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「やぁ、レティシア」
「こんばんわギルベルト様、一体どうしたのですか」
「ああ……」
「………?」
レティシアを前にギルベルトは言葉を詰まらせていた。
今から謝らなければならないという事、そして、構ってもらえないせいで不機嫌だと思っていた後ろめたさ両方が、ギルベルトの口を閉ざしているのは明らかだ。
「なんですか、一応明日の準備があるので何もなければ……」
「あーそのな」
「はい」
「………有無も言わさずここに連れてきて悪かった」
「え……はい」
「…………」
色々と考えた末にその言葉に対してギルベルトは手を口元に当てながら目を左右に動かしてしまう。
言いたかった言葉はこれではない。こんな事を今更言われても困るだろうし、もし言うならば連れてきた段階で言うべきだった。
回答に困ったままどうするべきか考えているレティシアに何か言わなければと前屈みになった。
「……違うんだ」
「違う……?」
「いや、違わない」
「は……?」
レティシアは自分の目の前で手を腰に当てて眉にしわを寄せて完全に呆れていた。しかし、少しだけ考えるような素振りを見せた後、ため息をついてまっすぐにギルベルトを見据える。
「まだマシな考えを持ってくださった事は理解いたしました」
レティシアは真顔で目を細めると怒ったように横を向いてしまった。
ほら、謝るなら今だ、と心の中で叫んでもなかなか口に出すことが難しい。
「…………」
「ギルベルト様は、今までの対応について謝ろうとしております」
「え?」
「ララ!!」
隅で控えていたララが唐突に口を挟んできた。
ギルベルトは顔を赤くさせながら立ち上がり無言でララに訴えかけているが、ララはその言葉の後は無言で紅茶を淹れ直す準備をしているようだ。レティシアは驚いたような表情をしながら、ギルベルトの方を向いた。
本来侍女が口を挟む事は好ましい事ではないが、こうでもしないとギルベルトが動かないと察しての行動であると分かる。
ギルベルトはコホンと咳払いをするとゆっくりと席に座り直し、赤くさせた顔をそのままにして口を開いた。
「すまなかった、パートナーとして無理やり連れてきたのに侍女たちに任せきりだった」
「……はぁ」
「君が不機嫌な理由を勝手に、その、女性特有の独占欲的なものだと…勘違いもしていた」
「それは聞き捨てならないですが……です、が……私の方も申し訳ありませんでした」
「と言うと?」
「私も、貴方はよくいる貴族のように至極傲慢で自分勝手だと思っておりました」
「それは聞き捨てならないな…」
「ですからまぁ、仲直りして差し上げます」
「……」
「だって唯一のパートナーですから」
そこまで聞いたギルベルトは一瞬の間を置いた後に椅子を蹴って立ち上がった。目は大きく開いて口が何かを喋ろうとはくはくと動いている。
レティシアは小首を傾げて彼を見ながら両手を前に突き出した。
「怖いです」
「レティシア」
「…はい」
「も、もう一度言ってくれ」
「……唯一のパートナー、ですね」
レティシアがそこまで言った直後、ギルベルトはレティシアを抱きしめていた。久々に会った親友の様な抱擁にレティシアの顔は嫌そうだ、両手でぐいぐいとギルベルトの胸を押している。
「ようやくレティシアがパートナーと認めてくれた!」
「そこまで何もしてないくせに、何を」
「長く待っていた事をしていたよ!」
「ちょ、とりあえず!離れてください!!」
それでもぎゅうぎゅうと力を弱めないギルベルトに対してレティシアは『1つ条件をつけますけど!!』と声を上げる。
「条件?」
「ええ……ちょっと気になることがあったので、それを調べる事に協力してくれる事が条件です」
「……それはもしかして、運命と呼ばれるパートナーに関係がある事かな」
レティシアは無言で頭を縦に振っている。
恐らく、この3ヶ月無断で外出をした時にパートナーについて詳しく調べていたのだろう。
レティシアからは何かを訴えてくるような視線が送られてきた。
これは自分も関わる事だから、調べていく事に関して異論はない。
ギルベルトはレティシアの頭を撫でながらにこりと笑い、構わないと答えていた。
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