6、厄介な仕事仲間
遅くなりました。短いです。
おやつという名の軽食を終えて、今度は仕事内容の確認をすることになった。
最近食べすぎな気がするけど気にしない。気にしたら仕事なんてできないから気にしちゃ駄目。
食べ終えると、周囲の状況が今更だけど気になる。自己紹介はしたけど、知らない人の隣に座るのは居心地が悪い。仕方なくソファの横に椅子を置いてそこに座った。
バルクスさんは一人で座り、その向かい側に残る二人が座っている。二人は座ってるだけなのにどこか品がある。家柄の良さそうな雰囲気だ。美形は何をしてなくても目の保養にはなるなとぼんやり思う。
テーブルにあったお皿やカップは全て下げて仕事の資料などを代わりに載せている。
「……ところでリナはなぜあの場所に? 下調べですか?」
セイは私が墓地にいたのを疑問に感じたようだ。それに対して特に隠すことでもないのですぐにもちろん仕事だと頷いた。その答えに納得がいかないのか二人はすぐに反論する。
「それならなぜ制服を着ていなかったのですか?」
「そうだよ! 俺だってお前が今みたいに制服着てたら勘違いなんかしなかったさ」
「勘違い? 私が墓荒らしにでも見えたの?」
まさかねと首を傾げれば当然だとマークは首を縦に振った。
「え? まさか」
「そもそもあんな場所で暢気に飯食ってる奴なんていない。それなのに平然と一人でいるんだから怪しいと思うのは当然だろうが」
「まあ怪しいのは怪しいけど、だからといってすぐにそう考えるのはどうなんでしょう。それにあんなに昼間は居心地良いんだからピクニック気分でおいしく食べれましたよ」
この二人に声をかけられるまではとても気持ちよく過ごせてたのは確かだ。
実際にこの世界でも墓地付近で故人を偲んでピクニック形式の食事会を開いたりするのはよくあるらしい。最近は噂の影響もあるのかそういったことをする人の数は減ったようだ。
お花を買ったお店や他の人に聞いて回って確かめたので間違いない。
「ではなぜ私たちがギルドの人間だと分かった段階で何も告げなかったんですか? あなたはすぐに同じ仕事を受け持つ人間だと分かったはずでは? 我々はすぐに職員だと告げたのですから」
「それはもちろん分かったけど、でも本当にギルドの人間か確認するほどでもないと思ったし、外で周囲に人の気配がないにしてもあまり仕事内容を外で話すのは良くないかなと。まだお互い何も知らないのは間違いないことだから……」
「なんで外で話しちゃ駄目なんだよ? 周囲に気配がないなら構わないだろう」
マークの言葉に唖然とした。その私の表情がおかしかったのか、バルクスさんが豪快に笑った。
思わず胡乱な目で彼らを見るのも仕方ないでしょう。
この人たちに任せて守秘義務とか大丈夫だろうか?
その様子が気に入らないのか、マークは歯軋りしている。
「あはははっ。お前らのやり取りおかしずぎっ」
「バルクスさん、酷いです」
「だってなあ。……しかしお前らもお前らだな。今までだって私服で仕事したことあっただろう?」
「そんなことないぞ。いつも俺はギルドの職員と分かるようにしてる」
「えっ、本当に?」
「マークはありませんが私はもちろんありますよ」
マークは見た目も言動も正真正銘のお坊ちゃん職員だと頭が痛くなってきた。
セイもそれを知ってて止めないのはなぜなんだろう?
今まで本当に私服の必要がなかったのだろうか? まあこれだけお坊ちゃんな雰囲気を出してたら私服も上等そうな物を着用して周囲にばれる可能性が高い。それを考えれば制服なら単に威張ってるだけの少年に見えるかもしれない。
それにしても、バルクスさんが仕事を振るくらいだから有能だと思ってたけど、それは勘違いだったのだろうか?
思わずバルクスさんを凝視すると私の視線に気付いたのか、こちらを見て苦笑を浮かべる。
最近私が口に出さずとも会話が成立するのが不思議に思うけど、そんなに顔に出てるのだろうか?
「いや。こいつらは実際に優秀だよ。リナ、俺も今の発言にはびっくりしたがちゃんとやれてたさ。何度か俺も一緒に仕事はしてきたしな。ただ、マークは見ての通りのお坊ちゃんだしまだ融通がきかないんだ。セイはセイで優秀すぎて周囲のことを見てない部分がある。今回一緒にしたのも少しでもこいつらが庶民の感覚を知るためでもあるんだ。お前には迷惑はかけるが頼むよ」
「ちょっ! 迷惑って俺らの方だろうが! こんな女なんか連れて仕事なんか絶対無理だ!」
その言葉には内心でかちんときた。確かに私はこの世界に来て日も浅いし仕事もし始めたばかりだ。
でも実際に知りもしないで決め付ける姿にむっとする。
「……お互いどう思おうと仕事に着任するのは決定のようです。仕事は仕事なのでお互い割り切ってこなしましょう」
「冗談じゃない! 俺はっ」
「いい加減にしなさい」
セイが低い声でマークの口を止めた。冷房でも入ってるのかと錯覚するほど空気が一気に冷えた。
思わず寒くもないのに両腕をこすってしまったくらい部屋が冷えた気がする。
セイの顔を直視するのが難しい。
「マーク、上司の決定に否を唱えるのは感情ではなくきちんと論理立てしなさい。できないのに仲間を貶めようとするのは同じ同僚として恥ずかしい」
「俺はっ」
「仕事は山ほどあるんですよ。こんなことでいちいち時間を潰すのは意味がない。リナ、さきほどの言葉で不快に思ったでしょう。本当に申し訳ありません」
セイが本当に謝っているのが伝わってきたので、蒸し返すほどのことでもない。慌てて気にしてないからと手を左右に振る。
今のセイを敵にするほど自分は空気が読めない子ではない。笑顔を見せてるのに反論は受け付けないという空気がなぜか伝わってきたからだ。
「マーク、リナと仲良くできないにしても同僚相手の礼儀は大切だと教えたでしょう。無理なら今回は降りなさい」
「……悪かったよ。仕事はする」
「それじゃ確認のために最初から話を始めるとするか。リナ、最初から話せ」
「分かりました」
そこで準備しておいた黒板をソファの近くに持ってきた。そこに事件内容・噂・被害者など分かる範囲で書いた。
「ざっとこんな内容です。今日までの調査はあくまで依頼人の内容の確認を主にしているのでもう少し詳細な調査が必要だと思います。お二人はこれから調査に当たるでしょうから私は事務室で……」
先制しておけば、わざわざ現場に出なくても平気かもしれないという一縷の望みをかけた。
「おいおいリナ。お前の仕事はこいつらのサポートだ。分かってるだろ?」
バルクスさんの一言で望みは潰えた。でもまだ諦めたくはなかった。
「でも、私と一緒にあちこち出歩くのは仕事の能率も悪いじゃないですか? マークだって居心地悪いでしょう」
「べつにいつも一緒にいる必要はないだろうよ。仕事に私情を挟むのは許さん。だからお前も外で調査なのは変わらない」
「……分かりました」
渋々頷いたが内心では溜息しか出てこない。バルクスさんが優秀だというのだから案外調査は楽できるかもしれないと多少の望みを繋いでおく。
マークはやはり気に食わないのかこちらを見る視線が怖い。思わずセイに目を向ければマークを諌めることもなくこちらに笑顔を向けてきた。
これは相当厄介な案件になりそうだと頭痛がしてきた。
こうして新たな仲間と本格的な調査に乗り出すことになった。