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プロローグ 選霊の儀

 シルヴァーナ魔法学院。王国において唯一の、精霊魔法士を育成するための学校。


 俺は入学七年目、十五歳にして、これからの運命を決める儀式を受けようとしていた。


「グラス・ウィード。これより、貴殿の『選霊せんれいの儀』を執り行う」


 学院の儀式部屋にやってきた俺は、教頭のヘンドリック先生からそう告げられた。


 十五歳になった生徒は、誕生日を迎えたその日に『選霊の儀』を受けることになっている。


 精霊魔法士は精霊の力を借りて魔法を行使する。『選霊の儀』はその精霊と契約するための儀式だが、契約するまでどの精霊に選ばれるかは分からない。


 精霊にも格があり、地水火風といった四大元素の精霊は特に上位であり、契約できた生徒は優秀であるとされる。


 しかし、精霊には物質や他の生物に宿るものもいて、それらは下位とされ、いわば「はずれ」と呼ばれる。


 例えば火の精霊は強力なものだと、一国の軍隊と渡り合えるほどの破壊力を生み出すけれど、はずれとされる『猫』の精霊は、猫と喋れるようになったり、一時的に獣人化することはできたりするが、有用性は低く見られる。


 ――できるなら、俺も『当たり』を引きたい。


 そうすれば、宮廷魔法士になるという夢もきっと叶えられる。外れを引いてしまったら、どれだけ努力をしても宮廷魔法士に選抜されることは難しい。


 若くして学院長になった義姉さんがそうだったように、宮廷魔法士になって、彼女の家族として恥じないようになりたかった。


「では、『霊導印』の最終確認を行う。グラス君、二人に確認してもらいなさい」

「はい、先生」


 俺は着ていたシャツを脱ぐ。あらかじめ、儀式に臨む前に全身に『霊導印』を書き込まれている――これは魔法士の身体に精霊を宿すための印で、契約を終えれば薄れて見えなくなる。


 へンドリック先生は、助手として連れてきた二人の女生徒に、俺の身体の印を確認させる。必要なこととはいえ、見られるのは恥ずかしいものがある――そのうち一人は、俺の友人であるレスリーだからだ。


 俺より三つ年下だが、レスリーはいつも気兼ねなく接してくる。しかし今は、少し緊張しているように見える――『選霊の儀』の助手は希望制なので、レスリーは自分から希望して来てくれたことになるが、俺は何も知らされていなかったし、レスリーが何を思って見学に来たのか、理由が思い当たらなかった。


「グラス(にい)がはずれを引くところを、私が見ててあげようと思って」


 背中の印を確認するために近づいたとき、レスリーはごく小さな声で囁く。彼女はあまり素直な物言いをしないが、それはいつものことなので、俺も特に怒るわけでもない。


 確認を終えて、契約を行うための魔法陣に俺だけが残る。艶のある黒髪に、同じ色の瞳を持つレスリーは、もうひとりの生徒と同じように深くフードを被り、その表情は見えなくなった。


「グラス君、君がどの精霊と契約するかは、君の生まれ持った血筋と、この十五年の間に醸成された君の魔力の性質、そして人格などによって決定される。どのような精霊と契約することになっても、学院は責任を持たない。それで良ければ、この契約書に血判を押してもらいたい」

「わかりました」


 俺は短く返事をすると、親指に短刀の刃を浅く当て、にじんだ血で契約書に拇印を押した。血止めの薬草を粉にして油で伸ばしたものを塗れば、出血はすぐに止まる。これは母の家系に代々伝わる、良く効く家伝の薬だ。


 いよいよ、儀式が始まる――俺は良い結果になると信じて目を閉じ、深呼吸をして、気持ちを落ち着かせることに努めた。


「万象を司りしもの、あるいは万物に宿る偉大なるものよ。この者、グラス・ウィードがその血を以て契りを求める。導きに従い、彼方より此方こなたに来たれ……!」

「っ……!!」




 ――俺はそのとき、今まで一度も見たことのない、けれどとても懐かしく感じるような、不思議な風景を見た。


 それは、深い森の中。見たこともない花や草が生い茂る中で、さんざめく陽の光を浴びて、誰かがいる。


 その誰かは、俺を待ってくれているのだと感じた。


 光を照り返す白い服を着た、この世のものとは思えないほど美しい少女。


 綺麗だ――そんなありふれた感想しか出てこない自分が、呪わしくなるほどに。


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