのか。
……さて、俺はこの凍った空気をどうし。
「すっげ! 可愛いのに強いとかまじすっげ!」
あ、ギャルが凍り砕いてくれた。
「おい今の撮った奴SNSに拡散するなよ!」
咄嗟に注意する。
雑賀さんも目を光らせ、何人かがそっとスマホを下ろした。
ふぅ、まずは一安心。
素人による拡散が一番怖いからな。
こういうのはプロに任せるに限る。
「おそらくですが、夕方のニュースで皆さんご覧になる事が出来ますので」
あ、そのレベルなんだ。
まぁ探索者が同業者をナイフで切りつけたってだけで充分罰則対象だ。
更にダンジョンの外でやって、証拠映像もあるとなれば……まぁね。
「それと三上さんの写真はできるだけ皆さんの方で秘匿してください。SNS等に流れると良からぬ輩に目を付けられかねませんので」
「あぁ、確かに可愛いし攫いたくなっちゃうかも……」
おい委員長、物騒なこと言うんじゃありません!
「でもいんちょ、攫おうにもできる?」
「その……過剰防衛が怖いので」
「よくわからんけどやりすぎちゃうって事?」
「はい、今の三上君……さん? なら誘拐用の車ごと持ち上げられるんじゃないかなと」
「さんはやめて……おい誰だ今ちゃんって言ったの!」
でもできるんだよなぁ、車持ち上げるの。
用水路にハマったタイヤをという話じゃなくて、物理的によっこいしょって感じで。
「ところでぇ、三上さぁ……」
ギャルが真面目な表情を向けてきた。
これは、なんか怒っている?
顔で受けるという無茶をしたからか?
だとしたら俺が悪いな。
「まだ衣装あるじゃん、見せろ」
あ、俺悪くないわ。




