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 目を覚ますと、時任は何やらオフィスのような場所にいた。目の前には立派なデスクがあり、2台のパソコンーー時任はそれをパソコンだと思ったーーか置かれている。連続して起こる不可解な出来事に、時任は驚きよりもむしろ、うんざりし始めていた。

「おや、新人ですか。運良く<観測者>になれたようですね」

 低く落ち着いたその声は、時任の背後から聞こえた。振り返ると、そこには時任のものと同じく、2台のパソコンが置かれたデスクがあり、その主と思わしき男がこちらを向いている。長い手足に彫りの深い顔、濃紺のスーツがよく似合う。歳は40代の前半といったところか。

「新人はいちいちリアクションが大きいから、一目で分かるんですよ。自己紹介がまだでしたね。私はレイン・ストーンリバー。ここに来る前は魔法使いでした。あなたは?」

「……時任アユム。大学では理論物理学を専攻してた……魔法使い?あんたその歳で、ジョークにしては出来が悪いぞ」

 時任の指摘に、レインは白い歯を見せて笑う。

「その反応、あなたα宇宙出身ですね。少し珍しいですが……物理学、聞いたことがありますよ。確か、りんごが落ちるやつですね。前に一度、<観測>しました。

 私はβの方から来たので、あなたにとっては馴染みがないかもしれない。しかしこちらでは魔法はありふれたものでしてね、あなたたちにとっての……そう、科学に近い」

 レインの口調は実に上品で丁寧だったが、時任にはその内容がてんで理解できなかった。

「ちょ、ちょっと待ってくれないか。その、αだとかβだとかってのは何なんだ。それに、俺もさっき<観測者>だと言われたが、一体それは何なんだ」

「おや、どうやら不機嫌な<案内人>に当たって詳しく説明されなかったようですね。まぁ、彼らは大抵不機嫌なんですが」

 レインの微笑みは、混乱する時任の頭、否、心を安らげた。時任はレインの言葉に神経を集中させた。

「まず、大前提として、この世界には幾つもの宇宙が存在しています。それこそ無数にね。それらは基本、独立していて互いに干渉しませんが、その代わり、隣り合う宇宙同士にはその"隙間"に、ここのような<セル>があり、2つの宇宙を繋いでいるのです。それがα宇宙とβ宇宙。宇宙が違えばルールも違います。私のいたβ宇宙では、魔法が発達し、物事の仕組みもそれに準じたものですが、あなたのいたα宇宙では、それが科学であり、ルールや概念が異なるのです。

 そして各宇宙は、例えるなら大きな箱のようなものです。それぞれに"容量"があり、それを超えると中身が溢れ出します。それが私たち<ロスト>です。ここまでは宜しいですか?」

「あ、あぁ。何とかついて行けてると思う」

 時任のその返答は半分嘘だった。レインの表情はその嘘を見抜いているようにも見えたが、今の時任にそれを気にする余裕はない。

「私のいたβ宇宙では、魔法のおかげで歴史改変が定期的に行われます。その度に、大量の<ロスト>が生まれ、ここにやってきます。私もその一人です。一方α宇宙では歴史改変が起こりにくいので、滅多に<ロスト>は生まれません。ただ2045年頃にタイムマシンというものが作られたとかで、一時期αからの<ロスト>が増えましたが」

 レインはブロンドの髪の毛をくるくると触りながらゆっくりと話す。普段の時任であれば眠気を誘われそうだが、ここに来てからその類の感情が一切湧かない。

「それで、<観測>ってのは?」

「えぇ、<観測>というのは、文字通り、2つの宇宙で起こる全ての出来事をここで見ることです。宇宙の誕生から崩壊まで、好きな時代、場所を自由に見ることができます。ほら、私たちの目の前にあるこのモニターです。右がα、左がβ宇宙のものです」

「一体、何のために?」

「観客のいない映画に意味はありません。否、意味があったとしても、長くは存在できない。宇宙も同じです。誰かに<観測>されることではじめて、その存在意義を獲得できる。我々はそのためにいるのです」

 レインはさも当たり前のように話したが、時任にはやはり、受け入れるのは容易ではなかった。理解が追いついて尚、時任の頭はそれを拒絶しようと必死であった。

「説明には感謝する。だが、俺がなぜここに連れて来られたのか、やっぱり納得がいかない。俺の時代にタイムマシンなんてなかったし、そもそも俺は、追放されるほどの悪事を働いた覚えもない」

「<ロスト>になる者に、善悪の別はありませんよ」

「……なら、ここから出る方法はないのか?誰か今までに、脱出した奴とかは?」

 レインは腕を組み、暫し考え込んだが、続く言葉を待つ時任は不思議と退屈さを感じない。実感というものを伴わないその感覚は、精巧にできた夢の中にいるようでもある。脱出を望むと同時に、時任は徐々に、この場所に順応しつつある自分に気がついていた。

「そうだ!書庫に行けば、"記録"があるはずです。それを見れば、ここの出口や脱出者について分かるかもしれません」

 突然叫んだレインは、そのまま時任の腕を引いて歩き出した。そこではじめて時任は部屋の全貌を見渡した。部屋は奥が霞むほどに広く、時任のものと同じデスクが無数に続いている。しかし幾らか歩いたあたりで、時任とレインは突然別の部屋の前に移動していた。

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