表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴族しか魔法を使えない世界で、農奴の俺だけ土魔法が使えたので畑を耕していたら魔法学園へ強制入学させられることになった  作者: 雪だるま
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/39

7 村人たち

 地主の馬車が去ったあとも、村の空気は戻らなかった。


 いや。


 むしろ、もっと悪くなっていた。


「…………」


 マカロン家の周囲だけ、不自然に静かだった。


 畑仕事へ戻った村人たちも、ちらちらこちらを見ている。


 だが誰も近づかない。


 昨日までは違った。


「おいレイ、また川で遊んでたのか」

「魚捕れたら持ってこいよ」

「こら問題児!」


 そんな風に雑に扱われていた。


 しかし今。


 誰も気軽に話しかけない。


「……魔法を使ったんだろ」

「見たぞ俺」

「地面が動いてた……」


 ひそひそ声。


 怯えた目。


 レイはそれを敏感に感じ取っていた。


「のだぁ……」


 村の子供たちですら距離を取っている。


 いつも一緒に泥遊びしていた少年が、今日は母親に腕を掴まれていた。


「近づくんじゃないよ」


「でも……」


「いいから!」


 小声だが聞こえる。


 レイはしょんぼりした。


「のだぁ……」


 しかし、それだけでは終わらなかった。


 夕方頃。


 井戸の近くで、女たちの声が聞こえてきた。


「気味が悪いよ」

「農奴が魔法なんて……」

「絶対おかしいって」

「呪われてるんじゃないのかい?」


 水桶を持った女たちが、露骨にマカロン家の方を見ていた。


「だいたい父親も徴兵されてから帰ってこないし……」

「やっぱり普通の家じゃないんだよ」

「神罰じゃないのかねぇ」


 マリアの顔が強張る。


 農村社会では噂は早い。


 そして一度“不吉”と見なされると厄介だった。


「…………」


 レイは黙って聞いていた。


 理解はできる。


 この世界で魔法は恐怖だ。


 農奴たちは皆、貴族を恐れている。


 理由の一つが魔法だった。


 火を出す。

 人を吹き飛ばす。

 土地を砕く。


 農民が鍬で生きている世界で、魔法は圧倒的暴力なのである。


 だからこそ、貴族は支配者でいられる。


 そして今。


 その“恐怖”が、農奴の子供に宿ってしまった。


「…………」


 村人たちは混乱していた。


 昨日まで同じ泥の中にいたガキが、突然“貴族側の怪物”みたいになったのである。


 理解できるわけがない。


 さらに厄介なのは。


 嫉妬も混ざっていることだった。


「地主様に目をつけられてたよな」

「屋敷に呼ばれるかもしれねぇ」

「もしかしたら取り立てられるぞ」

「運が良すぎる……」


 男たちの声。


 嫉妬。


 農奴にとって、貴族に見込まれることは恐怖であると同時に、“上がる可能性”でもあった。


 現実には滅多にない。


 だがゼロではない。


 使用人。

 兵士。

 神官見習い。


 極稀に、農奴出身でも地主家に囲われる者がいる。


 そしてレイは魔力持ちだ。


 普通の農奴とは違う。


「…………」


 レイは小屋の裏で丸まっていた。


「のだぁ……」


 嫌な感じだった。


 空気が変わっている。


 村全体が、自分を異物として見始めている。


 すると。


 ごつっ。


 石が飛んできた。


「のだっ!?」


 額に当たる。


 痛い。


 振り向くと、少し年上の少年たちがいた。


 七歳、八歳くらい。


 昨日までは普通に遊んでいた相手だ。


 だが今日は距離を取っている。


「……お前、気持ち悪いんだよ」


 一人が言った。


「地面ぐちゃぐちゃにしやがって」


「怪物め」


「貴族ぶってんじゃねぇぞ」


 レイは固まった。


「のだぁ?」


 意味が分からない。


 自分は何も変わっていない。


 今日も魚を捕りたいし、腹は減るし、畑仕事もある。


 なのに。


 皆の目だけが変わっている。


「…………」


 すると別の少年が怯えた声で言った。


「こっち来るなよ」


 それが一番、レイに刺さった。


 嫌悪というより、恐怖。


 本気で怖がっている。


「お前、怒ったらまた魔法使うだろ……」


「…………」


 レイは何も言えなかった。


 昨日、自分でも制御できなかった。


 地面が勝手に盛り上がった。

 ゴーレムが出た。


 もしまた怒ったら?


 自分でも分からない。


「…………のだぁ」


 少年たちは逃げるように去っていった。


 レイはその場へしゃがみ込む。


 額から少し血が出ていた。


「…………」


 小屋へ戻ると、マリアがすぐ気づいた。


「レイ!?どうしたんだい!」


「転んだのだぁ」


 嘘だった。


 マリアは少し黙った。


 外の空気で察したのだろう。


「…………」


 彼女も不安だった。


 村八分。


 噂。

 嫉妬。

 恐怖。


 農村共同体は狭い。


 一度浮けば、生きるのが難しくなる。


 特に農奴は互いに助け合わないと冬を越せない。


「のだぁ……」


 レイは藁の上へ寝転がった。


 ロイが心配そうに近づく。


「にいちゃん?」


「のだぁ」


「いたいの?」


「平気なのだっ♡」


 レイは無理やり笑った。


 しかし胸の中は妙に重かった。


 村人たちは、貴族が怖い。


 魔法が怖い。


 だから。


 魔法を使う自分も怖い。


「…………」


 レイはぼんやり手を見る。


 小さい。

 泥だらけ。


 昨日まではただの農奴の手だった。


 でも今は違う。


 皆がそこに“危険”を見ている。


「のだぁ……」


 その時、外から声が聞こえた。


「マカロン家!」


 村人たちがざわつく。


 マリアが凍りついた。


 窓の隙間から見ると、地主屋敷の使いが来ていた。


「旦那様からの命令だ!」


 男は村中へ聞こえる声で叫んだ。


「レイ・マカロンは今後、地主家の保護下に置かれる!」


 静寂。


 そして。


 村人たちの目が完全に変わった。


 恐怖だけではない。


 嫉妬。

 警戒。

 距離感。


 “もう同じ農奴ではない”。


 そういう目だった。


「…………」


 レイはそれを理解してしまった。


「のだぁ……」


 小さな胸の奥で。


 何かが、じわじわ冷えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ