コード61「さよならも言ってないのに」
第61話
前回、モニカの真実を聞いた後
モニカは薄々気が付いていたのだろう。
何も触れられない事。
誰にもそこに居ないものとされること。
モリアがこちらに気が付かないこと。
「私、記憶力が割と良いんだ。基本的になんでも覚えてる…。でも、覚えてないことが一つあるんだ。」
ぽつりぽつりとモニカは話し出した。
まるで、小雨のように。
「私は、崖から落ちて、その先の記憶が無かった。気が付けば、花壇の上で倒れてたんだ。どうやって戻ってきたのか、そもそも助かったのか、私は、何も"覚えていなかった"。それから、1週間が経ったんだ。」
悲しそうに、寂しそうにモニカは話している。
「こんな話、昨日今日会った人に話すべきじゃないよね…でも、今私が話せるのは、マナちゃんだけ。マナちゃんだけが…、私と…。」
モニカの涙が花壇に零れ落ちた。
誰かに話そうとしても、無視される。
モリア様に無視されたら彼女は嫌でも気が付いてしまう。
モニカ様は気が付かないように、目をそらして、逃げていたのですね。
マナはモニカが泣き止むまで、彼女の背中をさすった。
「落ち着いた、ありがとう…。マナちゃんも大変なのにね。でも、どうしてマナちゃんだけが私と話せて、触れ合うことが出来るんだろう?君ももしかして…。」
モニカは手を口に当てていた。
「いえ、私は…恐らく死んではいません。一時的に、幽体のようになってしまっているのでしょう。原理は分かりませんが。」
モニカはまた考え込んでいたが、すぐに戻ってきた。
「参考程度になるか分からないけど、私ね、交霊魔術と、風花魔術が扱えるんだ。どういう組み合わせ?って思うでしょ?私もそう思う。」
モニカは少しだけ笑っていた。
マナは考察を立てる。
「その交霊魔術が恐らく…今のモニカ様を支えているのでしょうか。」
「うん、多分そう。無意識にそれを使ってるんだと思う。それのおかげで今こうしてここに居られる。」
マナはある事が気になった。
「そういえば…嫌な事を思い出させてしまうかもしれませんが、モニカ様は、どうして崖から落ちたのですか?」
モニカは考える素振りもしなかった。
「それは、花弁が見えたから。追いかけて、手を伸ばして、キャッチしたかと思ったら、真っ逆さまだよ。崖の下は水路だし、私の死体はもうどこかに流されちゃってるかも。探すのは難しいかもね。」
モニカが言うには、光り輝く花弁が見えたからだという。
「なるほど…花弁が…?」
「それは、私たちが研究していた魔力の花を作ること。そしてそれを植えて育てることだよ。モリアも私もそれに熱意を捧げていたんだ。」
マナはある事に気が付く。
「モニカ様、もう一度研究室へ行きましょう。モリア様の事で気が付いたことがあります。」
2人は再び、研究室へとやってきた。
「モリア様は、今必死に、研究してらっしゃっています。まるで命を捧げるかのように。少し違和感を感じませんか?どうして、あんなに必死になって、研究をしているのか。」
モニカは確かに不自然だと思った。
こんなにも、必死に研究をしている姿を見るのは初めてだった。
どうして…?
輝鳥歴 12年
モニカ10歳
モリアとは良く遊んだ。
昔からずっと一緒に居た。
きっと私が生まれる前から居たんだろう。
モリアはエルフだった。
「出来たー!お花の冠!モリアにあげる!」
モリアはモニカからお花の冠を受け取り、頭にかぶる。
「少し小さいね…でもありがとう。君は優しいね。」
モニカは小さい頃から幽霊が見えた。
不思議と怖いと思うことはなく、
彼らと話す事も出来た。
そんな彼女は他の人たちから忌み嫌われていた。
モニカはひとりぼっちだった。
彼女の隣に居て、友達になってくれたのが、モリアだった
モリアはいつも一緒に居てくれて、遊んでくれて、
魔術の事も、たくさんの事を教えてくれた。
師匠と弟子の関係になって、
上下関係は嫌だったから、友達関係のままで、
親友と呼べる、大切な人だった。
モニカは風を吹かせば、花が咲く魔術を扱えた。
モリア視点から見れば、花畑で幽霊と楽しく話す彼女の姿がそこにあった。
そして10年後、
「見てみて!魔力の形状変化で魔力の花を作ることが出来たの!これをお花畑に咲かせて、植えられたら素敵だと思わない!?」
モリアは不可能だと言っていた。
魔力の花は、手から離れて、魔力が尽きれば、
消えてなくなってしまう。
どうあがいても、消えてしまう。
どうすれば、消さないように出来るのか、それを探していた。
「まあ、こんな感じで、研究していたんだ。でも、今モリアが必死に研究してるのって…。」
モリアはモニカの為に研究している。
モリアはモニカの亡骸を見つけてしまったのだろう。
泣いても、どれだけ救いを求めても、彼女はもう帰ってこない。
いつものように、花壇に行くと言ったのがモリアとモニカの最後の会話だった。
「モリア…そこまでして…もう、いいんだよ。お花はいつかは枯れてしまう。だから…もういいんだよ…。もう…。」
泣き出しそうなかすんだ声が研究室に響く。それはモリアには届いていない。
「私…まだ…さよならも言ってないのに。」
その言葉はモリアには当然届かない。
どうすれば良かったのか。
マナがこの時代に来た時には、もう既にモニカが亡くなっている後だ。
どうすることもできない。
もし、もう一度、やり直せるのなら…
やり直しても…。しかしこれではあまりにもモニカ様が…。
いや、過去を変えると、未来が大きく変わってしまう。
どうすることもできないのかと、マナは自身の弱さを観測した。
だがしかしその時、どこからか声が聞こえた。
「やっと見つけた。どうやって来たのか知らないけど。え?ちょっと待って。」
マナの前に光の渦が生成され、マナは光に包まれる。
そしてその渦へと吸い込まれてしまう。
「待ってください、まだ、モニカ様が…!」
マナの体が粒子のように消えていく。
モニカの涙を流す姿がメモリに記録された。
マナは時空を超えていく。
未来へ。
輝鳥歴 231年
12ムーン25ピリオド
第四次魔術大戦は規模を広げていき、
世界現精魔大戦へと移行していた。
これは、マナの行動により、分岐された、別の世界線の終焉の物語。
分岐された世界が破滅、終焉へと向かう別の世界線の物語
これは決定事項であり、止めることはもう出来ない。
我々はただ、それを観測するだけ。
第61話、読んでいただきありがとうございます。




