32
次の日、私はギルベルト様に連行され、とある教室の前に立っていた。
「ここは?」
「調合室だ」
「ちょうごう…」
「以前伝えていただろう」
そう言えば学園長に会う前にそんな事を言っていた事を思い出し、礼を伝える為にギルベルト様を見ると、呆れたような顔で私を見てきていた。
また私がギルドで変なことをされては堪らないと顔が物語っていた。だから私は寛大なギルベルト様に大いなる感謝を述べたいと思う。
「どうかな?」
「ありがとうございます…その、」
「なに?」
「とっても嬉しいです。私の為に本当に用意してくださったなんて感激です。これからもギルベルト様のために頑張ってたくさん作りますね!」
私は今後も是非実験を行うべくいつもより上目遣いを心がけながらなるべく近づいてそう言葉を告げると、しばらく沈黙した後、ギルベルト様は顔を赤くさせて目を丸くさせていた。
「忙しい中用意してくださったんでしょう」
「……あ、ああ」
「本当に嬉しいです」
「…………」
権力を行使してただ押さえられたかと思ったが、この表情を見るとそれだけでは無さそうだ。
赤くなった顔を横に向けたまま黙ったギルベルト様は逃げるように扉に手をかけた。きっとべた褒めされた事が恥ずかしいのだろう。
中に入ると以前私が使っていた教室と同じ内装になっていた。用意してあった器具なども全て揃っている。
ここまで同じ配置に出来たのは、やはりギルベルト様の配慮なのだと思う。
「ギルベルト様?」
「…………」
「研究も行っていいんですよね?」
「…………」
「聞いてます?」
「レティシア」
「はい」
ずっと黙っていたギルベルト様が急に私に近づいてくる。棚の近くに居た私は驚いて後ずさった。だが想像以上に早くに壁に追いやられてしまい、先ほどよりも何故か余裕が無さそうな表情に恐怖を覚える。
「ち、近」
「君は、共鳴の力を侮っているのかな」
「え?ど、どういう意味ですか」
「あーーもう……あまり私を煽らないでくれという意味だよ」
私の顔の横に手をついて上から覆いかぶさってくるギルベルト様は目に欲情の色が見えた。初めて見る表情だったが見つめられると私も本能に抗えず動か事ができなくなってしまう。
もう唇が触れる距離まで来た時、彼は私の肩へ頭を乗せた。
「はぁ……全く、どうしたら良いんだこれは」
「…………」
視線が外れ、私は運命から一時解放された。
私はギルベルト様の様に一度運命に支配されてしまったら自分では解除できるほどの力がない。実際今もキスを受け入れる体制に入っていた。
この強制力には毎回驚かされる。
「えっと、申し訳ありません」
「分かったなら、よろしい……」
「煽るという意味が良く分からなくて」
「そっちか!全く…もういい」
「はぁ」
「しばらくこのまま動かないでくれ」
ギルベルト様は1度ぎゅっと抱きしめた後ゆっくり離れながらため息をついた。
「レティシアは本当、猫みたいだな」
「ペットですか」
「ちょっと違うけどね」
ギルベルト様はぎこちなく微笑み、私の頭をわしゃわしゃと撫でた後仕事が残っていると言って出て行った。
恐らくギルベルト様も気がついているのだろう。この『運命のパートナー』にはかなりの強制力があると言う事に。自分の心とは関係のない部分で共鳴を起こす何か、それを探るべきだと私は思っている。
お読みただきありがとうございます!




