『XVII :新域1』
俺たちは目的の第三区域まで電車で移動していた。
電車と言っても厳密には車両は二つしかなく、1900年代の機関車のような構造だ。
「こんな便利なものがあるとは知らなかったな」
東君が窓を見ながら呟いた。
電車はかなりのスピードで暗闇の森を駆け抜けている。
「これが無しで徒歩で移動しなくちゃ行けないと思うと、防壁外に線路を作るってアイデアを出した人には感謝の念しか湧かないね…」
「そうね…でも今回は電車で移動だけど、さらに奥の区域は徒歩で移動しなきゃいけないのよ」
奥に進めば進むほど凶獣が凶暴になるため、紅林さんの言う通り安全に線路がどこでも貼れるわけでは無いのだ。
「まじかー、ちなみにこの線路ってどこまで繋がってるの?」
東君は施設での授業を聞いていなかったのだろうか。
「第二区域の終わりまでよ」
紅林さんがそう返答すると、僕たちの会話を聞いていた雨夜先輩が背もたれの後ろからひょこっと顔を出す。
「その通り!私たちがこの電車ダーキングブルムに乗れるのは第三区域の入り口まで、私たちの目指す場所は第三区域の中部だから、途中からは歩きよ」
「ダーキン…ブル…ム?」
「そのことなんだけど」
後部座席から西園先輩の声がした。
「今線路の点検中で第二区域の途中で降りなきゃいけないんだ」
「えぇ〜~〜!」
雨夜先輩は絶望したような表情を浮かべて西園先輩の方に振り返る。
「先週言ってだでしょ、昨日と今日は線路の点検があるって。メールも来てたよ」
雨夜先輩は記憶を探るように頭に手をあてて考え込む。
「…………えへっ?」
「はぁ〜…。あと電車にいちいち厨二病全開の変な名前をつけるな。後輩が混乱するだろ」
西園先輩はため息と共に頭を抱えた。
僕はメールを確認しようと携帯を開きある事に気付く。
「圏外なんですね…」
「え…まじ!連絡取れないじゃないですか」
東君も自分の携帯を確認する。
「流石にね。都市外は飛んでないよ…電波」
西園先輩は続ける。
「でも基本的には別行動は極力避けるし、時間と集合場所さえ決めれば別行動も不可能ではないよ」
「まぁ、そうっすね…」
東君は不満を残しながら納得した。
そうこうしているうちに電車は目的の場所に到着したのか、スピードを落とし停止する。
遂に初めての第二区域、どんなものかと僕は窓越しに外を確認する。しかし、景色は第一区域とさほど変わらず木々に囲まれているだけだった。
「ついたみたいだね、ここからは歩きだよ、みんな頑張ろう!」
何故か少し楽しそうな西園先輩とは反対に皆の表情は重い。
僕たちは忘れ物がないか確認し、電車を降りた。
「ここからは危険が伴うから陣形を組んで進むよ」
西園先輩の言葉に反応し、僕たち七人はミーティング通り二列に並ぶ。
この陣形は先頭の二人と後ろの一人が、植物軍器を展開し凶獣の奇襲に備える。
時間ごとに植物軍器を展開する人を交代し、隊員の消耗を最小限に抑えながら目的地に向かうのだ
最初は雨夜先輩と紅林さんが前、最後尾は天羽君。三人は太陽光の燃料を腰にセットする。
そして、僕を含め残りの四人は荷物を運ぶ係りになる。僕は食糧や燃料などが入った、使い古されたリュックを背負い移動を開始する。
「これ意外と重いよな」
東君は自分のリュックを見ながらそう呟いた。
「確かにね、けど荷物運びの僕らはこれぐらい我慢しなきゃね」
苔の生えた木に覆われ、地面には萎れた落ち葉と枝、生茂る木の隙間からは暗闇がこちらを覗く。
100年以上経っているとはいえ、人間が昔住んでいたとは思えない光景が広がっていた。
頭上には鳥が飛び交い、足元を葉っぱの破片を運ぶありが通る。
木の枝に座る栗鼠は木の実を口に頬張りながら、珍しいものを見るかのようにこちらを見つめていた。
外の世界の生き物全部が人間に害を与えるわけではなく、もちろんこのように過酷な環境で精一杯毎日を生きている者もいる。
…皆過酷な環境で必死に今を生きているのだ。
ボトッ…
すると、突然空から何かが降ってきた。
「?今何か…」
「おい!理久、お前足元…!」
「え……?」
僕は足元には鳥の首が転がっている事に気が付く。
鳥の生首は切られた直後らしく鮮血が噴き出していた。
「うわ…!」
途端に頭上の鳥たちが一斉に鳴き出す。
その不気味な雰囲気に僕は思わず息を飲んだ。