侍女と花の再会
リルリアーナの侍女を名乗るサンディに聞きたいことはまだまだある。カイゼルはこの屋敷で龍帝に会ってからずっと気になっていたことを聞いてみる。
「…ところで魔道具の効果は切れたって言うけど、今の陛下はなんというか…あれはあれで違和感凄くない?」
「…と、言いますと?」
聞きようによっては不敬にあたりそうな質問だが、彼がリルリアーナと話す姿には違和感しかなかったのだ。
「族長として新年祭とかで拝謁したことはあるけど、全然あんな感じじゃなかったというか…」
ニコリとも笑わない、恐怖の帝王という名にふさわしい存在だった。終始誰にもそっけなく、あんな感情豊かにしてなどいない。絶対的な王としての対外的な姿なのかもしれないが。
「あぁ…リル様の前以外ではいつもそのような感じですよ。私はリル様のお側にいたので陛下の感情豊かなお姿を見たことはありましたが」
平常運転です、とサンディは告げる。ふと思いつき、むしろ…と続けた。
「陛下の側近や護衛たちの方が驚いたと思いますよ。嫉妬深さ故かリル様のお話は陛下の口からも殆ど出ないそうですし、他者はリル様の名前を呼ぶことすら許されません」
サンディが名を呼ぶのを許されているのはリルリアーナ自身が望んだからだ。いつも近くにいる姉のような存在なのだからと。ただし他の者にリルリアーナの話をするのは龍帝の許可がいる。だから騎士団の男たちは何の情報も持たないまま闇雲に探す羽目になったのだ。
「護衛って…最初いらっしゃった時に10名以上連れてましたけど、あんなに必要なんですか?一目で誰も敵わない相手だとわかるのに」
この屋敷に来た時沢山の龍族が一緒にいた。ゼフはそのことを不思議に思っていた。
「いえ、あれは陛下ではなく街や皆さんを守るためですよ?側近はともかく、氷龍が多めでしたの気づきませんでした?」
消防隊みたいなものです、と淡々と言うサンディ。想定された最悪の事態にカイゼルとゼフはぞっとした。龍帝自身は護衛がいようといまいと他者のことなどまるで気にしないらしい。番に関わること以外は。
「…ところで、陛下たちとは別でここへ来たって言ってたよね?もしかして陛下がリルちゃんを見つける数日前から何回かこの領地に来てた?」
「え!?」
カイゼルがサンディに向けて言った言葉にゼフの方が驚き反応を見せる。サンディ本人は業務的な笑顔を崩さずにさらりと答える。
「当たりです。私、斥候は得意なんです。でも何度かこちらを振り返られてましたよね。気づかれたかなとは思っていました」
「女性の視線には慣れてるからね。敵意はしなかったからそんなに気にしてはいなかったけど…」
「いやいや、だったらなんですぐに陛下に報告されなかったんですか!?この事がバレたらあなたも殺されませんか??」
淡々と話すサンディにすぐさま疑問を呈するゼフ。何日前から気づいていたかは知らないが、龍帝陛下に報告もせずにただリルリアーナを見ていただけという理由がわからない。外でもいちゃいちゃしていただろう2人を止めることもなく、見ていただけ?
サンディは真顔で少し考えるそぶりを見せながら答えた。
「あなたといるリル様が笑顔だったから…理由としてはそれだけです」
「?リルちゃんはよく笑う子だろ?そうじゃない方がめずらし…」
コンコンッ!
カイゼルの言葉の途中でドアをノックする音が響く。タイミング的に彼女かなと思うカイゼルと目配せをして頷くと、ゼフが扉を開く。そしてそこにはやはり渦中の人物がいた。
「やあリルちゃん」
「カイゼルさん、お仕事中すみません!今日も美味しい果物が収穫できたからおやつにと思って…て、あれサン姉!?」
厨房で切ってもらった果物を持ちながら笑顔でやってきたリルリアーナはサンディの姿をみて驚く。
「なんで?トゲピーに何か言われたの?もうあれ以上手紙は書かないからね??」
うー、と警戒するリルリアーナ。トゲピーって誰だろう?と疑問に思いつつ、ゼフはその手から果物の皿を受け取った。
「いえいえ、私は自主的にここにいるんですよ。リル様不在では仕事もないですし。このままでは失業ですね」
「え!?ご、ごめんなさい!そんなことになるなんて…!」
嘘である。それならそれで城で他の仕事に移ることもできる。そもそも龍帝が番を連れ帰ることを諦めるわけがないので、その侍女が解雇される理由もない。しかし単純なリルリアーナは疑わずに信じて青ざめる。
「か、カイゼルさん!何か良いお仕事ないですか??サン姉は私と違って何でもできるんです!」
カイゼルの方に向き直り近寄るリルリアーナ。本人なりに必死である。
「んん?いやまぁ本人が望むならいくらでもあるけど…」
ここで仕事を探す理由などまるでないことは明白だ。やや混乱しているリルリアーナはともかく、カイゼルやゼフにはそれくらい当然分かる。しかし一体何を考えているのか、先ほどからずっとサンディからは表情が読めない。失礼だが何故か脳裏に海千山千のばあちゃんの顔が浮かんだ。いや、龍族は長寿だと言うし見た目通りの年齢ではない可能性は高いのだが。
「…あー、ここから帝都は遠いし、リルちゃんと積もる話もあるだろうし、とりあえず今日は俺の屋敷に泊まって行ったら?」
龍ならひとっ飛びであろうサンディに対する提案としては無理があるが、もちろんこちらにも思惑はある。まだ気になる話もあるし、龍帝に先程の話がバレたらやばいどころではないからだ。とりあえず相手の出方を知りたい。そんなカイゼルの胸中など知らないリルリアーナは手放しで喜んだ。
「ありがとうございます!カイゼルさん大好き!」
ぎゅっ!と笑顔でカイゼルに抱きつくリルリアーナ。彼女の正体を知った以上、複雑な気持ちにはなるが嬉しくないわけではない。
「ははっ、このくらいお安い御用だよ」
そのまま調子良くリルリアーナの頭を撫でるカイゼルを見て、サンディは横にいたゼフに問う。
「彼は破滅願望でもあるんですか?」
「どうしようもないバカなんです…」
どう見ても、な空気を出す2人にため息をつくしかないゼフだった。




