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第三話

 水曜日は、思ったより早く来た。


 その日一日、なんとなく落ち着かなかった。

授業の内容もあまり頭に入らなくて、時計ばかり見ていた気がする。


「お前今日どうしたん」


 友達に言われても、うまくごまかせなかった。


「別に」


 そう答えるしかなかった。


 部活は本当に早く終わった。

いつもより空が明るい時間に片付けを終えて、駅に向かう。


 心なしか、足が少しだけ速い。


「……まだやろ」


 ホームに着くと、あのベンチを見る。


 ――いない。


 そりゃそうだと思いながら、少しだけ安心して、少しだけ残念に思う。


 ベンチに座る。


 いつもの場所。


 あの夜から、何度も座った場所。


 スマホを見ると、約束の時間まであと五分。


「……はやすぎやろ」


 苦笑する。


 そのとき。


「早くない?」


 声がした。


 顔を上げると、彼女が立っていた。


「……そっちやろ」


「同じこと思ってた」


 そう言って、自然に隣に座る。


 もう、この距離に違和感はなかった。


 しばらく、何も話さなかった。


 でも気まずさはなかった。


 電車が来る音も、人の声も、遠くに聞こえる。


 ここだけ少しだけ、時間がゆっくり流れているみたいだった。


「ねえ」


 彼女が言う。


「今日さ」


「ん?」


「終電じゃないね」


「当たり前や」


「でも、なんか」


 少し考えてから、言葉を続ける。


「終電のあとみたい」


 その言葉に、少しだけ笑ってしまう。


「わかるわ」


 不思議だった。


 人もいるし、電車も来るし、ただのいつもの駅なのに。


 あの日と同じ空気が、少しだけある。


「……なあ」


 自然に言葉が出た。


「なんで来てくれたん」


 あの日からずっと、ちゃんと聞いてなかった気がする。


 彼女は少しだけ黙って、それから言った。


「暇だったから」


「それ聞いた」


「じゃあ」


 少しだけ、こっちを見る。


「君がいたから」


 一瞬、何を言われたのかわからなかった。


「……それどういう意味」


「そのまま」


 彼女は視線を前に戻す。


「なんかさ、あの日」


 静かに続ける。


「一人で待ってるの、ちょっと寂しそうやったから」


「そんな顔してた?」


「してた」


 即答だった。


「だから来た」


 シンプルすぎる理由だった。


 でも、変に納得してしまう。


「……そっか」


 それ以上、言葉が出なかった。


 その代わり、少しだけ肩の力が抜けた気がした。


 電車の音が近づいてくる。


 でも、今度は焦らなかった。


「次さ」


 彼女が言う。


「終電、逃してみる?」


「なんでやねん」


「そしたらまた、あの感じになるかもよ」


「ならんやろ」


「どうかな」


 ドアが開く。


 二人とも、すぐには立たなかった。


 少しだけ間を置いてから、立ち上がる。


「じゃあ」


「おう」


 電車に乗り込む。


 今度は同じ車両だった。


 ドアの近くに並んで立つ。


 窓の外、ホームがゆっくりと離れていく。


「なあ」


「ん?」


「次はさ」


 少しだけ迷ってから、言った。


「終電じゃなくてもええけど、また来る?」


 彼女は少しだけ笑った。


「うん」


 それだけだった。


 でも、それで十分だった。


 電車は夜の中を走っていく。


 終電でも、そのあとでもない、ただの帰り道。


 それでも。


 たぶんこの時間も、いつか思い出す。


 あの静かな夜と同じくらい、大事なものとして。


 終電のあとじゃなくても、

誰かと過ごす時間は、ちゃんと特別になるんだと思った。

完結です。

またチャッピーくんに書かせてみるかもしれません。

最近とある有名な叙述トリックの文庫本を読んだのですが、せめてその分野では人間の方がいいものができると思い込みたいものですね。

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