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なんで何も

遥か上空から黒龍は切なげに呟く。


「リルたん…」

「もう!サン姉はあなたの手下だったのね!?」


いや、そもそも全て龍族は龍帝の手下である。しかしそんな理屈の通じないリルリアーナはぷんぷん怒っている。


「いつから近くにいたのよ、もう!そんなとこ飛んでないで!降りてきて!」

「はい…」


愛しい番に怒られて、龍帝はしょんぼりと人の姿になって降りてくる。


「お話するからちょっときて!」

「はい…」


リルリアーナの指さす方に素直にトボトボとついていく龍帝。その姿はまるで悪さがバレた子供のようだ。


あとに残された龍族の若者たちは呆然とする。


「いや〜…トゲピー思ったよりデカかったな〜…」

「な…お前よりよっぽど強めの火ぃ、吹きそ〜…」

「ちょっと…ぶっ飛ばせそうにはないかもな〜…」


ははは…と言って、現実逃避をするように乾いた笑いをしながらも次には一斉に声を揃えた。


「「ってか陛下じゃん!!!」」


知りたくなかったその正体。赤龍も真っ青になるものである。


「え、え。じゃああいつ…いやあのお方が陛下の番…?」

「え、じゃああの銀狼の兄ちゃんは??」

「いや、それより俺ら色々やべーこと言ってないか…!?」


命の危険にようやく気づいて混乱する若者たちの前に、スッと1人の女性が現れる。


「これだから調子に乗った若者は…」


ふぅ、とため息をつきながら現れたのはメイド服姿のサンディだった。


「サンディ大叔母さん!え、いつから!?」


ランドルがサンディに向かって叫ぶ。


「ずっとそこの木の影にいましたよ。妃殿下と陛下の邪魔をしないように…と思っていたのだけれど、まさか先にイキり少年ズが来るとは」

「う…このこと陛下には…」


こんなやり取り最近多いな、と思いつつ不可抗力を含めて色んな者の秘密を握るサンディはいう。


「大丈夫、聞かれない限り言いませんよ。その代わり、見聞きしたこと全て忘れなさい」


でないと、灰になりますよ?

――


畑近くのベンチに移動して、リルリアーナは龍帝と2人で無言で腰掛けている。

さっきは勢いで呼んでしまったが、よく考えると何から話そうかどこまで話そうかなど何もまとまっていないことに今さらながらに気づいた。


(どうしよう…カイゼルさんとのあれこれを話すべき?でもサン姉は絶対言わないほうがいいっていうし…。そもそも私これからどうしたいんだろう。このままここにいていいのかな?でもそうしたらこの人は死んじゃうの?でも番を失うって死別って意味かな?別の場所で生きていくのは平気なのかなぁ。監禁は嫌だし。うーん、でもなんて言えば諦めてくれるのかなあ…)


そんな風に頭の中がぐるぐるしているリルリアーナの横で、じっと畑を見ていた龍帝が話しかける。


「…これ、リルたんが育てている畑?」

「え、まぁお手伝い程度にしか出来てないんだけど…うん」


急にでた意外な質問に面食らいながら、リルリアーナは答えた。


「ただお世話になるだけにはいかないし、私にはこれくらいしかできないから…って思って」

「いや、君の力はすごいよ。街で売ってた果物の艶を見てすぐに気づいた。これは君が育てたものだって」


柔らかく笑う龍帝の姿を見てリルリアーナは思った。

意外だわ、野菜ソムリエなのかしら…と。


「こんな大きな畑じゃないけど、お城でも中庭でトマトとか育ててたでしょ?やっぱり植物を育てるのは楽しいなって思うわ」


ふふっと笑うリルリアーナを見て、龍帝は驚き呆けた顔をする。


「…君が笑うのを久々に見た」

「え?そうかしら?最近ずっと笑ってた気がするけど…」


それは誰と一緒にいる時だったか。番の様子からそれに何となく気づいた龍帝は眉を寄せ、ぐっ…と拳を握りながら告げる。


「…これより大きい畑を城に作るよ。君が望むなら帝都をジャングルにだってしたっていい」

「え、いやそんな大きい畑は大変だし、ジャングルは普通に嫌よ」


そういうことじゃない。リルリアーナは的外れな提案をさっくりと断る。


「…また閉じ込められるのも嫌よ。だいたい閉じ込めて何がしたいのよ」


厳重に閉じ込めて自由を奪って、何をするでもさせる訳でもない。龍族の常識で大事にされてもわからない。一体自分をどうしたいのかリルリアーナにはずっと不思議だった。


「他の人にも会わせてくれないし、そのくせ自分は黙って綺麗な女の人とベタベタして!他に好きな女の人ができてもちゃんと言ってくれればそれでよかったのに!何が魔道具よ!ばか!」

「他に好きな女などいない!俺は君が…」


言い訳をしようとした龍帝の言葉を遮るようにリルリアーナは続ける。長年の怒りは溢れて止まらないらしい。


「私にはキスだってしてこなかったくせに!今だって全然じゃない!もう大人だって言ってるのに!」

「していいのか?」


俯きながら真っ赤な顔して怒るリルリアーナに、龍帝の声色が変わる。その声と己の失言に気づいて彼女は顔をあげる。


「え…」

「…今だってどれだけ我慢していると思っている?君はわかっていないだろう?」


ぎらぎらした龍の目に、リルリアーナは恐怖する。誰だこれは。こんなの知らない。


「え、あの…」

「そんな可愛らしい服まで着てるのは誰のため?大人になったのも誰のところで?」


じりじりと近寄る姿は変態にしか見えない。


「い…、いやーっっ!!」


瞬間弾けるように逃げ出した。逃げ足は結構早いリルリアーナであった。


「…!リルたんっ…!」


は!と我に返り、慌てて変態は少女を追いかけた。


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