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貴族しか魔法を使えない世界で、農奴の俺だけ土魔法が使えたので畑を耕していたら魔法学園へ強制入学させられることになった  作者: 雪だるま
第一章

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9

 夕暮れの村は、昼間より静かだった。


 だが静かなだけで、視線は多い。


「…………」

「…………」


 レイが泥だらけで歩いていると、遠くから農奴たちがちらちら見ている。


 恐怖。

 警戒。

 そして妙な期待。


 今日一日で、レイは三軒分の畑を耕した。


 しかも魚二匹と干し芋で働いた。


 完全に農奴の感覚である。


「のだぁっ♡」


 本人はご機嫌だった。


 土魔法が楽しすぎる。


 石拾いが一瞬。

 水路掘りも一瞬。

 畑返しも一瞬。


「ぷぷっ♡人力、雑魚なのだぁ♡」


 五歳児とは思えない暴言を吐きながら歩いている。


 しかも今日は報酬も多かった。


 魚。

 黒パン。

 小さな干し肉。


 農奴社会ではかなりの成果である。


「のだっ♡今日は豪遊なのだっ♡」


 腕いっぱいに食料を抱え、レイは小屋へ向かった。


 すると。


「にいちゃあああん!!」


 ロイが飛び出してきた。


 小さな体で全力疾走。


 そしてそのままレイへ抱きつく。


「のだぁっ!?」


 ぐらつく。


「重いのだぁ!」


「うそ!!」


「軽いのだぁ!!もっと食べろなのだぁ!!」


 ロイはきゃっきゃ笑った。


 昨日まで怯えていたのが嘘みたいである。


 なにせ今日は村中でレイが大暴れしていた。


 しかも帰ってきた。


 三歳児的にはそれだけで安心だった。


「にいちゃん、おさかな!」


「のだっ♡吾輩が働いた成果なのだっ♡」


 得意げ。


 完全に一家の働き手気分である。


 小屋へ入ると、マリアが疲れ切った顔で座っていた。


「…………帰ってきたかい」


「のだっ♡」


 レイは戦利品をどさっと置いた。


「魚なのだっ♡干し肉なのだっ♡」


 マリアが目を見開く。


「こんなに……?」


「吾輩、超高性能農奴なのだぁ♡」


「その言い方やめな」


 しかし正直助かる。


 かなり助かる。


 今年は父親がいない。


 労働力不足は深刻だった。


 そこへ突然、“土を動かして畑仕事を爆速化する五歳児”が生えてきたのである。


 怖い。


 だが便利。


 ものすごく便利。


「…………」


 マリアは頭を抱えたくなった。


 この子は将来絶対問題を起こす。


 だが今日だけで畑の進み具合が違いすぎた。


「のだっ♡」


 レイは黒パンを齧っていた。


 今日は妙に美味い。


 働いた後だからである。


 農奴の食事は、基本的に“腹へ入れる燃料”だ。


 だから重労働のあとほど美味い。


「のだぁ♡」


 ロイも横でパンをもぐもぐしている。


 頬が少し膨らんでいた。


 昨日より元気そうだった。


 レイは満足げに頷く。


「うむ♡」


 それから。


 小屋の隅へごろんと転がった。


「のだぁ……」


 疲れた。


 今日は魔法を使いすぎた。


 土を動かすたびに体が熱くなり、頭がぼーっとする。


 だが楽しかった。


「…………」


 外では風が鳴っている。


 遠くで犬が吠えていた。


 村の夜は暗い。


 灯りも少ない。


 だから農奴たちは、寝るのも早い。


「のだっ♡ねんねなのだぁ♡」


 レイは藁の寝床へ潜り込んだ。


 ロイも隣へもぞもぞ入ってくる。


「にいちゃん、あったかい」


「当然なのだっ♡」


 レイは妙に偉そうだった。


 しかし次の瞬間。


「おい!ロイ!」


「?」


「今日はお漏らしするななのだぁ!」


 ロイが固まる。


「し、してないもん!」


「昨日したのだぁ!!」


「してない!!」


「吾輩の服まで濡れたのだぁ!!」


「うそ!!」


 きゃあきゃあ騒ぎ始める兄妹。


 マリアは疲れた顔でため息をついた。


「静かにしな」


「のだぁ!」


 レイはぶーぶー文句を言いながら丸くなる。


「吾輩、今日は超働いたのだぁ……」


 実際かなり働いた。


 農奴の大人並みに。


 五歳児とは思えない労働量である。


 しかしレイ本人は満足だった。


 腹も膨れた。

 家族もいる。

 しかも土魔法が楽しすぎる。


「のだぁ♡」


 ロイが隣でくっついてくる。


「にいちゃん」


「なんなのだぁ」


「またおさかなとって」


「当然なのだっ♡」


 レイは得意げに鼻を鳴らした。


「吾輩、最強農奴なのだぁ♡」


「さいきょうのうど?」


「いっぱい働くすごいやつなのだっ♡」


「おおー」


 ロイは素直に感心した。


 マリアは頭を抱えた。


「そんな方向に誇りを持たないでおくれよ……」


 しかしレイはもう半分寝ていた。


「のだぁ……」


 今日一日で、世界は大きく変わった。


 村人たちの態度。

 地主の視線。

 魔法。


 全部、昨日までとは違う。


 それでも。


 藁の寝床は相変わらず硬くて。


 ロイは隣で温かくて。


 小屋は寒かった。


「…………」


 レイは眠る直前、小さく呟く。


「明日はもっと畑やるのだぁ……」


 完全に農奴の子供の発想だった。

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