護衛騎士
翌日から毎朝ジュダスから花が届き、午後のお茶の時間に必ず彼が訪れるようになった。
最初はジュダスの訪問に戸惑っていたエリカも、段々と午後のお茶の時間を楽しみに待つようになっていた。
ジュダスはエリカの元いた世界の話に興味があるようでどんな些細な事にも興味をもった。特に車やバイク、電車などの乗り物と身分制度が無い事に大きな興味を示し、時には日が傾くまで話し込んだ事もある。
ーどの世界でも男の人は乗り物が好きなのね。社会制度に興味があるのは王族だからかしら。
熱心にエリカの話を聞いてくれるジュダスにエリカは少しずつ心を開いていく。
エリカはエリカで、アマーリアや大司教から教わったこの世界の事をお茶の時間にジュダスに確認する事で二人の会話は増えていき、当初に比べてエリカは大分ジュダスと打ち解けることができるようになった。
ジュダスは王族だからと奢ることなく、穏やかに紳士的にエリカに接してくれた。
お茶だけの時間から王宮の庭園を一緒に散歩するようになるまで、そう時間はかからなかった。
ジェダスはエリカの言葉に耳を傾け、この世界と元いた世界の常識や習慣の違いを「貴女は、それをどう感じどう思ったのか」とエリカの気持ちを尋ねた。
なぜそんな風に自分の気持ちを聞くのかと疑問をぶつけると、ジュダスは照れたような顔で「貴方を理解したいからです」と答えた。
「我々の都合で貴女をこの世界に召喚しました。貴女は肉親や元いた世界で築いた全てを失って、この世界に一人で来ました。大きな傷を負わせたと思っています。せめて私だけでも貴女を理解して、貴女の味方でいたい」
そう告げるジュダスの真剣な目を見て、エリカはじわりと胸が熱くなったのを悟られないようにするのが精一杯だった。
「少しずつゆっくりで良いのです。急ぐ必要はありません。深い傷を受け入れ癒やすのには時間がかかります。私が側にいます」
ジュダスは、そっとエリカの手をとり優しくその甲に口づけを落とす。
その言葉を聞いて、エリカはこの時からジュダスを意識するようになる。
ー今まで、あんな事言われたなかったわ。
裕樹だけでなく、今まで付き合ってきた友達からも言われたことのない言葉をエリカは心の中で反芻する。
ー気にしすぎだよ。ハーフとかかっこいいじゃないか。気にするなって。
ー黒く染めるのやめなよ。もったいないよ。ありのままでいいじゃない?
ー嫌なことは忘れるに限るよ! カラオケ行こうよ!
そう、彼らは自分を励ましてくれていた。彼らは悪くない。留まり続けている自分の手を引いて、そこから引っ張り出そうとしてくれていた。だが、自分の心がそれについていけなかった。
歩くスピードや歩幅が違うように、エリカはゆっくり少しずつしか自分の傷を癒せなかった。最初は手を引いてくれていた彼らとも、段々と距離ができ自然と置いていかれた。
今も完全には癒せていない。いや、未だに髪を染めカラコンをつけていたから全然なのかもしれない。
ジュダスは母以外で初めて自分の歩幅を認め、ゆっくりでいいと言ってくれたのだ。
それに、この世界では自分の地毛と同じような髪、同じ目の色を持つ者が多い。3ヶ月もすれば黒く染めた髪は元の色に戻る。
ーそうしたら、目立たなくなるはず。
エリカはそう思っていた。
「貴女に護衛騎士を付けてもいいですか?」
「護衛騎士?」
暫くしてジュダスから、そう尋ねられた。聖女はこの国にしか現れず、常に諸外国から狙われる対象だと説明された。
常に魔物との戦いを強いられる他の国々は、聖女の持つ護りの力をなんとか自国にも引き入れたいと考え、過去に何度か聖女の誘拐未遂が起きているらしい。
「王宮の外に行く時は護衛騎士団を組みますが、王宮でも念のために。私がいない時にも自由に庭園を散歩されたりしたいでしょう」
ジュダスに言葉にエリカが頷くと、扉が開けられ1人の騎士が部屋に入ってきた。長身にダークブロンドの短い髪で、暗い青の瞳には軍人らしい厳しさがあった。
「紹介します。君の護衛騎士となるキース・ヴェルザーです」
「エリカです。よろしくお願いします」
「キース・ヴェルザーと申します。聖女様の護衛騎士となる事を誉れに思います」
表情の読み取れないキースは、この国の騎士の挨拶をエリカに恭しくすると跪き、自分の剣を鞘ごと捧げるように差し出した。
「え?」
「さぁ、その剣を取って彼の肩に置いて『キース・ヴェルザーを、私の護衛騎士に命じる』と言ってあげてくれませんか。その儀式を済ませないと、彼は貴女の護衛騎士と認められないんです」
戸惑うエリカの手を取って、ジュダスは捧げられた剣の柄を握らせると、スッと鞘から抜きキースの肩にその剣を置いた。
それがエリカとキースの初めての出会いだった。




