コード40「魔弾の狙撃手」
第40話
前回、アルバイトに来たところから
「異常なし!です!先輩!えへへ」
カナリーは手を頭にあて敬礼している。
「うむ!引き続き警戒せよ!」
(危険な事とか起こらないだろう。多分。)
会場には、政治家も来ている。
なんでも魔駆動車の開発資金をその人が出しているらしい。
「おお~これが例のものか!ふむ、良い出来だ。」
ちょび髭が生えていていかにもお偉いさんと言った感じのおじさんが
魔駆動車を見ている。
本当はカナリーもじっくり見て回りたいが、アルバイトということで
我慢しつつ、アルバイトが終わったらじっくり見て回ろうと思っているらしい。
「はわぁ~!これが!魔駆動車…!馬車や魔列車とは大違い!まるで…。すごいなぁ~!お仕事で来れて良かったぁ~!」
どこかで聞いたことのある声がした気がした。
楽しそうに目を輝かせて魔駆動車を見ている。
お仕事で来ていると言っているが、完全に私服である。
何かの視察だろうか。
「おや、君、この良さが分かるかね?良い目をしているな!ガハハ!」
楽しそうに話している。
カナリーは時計を確認する。
もう少しでお仕事が終わる時間だった。
監視魔石が秘かに破壊されていた。
「ん?何かの故障か?報告しとくか。」
カナリーは監視魔石に異常があるとの報告を受け
気を引き締めた。監視魔石のある場所を遠目に壁から少し顔を出し伺った。
監視魔石が矢で砕かれていた。
どこからか、矢で狙撃されていた。
建物の上では
フードの人物が銃を手にし、息を大きく吸い込み、吐き出す。
遠くを見つめる。そして、マスケットを構え、標的へと狙いを定める。
魔弾魔術<スペル・魔弾Ⅰ>
雷が落ちたような音が魔駆動車の方から鳴り響いた。何事だろうと急いで走った。
そこには、さっきのちょび髭おじさんが倒れており、足から血が流れていた。
一体何が…だが、はっきりと聞こえてた。
耳をつんざくようなキーンと雷のような音が。
「ぐあああ…足が…!熱い!」
「はわわ…!大丈夫ですか!?」
(このままじゃ…それにこの位置…出血多量で…急いで医術師に見せないと…!)
カナリーがビル先輩よりも速くダッシュで飛んでくる。
「早く!物陰へ!」
ちょび髭おじさんを物陰へと連れて行く。
「大丈夫ですか!?お怪我を!?すみません!見ます!」
カナリーはズボンを破き、傷を確認する。
足の太ももにやはり穴が開いており、血が流れている。
(くっ…!私は回復魔術を扱えない!こんな時、マナが居れば…!って、私マナに頼り過ぎだ!)
「おや?足を怪我してしまったのですか?でも、足で良かったですな。」
別の男がそう言ってくる。だが、
「そんな悠長なことを言ってられません!出血が止まらないのです!このままでは、足が使い物にならなくなるだけじゃなく、死にますよ!」
ちょび髭おじさんの隣に居た女性が指摘する。
「伏せてください!危険です!攻撃を受けてます!」
(私じゃ…治せない…急いで病院へ!担いで行けるかな…)
(やっと、再装填できた。次は…)
その時、再び2回目の雷の音がした。
貫通魔弾魔術<スペル・魔弾Ⅱ>
今度はレンガの壁を貫通してそのまま直線に進む。
机を盾にしているが、弾道はちょび髭おじさんの肩へと向かって飛んでいく。
カナリーは超反射で魔破片を政治家男性に展開し、弾き返す。
狙撃手は背筋がゾクりとした。
まさか、弾かれるだなんて思っていなかった。
どうする。このまま守りながら、走って病院へ向かおうにも
そこを狙撃されちゃう。というか、私…病院の場所知らないんだよね…
(はわ…この撃たれた箇所…この人が死んじゃう!なんとかしなきゃ!)
「あ、あの!この魔駆動車…って動かせますか!?」
ちょび髭おじさんと話していた女性が提案する。
そうか!車で!それなら!
「ダメダメ!それは試験機だ!魔石なら入れてるが、まだ、マソリンを注いでいない!少ししか動かない!」
でも、動くことは動くんだよね…もうこれしか思いつかない!
「ちょっと借ります!」
ちょび髭おじさんを魔駆動車へと乗り込ませる。
前世で車のゲームを見たことはあったが、したことはない。
「ふぅぅ…えっと、これが…ハンドルで…アクセルと…ブレーキと…ペダルが3つもある!?どれだろう…。あ!まずはエンジンだっけ…?」
その前に、病院の場所を知らないため、どうしようかと悩む。
ちょび髭おじさんと話していた女性に場所を聞きながら…
でも危険だし…と思っていると
「あ、あ、あの!私もついていきます!包帯くらいなら持ってますから!私軽めの応急処置なら出来ますので!」
「え!?ほんとですか!?じゃあ!お願いします!あと、道案内って出来ますか?」
その女性とおじさんを後ろに乗せ、エンジンらしきつまみを引っ張るが
何も起こらない。
(どうして…?)
うぅ…私が運転したい…あれってMT車だよね…
看護師を目指していた女性がうずうずしている。
「あ、あの!私運転できます!というか、運転させてください!病院までですよね!?」
ほっと一安心する。
車の運転なんて、前世でもしたことが無かったため、
お姉さんに任せることにした。
「本当ですか!?じゃあ…お願いします!お姉さん!あなた方は私が絶対に守ります!」
カナリーはおじさんの傷を包帯で強めに抑える。
「クラッチとブレーキを踏み…これがギアだね…ニュートラルは多分真ん中かな?サイドブレーキは…かかってるね。このまま…エンジンを引っ張ると…」
魔石が輝き、エンジンがかかった。
(あの人…もしかして転生者…?いや、転移者?)
「お、おい、大丈夫か…?後輩…」
「大丈夫です!ちょっと行ってきます!先輩は引き続き警戒していてくださいね!でも命を大事に!危険と判断したらすぐに逃げてください!じゃあ、お姉さん!病院までお願いします!」
「はわ…いや、しっかりしなきゃ私!シートベルトは…ないけど、しっかり捕まっててね!」
車なんて久しぶりだな…数年ぶりに乗る…
まさかこっちで運転するだなんて思わなかったな…
お姉さんはブレーキ、クラッチペダル、アクセル、そしてギアをうまく使いこなし
魔駆動車を動かし、発進していた。
これなら!間に合うかもしれない!
「標的、鉄の馬車?で出て来た。追跡しますか?」
狙撃手は誰かと連絡を取っていた。
(足で…よかった…でも、逃げられちゃったな…殺したくはなかったし…あと5発か…)
政治家の男性が出血多量で死ぬまで、残り10分。
ちなみに、この場は外です。
建物の中ではなく、外で行われていたイベントです。
魔駆動車
魔列車を小型化させ、レール以外でも走れるようにしたもの。
マソリン
魔駆動車のエネルギー源
魔石をドロドロに溶かしたもの
今回は魔石をそのまま積み込んでいた為、
動いたのは魔石の力。ただし、使えば使うほど
魔石は欠けていく。マソリンよりも燃費が悪い。